第1 用途を含む特許では成分の一致だけで判断しない
ある成分を特定の治療又は予防に用いる発明について特許が成立した場合、その成分を含むすべての製品の販売が当然に侵害となるわけではない。
特許請求の範囲に記載された用途を含めて技術的範囲を定め、問題の製品がその用途に向けられているかを確認する。
また、侵害が認められる販売を止めることと、製品そのものを廃棄することは、別々に検討する必要がある。
特許法70条は特許発明の技術的範囲を定める基準を、同法100条1項は侵害の停止・予防を、同条2項は廃棄等の必要な行為を定めている。
用途を含む物の発明であれば、特許法2条3項1号の生産、使用、譲渡等のどの行為が問題になるかも整理する。
第2 添付文書と実際の用途を合わせて見る
用途の認定では、添付文書の効能・効果、用法・用量、製品の剤形、包装、広告、販売先への説明等を確認する。
効能欄に同じ名称があるかという一項目だけで結論を出さない。
他方、特許の用途の記載を削っただけで、実際の販売・使用がその用途に向けられたままであれば、侵害の問題がなくなるとは限らない。
知財高裁平成28年7月28日判決のメニエール病治療薬に関する事件では、請求項の投与方法・用量と、被告製品の添付文書に記載された用法・用量等が検討された。
同じ有効成分を含むことだけで判断せず、具体的な用途発明の構成と被告製品の関係を確認した事例として参照できる。
これに対し、大阪地裁平成4年10月23日判決の気管支喘息予防剤に関する事件では、治療剤という表示の下でも、実際には特許発明の予防用途に向けられる事情が検討された。
表示の文言だけを変えれば足りるという一般則を、これらの判決から導くことはできない。
各事件の請求項、用法・用量及び実際の製品の位置付けを確認する必要がある。
第3 現在の販売態様と適法な他用途を区別する
一つの製品が特許の用途と他の適法な用途の双方に用いられる場合でも、現在の販売態様が特許の用途に向けられていれば、他用途があるという理由だけで販売差止めを否定できない。
問題は、請求の対象をどの製品・表示・販売態様として特定するかである。
用途を実際に切り分けられるか、切り分けた後も侵害のおそれが残るかを具体的に検討する。
例えば、治療用途と予防用途とで用法・用量が異なり、予防用途に向けられた表示と販売上の説明を除けば、治療用途の製品として扱える場合がある。
その場合でも、削除後の添付文書、広告、販売上の説明及び実際の供給態様を確認し、特許の用途に向けられていないと評価できるかを検討する。
医薬品の表示変更自体について必要な手続も、特許の侵害判断とは別に確認する。
適法な他用途としての販売まで含む差止めを求める場合は、その範囲が侵害の停止・予防に必要な理由を説明する必要がある。
逆に、用途を実質的に切り分けていない状態で、他用途向けの販売もあり得るという抽象的な説明だけをしても十分ではない。
第4 廃棄は差止めが認められれば自動的に認められるものではない
特許法100条2項は、侵害行為を組成した物の廃棄等について、「侵害の予防に必要な行為」として請求する仕組みを定めている。
最高裁平成11年7月16日判決は、同項の行為について、差止請求権の行使を実効あるものとし、かつ必要な範囲内にあることを求めた。
この判決の対象は方法の発明に関する装置であり、用途を含む物の発明に当てはめる際には、発明の種類と侵害対象を区別する。
用途に向けられた表示等を適法に除去し、侵害のおそれを防ぎつつ、製品を適法な他用途に利用できる場合は、製品全体の廃棄が必要かを検討する。
製品の性質、用途を分離できる程度、表示だけでは残る侵害のおそれ及び代替措置の実効性が判断の資料になる。
他用途があるという一点だけで廃棄が常に不要とも、侵害品であるという一点だけで全面廃棄が当然とも扱わない。
第5 請求と証拠を対応させる
| 検討事項 | 確認する資料・事情 | 請求との関係 |
|---|---|---|
| 特許の用途と技術的範囲 | 請求項、明細書、図面、必要に応じた出願経過 | 成分の一致だけで構成要件充足を判断しない。 |
| 現在の製品と販売態様 | 各版の添付文書、包装、用法・用量、広告、販売上の説明 | どの製品のどの行為を止めるかを特定する。 |
| 用途の分離可能性 | 他用途の用法・用量、表示の除去案、除去後の供給態様 | 適法な他用途まで差止めの対象とする必要性を検討する。 |
| 廃棄の必要性 | 製品・設備の性質、代替措置、その実効性、残る侵害のおそれ | 差止めの実効性と必要な範囲を示す。 |
相談の段階では、販売時期ごとの添付文書・包装・広告を保存し、現在の資料だけで過去の販売態様を説明しないようにする。
請求項の各構成、被告製品の事情及び求める措置を並べることで、侵害の判断と救済の範囲の混同を避けられる。
用途発明の進歩性や予測できない顕著な効果が争点となる場合も、その問題と、成立した特許の技術的範囲・差止め・廃棄の問題を分けて検討する。
無効の抗弁があるかについては、侵害訴訟と特許庁の手続の関係も確認する。
第6 根拠資料
①e-Gov法令検索・特許法2条3項1号、68条、70条及び100条。
②知財高裁平成28年7月28日判決・PDF3~4頁(メニエール病治療薬に関する用途と用法・用量)。
③大阪地裁平成4年10月23日判決・PDF8~11頁(気管支喘息予防剤に関する用途と販売差止め)。
④最高裁平成11年7月16日判決・PDF4~5頁(廃棄等の必要性)。
資料の確認日は令和8年10月14日である。
各判決はそれぞれの請求項と製品の事実関係に基づくため、別の製品に結論だけを移さない。
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