メインコンテンツへスキップ
       

ノーベル賞の賞金に税金はかかるか―所得税法9条1項13号ホの非課税,経済学賞の例外,沿革及び受け取った後の税金(AI作成)

第1 この記事の要点

本記事は,ノーベル賞の賞金に日本の所得税及び住民税がかかるか,経済学賞はどう扱われるか,非課税の規定がどのような経緯でできたか,及び賞金を受け取った後に寄附・贈与・相続をしたときの税金を整理するものである。
令和8年10月10日現在の法令,財務省告示及びノーベル財団の公表資料に基づいて記載している。

要点は,次のとおりである。
①ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品は,所得税法9条1項13号ホにより所得税が課されない。
②個人住民税の所得割は所得税法の例により所得を計算するから,ノーベル賞の賞金は住民税の課税標準にも入らないと考えられる。
③経済学賞(アルフレッド・ノーベル記念スウェーデン国立銀行経済学賞)の賞金はスウェーデン国立銀行が支払うものであり,同号ホの「ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品」に当たらず,財務大臣の指定(昭和44年大蔵省告示第96号)にも含まれていないから,日本の居住者が受け取れば課税対象になると考えられる。
④非課税の扱いは,昭和24年の湯川秀樹博士の受賞を契機とし,昭和43年の川端康成氏の文学賞受賞で文学が学術に当たるかが国会で問題となったことを経て,昭和44年の改正でノーベル賞の賞金を法律に明記する形になった。
⑤令和7年12月26日財務省告示第334号により,アーベル賞(ノルウェー科学文学アカデミーから交付される金品)が令和7年分以後の非課税の指定に加わった。
⑥非課税は所得税の話であり,受け取った賞金を家族に贈与すれば贈与税,死亡時に残っていれば相続税の対象となる。
⑦非課税所得は寄附金控除の上限(総所得金額等の40%)の計算の母数に入らないから,賞金の全額を寄附しても,他の所得が少なければ控除できる額は限られる。
⑧非課税なのはノーベル賞として交付される金品の受領までであり,受賞後に国内で受け取る講演料は課税対象となり,メダルを売却すれば譲渡所得,大学・博物館等の法人に寄贈すれば原則としてみなし譲渡の対象となる。

第2 ノーベル賞の賞金を非課税とする規定

1 所得税法9条1項13号の条文

所得税法9条1項は,「次に掲げる所得については,所得税を課さない。」と定め,その13号で「次に掲げる年金又は金品」を挙げている。
同号の内容は,次のとおりである(e-Gov法令検索で令和8年10月1日施行時点の条文を確認した。)。
イ 文化功労者年金法3条1項の規定による年金
ロ 日本学士院から恩賜賞又は日本学士院賞として交付される金品
ハ 日本芸術院から恩賜賞又は日本芸術院賞として交付される金品
ニ 学術若しくは芸術に関する顕著な貢献を表彰するものとして又は顕著な価値がある学術に関する研究を奨励するものとして国,地方公共団体又は財務大臣の指定する団体若しくは基金から交付される金品(給与その他対価の性質を有するものを除く。)で財務大臣の指定するもの
ホ ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品
ヘ 外国,国際機関,国際団体又は財務大臣の指定する外国の団体若しくは基金から交付される金品でイからホまでに掲げる年金又は金品に類するもの(給与その他対価の性質を有するものを除く。)のうち財務大臣の指定するもの

ニとヘは,財務大臣が個別に賞を指定して初めて非課税になる仕組みである。
これに対し,ホはノーベル賞だけを名指しして法律で直接非課税としており,財務大臣の指定を要しない。

2 非課税となる範囲

ホの文言は「ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品」であるから,賞金だけでなく,ノーベル賞として交付されるメダル等の物品も含むと読むのが自然である。
共同受賞の場合は,各受賞者が受け取る持分がそれぞれ非課税となる。
例えば,令和8年(2026年)のノーベル化学賞は,フランスのアンリ・カガン氏と東京理科大学の硤合憲三名誉教授の共同受賞であり,ノーベル財団の発表では,賞金1200万スウェーデン・クローナを2人で均等に分けるとされている。
参考までに,財務大臣が公示した令和8年10月中に適用される裁定外国為替相場(1スウェーデン・クローネ=17円)で換算すると,1200万クローナは2億0400万円,その半分は1億0200万円となるが,実際に受け取る円貨の額は送金時の為替相場等によって異なる。

