第1 オンラインで話し合えることと法的効果は別に確認する
オンライン調停は,移動の負担を抑え,離れた場所にいる当事者が第三者を介して話し合うための選択肢である。
ただし,利用するシステム,話合いを仲介する手続及び成立した合意の効力は,それぞれ確認する必要がある。
本記事は,令和8年10月18日に確認した法令,法務省の認証情報及び事業者の公表資料に基づき,民間のオンライン調停を申し込む前の確認事項を整理する。
ここで扱うのは主として,民間事業者が当事者双方との契約に基づき和解を仲介する手続である。
裁判所のウェブ会議による調停や,第三者が仲裁判断をする仲裁とは,根拠と効果が異なる。
また,オンラインであることだけから,AIが法律判断や和解案の作成を行っていると判断することはできない。
第2 認証の対象と,相手方が参加する手続を確かめる
1 事業者名だけでなく対象業務を見る
ADR法上の認証紛争解決手続は,法務大臣の認証を受けた業務として行われる民間紛争解決手続である(同法2条)。
法務省の認証事業者情報で,事業者名,認証番号,取り扱う紛争及び手続の内容を確認する。
同じ会社が提供する登録,情報整理,交渉支援などの全段階について,当然に認証ADRと同じ法的効果が生じるとは考えない。
例えば,弁護士JPオンライン調停センターは,認証番号第194号の事業者として掲載されている。
一方,公式の「スマート調停」の案内では,システムによる課題整理と,双方が希望した場合の弁護士による調停が区別されている。
利用するサービスの名称だけでなく,いつ,どの契約に基づき,認証紛争解決手続を開始するのかを確認することが大切である。
2 中立の担当者と自分の代理人を区別する
担当者の資格,選任方法及び利益相反の確認方法を調べる。
中立の立場で和解を仲介する弁護士は,自分だけの利益を実現するために助言・交渉する代理人とは役割が異なる。
相手方やその関係者との過去の相談・受任関係をどの範囲で確認するか,疑問を申し出る窓口も確かめる。
相手方が参加しない場合,どの時点で手続が終了し,既に支払った費用がどうなるかも申込み前の確認事項である。
認証を受けていることは,相手方の参加や解決の成立を保証するものではない。
第3 料金は総額,当事者別負担及び不成立時に分けて計算する
1 表示された一つの金額だけで比較しない
申立手数料,期日ごとの手数料,成立手数料を分け,税込か税別か,何人分か,何回分かを確認する。
期日の上限時間,追加期日,延期・取消し,不成立,途中終了及び合意書の交付に伴う費用も確認する。
自分が別に依頼する代理人の費用や,公正証書・裁判所の手続の費用を,同じ料金に含まれると決めつけない。
2 公表料金による相続紛争の計算例
法務省掲載の同センターの料金表では,婚姻関係紛争以外の民事上の紛争について,申立手数料3万3000円,期日手数料1回6万6000円,成立手数料は当事者1人につき4万9500円とされている(いずれも税込)。
相続向け公式案内にも,この料金体系が掲載されている。
これは令和8年10月18日の確認値であり,利用時には対象サービスと最新の料金表を確認する必要がある。
この料金だけを前提とし,当事者2人が1回の期日で合意した場合の合計は,3万3000円+6万6000円+4万9500円×2人=19万8000円である。
全費用を半分ずつ負担する合意なら1人9万9000円となる。
これに対し,申立手数料を申立人,期日手数料を双方で折半,成立手数料を各人が負担する場合は,申立人11万5500円,相手方8万2500円となる。
当事者3人が同じ条件で合意した場合の合計は24万7500円である。
人数と期日回数が変われば総額も変わるため,「1人当たり」「1回で成立」「費用の折半」といった表示の条件を外して比較しない。
この計算例は,追加費用,取消料又は代理人費用まで含む見積りではない。
第4 合意の成立と強制執行できることを区別する
1 認証ADRの合意も当然に執行できるわけではない
ADR法2条5号の「特定和解」は,認証紛争解決手続で成立した和解のうち,その和解に基づき民事執行できる旨の合意がされたものである。
さらに,特定和解に基づく民事執行には,裁判所の執行決定が必要である(同法27条の2)。
認証の有無,個別の執行合意及び裁判所の執行決定を,一つのものとして扱わない。
同法27条の3は,消費者契約に関する紛争,個別労働関係紛争,人事その他家庭に関する紛争の原則部分及び所定の国際和解合意について,執行決定に関する規定の適用を除外している。
取扱分野に入る紛争であることと,特定和解による執行決定を利用できることは別の問題である。
対象となる請求と条項について,利用可能な履行確保の方法を確認する必要がある。
2 遺産分割の代償金と養育費等の例外を混同しない
家庭に関する紛争の適用除外には,民事執行法151条の2第1項各号の義務に係る金銭債権という例外がある。
養育費,婚姻費用,扶養料などを検討する際は,この法定の義務に該当するかを確認する。
遺産分割そのものに関する合意は,この例外と同じには扱えない。
遺産分割に伴う代償金の支払条項があるというだけで,養育費等と同様に特定和解の執行決定を利用できることにはならない。
必要に応じ,公正証書その他の債務名義を得る方法を,義務の内容に応じて別に検討する。
