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破産・民事再生で相殺できるか―相殺禁止,危機時期前の原因及び三者間相殺(AI作成)

第1 相殺の担保的機能と債権者平等

1 支払義務と反対債権がある場合

倒産した取引先へ代金を支払う一方,同じ取引先に貸金,違約金,損害賠償などの債権を有する場合,相殺によって回収できるかが問題になる。
相殺には,相手方の資力が不足しても,対当額について自己の債権の満足を得られる担保的機能がある。
しかし,危機時期に相殺のための債権・債務を作り出すことまで保護すると,他の債権者との公平を損なう。
相殺権を認める条文と,相殺を禁止する条文を順に検討する必要がある。

本記事は令和8年10月3日時点の破産法・民事再生法と,裁判所で公開されている下記最高裁判決本文を基準とする。
銀行預金,請負違約金,投資信託解約金,無委託保証及び三者間相殺を扱い,会社更生・金融取引の特別な一括清算制度には一般化しない。

2 相殺できる立場と期限を最初に確認する

項目破産民事再生
基本規定破産法67条。開始時に破産者へ債務を負担する破産債権者民事再生法92条。開始当時に再生債務者へ債務を負担する再生債権者
時間的な要件67条2項に期限・条件等に関する特則がある原則として届出期間満了前の相殺適状と,届出期間内の相殺が必要
債務負担側の禁止71条93条
債権取得側の禁止72条93条の2

破産と民事再生を同じ期限・要件で扱わない。
民事再生法92条2項・3項には賃料・敷金に関する特則もあるため,通常の売掛金・貸金の整理だけで結論を出さない。

第2 破産法71条と72条の見分け方

1 71条は相殺に使う債務を負担した側を見る

例えば銀行が破産者に対して貸金債権を持ち,顧客からの入金で破産者への預金債務を負担する場合,銀行の債務負担について破産法71条を検討する。
同条1項1号は開始後に破産財団へ債務を負担した場合を,同項2号は支払不能を知り,専ら相殺に供する目的で財産処分契約・債務引受契約等を通じて債務を負担した場合を対象とする。
2号については,支払不能後の契約だけでなく,その契約による債務負担,目的及び契約時の認識を確認する。

同項3号は支払停止後の知情の債務負担,4号は破産申立て後の知情の債務負担を対象とする。
3号には,支払停止時に支払不能でなかった場合の除外がある。
支払不能,支払停止,開始申立て,開始決定を一つの「倒産日」にまとめてはならない。

2 72条は相殺に使う破産債権を取得した側を見る

取引先に代金を支払う者が,取引先に対する違約金債権を取得して相殺する場合には,破産法72条を検討する。
同条1項1号は開始後に他人の破産債権を取得した場合を対象とする。
2号~4号は,支払不能,支払停止,破産申立て後の,それぞれの事情を知った上での破産債権取得を対象とする。
債権が破産債権に当たることと,それを自働債権として相殺できることは,別の問題である。

3 例外は該当号と原因を特定する

71条2項・72条2項の例外は,それぞれ1項2号~4号を対象とし,1号に当然に及ぶわけではない。
法定の原因,危機事実を知る前に生じた原因,申立ての1年以上前に生じた原因を確認する。
72条2項にはさらに破産者との契約を原因とする場合の規定があるが,71条2項に同じ契約の例外はない。
「契約は以前からあったので相殺できる」とだけ述べず,条文上どの例外に当たるかを特定する。

第3 支払停止後に取得した請負違約金

1 最高裁令和2年9月8日判決

最高裁令和2年9月8日第三小法廷判決(平成31年(受)第61号,民集74巻6号1643頁)は,支払停止前に締結した複数の請負契約の違約金条項を扱った。
注文者は支払停止を知った後に未完成の契約を解除し,報酬の1割相当の違約金債権を取得して,請負報酬債権と相殺した。
最高裁は72条1項3号への該当を認めつつ,2項2号の「前に生じた原因」に基づく取得として,相殺を許した。

契約条項は,請負人の責めに帰すべき未完成と注文者の解除によって一定額の違約金が生ずるものであり,危機前から一括清算を予定していたと評価された。
この事案では,自働債権と受働債権が同一の請負契約に基づくか否かを問わず,相殺が認められている。

2 判決の射程と確認資料

この判決から,倒産後に請求したすべての損害賠償金を,別契約の代金と相殺できるとはいえない。
危機前の契約と条項,解除事由,通知の到達,違約金の発生・金額,双方の債権の取得時を確認する。
請負報酬そのものの発生,解除後の出来高,代替工事費用などは,請負契約の途中解除と報酬・損害賠償で分けて検討する。

