第1 答申を読む前に確認する事項
1 答申,裁決及び判決を区別すること
情報公開の答申を引用するときは,対象文書,判断主体,根拠条文及び判断の範囲を確かめる必要がある。
要旨集に紹介されている結論だけでは,どの情報について,どの不開示事由を判断したのかまでは分からないことがある。
情報公開・個人情報保護審査会設置法2条は,審査会を,法律の規定による諮問に応じて審査請求について調査審議するための機関として設置している。
行政機関情報公開法19条1項は,審査請求に対する裁決をすべき行政機関の長による審査会への諮問を定めている。
審査会の答申,行政機関の長の裁決及び裁判所の判決は,作成主体と手続上の位置付けが異なるため,出典名も区別して記載する。
2 公表答申書と要旨集を区別すること
審査会設置法16条は,答申書の写しの送付と答申内容の公表を定めている。
調査では,総務省の答申・判決データベースや答申一覧を索引として,個別の公表答申書を確認する。
過去の公表資料については,国立国会図書館のインターネット資料収集保存事業であるWARPに保存された官公庁サイトの資料も確認先となる。
要旨集や解説資料は論点を探すために有用であるが,掲載文が答申の全文とは限らない。
引用する文章が答申書にあるのか,要旨集の編集者による説明なのかを区別し,個別答申書を根拠とするときは,その公表版の該当箇所まで確認する。
第2 答申を特定し,頁と判断主体を確認すること
1 年度,区分,番号及び答申日を照合すること
答申の年度と答申日の暦年は一致するとは限らない。
また,一つの公表答申書に複数の答申番号が記載されていることもあるため,ファイル名だけで答申を特定しない。
例えば,令和3年度(行情)答申第485号,第487号及び第489号の公表答申書1頁には,答申日が令和4年1月20日と記載されている。
このような資料を調査するときは,①年度,②行情等の区分,③答申番号,④答申日,⑤諮問庁を照合し,併合された答申の有無も確認する。
2 公表答申書の頁と要旨集の頁を区別すること
同じ文章であっても,個別の公表答申書と,それを収録・紹介する要旨集とでは頁番号が異なることがある。
引用の出典とする資料を先に決め,その資料の印字頁を確認する。
表紙,別紙又は複数文書の結合がある場合には,閲覧ソフトが表示する位置と印字頁が一致するかも確認する。
公表答申書を出典とする場合は,例えば「平成24年度(行情)答申第123号・公表答申書8頁~9頁」と記載すれば,資料の種類と引用箇所が分かる。
要旨集の頁を使う場合には,要旨集の正式名称と頁を示し,個別答申書の頁であるかのような表記をしない。
「答申原文」という表現だけでは参照した資料の版が分かりにくい場合には,「公表答申書」と示す方法がある。
3 発言主体を段落ごとに確認すること
答申書には,審査請求人の主張,諮問庁の説明,調査審議の経過及び審査会の判断が収録されている。
審査会の判断理由の節に書かれていても,その段落が諮問庁の説明を紹介していることがある。
前記令和3年度(行情)答申第485号等の公表答申書7頁は,審査会の判断理由の節にありながら,「諮問庁は,以下のとおり説明する。」と,説明主体を明示している。
したがって,見出しと引用文だけを取り出さず,導入部分,枝番号及び後続の判断を読み,審査会がその説明を採用した範囲を別に確認する。
第3 結論を別の情報へ広げる前に確認すること
1 対象情報と判断された不開示事由を分けること
行政機関情報公開法5条は,開示請求に係る行政文書に同条各号の不開示情報が記録されている場合を除き,行政文書の開示を義務付けている。
ある答申が一つの不開示事由について判断していても,その判断だけで別の不開示事由まで結論が決まるとは限らない。
比較するときは,氏名,所属,行為の内容,文書の存否など,対象とされた情報の範囲を分ける。
平成24年度(行情)答申第123号の公表答申書9頁では,同法5条1号に該当すると判断した上で,同条6号については判断するまでもないとしている。
この答申の結論を,同条6号についても審査会が判断した事例として紹介することはできない。
判断された論点と,結論を出す必要がなく判断されなかった論点を区別することが必要である。
2 閲覧できることと公表慣行を区別すること
行政機関情報公開法5条1号ただし書イは,個人に関する情報の不開示事由から除かれる情報として,「法令の規定により又は慣行として公にされ、又は公にすることが予定されている情報」を定めている。
公表資料を使ってこの該当性を検討するときは,対象情報が何であり,誰が,どの方法で,どの範囲に公開しているのかを確かめる。
前記平成24年度(行情)答申第123号・公表答申書8頁~9頁は,訴訟記録の閲覧制度と情報公開制度の目的・方法を検討し,閲覧制度の対象となった情報であることだけで公表慣行を肯定できないとしている。
もっとも,これは当該答申で検討された情報と制度に関する判断であり,別の公開資料の存在や,別の対象情報についての該当性を一律に否定する結論ではない。
3 現行法と答申当時の法令を照合すること
古い答申が引用する条番号や制度の説明は,当時の法令を前提とする。
現行制度を説明する文章では,e-Gov法令検索で現在の条文を確認し,過去の答申の判断と現在の制度説明を混同しない。
改正で条番号が移動した場合には,文章中の番号だけを現在の番号に書き換えるのではなく,規定内容と経過措置も照合する。
第4 調査から引用までの確認手順
1 調査記録に残す事項
調査記録には,①資料の正式名称と公開元,②取得先と取得日,③確認した頁,④短い引用又は内容の要約,⑤発言主体,⑥判断された論点,⑦判断されていない論点,⑧比較対象との相違を残す。
電子ファイルを保存する場合には,取得先と保存ファイルの対応も記録しておけば,後日同じ箇所を確認しやすい。
検索結果で見つかった資料,実際に本文を読んだ資料及び本文を取得できなかった資料は分けて記録する。
取得に失敗したことや検索で見つからなかったことは,資料が存在しないことを示すものではない。
2 本文へ移す前の点検
① 引用文が公表答申書の該当頁に存在するかを確認する。
② 引用文の前後を読み,説明主体と審査会が採用した範囲を確認する。
③ 要旨集の頁と公表答申書の頁を取り違えていないかを確認する。
④ 当該答申が対象とする情報,根拠条文及び判断の範囲を示す。
⑤ 同じ答申書の不利な記載や留保も確認し,結論だけを広げない。
⑥ 公開資料の引用と,個別事件についての主張・推論を区別する。
情報公開制度全体の対象,審査会及び訴訟については,行政機関等に対する情報公開請求の基礎も参照。
第5 出典
① 行政機関の保有する情報の公開に関する法律・5条,19条
② 情報公開・個人情報保護審査会設置法・2条,16条
③ 総務省・情報公開・個人情報保護審査会答申・判決データベース
④ 平成24年度(行情)答申第123号(平成24年7月23日,諮問庁・国税庁長官)・公表答申書8頁~9頁,国立国会図書館WARP保存版
⑤ 令和3年度(行情)答申第485号,第487号及び第489号(令和4年1月20日,諮問庁・財務大臣)・公表答申書1頁,7頁~10頁