合意書を作る際は,支払義務だけでなく,不動産の特定,登記,預貯金の払戻し,必要書類の交付及び費用負担まで整理する。
オンラインで合意書を作成できることだけから,各金融機関や登記手続でその書面又は電子データがそのまま受け付けられるとは判断しない。
提出先の必要書類と形式を,利用する前に個別に確かめることが大切である。
第5 時効が迫っている場合は終了通知と提訴期限を管理する
ADR法25条1項は,手続実施者が和解成立の見込みがないことを理由に認証紛争解決手続を終了し,その依頼をした当事者が終了通知を受けた日から1か月以内に対象請求について訴えを提起した場合に,時効完成猶予のための特例を定めている。
適用されると,認証紛争解決手続で請求した時に訴えの提起があったものとみなされる。
単なる会員登録,問い合わせ又はサービスの利用開始だけで,この効果が生じると判断してはならない。
当事者の意思による終了と,手続実施者が成立の見込みなしとして行う終了は区別する必要がある。
同法6条12号は当事者による終了の要件・方式を,同条13号は成立の見込みがない場合の手続実施者による速やかな終了と通知を,認証の基準としている。
相手方の不参加,自分の取下げ又はシステム上の終了表示だけを,当然に25条1項の終了通知と同じには扱わない。
時効が問題になる事件では,請求した内容と日付,終了理由,通知内容及び通知を受けた日を保存し,提訴の要否と期限を管理する。
期限直前まで話合いを続けてよいかは,ADRとは別に検討する必要がある。
第6 記録保存とデータ利用は複数の文書を突き合わせる
手続規則,利用規約及びプライバシーポリシーは,それぞれ対象とする情報や目的が異なることがある。
例えば,同センターの公表規則には手続記録の原則10年以上の保存が記載される一方,利用規約には終了後の情報・文書の削除に関する記載がある。
この二つだけから直ちに矛盾又は違法と断定せず,保存対象,削除対象,当事者が閲覧できる期間及び文書間の適用関係を確認する必要がある。
当事者が手元に確保するものとしては,適用された規約の版,費用の合意,提出資料,最終合意書,交付・署名の記録及び終了通知が考えられる。
事業者による保存と,自分が必要な時に写しを取得できることは同じではない。
共同利用先,匿名化後の利用・提供,外部サービスへの入力及び問い合わせ窓口も,機微な資料を渡す前に確かめる。
第7 申込み前にそろえておきたい回答
申込み前には,少なくとも,①どの認証業務を利用するか,②相手方が参加しない場合の扱い,③担当者と利益相反確認,④総額と各人の負担,⑤不成立・中途終了時の費用,⑥合意後の履行確保,⑦時効などの期限,⑧記録の取得方法について回答を得ておくとよい。
話合いのしやすさと,証拠,期限及び履行を確保できることを併せて判断するためである。
合意書の作成については,裁判外の和解契約書・合意書の作り方-和解条項と債務名義化を参照されたい。
離婚・養育費などは,離婚・家事事件の民間ADR――家庭裁判所の調停との違い,強制執行及びDV対応で,安全確保を含めて説明している。
AI利用に関する説明と同意は,ADRでAIを使うときの説明と同意―和解案,人による確認及び拒否できる手続を参照されたい。
第8 出典と確認時点
法的効果の説明は,裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(https://laws.e-gov.go.jp/law/416AC0000000151)2条,6条,25条及び27条の2・27条の3に基づく。
認証内容と料金は,法務省掲載の事業者情報(https://www.adr.go.jp/jigyousha/%e6%a0%aa%e5%bc%8f%e4%bc%9a%e7%a4%be%e5%bc%81%e8%ad%b7%e5%a3%ab%ef%bd%8a%ef%bd%90%e3%82%aa%e3%83%b3%e3%83%a9%e3%82%a4%e3%83%b3%e8%aa%bf%e5%81%9c%e3%82%bb%e3%83%b3%e3%82%bf%e3%83%bc-%e3%80%80%e3%80%80/)及び認証第194号の手続に要する費用(https://www.adr.go.jp/wp/wp-content/uploads/jigyousha/0194/05-1-1.pdf)(2頁)を参照した。
サービスの仕組みと規則は,事業者のADR案内(https://corp.ben54-odr.jp/odr/),スマート調停の手続規則(https://smacho.ben54-odr.jp/rules/),利用規約(https://smacho.ben54-odr.jp/terms/),相続向けの公式案内(https://hanashiai.ben54-odr.jp/souzoku),手続規則(https://hanashiai.ben54-odr.jp/rules),利用規約(https://hanashiai.ben54-odr.jp/terms)及びプライバシーポリシー(https://hanashiai.ben54-odr.jp/privacy)を参照した。
本記事の事業者名と料金は,制度の確認方法を具体化するための例であり,他の事業者にも同じ条件が適用されることを示すものではない。
公表資料の確認日は令和8年10月18日である。