第1 結論
育成就労外国人が育成就労実施者との雇用契約に基づいて受ける給与は,国内法上は給与所得であり,国内勤務に対応する給与について源泉徴収が問題となる。
育成就労制度が「人材育成」を目的とすることだけで,租税条約上の研修生等に対する免税が当然に適用されるわけではない。
国内法上の課税関係と,相手国との租税条約による修正を二段階で確認する必要がある。
第2 育成就労制度の開始時期
育成就労制度の施行日は,令和9年4月1日である。
出入国在留管理庁の育成就労制度Q&Aは,施行日及び事前申請の時期を案内している。
技能実習制度からの移行経過,在留資格の申請及び受入れ機関の要件は,税務とは別に確認しなければならない。
第3 国税庁文書回答の内容
国税庁が令和8年9月15日に公表した「育成就労外国人が育成就労実施者から支払を受ける給与の課税関係について」は,照会書に記載された事実関係を前提として回答したものである。
同回答は,給与が所得税法28条の給与所得に該当し,支払者に同法183条の源泉徴収義務が生じるとした上で,照会された租税条約の研修生等に関する免税規定は適用されないとしている。
回答の理由では,育成就労が雇用契約に基づく就労を通じた人材育成の制度であり,照会事実の下では,専ら訓練又は技術的経験を得るために滞在する者へ支払われる給付とはいえないことが重視されている。
制度名に「育成」が含まれることと,租税条約上の免税要件を満たすことは同じではない。
第4 国内法上の所得税・源泉徴収
まず,外国人本人が所得税法上の居住者か非居住者か,給与が国内勤務に対応する国内源泉所得か,誰が給与を支払うか及び支払時期を確認する。
雇用契約に基づく労務の対価である限り,支払名目が研修費,手当又は補助金であっても,契約内容及び実態によって給与所得該当性が判断される。
居住者については通常の給与所得の源泉徴収及び年末調整が問題となり,非居住者については国内源泉所得と租税条約を別途確認する。
第5 租税条約の研修生条項
租税条約の研修生・事業修習者等に関する条項は,条約ごとに,対象者,来日の主目的,支払の性質,免税期間及び上限額が異なる。
短期滞在者免税,学生免税及び研修生免税も別の規定である。
出身国の条約本文及び議定書,滞在目的,雇用契約,給与の負担者並びに滞在予定期間を照合し,適用を受ける場合は租税条約に関する届出書の要否及び提出時期も確認する必要がある。
第6 雇用主の確認事項
受入れ企業は,①在留資格及び制度の施行時期,②住所・入国日・滞在予定期間,③勤務場所,④雇用契約・賃金台帳・給与の負担関係,⑤租税条約の相手国及び該当条項,⑥租税条約に関する届出書,⑦給与計算,年末調整又は確定申告の要否を確認すべきである。
人事・在留管理資料と給与・税務資料を別々に保管するだけでなく,同一人物について相互に照合できるようにすることが重要である。
第7 文書回答を利用するときの注意
国税庁の文書回答は,公表された照会事実と同一の事実関係が続くことを前提とする行政上の回答であり,法律又は裁判例と同じ一般的拘束力を持つものではない。
国籍,条約,契約,滞在期間,給与の支払者又は研修内容が異なる案件へ結論だけを転用すべきではない。
文書回答制度そのものについては「国税庁の法令解釈通達・事務運営指針・文書回答事例・質疑応答事例(AIリライト)」を参照されたい。
第8 出典・参考資料
①所得税法28条・183条(e-Gov法令検索)
②国税庁「育成就労外国人が育成就労実施者から支払を受ける給与の課税関係について」(令和8年9月15日回答)
③同「照会の内容」
④出入国在留管理庁「育成就労制度Q&A」
⑤出入国在留管理庁「育成就労制度」