部門による区別はない。
政府は,昭和44年の改正法案の説明で,「ノーベル賞の賞金はすべて非課税であるということを法律の上で明記する」と述べている(参議院大蔵委員会昭和44年3月25日・細見卓大蔵大臣官房審議官)。
物理学賞,化学賞,生理学・医学賞,文学賞及び平和賞は,いずれもホの対象となる。
経済学賞の扱いは,第3で述べる。

3 住民税も課されない

個人住民税(道府県民税・市町村民税)の所得割の課税標準は,前年の総所得金額,退職所得金額及び山林所得金額であり,これらは「所得税法その他の所得税に関する法令の規定による」計算の例により算定する(地方税法32条1項・2項,313条1項・2項)。
所得税法9条1項で所得税を課さないとされた所得は,各種所得の金額の計算に入らないから,ノーベル賞の賞金は住民税の所得割の計算にも入らないと考えられる。

4 確定申告は要るか

確定申告で申告するのは,総所得金額等を基に計算した所得税額であり,非課税所得は総所得金額等に入らない。
そのため,日本の居住者がノーベル賞の賞金だけを受け取った場合,その賞金を理由として確定申告をする必要はないと考えられる。
もっとも,賞金を国外の口座に置いたまま年を越す場合の国外財産調書は別の問題であり,第6の2で述べる。

5 日本の居住者でない受賞者

所得税法は,非永住者以外の居住者には全ての所得に(同法7条1項1号),非居住者には国内源泉所得だけに(同項3号,5条2項)所得税を課す。
ノーベル賞の受賞者が国外に住所を置く非居住者であれば,そもそも日本の所得税の問題はほとんど生じず,住所地の国の税法によって課税関係が決まる。
昭和24年に湯川秀樹博士が受賞した際も,池田勇人大蔵大臣は,「若しここに湯川博士が住所を日本に置いておられ,そうしてあのノーベル賞の賞金をお貰いになつたとき」には免税規定を考えていると,住所を日本に置いていた場合を仮定する形で答弁している(参議院大蔵委員会昭和24年12月1日)。

6 賞状・メダル,ノーベル講演及び受賞後の講演料

ノーベル財団の定款9条は,アルフレッド・ノーベルの命日である12月10日の授賞式で,各受賞者に賞金の小切手,賞状(diploma)及びノーベルの肖像と銘文を刻んだ金メダルを授与すると定めている。
これらは,いずれも「ノーベル賞として交付される金品」として,所得税法9条1項13号ホの対象になると考えられる。

同条は,受賞者に対し,可能な限り,受賞の対象となった業績に関する講演(ノーベル講演)を,授賞式の前又は授賞式から6か月以内に行うことを求めているが,講演の報酬についての定めは置いていない。
また,ノーベル財団が受賞者の渡航費・滞在費をどこまで負担するかは,同財団の公表資料では確認できなかった。
仮に授賞式への出席のための費用を財団が負担する場合に,それが同号ホの「ノーベル賞として交付される金品」に当たるかを直接定めた規定や国税庁の公表資料も,確認した範囲では見当たらない。

これに対し,受賞後に国内の大学,地方公共団体,企業等から依頼されて講演をし,その報酬を受け取る場合,その講演料はノーベル賞として交付されるものではないから,同号ホの対象にならない。
講演料は,所得税法204条1項1号により,支払者が源泉徴収をする報酬・料金に当たる。
支払者が講演者の旅費・宿泊費を負担し,その費用を交通機関やホテル等に直接支払う場合で,その額が通常必要な範囲内であれば,その費用については源泉徴収をしなくて差し支えないとされている(所得税基本通達204-4)。
講演料は,給与として支払われるものを除き,一般に雑所得(講演を事業として行う者は事業所得)として申告することになると考えられる。

