第1 行政裁量があっても司法審査は及ぶ
1 行政事件訴訟法30条
行政事件訴訟法30条は,行政庁の裁量処分について,裁量権の範囲を超え,又はその濫用があった場合に限り,裁判所が取り消すことができると定める。
裁量が認められることは,行政庁が理由なく自由に決められることを意味しない。
2 裁量の有無と広さを先に確定する
まず,根拠法令の文言,制度目的,判断対象の専門性・政策性,処分が制限する権利・利益の性質及び処分の重大性から,行政庁に裁量が認められるか,その幅がどの程度かを検討する。
許可要件が一義的に定められている部分と,複数の考慮事項を総合評価する部分を分ける必要がある。
要件認定の誤りと効果裁量の誤りも区別する。
第2 司法審査の基本構造
1 重要な事実の基礎
裁量判断の前提となる重要な事実に誤認があり,判断が重要な事実の基礎を欠く場合は,裁量権の逸脱・濫用となり得る。
処分時に存在した資料,調査の範囲,反対資料の扱い及び事実認定の過程を確認する。
2 考慮事項の選択
法令の目的からみて考慮すべき事情を考慮しなかったか,考慮してはならない事情を考慮したかを検討する。
考慮したという形式だけでなく,重要性に応じた重み付けをしたかも問題となる。
3 評価の合理性と結論
事実に対する評価が明らかに合理性を欠くか,判断過程の瑕疵により処分内容が社会通念に照らして著しく妥当性を欠くかを検討する。
裁判所が自ら最適な政策判断を選び直すのではなく,行政庁の判断過程と結論が法の許容範囲内にあるかを審査する。
第3 最高裁平成18年2月7日判決
1 学校施設の目的外使用
最高裁平成18年2月7日判決(平成15年(受)第2001号・民集60巻2号401頁)は,公立学校施設を教育研究集会に使用することの不許可が争われた事案である。
同判決は,使用許可の判断には管理者の裁量があるとしつつ,判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し,重要な事実の基礎を欠くか,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合に裁量権の逸脱・濫用となるとした。
2 具体的事情の検討
過去の施設使用実績,具体的な妨害の有無,開催日が休校日であること,集会内容,代替施設との利便性の差及び校長の判断後に教育委員会が介入した経過などが検討された。
抽象的な懸念だけでなく,処分時の具体的事実と判断経過が重要である。
第4 最高裁平成18年11月2日判決
1 都市計画変更の審査
最高裁平成18年11月2日判決(平成16年(行ヒ)第114号・民集60巻9号3249頁)は,小田急線の高架化を内容とする都市計画変更の適否を扱った。
都市施設に関する都市計画の決定・変更について,①重要な事実の誤認等により重要な事実の基礎を欠く場合,又は②事実評価が明らかに合理性を欠くこと,考慮すべき事情を考慮しないこと等により,内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠く場合に,裁量権の逸脱・濫用として違法になるとした。
2 代替案比較
高架式,地下式及び併用方式の事業費等の比較,環境影響評価,騒音対策及び取得済み用地費の扱いが検討された。
裁量判断を争う側は,別案の方が優れていると述べるだけでなく,行政庁の比較項目,データ,評価方法又は重み付けの不合理を示す必要がある。
第5 最高裁平成19年12月7日判決
1 一般公共海岸区域の占用不許可
最高裁平成19年12月7日判決(平成17年(行ヒ)第163号・民集61巻9号3290頁)は,採石場の岩石搬出用桟橋を設置するための海岸占用許可申請を不許可とした処分を扱った。
占用が海岸区域の用途・目的を妨げない場合でも,管理者に一定の裁量があるとしつつ,当該占用が用途・目的を妨げないこと,不許可なら採石業の継続が相当に困難になることその他の事情の下で,不許可処分を違法とした。
2 利益衡量の脱落を点検する
行政目的だけでなく,申請者が受ける不利益の内容・程度,代替手段の有無及び他の行政判断との整合性が検討対象になる。
法令が考慮を要求する利益を実質的に衡量したかを,決裁文書,審査資料及び理由提示からたどることが重要である。
第6 処分基準・内部基準と裁量
1 基準に従ったことだけでは適法にならない
処分基準又は内部基準は,公平性・予測可能性に資するが,法令そのものではない場合がある。
基準に従った処分でも,基準の内容又は適用が法令の趣旨に反し,裁量権の範囲を超え,又は濫用に当たれば違法となり得る。
2 基準からの逸脱には合理的説明が必要となる
公表された基準と異なる取扱いをする場合,平等原則,信頼保護及び行政手続法上の理由提示との関係が問題となる。
過去の取扱例を比較する場合は,事案の同質性と相違点を示す必要がある。
第7 主張立証の組み立て
1 行政庁側の判断過程を可視化する
①根拠法令,②裁量の対象,③考慮事項,④処分時の資料,⑤認定事実,⑥各事情の評価,⑦利益衡量,⑧結論を一枚の表にする。
理由書,審査基準,処分基準,審議会資料,決裁文書及び情報公開資料を対応させる。
2 違法事由を区別する
①事実誤認,②調査不足,③考慮不尽,④他事考慮,⑤評価の明白な不合理,⑥比例原則違反,⑦平等原則違反,⑧結論の著しい不当を区別する。
裁判例の定型句だけでなく,どの資料のどの判断が問題かを特定する。
第8 出典及び関連記事
行政事件訴訟法30条(e-Gov法令検索)及び本記事でリンクした裁判所HPの判例結果詳細を確認した。
行政事件全体は,行政事件訴訟の主要論点を参照されたい。
公務員懲戒における裁量審査は,人事院審査に関するメモ書き,帰化不許可における広い裁量は,帰化不許可処分の争い方も参照されたい。