メインコンテンツへスキップ
       

平成18年度最高裁民事破棄判決等の実情―110件から学ぶ破棄理由と訴訟実務(AI作成)

平成18年中に最高裁判所が言い渡した民事事件(行政事件及び労働事件を含む。)の破棄判決107件と破棄決定3件を,原審が破棄された理由と代理人実務の観点から整理する。個別判決の結論を並べるのではなく,主張整理,証拠評価,審理運営及び差戻審準備に再利用できる形にすることを目的とする。

第1 本記事の対象と資料の読み方

入口とした資料は,宮坂昌利・谷口豊「最高裁民事破棄判決等の実情―平成18年度―」判例時報1966号,1967号,1969号及び1970号の全4回,合計89頁である。論文名は「年度」であるが,対象は会計年度ではなく,平成18年1月から12月までに言い渡された事件である。

この論文は,事件の所在,原審の判断,破棄理由及び差戻後の審理事項を一覧的に把握するための有力な二次資料である。しかし,論文自体は判決・決定ではない。個別事件の正確な判示,事実関係,射程及び裁判官意見を引用する場合は,裁判所公表の判決・決定本文その他の一次資料で確認する必要がある。

第2 破棄判決・破棄決定の件数

上記論文が扱うのは,破棄判決107件と破棄決定3件の合計110件である。破棄判決には,同一論点について同日に言い渡された多数の関連事件が含まれる。したがって,107という数字を独立した法的論点の数又は一般的な「最高裁で勝てる確率」と読むことはできない。

また,破棄差戻しと破棄自判では,最高裁判決後に残る作業が異なる。件数だけでなく,①最高裁が確定した法理,②原審判断のどこが違法とされたか,③差戻審でなお確定すべき事実・抗弁・損害を区分して読む必要がある。

第3 平成18年の破棄理由から学べる7つの型

1 請求・抗弁・判断対象の落ち

当事者が提出した請求原因,予備的請求,抗弁又は再抗弁の一部について,原審が判断しないまま結論を出した事件がある。準備書面ごとの記載を追うだけでなく,法律要件ごとに「主張の所在・相手方の認否・証拠・判断の有無」を一表にすることが,判断遺脱と審理漏れの発見に有効である。

2 証明責任の分配を誤る型

車両保険の水没・損傷事故では,約款上の「偶然な事故」に該当することを主張する保険金請求者に,事故が被保険者の意思に基づかないことまで立証させた原審判断が破棄された。他方,保険金請求者は,約款所定の保険事故の外形的事実及び損害の発生を立証する必要がある。立証責任の所在と,現実に提出すべき証拠の範囲を混同してはならない。

3 経験則・採証法則に反する型

医療訴訟では,専門家の意見書又は鑑定が存在することだけで結論を決めることはできない。最高裁平成18年1月27日判決はMRSA感染に対する抗菌薬投与の時機について,最高裁平成18年11月14日判決は出血量,ショック徴候及び死因について,原審が専門意見と客観的診療経過の関係を十分に検討しなかった点を問題とした。

攻撃又は反論では,専門家の肩書や結論ではなく,その意見が依拠する前提事実,検査値,バイタルサイン,診療録の時系列,他の意見との相違点及び医学文献との適合性を示す必要がある。

4 審理・釈明が足りない型

争点について必要な釈明をせず,専門家の相反する意見を比較する機会も十分に与えないまま口頭弁論を終結すると,単なる証拠評価の相違ではなく,審理不尽を伴う違法の問題になり得る。とりわけ専門訴訟では,意見書提出後の反論期間,反対尋問,追加鑑定及び争点整理の要否を明示的に求め,手続経過を記録に残すことが重要である。

5 法的評価の前提を誤る型

最高裁平成18年7月21日判決は,外国国家の行為について一律に民事裁判権を免除する絶対免除主義を改め,私法的・業務管理的行為には,主権を侵害する特段の事情がない限り裁判権免除を認めない制限免除主義を採用した。行為の目的だけでなく,行為の性質を見て分類する必要がある。

このように,事実を確定した後の規範選択又は法的分類が誤っていれば,証拠を追加しなくても原判決が維持できない場合がある。主張書面では,事実認定と法的評価を段階に分けるべきである。