第3 経済学賞は非課税の対象外

1 経済学賞の賞金を出すのはスウェーデン国立銀行

経済学賞の正式名称は,The Sveriges Riksbank Prize in Economic Sciences in Memory of Alfred Nobel(アルフレッド・ノーベル記念スウェーデン国立銀行経済学賞)である。
ノーベル財団の公式サイトは,スウェーデン国立銀行が1968年(昭和43年)にこの賞を創設したこと,賞はスウェーデン国立銀行が創立300周年を記念してノーベル財団に行った寄付に基づくこと,賞金額はノーベル賞と同じであり,スウェーデン国立銀行が支払うことを説明している。
選考はスウェーデン王立科学アカデミーがノーベル賞と同じ原則で行うが,アルフレッド・ノーベルの遺言に基づく5部門のノーベル賞そのものではない。

2 ホにもヘの指定にも当たらない

経済学賞の賞金は,スウェーデン国立銀行が支払うものであるから,「ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品」(所得税法9条1項13号ホ)に当たると解するのは難しい。
また,同号ヘ(外国の団体等から交付される金品で財務大臣が指定するもの)の指定をまとめた昭和44年大蔵省告示第96号の現行版(令和7年12月26日財務省告示第334号による改正後のもの)には,フィールズ賞やアーベル賞は掲げられているが,経済学賞は掲げられていない。
文部科学省の令和8年度税制改正要望の資料も,「ノーベル賞(経済学賞を除く)」が昭和24年の日本人初のノーベル賞受賞を契機に非課税の取扱いとされていると記載している。

そうすると,日本の居住者が経済学賞を受賞した場合,その賞金は現行法では非課税所得に当たらず,所得税及び住民税の課税対象になると考えられる。
ただし,この点について国税庁が個別に見解を公表した資料は,確認した範囲では見当たらなかった。

3 課税される場合の所得の種類

非課税の対象にならない賞金は,一般に一時所得になると考えられる。
一時所得は,営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で,労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものであり(所得税法34条1項),所得税基本通達34-1(1)は「懸賞の賞金品,福引の当選金品等(業務に関して受けるものを除く。)」を一時所得の例に挙げている。
一時所得の金額は,総収入金額から収入を得るために直接要した金額を控除し,さらに特別控除額(最高50万円)を控除した金額であり(同条2項・3項),その2分の1が総所得金額に算入される(国税庁タックスアンサーNo.1490)。

もっとも,賞金が受賞者の業務に関して受けるものであったり,役務の対価としての性質を持ったりする場合には,雑所得や事業所得となる余地がある。
学術賞の賞金がどの所得に当たるかは,賞の趣旨,選考の方法及び受賞者の義務の有無によって判断が分かれ得る。

第4 非課税の規定ができるまでの経緯

1 昭和24年の湯川秀樹博士の受賞と議員提案

昭和24年(1949年)11月,湯川秀樹博士が日本人として初めてノーベル賞を受賞した。
同月21日の衆議院大蔵委員会で,塚田十一郎委員は,「湯川博士のノーベル賞金に個人所得税がかかるかどうかというような問題が非常に議論になり,世上をにぎわした」として,各党が一致した案を大蔵委員会提出の法律案とするよう提案した。
その内容は,当時の所得税法6条2項1号を改め,「学術,技芸,慈善その他文化的又は社会的貢献を表彰するものとして交付するほう賞金品で命令で定めるもの」を非課税とし,昭和24年分の所得税から適用するというものであった。
委員会は異議なくこれを委員会提出法案とすることとしたが,川野芳滿委員長は,「関係方面の御了解」を得た上で議長に提出するとした。

衆議院の制定法律情報で第6回国会(昭和24年12月まで)の制定法律の一覧を確認した範囲では,所得税に関する法律は所得税法の臨時特例等に関する法律(昭和24年法律第269号)だけであり,その内容は給与の源泉徴収額の控除と帳簿の整備に関するものであった。
同年11月21日の案がそのままの形で成立した形跡は,確認した範囲では見当たらない。

