第1 所得税とは
所得税は,個人が1年間に得た所得にかかる国の税金である。
給与の額面や売上にそのまま税率を掛けるのではなく,所得の種類に応じて経費等を差し引き,所得控除を適用してから税額を計算する。
給与から天引きされる源泉所得税もこの所得税に関係するが,毎月の天引き額と1年間の最終的な税額は同じとは限らない。
本記事は,令和8年10月13日に確認した法令・国税庁資料に基づき,日本の居住者である個人の所得税の基本を説明する。
令和8年分の年間税額と,施行前の毎月の給与からの源泉徴収を区別し,株式や不動産の売却など計算方法が異なる所得については,個別の制度を確認する。
国税庁の「所得税のしくみ」も,所得の計算,所得控除,税額計算及び納付額の精算という順序で説明している。
| 最初に知りたいこと | 本記事の案内 |
|---|---|
| 給料や売上の全額に税率が掛かるのか | 第2の収入と所得の違い,第3の計算手順 |
| 所得税の税率と税額を知りたい | 第4の速算表と計算例 |
| 控除でいくら税金が減るのか | 第5の所得控除と税額控除の違い |
| 源泉徴収・年末調整・確定申告の関係 | 第6の税額を精算する仕組み |
| 所得税と住民税の違い | 第7の比較表 |
| 慰謝料や和解金に所得税がかかるのか | 第8の非課税と関連記事 |
第2 収入と所得の違い・10種類の所得
1 給与収入・売上・振込額をそのまま所得としない
収入と所得は同じではない。
例えば,個人事業の事業所得は,原則として売上等の総収入金額から必要経費を差し引いて計算する。
給与所得は給与収入から給与所得控除等を差し引き,公的年金等の雑所得は年金収入から公的年金等控除を差し引く。
源泉徴収や社会保険料を差し引いた後の手取り額も,そのまま所得金額になるわけではない。
どの金額から何を差し引くかを確認するため,給与は源泉徴収票,事業は帳簿・請求書・領収書,年金は公的年金等の源泉徴収票を利用する。
給与所得控除と社会保険料控除は,計算上の位置が異なる制度である。
2 所得の区分によって計算方法が変わる
所得税では所得を10種類に分ける。
次の表は国税庁No.1300「所得の区分のあらまし」に沿った入口であり,すべての特例や所得の判定要件を示したものではない。
| 所得の種類 | 主な例・確認点 |
|---|---|
| 利子所得 | 預貯金等の利子。源泉分離課税となるものがある |
| 配当所得 | 株式の配当等。総合課税・申告分離課税・申告不要の適用範囲を確認する |
| 不動産所得 | 土地・建物等の貸付けによる所得。不動産の売却とは分ける |
| 事業所得 | 個人の事業から生じる所得。必要経費と家事上の支出を区別する |
| 給与所得 | 給料・賞与等。給与所得控除等によって所得を計算する |
| 退職所得 | 退職手当等。給与と別の計算や課税方法,例外がある |
| 山林所得 | 一定の山林の伐採・譲渡等。保有期間などによって区分が変わる |
| 譲渡所得 | 資産の売却等による所得。資産の種類や保有期間で課税方法が異なる |
| 一時所得 | 一定の保険の一時金等。継続性や対価性などを確認する |
| 雑所得 | 他の区分に該当しない所得。公的年金等や一定の副業収入等 |
「副業だから必ず雑所得」「和解金だから一時所得」という判定はできない。
仕事の実態,支払の原因,継続性や対価性などに即して区分する。
赤字も自由に他の所得から差し引けるわけではなく,No.2250「損益通算」に示される対象と制限がある。
第3 所得税の計算方法
1 所得から税額・納付額までの順序
総合課税の所得税を理解するための基本的な流れは,次のとおりである。
分離課税,損失の繰越し,各種の特例がある場合は,それぞれの計算も必要となる。
| 順序 | 計算・確認する内容 |
|---|---|
| ①所得を計算 | 収入の内容を区分し,必要経費や給与所得控除等を反映する |
| ②課税所得を計算 | 所得を所定の方法で合計し,基礎控除や社会保険料控除等の所得控除を差し引く |
| ③所得税額を計算 | 課税所得に税率を適用し,住宅ローン控除等の税額控除を反映する |
| ④付加税を計算 | 対象年分に応じて復興特別所得税等を計算する |
| ⑤過不足を精算 | 源泉徴収税額や予定納税額等を差し引き,追加納付又は還付を確認する |
所得控除後の課税総所得金額の1,000円未満は切り捨てて税率を適用する。
この段階の税額と,既に天引きされた税金を差し引いた後の納付額を混同しないことが大切である。
手元の金額で申告書を作る場合は,国税庁「確定申告書等作成コーナー」で対象年分の案内に沿って確認できる。
2 総合課税と分離課税
総合課税では,原則として対象となる所得を合計して税額を計算する。
一方,土地・建物や株式等の譲渡所得など,別の税率・計算方法で扱う所得もある。
退職所得にも他の所得と分けた課税の仕組みがあるため,すべての収入を一つの速算表に当てはめることはできない。
預貯金の利子等の源泉分離課税と,株式等の申告分離課税も同じ制度ではない。
