第1 全国交通安全運動の目的と令和8年の期間
全国交通安全運動は毎年春と秋に行われる交通事故防止のための運動であり,令和8年は春が4月6日から15日まで,秋が9月21日から30日までであった。
本記事は令和8年10月3日を基準日とし,全国重点と直接関連する交通ルールを説明する。
1 運動の目的と参加する機関
(1) 交通安全教育と地域の活動
春秋の推進要綱は,交通安全の考え方を広め,交通ルールの遵守と正しい交通マナーの実践を促すことなどを通じて,交通事故の防止を図ることを目的としている。
国の関係機関,地方公共団体,交通安全に関わる団体等が主催し,学校・家庭・職場などで取組を進める仕組みである。
(2) 警察による指導取締り
警察庁の秋の通達には,広報や交通安全教育に加えて,歩行者保護や生活道路等での交通指導取締りを強化する方針も示されている。
運動の内容には啓発だけでなく指導取締りも含まれ,警察庁の交通行政の組織については,警察庁交通局で説明している。
2 春秋の日程と交通事故死ゼロを目指す日
(1) 令和8年の日程
| 運動 | 運動期間 | 交通事故死ゼロを目指す日 |
|---|---|---|
| 春 | 4月6日(月)~15日(水) | 4月10日(金) |
| 秋 | 9月21日(月)~30日(水) | 9月30日(水) |
いずれも10日間であり,本記事の基準日には終了している。
別の年の日程を確認する場合は,その年の公式要綱による必要がある。
(2) 死者数の実績との区別
「交通事故死ゼロを目指す日」は,取組の目標を示す名称である。
その日に実際の交通事故死者数がゼロだったという結果を示すものではない。
第2 令和8年の春秋の全国重点
1 春の全国重点
春の全国重点を要約すると,次の3点である。
①通学路・生活道路で,こどもを始めとする歩行者の安全を確保すること。
②ながらスマホをなくし,歩行者優先などの安全運転意識を高めること。
③自転車・特定小型原動機付自転車の交通ルールを理解し,守ること。
2 秋の全国重点と地域重点
(1) 歩行者・自動車・自転車の全国重点
秋の全国重点を要約すると,次の3点である。
①歩行者の安全を確保し,反射材用品の着用を促進すること。
②夕暮れ時に早めにライトを点灯し,飲酒運転やながらスマホをなくすこと。
③自転車・特定小型原動機付自転車の交通ルールを理解し,守ること。
(2) 地域の実情に応じた重点
春秋の要綱は,全国重点に加えて,地域の交通事故の実態等に応じた重点を定めることを認めている。
学校や事業所で活動を行う際には,全国の要綱とともに,地元の自治体・警察が示す実施計画を確認するとよい。
第3 運動の呼び掛けと法律上の義務
1 横断歩道に接近するときと停止するとき
(1) 道路交通法38条1項の義務
横断歩道又は自転車横断帯に接近する車両等は,そこで進路の前方を横断しようとする歩行者等がいないことが明らかな場合を除き,直前で停止できる速度で進行しなければならない。
さらに,その横断歩道等で進路の前方を横断中,又は横断しようとしている歩行者等がいるときは,直前で一時停止し,その通行を妨げてはならない。
停止線がある場合,ここでいう「直前」は停止線の直前である。
(2) 歩行者による手挙げとの関係
秋の要綱は,歩行者に対して,手を挙げるなどして横断の意思を伝える行動を促している。
しかし,同条1項は手を挙げることを停止義務の条件としていないため,「手を挙げなかったから停止しなくてよい」とは整理できない。
個別の違反や事故では,信号,歩行者の位置,横断の意思などの具体的な状況を確認する必要がある。
2 自転車のヘルメットと青切符
(1) ヘルメット着用の努力義務
道路交通法63条の11第1項による自転車運転者のヘルメット着用は,努力義務である。
運動による着用の呼び掛けと,個々の行為に罰則や青切符が適用される条件は区別して理解する必要がある。
(2) 青切符の施行日・対象年齢・除外
自転車の交通反則通告制度,いわゆる青切符は,令和8年4月1日から施行され,16歳以上の者による一定の交通違反を対象としている。
春の運動の開始日である4月6日とは別の日であり,運動期間の終了後も制度は適用される。
道路交通法125条は,反則行為によって交通事故を起こした者などを反則者の範囲から除外している。
違反がすべて青切符で処理されるわけではなく,反則金や刑事手続との関係は,自転車の青切符とは-対象年齢,反則金一覧,赤切符になる場合及び過失割合・自転車保険との関係で詳しく説明している。