2 昭和25年の改正と告示による指定

翌昭和25年の所得税法の一部を改正する法律(昭和25年法律第71号)は,非課税所得に,「国,地方公共団体,外国,国際機関,国際団体又は大蔵大臣の指定する団体,基金若しくはこれらに準ずるものが学術に対する顕著な貢献を表彰するものとして又は顕著な価値がある学術の研究を奨励するものとして交付する金品(給与又は対価の性質を有するものを除く。)で大蔵大臣の定めるもの」を加えた。
対象は「学術」に限られ,昭和24年の議員提案にあった「技芸,慈善その他文化的又は社会的貢献」は入らなかった。

昭和43年11月6日の衆議院大蔵委員会で,細見卓大蔵大臣官房審議官は,ノーベル賞を所得税法9条に基づく非課税賞金として指定したのは湯川博士が初めてノーベル賞を受けたときであり,その立法に伴う告示でノーベル賞を「そのものずばり」で掲げたと説明している。
この答弁によれば,昭和44年まで,ノーベル賞の非課税は,法律が「学術」に関する賞を対象とし,告示がノーベル賞を指定するという二段構えであった。
当時の告示の番号・日付は,本記事では原文を確認できていない。

3 昭和43年の川端康成氏の受賞と文学賞の扱い

昭和43年(1968年),川端康成氏がノーベル文学賞を受賞した。
同年11月6日の衆議院大蔵委員会で,弁護士出身の岡澤完治委員は,当時の所得税法の規定が「学術に関する顕著な貢献を表彰するもの」を前提としている以上,文学賞は学術に当たらず,通常の解釈からすれば課税されるべきではないかと質問した。
同委員は,国税庁長官が同年10月22日に課税しないとの見解を示したこと,野間文学賞,新潮文学賞,吉川英治文学賞等の他の文学賞は課税されていることにも触れている(これらは質問者の発言であり,本記事では国税庁長官の見解の原文を確認していない。)。

これに対し,細見審議官は,立法当時はノーベル賞がおよそ学術であるとの前提で告示を出したこと,多数の文学作品を通じる文化活動という意味で学術ともいえないことはないが,紛議もあるので法律又は告示を改めるのが筋であることを答弁した。
平和賞も直ちに非課税と読めるのかとの追及には,疑義を生じやすい解釈であるから,法案を整理して審議を願うと答えている。

4 昭和44年の法定化と昭和48年の現在の形

この議論を受けて,所得税法の一部を改正する法律(昭和44年法律第14号,同年4月8日公布)は,当時の所得税法9条1項18号に「ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品」を書き加えた。
政府は,提案理由の説明で「ノーベル賞を非課税所得として法定すること」を挙げ(衆議院大蔵委員会昭和44年3月7日・福田赳夫大蔵大臣),参議院大蔵委員会(同年3月25日)では「ノーベル賞の賞金はすべて非課税であるということを法律の上で明記する」と説明している。
これにより,文学賞・平和賞を含め,ノーベル賞は「学術」に当たるかどうかを問わず,法律上非課税となった。

その後,所得税法の一部を改正する法律(昭和48年法律第8号)により,18号はイからヘまでの列挙の形に改められ,ホとして「ノーベル基金からノーベル賞として交付される金品」が独立して置かれた。
号番号は,その後の改正で現在の13号に移っている。

5 平成2年の「芸術」の追加と令和7年のアーベル賞の指定

所得税法の一部を改正する法律(平成2年法律第12号)は,13号ニの「学術に関する顕著な貢献」を「学術若しくは芸術に関する顕著な貢献」に改めた。
これを受けて,平成2年大蔵省告示第203号は,京都賞,朝日賞,毎日出版文化賞及び読売文学賞のうち芸術に関するものを指定している。

令和7年(2025年)には,日本人が初めてアーベル賞を受賞したことを契機として,文部科学省が令和8年度税制改正要望でアーベル賞の指定を求めた。
要望は認められ,令和7年12月26日財務省告示第334号は,昭和44年大蔵省告示第96号に「ノルウェー科学文学アカデミーからアーベル賞として交付される金品」を加え,令和7年分以後の所得税に適用するとした。
文部科学省の要望資料は,数学のフィールズ賞についても,平成2年(1990年)の日本人の受賞を契機に非課税の取扱いとされたと記載している。

