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雨漏り・施工不良があると工事代金を払わなくてよいか―支払拒絶,報酬減額,相殺と残代金の遅延損害金(AI作成)

第1 施工不良がある場合の代金請求への対応

1 請求書を受け取ったときに確認すること

住宅の引渡し後に雨漏りが見つかり,施工業者から残代金を請求された場合,注文者には,修補を求めながら支払を拒む方法,報酬の減額を求める方法,損害賠償債権で相殺する方法などがある。
ただし,これらは要件と効果が異なり,「施工不良があるから,残代金をいつまでも全額払わなくてよい」という結論にはならない。
特に,相殺で修補費用相当の損害賠償債権を使い切った後は,その債権を理由に残代金の支払拒絶を続けることはできず,残額の遅延損害金にも注意を要する。

本記事は,令和2年4月1日施行の改正民法が適用される工事請負契約を中心に説明する。
同日前の契約は経過措置を確認する必要がある。
また,工事途中の解除と出来形の報酬は,請負契約を途中で解除したときの報酬と損害賠償で別に扱う。

2 工事の完成,引渡し及び支払期日の確認

請負は仕事の完成とその結果に対する報酬を約する契約であり,報酬は,原則として目的物の引渡しと同時に支払う(民法632条・633条)。
もっとも,前払金,出来高払,検査後の支払などの合意があれば,契約書の支払条件を確認する必要がある。
施工不良の問題と,約束した工程が未了で工事が完成していない問題を分け,完成日,引渡日,検査日,残代金の額及び支払期日を時系列に並べるのが相当である。

「工事が完成していない」という主張だけを続け,裁判で完成が認められた場合に備えた主張を用意していないと,施工不良の修補や損害の問題が十分に審理されないおそれがある。
完成の有無を争う場合でも,どの施工が契約に適合せず,何を求めるかを併せて具体化する必要がある。

第2 修補前に残す資料と施工業者への通知

1 現象,原因及び契約内容を分ける

雨漏りは不具合の現象であり,それだけで原因となる施工内容や責任主体が確定するわけではない。
契約書,設計図書,仕様書,見積書,変更合意,工事写真及び検査記録を集め,予定された施工と実際の施工を比較する必要がある。
撮影日時,場所,降雨時の状況,発見からの経過,応急措置及び業者とのやり取りも保存する。

専門家に調査を頼む場合は,漏水の原因,契約に適合しない施工,必要な修補方法及び費用を分けて説明できる報告書を求めるのが相当である。
調査の範囲は,結論を左右する争点に応じて決める。
施工業者の確認前に第三者が撤去・改修すると,元の施工状態の確認が難しくなるため,可能な範囲で立会いの機会を設け,修補前後の写真や撤去部材の記録を残すべきである。
漏水の拡大や人身危険への対応を要する場合は,安全確保と被害拡大防止を優先し,緊急性及び実施した措置を記録する。

2 不適合の通知と修補の催告は区別する

目的物の種類又は品質についての契約不適合では,原則として,注文者が不適合を知った時から1年以内にその旨を請負人へ通知する必要がある(民法637条1項)。
引渡し時に請負人が不適合を知り,又は重大な過失で知らなかった場合は,同条2項の例外がある。
通知期間のほかに消滅時効,特約及び新築住宅の特則の検討も必要となるため,1年だけを唯一の期限と考えるべきではない。

通知には,不具合の場所,現象,発見日及び把握している施工上の問題を具体的に記載し,送付内容と相手方への到達を確認できる方法を選ぶべきである。
一方,報酬減額のための修補等の催告では,履行の追完を求める内容と相当な期間も問題となる。
単に「雨漏りを知らせた」という通知と,「期限を設けて修補を求めた」という催告が同じ要件を満たすとは限らない。

通知期間を過ぎた場合の相殺について,司法研修所の教材は,期間経過前に相殺適状にあったことを条件とする民法508条の類推適用を説明している。
ただし,これは期間経過後の現金請求を一般に認める説明ではなく,支払期日等の確認が必要となる。
詳しくは,時効で消滅した債権で相殺できるか及び契約不適合責任の期間制限を参照されたい。

