第1 結論とこの記事の対象
令和8年10月15日に裁判所が公表したmintsの障害では,サインインできない,又は事件・記録一覧が表示されないなどの事象が生じ,裁判所は電子提出できない場合に書面提出を検討するよう案内した。
弁護士等の電子申立て義務者が紙で提出するときは,単に印刷した書類を持参するだけでなく,①期限と緊急性,②裁判所側の障害か利用者側の問題か,③電子申立てができない理由を記載した書面,④手続別の副本・写し・直送,⑤手数料の納付方法,⑥復旧後の重複提出防止を一体として管理する必要がある。
本記事は,令和8年10月15日午後5時44分までに確認できた裁判所の公表内容と,同年10月2日版の「民事訴訟フェーズ3に向けた準備の手引」を基準として,民事訴訟及び行政訴訟でmintsを使用する場面を対象とする。
個別事件では,提出先,提出部数,手数料及び期日の取扱いについて,担当裁判所の指示を確認する必要がある。
令和8年10月23日には,弁護士側のパソコンの不具合を理由に紙で提出された訴状について,名古屋地裁が10月1日に訴えを却下し,原告側が10月22日に控訴したとの報道もあった。
これは,本記事が扱う10月15日の裁判所側のシステム障害とは区別すべき事案である。
報道段階で確認できる経過と限界は,mints義務化の記事の法定例外を扱う箇所に追記している。
https://www.chunichi.co.jp/article/1329381
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/08/15/mints-gimuka/
第2 令和8年10月15日に公表された障害
1 裁判所の公表内容
裁判所は,令和8年10月15日午前9時頃から,mintsにサインインできない,又はサインインできても事件・記録一覧が表示されないなど,システムが不安定な状態にあると公表した。
同日午後5時44分の確認時点では,原因の調査及び対応の検討中であり,電子提出できない場合は書面提出を検討し,個別事件は事件係属部へ問い合わせるよう案内していた。
裁判所の最新の稼働状況は,民事裁判手続のデジタル化で確認できる。
障害の原因,復旧時刻又は対象機能は更新され得るため,紙提出の判断時と実際の提出時にそれぞれ画面を保存するのが安全である。
裁判所は,令和8年10月16日午前9時時点では,同様の事象が確認されず,支障なく利用できる状況になったと公表した(同日確認)。
これは公表された確認時点の状況であり,それ以後のすべての操作について障害がないことを保証するものではない。
障害中に紙提出した書面は,復旧後も担当裁判所の指示を確認し,自己判断で重複提出しない。
2 ローカル障害との切り分け
裁判所の障害公表がない場合は,端末,回線,ブラウザ,二段階認証又はアカウントの問題である可能性がある。
その場合は,別の端末・回線,スマートフォンのテザリング又は裁判所設置端末を利用できるかを確認し,期限までに取り得た代替手段を記録する。
弁護士本人の端末,二段階認証又はアカウントの問題であれば,弁護士のアカウントに関連付けた補助者アカウントから,弁護士の名義で電子申立てをすることもできる(準備の手引9頁)。
もっとも,補助者アカウントによる提出や,復代理人を選任して他の弁護士に提出を頼む方法は,同じmintsを使う以上,mints自体に障害が生じている場合の代わりにはならない。
サインアップ,確認コード又はパスワードの問題は,mintsにログインできない場合の対処法で切り分ける。
電子申立て義務の対象者,対象事件及び利用者側の障害に関する一般論は,mintsの義務化はいつからかで説明している。
第3 紙提出の法的根拠
1 民事訴訟法第132条の11第3項
委任を受けた訴訟代理人等は,原則として電子情報処理組織を使用して申立て等をしなければならないが,民事訴訟法第132条の11第3項は,裁判所の使用に係る電子計算機の故障その他その責めに帰することができない事由によって電子申立てができない場合を例外としている。
裁判所側の広域的なシステム障害と,事務所の端末故障や操作上の問題では,例外事由の説明と代替手段の検討が異なる。
2 民事訴訟規則第52条の14
民事訴訟規則第52条の14は,この例外により書面で申立て等をするときに,民事訴訟法第132条の11第3項に規定する事由がある旨と,その具体的内容を記載した書面を添付するよう求めている。
同条は添付書面の名称又は書式を定めていないため,事件,提出者,発生日時,障害の内容,裁判所の公表,期限,試した代替手段及び裁判所への連絡経過を一枚の説明書にまとめると確認しやすい。
紙提出が許される例外と,不変期間を徒過した後の訴訟行為の追完は別の制度である。