第5 ノーベル賞以外の賞との比較

1 財務大臣の指定を受けている賞

昭和44年大蔵省告示第96号(令和7年12月26日財務省告示第334号による改正後のもの)は,所得税法9条1項13号ニ又はヘにより非課税となる金品として25項目を指定している。
主なものは,次のとおりである。

区分指定されている金品の例
国内の学術賞国際生物学賞(日本学術振興会),京都賞(学術に関するものに限る),日本国際賞,大河内記念賞,藤原賞,本多記念賞,朝日賞(学術に関するものに限る),毎日出版文化賞(学術に関するものに限る),読売文学賞(学術に関するものに限る)
研究助成科学研究費補助金,学術研究助成基金助成金,東レ科学技術研究助成金,内藤記念科学奨励金
国外の賞フィールズ賞(国際数学連合),アーベル賞(ノルウェー科学文学アカデミー),マグサイサイ賞,ゼネラル・モーターズがん研究賞,国際レーニン平和賞

芸術に関するものは,前記のとおり平成2年大蔵省告示第203号が別に指定している。
同じ賞でも「学術に関するものに限る」「芸術に関するものに限る」と分けて指定されているものがあり,告示の文言を賞ごとに確認する必要がある。

2 指定を受けていない賞の賞金

法律又は財務大臣の指定に掲げられていない賞の賞金は,どれほど権威のある賞であっても非課税にはならない。
第3の3で述べたとおり,一般には一時所得となり,業務に関して受けるもの等は雑所得や事業所得となり得る。
昭和43年の国会でも,岡澤委員は,ノーベル文学賞以外の文学賞や文部省の青少年映画賞の賞金は課税されていると指摘していた。

3 オリンピック・パラリンピックの報奨金

所得税法9条1項14号は,オリンピック競技大会又はパラリンピック競技大会で特に優秀な成績を収めた者を表彰するものとして,日本オリンピック委員会,日本障害者スポーツ協会等から交付される金品で財務大臣が指定するものを非課税としている。
学術・芸術の賞と同じく,法律で範囲を限った上で財務大臣の指定に委ねる仕組みである。

第6 賞金を受け取った後の税金

1 寄附したときの寄附金控除

個人が国,地方公共団体,公益社団法人・公益財団法人その他の特定寄附金の対象となる法人に寄附をした場合,寄附金控除を受けられる(所得税法78条)。
ただし,控除の対象となる特定寄附金の額は,その年分の総所得金額,退職所得金額及び山林所得金額の合計額の40%が上限であり,そこから2000円を差し引いた額が控除額となる(同条1項)。

非課税のノーベル賞の賞金は,この「総所得金額」等に入らない。
そのため,賞金の全額を大学や研究基金に寄附しても,寄附金控除の上限は他の所得(給与・年金等)の40%で決まり,他の所得が少なければ控除できる額は限られる。
もっとも,賞金自体に所得税がかかっていないから,控除しきれない部分があっても,賞金に課された税金を取り戻せないという問題は生じない。

2 国外の口座に置いたまま年を越すとき

居住者(非永住者を除く。)は,その年の12月31日に価額の合計額が5000万円を超える国外財産を有する場合,翌年6月30日までに国外財産調書を提出しなければならない(内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律5条1項)。
これは所得が課税されるかどうかとは別の義務であるから,賞金を国外の口座に置いたまま年を越し,他の国外財産と合わせて5000万円を超えるときは,提出の要否を確認する必要がある。

3 家族への贈与と相続

所得税法9条1項13号は「所得税を課さない」と定めるだけであり,賞金として受け取った財産が贈与税や相続税の対象から外れるわけではない。
受賞者が賞金を子や孫に贈与すれば,受け取った者に贈与税が課され得る(相続税法21条の2)。
受賞者が死亡したときに賞金が預金等として残っていれば,相続財産として相続税の対象となる(同法2条)。

