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北朝鮮映画事件―ベルヌ条約,未承認国及び著作権法6条3号(AI作成)

第1 結論と本記事の射程

最高裁平成23年12月8日第一小法廷判決(平成21年(受)第602号,同第603号,民集65巻9号3275頁。以下「北朝鮮映画事件判決」という。)は,判決当時の日本の立場を前提に,北朝鮮の国民の著作物である本件各映画は,ベルヌ条約によって日本が保護義務を負う著作物ではなく,著作権法6条3号所定の著作物に当たらないとした。

しかし,この判決を「北朝鮮で作られた作品は日本で常に自由利用できる」と読むことはできない。著作権法6条1号又は2号に該当する可能性,著作者の国籍・法人性,最初の発行地,同時発行,権利承継及び著作権以外の利益を個別に確認する必要がある。

また,WIPOの一覧で日本と北朝鮮の双方がベルヌ条約の締約国として掲載されていることと,日本が北朝鮮との関係で条約上の保護義務を負うことは同じ問題ではない。北朝鮮映画事件判決の核心は,未承認国の多数国間条約への加入が,当然に日本との間の条約上の権利義務関係を発生させるかという点にある。

第2 北朝鮮映画事件の事案と結論

事件では,北朝鮮で製作された2時間を超える劇映画のうち合計2分8秒が,北朝鮮における映画を利用した教育状況等を紹介する約6分間のテレビニュース企画で放送された。放送について,北朝鮮文化省傘下の機関及び日本国内で独占的利用許諾を受けた者の許諾はなかった。

原告側は,主位的に,本件各映画がベルヌ条約により日本が保護義務を負う著作物として著作権法6条3号に該当すると主張し,差止め及び損害賠償を求めた。また予備的に,著作権法上の保護がなくても,映画を利用する法的保護に値する利益を侵害したとして,民法709条に基づく損害賠償を求めた。

最高裁は,著作権法6条3号該当性を否定した原審判断を維持した。他方,原審が日本国内の独占的利用利益の侵害を理由に一部認めた一般不法行為責任については,法令解釈を誤ったとして原判決を一部破棄し,当該請求を棄却した。したがって,本判決は一部破棄自判の事件である。

第3 著作権法6条の三つの保護経路

著作権法6条は,日本法による保護を受ける著作物を次の三つに区分する。

  1. 日本国民の著作物(日本法による法人及び国内に主たる事務所を有する法人を含む。)
  2. 最初に日本国内で発行された著作物,又は最初の国外発行から30日以内に国内で発行された著作物
  3. 前二号以外で,条約により日本が保護義務を負う著作物

北朝鮮映画事件判決が否定したのは,本件各映画についての3号該当性である。外国との関係だけを見て1号・2号の検討を省略してよいわけではない。例えば,著作者又は権利主体が日本国民・日本法人に当たる場合,最初の発行地が日本である場合,又は30日以内の国内発行がある場合には,別の保護経路が問題となる。

第4 ベルヌ条約と未承認国

WIPOの現行締約国情報によれば,北朝鮮は平成15年1月28日にベルヌ条約への加入書を寄託し,同年4月28日に北朝鮮について効力が生じた。日本については明治32年7月15日に効力が生じたと掲載されている。

最高裁は,多数国間条約に未承認国が後から加入した場合,普遍的価値を有する一般国際法上の義務であるときなどは別として,未承認国との間に条約上の権利義務関係が直ちに生じるとはいえず,日本はその関係を発生させるか否かを選択できるとした。

そしてベルヌ条約は,同盟国という国家の枠組みを前提に著作権保護を図るもので,普遍的価値を有する一般国際法上の義務を締約国に負わせるものではないとした。その上で,①日本が北朝鮮を国家承認していなかったこと,②北朝鮮について条約が効力を生じた旨の告示をしていなかったこと,③外務省及び文部科学省が保護義務を負わないとの見解を示していたことを踏まえ,日本と北朝鮮との間にはベルヌ条約上の権利義務関係が発生しないという立場が採られていると判断した。