3 生活道路の法定速度と速度標識
(1) 令和8年9月1日からの道路区分
生活道路に関する自動車の法定速度の引下げは,令和8年9月1日に施行されており,秋の運動の開始日である9月21日より前の変更である。
道路交通法施行令11条は,一般道路を区分し,同条1号に掲げる道路以外の一般道路の自動車の法定速度を時速30キロメートルとしている。
中央線又は車両通行帯が設けられている一般道路や,往復の方向別に分離されている一般道路などは,同条1号の時速60キロメートルの区分に含まれる。
(2) 標識等で指定された最高速度の優先
道路交通法22条1項により,道路標識等で最高速度が指定されている道路では,その指定速度が適用される。
例えば,中央線のない住宅街の道路でも,最高速度が標識で時速40キロメートルと指定されている場合は,その指定速度による。
「住宅街の道路はすべて時速30キロメートルである」という理解は正確ではなく,道路の構造と最高速度の指定を確認する必要がある。
道路区分や反則金・点数等の詳細は,生活道路の法定速度引下げ-対象道路の見分け方,速度標識がある場合の優先関係,反則金・点数及び民事賠償への影響を参照されたい。
第4 家庭・職場での確認と運動終了後の取組
1 家庭で確認する道と自転車
本記事では,要綱の呼び掛けを日常の行動に結び付ける例として,次の確認を提案する。
①こどもと普段の通学路を歩き,横断歩道,見通しの悪い場所,車の出入口などを一緒に確認すること。
②夕方や夜間に歩く機会がある家族について,反射材用品や目立つ衣服など,運転者から見えやすくする方法を確認すること。
③自転車に乗る家族と,信号,一時停止,通行方法を確認し,ヘルメットを正しく着用すること。
こどもの自転車事故について親の責任や保険を確認したい場合は,未成年者の自転車事故と親の責任―責任能力,民法709条・714条及び自転車保険を参照されたい。
2 職場の業務に合わせた確認
(1) 秋の要綱が掲げる職域活動
秋の要綱は,業務形態に対応した交通安全教室等の開催,横断歩道での歩行者優先,体調面を考慮した安全運転,社内の広報啓発などを掲げている。
これは運動の活動方針であり,全ての企業に同一内容の新しい研修義務が生じると説明するものではない。
(2) 経路・連絡方法・自転車利用の点検
本記事では,業務の実態に合わせた確認例として,次を提案する。
①よく使う経路の通学路,横断歩道,最高速度の指定,中央線の有無などを運転者と確認すること。
②運転中に連絡への応答を求める運用がないかを点検し,安全に停止してから連絡を確認する方法を共有すること。
③自動車による移動に加え,自転車での通勤や業務移動も対象として交通ルールを確認すること。
④飲酒運転防止や体調に不安がある場合の運転見合わせについて,連絡・代替方法を決めること。
安全運転管理者の選任や酒気帯び確認などの法令上の管理義務は,各事業所への適用条件に即して別途確認する必要がある。
3 運動期間が終わった後の交通ルール
警察庁の秋の通達は,示した事項を交通警察が継続的に取り組むべきものとして,運動期間終了後も推進するよう求めている。
横断歩道での歩行者優先や最高速度などの法律上の義務も,運動期間の終了によってなくなるものではない。
第5 出典・参考資料
1 法令
①道路交通法(昭和35年法律第105号)22条1項,38条1項,63条の11第1項,125条(e-Gov法令検索。令和8年7月21日施行版の対象条文を確認)。
②道路交通法施行令(昭和35年政令第270号)11条(e-Gov法令検索。令和8年9月1日施行の速度区分を確認)。
2 推進要綱・警察通達
①中央交通安全対策会議交通対策本部「令和8年春の全国交通安全運動推進要綱」(令和8年1月16日決定)第1,第2,第3,第5。
②同「令和8年秋の全国交通安全運動推進要綱」(令和8年7月1日決定)第1,第2,第3,第5,第6,第7。
③警察庁交通局長「令和8年秋の全国交通安全運動の実施について(通達)」(令和8年7月7日)本文1頁~4頁(PDF1頁~4頁)。
3 所管行政機関の解説・広報資料
①警察庁「交通安全運動の推進」(基準日閲覧版)概要及び令和8年秋の運動重点。
②警察庁「自転車の新しい制度」(基準日閲覧版)施行日及び対象者の説明。
③警察庁・都道府県警察「生活道路における自動車の法定速度が引き下げられます!!」(令和8年9月1日施行の案内)1頁。