4 メダルを売却したとき・寄贈したとき

ノーベル財団の公式サイトによれば,1980年(昭和55年)までのスウェーデンのメダルは約200グラムの23金であったが,その後は18金の再生金で作られ,重さは経済学賞のメダル(185グラム)を除き175グラムとされている。
メダルを受け取ることは「ノーベル賞として交付される金品」の受領として非課税であるが,受け取った後にメダルを売却し,又は寄贈したときの課税関係は,所得税法9条1項13号ホの対象ではない。

(1) 売却したとき

メダルの売却による所得は,資産の譲渡による所得として譲渡所得になる(所得税法33条1項)。
生活に通常必要な動産の譲渡による所得は非課税であるが(同法9条1項9号),メダルが生活に通常必要な動産に当たるとは考えにくく,仮に当たるとしても,貴金属の製品で1個の価額が30万円を超えるものは非課税の対象から除かれている(所得税法施行令25条1号)。

譲渡所得の金額は,総収入金額から取得費と譲渡に要した費用(オークションの手数料等)を控除し,さらに特別控除額(最高50万円)を控除した金額である(所得税法33条3項・4項)。
取得の日から5年を超えて保有したメダルの譲渡であれば,その金額の2分の1が総所得金額に算入される(同法22条2項2号)。

無償で交付されたメダルの取得費をどう計算するかを直接定めた規定や通達は,確認した範囲では見当たらなかった。
取得費は「その資産の取得に要した金額」等の合計額であり(所得税法38条1項),対価を支払っていないメダルではこれが0円となるとも考えられるが,土地建物等以外の資産については,収入金額の5%を取得費として計算することが認められている(所得税基本通達38-16)。
相続又は個人からの贈与で取得したメダルを相続人等が売却する場合は,被相続人等が引き続き所有していたものとみなされ,取得の時期と取得費が引き継がれる(所得税法60条1項1号)。

報道によれば,2021年のノーベル平和賞の受賞者であるドミトリー・ムラトフ氏のメダルは,2022年6月に米国ニューヨークのオークションで1億0350万米ドルで落札され,その全額がウクライナの避難民の子どもを支援するユニセフの活動に充てられた。

(2) 大学・博物館等に寄贈したとき

個人が法人に資産を贈与すると,その時の価額で資産を譲渡したものとみなされ,贈与した側に譲渡所得が課される(所得税法59条1項1号)。
メダルを大学や博物館を運営する法人に寄贈する場合も,原則としてこのみなし譲渡の対象となる。

もっとも,国又は地方公共団体に対する贈与は,みなし譲渡の規定の適用上,贈与がなかったものとみなされる(租税特別措置法40条1項前段)。
公益社団法人,公益財団法人その他の公益を目的とする事業を行う法人に対する贈与は,公益の増進に著しく寄与すること等の要件を満たすものとして国税庁長官の承認を受けた場合に限り,同様に扱われる(同項後段)。
国立大学法人や独立行政法人も国又は地方公共団体そのものではないから,寄贈先がどの区分に当たるか,承認の申請が要るかを,寄贈の前に確認する必要がある。

第7 米国の取扱いとの比較

米国の内国歳入法典74条(a)は,賞(prizes and awards)として受け取った金額を原則として総所得に含めるとしている。
同条(b)は,宗教,慈善,科学,教育,芸術,文学又は市民的な業績を主に称える賞について,①受賞者が自ら応募等をしていないこと,②将来の実質的な役務の提供が受賞の条件でないこと,③受賞者の指定により支払者が政府機関又は一定の公益団体に賞金を直接移転したことの3つを満たす場合に限り,総所得から除いている。
そのため,米国の納税者がノーベル賞を受賞した場合,賞金を自分で受け取れば課税され,課税を避けるには受け取らずに公益団体等へ直接移転させる必要がある。