期限内に紙提出できる状況では,まず適法な期限内提出を確保し,追完を当初から前提にしないことが重要である。
第4 障害発生直後の判断順序
1 最初に期限と事件を特定する
最初に,時効完成日,控訴・上告等の不変期間,裁判所が指定した提出期限,期日及び相手方への直送期限を一覧にし,当日中の到達が必要なものを分ける。
次に,事件番号,係属部,提出書類,添付書類,手数料の有無及び提出先裁判所を確認する。
期限が切迫していない提出は,裁判所の案内を確認した上で復旧を待つ選択肢がある。
これに対し,当日が時効完成日又は不変期間の最終日である場合は,復旧待ちの時間を決め,事件係属部へ直ちに連絡して紙提出の方法を確認する。
2 残すべき記録
障害情報の画面,mintsのエラー画面,発生時刻,サインインや送信を試した時刻,使用端末・回線,提出予定ファイルの最終版及びファイルのハッシュ値を保存する。
裁判所への電話日時,担当部署,応対者,受けた指示,紙提出の到達時刻及び受付印等も事件記録に残す。
説明書へパスワード,二段階認証コード又は他事件の情報を記載せず,画面写真を提出するときは不要な個人情報を除く。
証拠保全と秘密保持を両立させるため,元画像は事務所内で保存し,裁判所へ出す写しの範囲を事件との関係で絞る。
第5 紙提出時にそろえる書類
1 新たに訴えを提起する場合
訴状を紙で提出する場合は,訴状正本だけでなく,被告への送達に必要な訴状副本,書証の写しその他裁判所が求める書類と,民事訴訟規則第52条の14の説明書を準備する。
訴訟手数料を収入印紙で納付するか,復旧後にペイジーで納付するかは一律に決めず,提出先裁判所の指示を確認する。
郵送では発送日ではなく裁判所への到達日が問題となるため,期限切迫時は持参を含めて到達方法を検討する。
夜間提出又は休日提出を検討するときも,庁舎ごとの受付方法と受領の記録を事前に確認する必要がある。
mintsが期間の末日のうちに復旧した場合は,訴状の内容がファイルに記録された時に裁判所に到達したものとみなされる(民事訴訟法第132条の10第3項)。
そのため,紙の訴状を準備している間も復旧の状況を確認し,その日のうちに電子申立てができるようになれば,夜間でも電子申立てによって期限を守ることができる。
紙の訴状を執務時間外に提出する場合については,夜間ポストに投函された訴状につき,受付印の日付ではなく,証拠によって認定した投函の日に訴えが提起されたと判断した裁判例がある(知的財産高等裁判所令和6年1月30日判決・令和5年(行ケ)第10018号)。
期間の末日に訴状を提出する時刻と方法は,期間の末日に訴状を出す時刻で詳しく説明している。
2 係属中事件で準備書面や証拠を提出する場合
係属中事件では,紙の準備書面,証拠説明書及び書証の写しを裁判所へ提出し,相手方への直送が必要な書類は別途直送する。
書面提出したことだけで直送が完了したものと扱わず,送付書,送信記録又は配達記録を保存する。
裁判所が公表する証拠説明書の記載要領は,号証,標目,作成年月日,作成者,立証趣旨及び備考の各欄について,証拠の種類に応じた記載方法を示している。
紙提出へ切り替える場合も,電子提出用に準備した証拠説明書の内容を崩さず,証拠説明書のひな型・記載例(Excel)を利用して,証拠番号,本文の援用箇所及び書証の写しとの対応を再点検する。
電磁的記録の複製を記録媒体で提出できる場合もあるが,媒体の種類,ウイルスチェック,ラベル及び副本の要否は担当裁判所へ確認する。
証拠説明書の作り方は,mints後の証拠説明書で詳しく説明している。
第6 理由説明書の参考例
次の記載は,民事訴訟規則第52条の14に対応するための参考例であり,裁判所の公式様式ではない。
個別事件の障害状況,期限及び裁判所との連絡内容に合わせて修正する必要がある。
電子情報処理組織を使用できない事由に関する説明書
令和8年10月15日午前9時頃から,裁判所がmintsについて公表したシステム障害により,サインイン又は事件・記録一覧の表示ができず,本件書面を電子提出することができなかった。
同日○時○分及び○時○分に別の端末・回線から再度確認したが,提出できない状態が続いた。
本件書面の提出期限は同日であるため,同日○時○分に○○地方裁判所○○部へ連絡し,書面提出の方法を確認した上で,本書を添付して提出する。
障害情報及びエラー画面の写しは別紙のとおりである。
裁判所側の障害が公表されているときでも,事件番号,提出書類,期限及び自分が実際に電子提出できなかった時間帯は具体的に記載するのが安全である。
利用者側の端末・通信障害を理由とする場合は,別端末,別回線又は裁判所設置端末を使えなかった事情と,実際に試した代替手段を補足する。
第7 期日・人証・判決への影響
1 口頭弁論等の期日