第3 支払拒絶,報酬減額,相殺及び反訴の違い

1 何を実現したいかで方法を選ぶ

方法主な効果確認すべき点
同時履行の抗弁相手方の履行提供まで支払を拒む対応する修補・損害賠償義務,支払期日,信義則による制限
報酬減額不適合の程度に応じて報酬を減らす追完の催告又はその例外,減額の意思表示,不適合の程度
損害賠償債権による相殺二つの金銭債権を対当額で消滅させる損害賠償の要件・額,相殺適状,対象債権,相殺の意思表示と到達
反訴・別訴による損害賠償請求業者に金銭の支払を命じる判決を求める相殺で消滅した部分を除く請求額,損害の立証,訴訟上の相殺との調整

同時履行の抗弁は,代金債務を消滅させるものではない。
また,相殺の抗弁だけでは,注文者側に残る損害賠償債権について,施工業者へ支払を命じる判決は得られない。
同じ損害を減額と損害賠償の両方で重複して回復しないよう,どの請求をどの範囲で使うかを整理する必要がある。

2 報酬減額と修補費用相当の損害賠償

民法559条によって準用される563条の報酬減額では,原則として,相当な期間を定めた追完の催告と,期間内に追完がないことが必要となる。
追完不能,明確な追完拒絶など同条2項所定の場合は,催告をしない減額も認められる。
減額は不適合の程度に応じて行うものであり,第三者の修補見積額が当然にそのまま減額額になるわけではない。

修補費用相当額を損害賠償として求める場合は,民法559条・564条・415条に即して,契約に適合しない施工,損害,因果関係及び免責事由を検討する。
履行に代わる損害賠償の要件も確認し,修補を求めた経過,拒絶の回答,修補不能の事情などを保存する必要がある。
注文者の材料又は指図によって生じた不適合については,民法636条の制限と例外も問題となる。

第4 残代金全額の支払を拒める範囲

1 同時履行の抗弁と信義則

現行民法533条は,相手方が対応する債務の履行を提供するまで,自己の債務の履行を拒むことを認めており,履行に代わる損害賠償も対象に含めている。
司法研修所『4訂 紛争類型別の要件事実』199頁及び202~204頁は,請負の契約不適合を前提とする修補請求や修補に代わる損害賠償と報酬支払との同時履行関係を説明している。

最高裁平成9年2月14日第三小法廷判決は,改正前民法の事案で,瑕疵修補に代わる損害賠償を受けるまで報酬全額の支払を拒むことを原則として認めつつ,瑕疵の程度や交渉態度等に照らした信義則の制限を示した。
修補費用と残代金の金額比だけで結論を出すのではなく,不具合の重要性,契約の目的,修補の見込み及び当事者の対応を検討する必要がある。

2 交渉の記録を残す意味

修補箇所を具体的に示す,相手方の調査に合理的な範囲で協力する,争いのない金額と争いのある金額を区別するなどの対応は,問題の解決と交渉経過の説明に役立つ。
業者が提示した修補案を断る場合にも,方法が不十分である理由や調査結果を記録すべきである。
もっとも,部分払いをすれば常に足りる,又は行わなければ必ず信義則違反となるという一律の基準はない。

契約に目的の異なる複数の仕事が含まれ,施工不良がその一部だけに存在する場合,同判決は,同時履行関係を当該仕事部分に相当する報酬額に限定することも説明している。
一つの不具合を理由に,別の仕事の代金まで全て留保できると決め付けるべきではない。

第5 相殺後の残代金と遅延損害金

1 同時履行関係にある債権の相殺

同時履行の抗弁が付いた債権を自働債権として相殺すると,相手方の履行拒絶権を一方的に失わせるため,通常は相殺が認められない。
しかし,最高裁昭和53年9月21日第一小法廷判決は,請負報酬と瑕疵修補に代わる損害賠償について,現実に相互の支払をさせる特別の利益がなく,清算が便宜と公平にかなうことから,額が異なる場合も相殺を認めた。
司法研修所の前記教材204~205頁も,現行法の契約不適合を扱う箇所でこの考え方を説明している。

これは,金銭債権が同じ契約から生じたという理由だけで,あらゆる同時履行の抗弁付き債権の相殺を認めるものではない。
相殺する債権の性質,弁済期,合意による制限,既払金及び既に行われた相殺を確認する必要がある。