日本の所得税法9条1項13号ホは,受賞者が賞金を自由に使えることを前提に,ノーベル賞の賞金を無条件で非課税としている点で,米国と大きく異なる。

第8 関連記事

①株主優待・懸賞の賞品は何所得か―配当所得・一時所得・雑所得の区別,収入の時期,会社員の確定申告及び賞品を出す会社の源泉徴収(AI作成)
②移住支援金・定住奨励金は何所得か―一時所得と雑所得の分かれ目,起業支援金及び非課税となる助成金(AI作成)
③示談金・解決金・和解金に税金はかかるか―名目ではなく補填対象・所得区分・権利確定時期で判断する(AI作成)
④所得税の確定申告に関するメモ書き(AIリライト)

第9 出典

1 法令

①所得税法5条,7条,9条,22条,33条,34条,38条,59条,60条,78条,204条(e-Gov法令検索)
②地方税法32条,313条(e-Gov法令検索)
③相続税法2条,21条の2(e-Gov法令検索)
④内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律5条(e-Gov法令検索)
⑤所得税法施行令25条(e-Gov法令検索)
⑥租税特別措置法40条(e-Gov法令検索)
⑦所得税法の一部を改正する法律(昭和25年法律第71号)(衆議院)
⑧所得税法の一部を改正する法律(昭和44年法律第14号)(衆議院)
⑨所得税法の一部を改正する法律(昭和48年法律第8号)(衆議院)
⑩所得税法の一部を改正する法律(平成2年法律第12号)(衆議院)
⑪所得税法の臨時特例等に関する法律(昭和24年法律第269号)(衆議院)
⑫26 U.S. Code § 74 – Prizes and awards(Cornell Law School LII)

2 告示・官報・行政資料

①昭和44年大蔵省告示第96号(令和7年12月26日財務省告示第334号による改正後のもの)(財務省)
②平成2年大蔵省告示第203号(財務省)
③税法関係告示の一覧(財務省)
④官報令和7年12月26日本紙第1618号(財務省告示第334号)
⑤令和8年度税制改正要望事項「アーベル賞受賞に伴う国際的に評価される学術賞で交付される金品に関する非課税措置の指定の拡充」(文部科学省・財務省掲載)
⑥令和8年度文部科学省関係税制改正要望の結果(概要)(文部科学省)
⑦所得税基本通達34-1(国税庁)
⑧タックスアンサーNo.1490「一時所得」(国税庁)
⑨文化関係の税制「個人の方へ」(文化庁)
⑩基準外国為替相場及び裁定外国為替相場(令和8年10月分)(日本銀行)
⑪所得税基本通達38-16(国税庁)
⑫所得税基本通達204-4(国税庁)

3 国会会議録

①衆議院大蔵委員会昭和24年11月21日(塚田十一郎委員の提案)
②参議院大蔵委員会昭和24年12月1日(池田勇人大蔵大臣の答弁)
③衆議院大蔵委員会昭和43年11月6日(岡澤完治委員の質問と細見卓審議官の答弁)
④衆議院大蔵委員会昭和44年3月7日(福田赳夫大蔵大臣の提案理由説明)
⑤参議院大蔵委員会昭和44年3月25日(細見卓大蔵大臣官房審議官の補足説明)

4 ノーベル財団の公表資料

①The Nobel Prize money(NobelPrize.org)
②Press release: Nobel Prize in Chemistry 2026(NobelPrize.org)
③The Sveriges Riksbank Prize in Economic Sciences in Memory of Alfred Nobel(NobelPrize.org)
④ノーベル化学賞に硤合憲三氏ら2氏(科学技術振興機構サイエンスポータル,令和8年10月7日)
⑤Statutes of the Nobel Foundation(NobelPrize.org)
⑥A unique gold medal(NobelPrize.org)
⑦The Nobel Peace Prize 2021(NobelPrize.org)

5 報道

①Russian Nobel medal sale raises $103.5m for Ukraine children(Al Jazeera,2022年6月21日)

6 裁判例

裁判所HPの裁判例検索で「ノーベル」「ノーベル賞」等を検索した範囲では,ノーベル賞の賞金の課税を争点とした裁判例は見当たらなかった(裁判所HP未掲載の裁判例が存在しないことまでを意味するものではない。)。