源泉徴収されたかどうかだけで申告の要否や還付の可否を決めず,所得の種類と適用される制度を確認する。
第4 所得税の税率・速算表・計算例
1 総合課税の税率は5%から45%
所得税は,課税される所得の一定の区分を超えた部分に高い税率が適用される超過累進税率を採る。
年収が上がって次の区分に入っただけで,年収の全額にその高い税率が掛かるものではない。
所得税法89条1項の税率による計算は,国税庁No.2260「所得税の税率」の速算表で表すと次のようになる。
| 課税される所得金額 | 税率 | 速算表の控除額 |
|---|---|---|
| 1,000円~194万9,000円 | 5% | 0円 |
| 195万円~329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
| 330万円~694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
| 695万円~899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
| 900万円~1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
| 1,800万円~3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
| 4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
表の「控除額」は,累進税率を一つの式で計算するための調整額である。
医療費控除や基礎控除等の所得控除を,この欄の金額として入力するわけではない。
分離課税の所得や,非常に高い所得に対する特例などは別に確認する。
2 課税所得300万円の計算例
所得控除を適用した後の課税総所得金額が300万円で,税額控除や分離課税の所得等がない令和8年分の例を考える。
所得税額は「300万円×10%-9万7,500円=20万2,500円」となる。
300万円は給与収入や売上ではなく,必要経費・給与所得控除等と所得控除を反映した後の課税所得である。
この例の復興特別所得税は「20万2,500円×2.1%=4,252円」であり,1円未満の端数を切り捨てる。
所得税と復興特別所得税の合計は20万6,752円となるが,実際の申告納税額は,源泉徴収税額等を差し引き,納付額の端数処理もした結果による。
この金額に住民税が含まれているわけではない。
復興特別所得税の2.1%は,収入や課税所得に直接掛ける税率ではなく,原則として基準所得税額に対する割合である。
令和9年分以後は,復興特別所得税の税率を1.1%とし,基準所得税額の1%の防衛特別所得税を課す改正があるため,令和8年分の説明を将来の年分にそのまま流用しない。
対象年分ごとの詳細は,所得税の確定申告に関するメモ書き及び国税庁の防衛特別所得税等のQ&Aを参照されたい。
第5 所得控除・税額控除と令和8年分の改正
1 控除額がそのまま返金されるわけではない
所得控除は,税率を掛ける前の所得から差し引く仕組みである。
基礎控除,社会保険料控除,扶養控除,医療費控除などがあり,要件や控除額は制度ごとに異なる。
税額控除は,計算した税額から一定額を差し引く仕組みであり,一定の住宅ローン控除などが該当する。
例えば,所得控除が10万円増えても,10万円がそのまま還付されるわけではない。
その控除によって減少する課税所得に適用される税率等と,既に納めていた税額に応じて,税負担や還付額が変わる。
所得控除はNo.1100,税額控除はNo.1200で,適用対象を確認できる。
2 令和8年分への適用と12月の施行を分ける
国税庁「令和8年度税制改正による所得税の基礎控除の引上げ等について」によれば,基礎控除等の改正は原則として令和8年12月1日に施行され,令和8年分以後の所得税に適用される。
令和8年11月までの源泉徴収事務に変更は生じず,給与については12月の年末調整等で年間の税額を精算する。
10月時点で,改正後の年間の控除額を毎月の給与からの天引き計算へ直接当てはめることはできない。
令和8年分・令和9年分の居住者について,合計所得金額が489万円以下の場合の基礎控除額は104万円であり,それを超える場合には所得の区分に応じて控除額が変わる。
給与所得控除の最低保障額は,令和8年分・令和9年分について74万円となるが,給与収入の金額によって実際の控除額・計算方法が変わる。
これらの金額を,全員に共通する控除額や,住民税・社会保険にも共通する非課税基準として使うことはできない。
適用年分,合計所得金額,給与収入を混同せず,令和8年4月「源泉所得税の改正のあらまし」1頁と改正Q&Aを確認する。
死亡・出国による準確定申告や年の途中の退職等では,施行前の手続と改正後の控除を受ける手続との関係も,改正Q&Aに沿って確認する必要がある。
所得控除の詳しい一覧は,確定申告の記事の第3にまとめている。
第6 源泉徴収・年末調整・確定申告の違い
1 天引きから年間税額の精算まで