mintsで記録を閲覧できない状態でも,期日を実施するかどうかは各裁判体が判断する。
委任状又は答弁書を提出できないまま第1回口頭弁論期日が近づいた場合は,受任の意思と障害の状況を事件係属部へ伝え,期日の取扱いと提出方法を協議する。
2 人証調べと電子判決書
人証調べは電磁的訴訟記録を前提とするため,障害中の実施が困難になることがある。
実施の有無,証拠提示の方法及び既に電子提出した資料の元データの提出は,裁判所の指示に従う。
電子判決書は,障害中でも言渡し自体が可能な場合があり,言渡期日の変更,復旧後のシステム送達又は記録事項証明書の送達のいずれを採るかは裁判体の判断となる。
判決言渡しと送達の時点を混同せず,控訴期間の起算点となる送達を個別に確認する必要がある。
第8 復旧後の処理と重複提出の防止
紙で提出した書類と同じ書類を,復旧後に自己判断でmintsへ再提出すると,二重受付,文書の版違い又は提出日の混乱が生じるおそれがある。
まず事件係属部へ紙提出の受付状況,事件登録,電子化の方法及び以後の提出方法を確認し,裁判所の指示がある場合に限って電子データを提出する。
事務所の事件管理表には,障害発生,紙提出の決定,裁判所への到達,受付確認,復旧確認及び電子化確認を別々の時刻で記録する。
提出ファイルの版,紙で提出した部数,直送の有無及び手数料の処理も,同じ記録にひも付ける。
第9 期限を徒過した場合
民事訴訟法第97条は,当事者が責めに帰することができない事由によって不変期間を守れなかった場合に,その事由が消滅した後一週間以内の訴訟行為の追完を認めている。
同条は,責めに帰することができない事由の例として,裁判所の使用に係る電子計算機の故障を明記している。
もっとも,システム障害があっただけで当然に追完が認められるわけではない。
障害の発生・消滅時刻,紙提出を含む代替手段,期限内に行った対応及び一週間以内の追完を,資料に基づいて説明する必要がある。
追完の要件と裁判例は,訴訟行為の追完(民事訴訟法97条)で整理している。
民事訴訟法第97条が追完を認めるのは不変期間についてであり,消滅時効の完成日を過ぎてしまった場合に,同条によって訴えの提起を追完することはできない。
民法第161条は,時効の期間の満了の時に当たり,天災その他避けることのできない事変のため訴えの提起等の手続を行うことができないときに,その障害が消滅した時から3か月を経過するまで時効の完成を猶予している。
もっとも,裁判所のシステム障害の間も紙で訴えを提起することができる以上,短時間の障害で同条が適用されるとは限らない。
時効の完成日にmintsが使えないときは,当日中に紙で訴えを提起することを優先する。
紙の提出も間に合わないおそれがあり,まだ催告をしていなければ,当日中に相手方に到達する方法で催告をすることも考えられる(民法第150条第1項)。
ただし,催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告には,時効の完成猶予の効力がない(同条第2項)。
催告と協議を行う旨の合意については,内容証明による催告と協議を行う旨の合意で扱っている。
第10 適用範囲と一次資料
1 対象手続の限界
令和8年5月21日に全面デジタル化された民事訴訟及び行政訴訟と,民事執行,倒産,労働審判,非訟事件,家事事件又は人事訴訟では,利用するシステムと紙提出の根拠が同じとは限らない。
本記事の手順を他の手続へそのまま当てはめず,各手続の法令,システム及び裁判所の案内を確認する必要がある。
民事調停,労働審判,民事保全,非訟事件及び家事事件の手続では,令和8年10月17日の時点で,弁護士等に電子申立てを義務付ける規定は施行されていない。
これらの手続に電子申立ての義務を及ぼす民事関係手続等における情報通信技術の活用等の推進を図るための関係法律の整備に関する法律(令和5年法律第53号)の規定は,公布の日から起算して5年を超えない範囲内において政令で定める日に施行される。
2 一次資料
本記事で確認した主な一次資料は,次のとおりである。
裁判所「民事裁判手続のデジタル化」
民事訴訟法第97条,第132条の10及び第132条の11
民法第150条及び第161条
民事訴訟規則第52条の14
最高裁判所事務総局民事局「民事訴訟フェーズ3に向けた準備の手引」(令和8年10月2日版)
裁判所「証拠説明書の記載要領」
裁判所「証拠説明書のひな型・記載例」
知的財産高等裁判所令和6年1月30日判決(令和5年(行ケ)第10018号)
判例秘書は今回検索しておらず,令和8年10月15日の障害に関する裁判例も確認していない。
本記事は,障害時の紙提出と期限管理について法令及び裁判所公表資料から直接確認できる範囲を説明するものであり,個別事件で例外又は追完が認められるかは裁判所の判断となる。