6 破棄差戻しで未確定事項が残る型

最高裁平成18年10月27日判決は,未破裂脳動脈瘤について複数の確立した治療法と経過観察が存在する状況で,医師が各選択肢の危険性等を説明し,患者に再度熟慮する機会を与えるべき義務を示した。しかし,破棄差戻しである以上,最高裁が損害額を含むすべての争点を確定したわけではない。後の東京高裁平成19年10月18日判決は差戻審判決として区別して引用する必要がある。

7 旧法事件を現行実務に直結させない

平成18年の事件には,その後に制定又は改正された法令の影響を受ける分野がある。外国国家免除は平成21年法律第24号の施行後は同法の条文構造を起点とすべきであり,保険判例も当時の商法及び約款文言を前提とする。判例の規範が現在も妥当するか,現行の条文・約款・経過措置に照らして確認する。

第4 一次資料で確認した代表例

平成18年4月18日の医療事件については,上記判例時報論文の記述を確認したが,本記事作成時点では裁判所公表の対象判決本文を特定できていない。この事件について本記事が述べる内容は二次資料の範囲に限られ,判決本文確認済みの事件と同列には扱わない。

第5 代理人が作る4つの対応表

① 主張判断対応表:請求原因,認否,抗弁,再抗弁,予備的主張及び裁判所の判断を対応させる。
② 事実証拠対応表:法律要件ごとに,直接事実,間接事実,反対事実,証拠及び立証責任を示す。
③ 専門意見比較表:各意見の前提事実,資料,推論過程,結論,相反点及び反証可能性を並べる。
④ 破棄後作業表:最高裁が確定した法理,原審判断の誤り,差戻審で残る事実・損害・因果関係及び追加証拠を分ける。

これらの表は提出書面そのものではない。依頼者との事実確認,証拠収集及び準備書面の論理点検に使う内部作業表である。

第6 差戻しと自判を読み分ける

破棄差戻しは,当事者の実体法上の勝敗が最終確定したことを常に意味しない。最高裁が示した規範を前提として,差戻審が追加の事実認定,損害算定又は抗弁判断を行う。これに対し,原審確定事実だけで結論を出せる場合は,最高裁が破棄自判することがある。

判例紹介では,「最高裁が認めた事項」と「差戻審が後に認めた事項」を明確に分ける。依頼案件への応用でも,最高裁の規範だけで結論が決まるのか,なお立証が必要なのかを先に確認する。

第7 上告受理申立理由の組み立て

事実認定が不当であるというだけでは,上告審で取り上げられにくい。原判決が用いた規範又は経験則を特定し,その規範が客観的事実・専門知見とどこで矛盾し,見落とされた事実を考慮すれば結論が変わり得ることを示す必要がある。

少なくとも,①原審の中間評価,②その前提事実,③両立しない客観的資料,④検討されなかった反対意見・代替原因,⑤手続上確保されなかった反論機会,⑥違法が主文に及ぼす影響,⑦差戻後に必要な審理を一続きに記載する。

第8 一次資料・二次資料・判例秘書の確認状態

上記判例時報論文全4回は通読したが,これは二次資料である。第4でリンクした裁判所公表判決は一次資料を確認した。その他の掲載事件は,原則として論文の記述までの確認であり,110件すべての判決・決定本文を確認したものではない。

判例秘書は,この平成18年度調査では照会0件/ヒット不明/本文確認0件である。未検索であることは,同データベースに事件が存在しないこと又は未収録であることを意味しない。事件番号,掲載誌,原審及び差戻審を厳密に特定する必要がある案件では,別途検索と本文照合を行う必要がある。

第9 出典・関連記事

① 宮坂昌利・谷口豊「最高裁民事破棄判決等の実情(1)~(4)・完―平成18年度―」判例時報1966号,1967号,1969号及び1970号
② 最高裁平成18年1月27日判決全文
③ 最高裁平成18年7月21日判決全文
④ 最高裁平成18年10月27日判決全文
⑤ 最高裁平成18年11月14日判決全文
⑥ 医療訴訟における経験則・採証法則違反―平成18年最高裁判決から見る専門意見の評価方法(AI作成)
⑦ 外国国家を被告とする民事訴訟―国家免除,送達,欠席判決及び強制執行(AI作成)
⑧ 平成19年度最高裁民事破棄判決等の実情―57件から学ぶ破棄理由と訴訟実務(AI作成)
⑨ 最高裁の破棄判決等一覧表及び最高裁民事破棄判決等の実情