第4 投資信託の解約金と無委託保証

1 危機前の管理契約だけでは足りない場合

最高裁平成26年6月5日第一小法廷判決(平成24年(受)第908号,民集68巻5号462頁)は,民事再生法93条2項2号を扱った。
銀行は支払停止を知った後,債権者代位により投資信託受益権の解約実行請求をし,解約金の支払債務を負担して,自己の債権と相殺した。
最高裁は,危機前に管理委託契約があったことだけで,合理的な相殺期待が保護されるわけではないとして,相殺を認めなかった。

解約前の受益権には他の債権者も責任財産としての期待を有し,顧客は他の振替口座へ自由に移せた。
銀行が解約金の支払債務を負担することが確実だったともいえず,支払停止後に代位して相殺対象を作った点が重視されている。
この判決は民事再生法の事案であり,破産法71条の事件として紹介しない。

2 破産債権でも相殺できない無委託保証の求償権

最高裁平成24年5月28日第二小法廷判決(平成21年(受)第1567号,民集66巻7号3123頁)は,破産開始前に主債務者の委託を受けずに保証した者が,開始後の弁済で取得した求償権を扱った。
求償権は開始前の保証関係を基礎とする破産債権であるとされたが,それによる相殺は72条1項1号の類推適用により許されないとされた。
主債務者の意思に基づかず,開始後に相殺による優先回収の関係を作り出すことは,委託を受けた保証と同じには扱えないためである。
保証契約日だけでなく,委託の有無,弁済日,求償権の取得と受働債権の関係を確認する。

第5 関係会社を使った三者間相殺

最高裁平成28年7月8日第二小法廷判決(平成26年(受)第865号,民集70巻6号1611頁)は,同じ完全親会社を持つ別会社の再生債権を使った相殺を扱った。
再生債務者への支払義務を負うAが,関係会社Bの債権を自働債権として相殺するというものである。
最高裁は,そのような相殺をする合意があらかじめあっても,民事再生法92条1項により許容される相殺に該当しないとした。

グループ全体で見れば債権と債務があることは,同一当事者間の相互性を満たすことと同じではない。
BからAへ実際に債権を譲渡すれば常に解決するわけでもなく,取得時期に応じて相殺禁止規定が問題になる。
債権者・債務者の法人名,譲渡・保証・債務引受の内容,取得日及び危機事実の認識を,一覧にして確認する。

第6 銀行預金,でんさい,敷金との関係

1 売上入金と預金振替

銀行の貸付金と預金の相殺では,貸付金の取得時・弁済期に加え,各入金によって預金債務を負担した時とその原因を見る。
通常の預金,売上入金先の変更,普通預金から別段預金・定期預金への振替を,一律に扱わない。
東京高裁令和5年5月17日判決の具体的事実関係と破産法71条1項2号の検討は,既存の資金繰り悪化後の売上入金口座と銀行の相殺を参照されたい。

2 資金の性質と個別の特則

電子記録債権の決済金では,銀行の受領権限・預り金の性質が問題になるため,でんさい決済金の相殺・商事留置権を参照されたい。
電気料金と敷金の事案については,民事再生手続開始前後の電気料金と敷金で,再生債権・共益債権と特則を分けて説明している。
一般の倒産手続や申立準備は,倒産事件の実務メモ,訴訟上の既判力は,相殺の抗弁と既判力で扱う。

第7 実務で作る時系列と出典

1 債権・債務ごとの時系列

①契約・原因成立,債権取得,債務負担,弁済期
②支払不能,支払停止,開始申立て,開始決定及び各事実を知った時
③解除,保証弁済,入金,振替,解約実行請求及び債権譲渡
④相殺の意思表示と到達,民事再生の債権届出期間

これらを契約書,通知の到達記録,銀行取引明細,申立書・決定書及び交渉記録で裏付ける。
相殺権の行使についての禁止,管財人による否認,財産・預り金の帰属は,別の法律問題として検討する。
相殺だけで全額回収できると見込んで,債権届出等の手続を放置しないことも必要である。

2 出典

①e-Gov法令検索・破産法2条5項,67条,71条・72条
②e-Gov法令検索・民事再生法92条,93条・93条の2
③最高裁令和2年9月8日判決全文
④最高裁平成26年6月5日判決全文
⑤最高裁平成24年5月28日判決全文
⑥最高裁平成28年7月8日判決全文