2 相殺の遡及効と,適法な支払拒絶の効果

民法506条2項は,相殺の効力が相殺適状時に遡ることを定める。
一方,最高裁平成9年7月15日第三小法廷判決は,相殺前に同時履行の抗弁によって遅滞責任を負わなかった効果は,相殺の遡及効によって失われないとし,相殺後の報酬残債務について,相殺の意思表示をした日の翌日から遅滞責任を認めた。
同判決の報酬債務は既に弁済期が到来しており,残る修補費用相当の損害賠償債権を相殺に使った事案である。

例えば,支払期日が到来した残代金1000万円に対し,修補費用相当の損害賠償債権100万円が存在し,その全額との相殺の意思表示が6月10日に業者へ到達したとする。
相殺までの全額留保が適法で,他の支払拒絶事由がなければ,同判決の考え方による残代金は900万円となり,6月11日以降の遅延損害金が問題となる。
相殺適状が5月に生じていたとしても,適法に支払を拒んでいた期間の遅滞責任まで遡って発生するわけではない。

反対に,報酬の支払期日が未到来の場合,別の修補義務が残る場合,損害賠償債権の一部だけを相殺に使った場合,又は相殺前の全額留保が信義則上許されない場合は,前提を組み直す必要がある。
相殺通知だけを送って残額の支払を検討しないという対応は避け,通知の到達日,残額,支払方法及び適用される遅延損害金の利率を確認すべきである。

第6 修補費用と家財等の損害を分ける

1 損害ごとの根拠と証拠

漏水で家具が破損した場合には,建物自体の修補費用とは別に,家具等の損害が問題となる。
工事の契約不適合と家具の被害との因果関係,民法416条による損害の範囲,購入時期,事故前の状態,修理の可否及び損害額を確認する必要がある。
新品購入額が全て賠償額になるとは限らず,写真,購入資料,修理見積り,処分記録などを保存するのが相当である。

修補費用と家財損害の合計が残代金を超える場合も,相殺で消滅するのは対当額である。
残る損害賠償債権について現金の支払を求めるには,交渉のほか,反訴又は別訴を検討する。
家財等の拡大損害が修補費用と同じ範囲で報酬全額の支払拒絶を支えるかは,前記判例だけから一律に結論付けず,個別に検討すべきである。

2 訴訟での主張の組合せ

施工業者から訴えられた場合は,請負契約の内容,完成・引渡し,請求額及び支払期日を確認した上で,契約不適合とその証拠を整理する。
その上で,支払拒絶,報酬減額,相殺及び反訴のうち何を主張するか,予備的な主張の順序をどうするかを検討する。
訴訟上の相殺と別訴・反訴を併用する場合は,同じ債権についての重複した審理や既判力にも注意を要するため,相殺の抗弁に関するメモ書きを参照されたい。

第7 相談・交渉前に準備する一覧

注文者は,①契約と支払条件,②完成・引渡し・検査の経過,③不具合の場所と契約上あるべき施工,④原因と修補方法,⑤修補費用と拡大損害,⑥通知・催告・回答の内容と到達日,⑦既払金と残代金,⑧相殺の対象・額・到達日を,一覧にまとめるのが相当である。
支払期日や通知期間が迫るときは,調査の完了を待つだけでなく,資料保存,必要な通知及び残代金への対応を並行して検討する必要がある。

業者側も,請求金額だけでなく,注文者が指摘する施工箇所に対する見解,調査・修補案及び費用算定の根拠を具体的に示すべきである。
詳しい責任主体,第三者への不法行為責任,建替費用等の問題は,建設業者の不法行為責任等で扱う。

第8 出典・参考資料

1 法令

民法(明治29年法律第89号)412条,415条,416条,505条,506条,508条,533条,559条,562条~564条及び632条~637条(現行635条は削除)。
契約不適合責任の改正前後は,法務省「民法(債権関係)改正に関する説明資料」も参照されたい。

2 判例及び司法研修所教材

① 最高裁昭和53年9月21日第一小法廷判決・昭和52年(オ)第1306号・裁判集民事125号85頁。
② 最高裁平成9年2月14日第三小法廷判決・平成5年(オ)第1924号・民集51巻2号337頁。
③ 最高裁平成9年7月15日第三小法廷判決・平成5年(オ)第2187号・民集51巻6号2581頁。
④ 司法研修所編『4訂 紛争類型別の要件事実』199頁,202~207頁。

上記三つの最高裁判決は改正前民法に関するものである。
現行法の説明は改正後の条文及び司法研修所教材に照らして行っており,教材の記述を,改正後の事案について新たな最高裁判決が出たという意味で引用しているものではない。

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