源泉徴収は,給与や一定の報酬等を支払う側が,支払時に税金を差し引いて国に納める制度である。
給与の年末調整は,対象となる給与所得者について,1年間の給与に対する税額と源泉徴収済みの税額との過不足を,給与の支払者が精算する手続である。
確定申告は,本人が所得と税額を申告して,源泉徴収税額や予定納税額等を踏まえて精算する手続である。
したがって,源泉徴収を受けたことだけで,すべての所得について課税関係が終了したとはいえない。
一方,預貯金の利子など,源泉分離課税で納税が完結する所得もある。
支払者の実務は源泉所得税に関するメモ書き,本人の申告は所得税の確定申告に関するメモ書きを参照されたい。
2 会社員でも申告が必要な場合・還付を受ける場合
給与所得者の多くは年末調整で納税が完了するが,給与収入が年間2,000万円を超える場合など,確定申告が必要となる場合がある。
1か所から源泉徴収対象の給与を受ける場合の給与・退職所得以外の所得や,2か所以上から給与を受ける場合の判定は,No.1900「給与所得者で確定申告が必要な人」で条件を確認する。
いわゆる「20万円以下なら申告不要」は,すべての人・すべての税金に共通する非課税制度ではない。
確定申告義務がなくても,医療費控除などによって納め過ぎた所得税の還付を受けられる場合がある。
ただし,既に納付した所得税額がなければ,所得控除を申告しただけで所得税が返金されるわけではない。
No.2030「還付申告」は,申告義務のない人の還付申告について,原則として翌年1月1日から5年間提出できる一方,期限内申告が要件となる特例もあることを説明している。
第7 所得税と住民税の違い
財務省の住民税の説明によれば,所得税は国税,個人住民税は市町村民税と道府県民税からなる地方税である。
名称が似ていても,税率,課税する時期,控除額,非課税の条件は同じではない。
次の表は,給与等の総合課税を理解するための基本的な比較である。
| 比較する点 | 所得税 | 個人住民税 |
|---|---|---|
| 税の区分 | 国税 | 地方税 |
| 所得を捉える時期 | その年分の所得について計算 | 原則として前年の所得に基づき翌年度に課税 |
| 基本的な税率 | 総合課税では5%~45%の超過累進税率 | 総合課税の所得割の標準税率は合計10%。別に均等割等がある |
| 控除・非課税 | 所得税の制度と対象年分を確認 | 所得税と控除額・非課税基準が異なる |
| 申告不要の判断 | 給与・年金等の申告不要制度がある | 所得税の申告不要だけで住民税も申告不要とは決まらない |
大阪市の総合課税の所得割は,市民税8%と府民税2%の合計10%であり,指定都市以外では市町村民税6%と道府県民税4%を基本とする。
株式・土地建物等の分離課税の所得には別の計算があるため,すべての所得に10%を掛ける説明にはできない。
具体的な計算は大阪市「税額の計算」を参照されたい。
所得税の確定申告が不要な副収入でも,住民税の申告が必要になる場合がある。
大阪市も「市民税・府民税の申告について」で,給与以外の所得が20万円以下の給与所得者等を含む申告対象を案内している。
転居や退職によって今年の収入が減った場合も,住民税の通知が前年の所得に基づくことを確認する。
第8 慰謝料・示談金・和解金はどう扱うか
所得税では,受け取った金銭がすべて課税されるわけではない。
所得税法9条1項18号と所得税法施行令30条には,心身の損害等に関する損害賠償金の非課税規定がある。
例えば,交通事故のけがに対する慰謝料や治療費等の賠償金は,原則として非課税となる。
ただし,「解決金」「和解金」という名称だけで非課税となるわけではない。
未払給与の支払,事業の収入に代わる補償,必要経費を補う部分などが混在するときは,項目ごとに判定する。
所得税が非課税でも,治療費の補填額を医療費控除の計算から差し引く場合がある。
これらの区別は国税庁No.1700が説明している。
示談書の内訳や源泉徴収・計上年分の詳しい確認は,示談金・解決金・和解金に税金はかかるか,交通事故の医療費控除等は,交通事故の慰謝料に税金はかかるかを参照されたい。
課税関係を確認するときは,対象年分,受領者,合意書の内訳,権利が確定した日,支払日及び既に行った申告を整理する。
第9 出典・関連記事
1 主な一次資料
所得税法及び所得税法施行令。
国税庁「所得税のしくみ」,No.1300 所得の区分のあらまし,No.2260 所得税の税率,No.1100 所得控除のあらまし,No.1200 税額控除。
国税庁令和8年度税制改正の案内,令和8年4月源泉所得税の改正のあらまし,基礎控除等の改正Q&A。
各制度の詳細は本文中に示した国税庁・財務省・大阪市の資料による。
2 目的別の関連記事
申告の要否・所得控除・提出手続は,所得税の確定申告に関するメモ書きを参照されたい。
給与・報酬を支払う側の義務や納付期限は,源泉所得税に関するメモ書きにまとめている。
紛争の解決で受け取る金銭は,示談金・解決金・和解金に税金はかかるか,事故被害者の所得税と医療費控除は,交通事故の慰謝料に税金はかかるかで詳しく説明している。