したがって,WIPOの加盟国一覧は重要な出発点であるが,それだけで著作権法6条3号の「我が国が保護の義務を負う著作物」に該当すると確定するものではない。

第5 一般不法行為による保護

最高裁は,著作権法が著作物の独占的利用権と国民の文化的生活の自由との調和を図り,権利の発生原因・内容・範囲・限界を定めていることを重視した。そのため,著作権法6条各号に該当しない著作物の利用は,著作権法が規律する著作物利用の利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り,不法行為にならないとした。

本件で主張された日本国内における独占的利用の利益は,結局,著作権法が規律する独占的利用利益と同じ性質のものであった。また,本件放送はニュース企画の目的上正当な範囲で,2時間を超える映画のうち合計2分8秒を用いたものであり,自由競争の範囲を逸脱して営業を妨害するものともいえないとされた。

この判断は,「著作権が成立しなければ民法709条で同じ独占権を作れる」という迂回を制限する。他方で,詐欺,秘密侵害,信用毀損,物理的妨害その他の著作権法が規律する利益とは異なる利益が侵害された場合まで,一般不法行為の成立を全面的に否定したものではない。

第6 判決が判断していないこと

  • 北朝鮮に関係する全作品が,著作権法6条1号・2号を含め常に保護されないとは判断していない。
  • 本件放送が著作権法上の引用その他の権利制限規定に該当するかは,6条3号該当性が否定されたため判断の中心になっていない。
  • 未承認国が加入する全ての多数国間条約について,同じ結論になるとはしていない。最高裁は,普遍的価値を有する一般国際法上の義務である場合等を留保している。
  • 外国作品について契約,商標,不正競争,肖像・パブリシティ,営業秘密等の別個の権利が成立しないとは判断していない。
  • 平成23年の判決後に生じ得る日本政府の条約実務又は公式見解の変更を,将来にわたり固定したものではない。

第7 外国作品を扱うときの確認手順

確認段階確認事項確認資料
作品の特定題名,版,製作・発行日,著作者,映画製作者作品本体,クレジット,制作記録
6条1号著作者・法人の国籍,設立法,主たる事務所法人登記,公式記録,契約
6条2号最初の発行地,国外発行から国内発行までの日数発行記録,配給資料,納品記録
6条3号関係条約,双方の加入,国家承認・条約関係に関する日本の立場外務省,官報,WIPO,条約原文
権利内容保護期間,権利者,譲渡・許諾,利用行為現行法,契約,権利承継資料
権利制限引用,報道,私的使用等の個別要件著作権法,判例,利用態様の記録
別個の利益著作権と異なる法的利益への侵害があるか営業・秘密・信用等の具体的事実

実務では,国名だけで結論を出さず,各段階の肯定・否定資料を保存する。利用を予定する側は,作品の出所,取得経路,利用部分,目的,時間・分量,編集方法及び公開範囲を記録する。権利を主張する側は,原作品,権利帰属,発行履歴,条約上の保護根拠及び契約上の地位を分けて立証する。

第8 現在の資料状況と未確認事項

外務省の令和8年の「日朝関係」ページは,諸懸案を解決して日朝国交正常化を実現することを基本方針とし,外務省の北朝鮮基礎データも「外交関係なし」と説明している。もっとも,外交関係の有無と国家承認・個別条約上の権利義務関係は概念上同一ではない。

本記事では,最高裁判決後にベルヌ条約について日本政府の個別告示又は公式見解変更があったかを,過去の官報を含め完全には検索していない。そのため,現在の個別案件で著作権法6条3号該当性が問題となるときは,外務省・文化庁の最新見解及び官報を再確認する必要がある。

判例秘書は今回検索しておらず,実績は queries 0 / hits Unknown / full texts 0 である。関連する下級審全文,判例評釈及び後続裁判例の収録状況は未確認である。

第9 出典