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平成26年司法試験刑事系第1問の模範解答と評価項目―38項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

平成26年司法試験刑事系第1問(刑法)について、法務省の出題の趣旨と採点実感から38の評価項目を整理し、5000字以内の答案例を示す。
乳児への授乳等をやめた母、これを知った同居人、乳児を連れ出した父の罪責を、行為と時点に分けて検討する問題である。

本答案は、甲に不作為による殺人未遂を認め、中止減免を否定する。
丙には当初の不作為による正犯・幇助を認めず、その後の祖母への虚偽説明を作為による殺人未遂とする。
乙には住居侵入と未成年者略取を認め、牽連犯とする。
これらは本記事が採用する論証であり、公式資料が唯一の結論として指定したものではない。

評価項目と重みは学習用の整理であり、法務省の配点や合否判定を再現しない。
問題は原本PDF2~3頁、出題趣旨は原本PDF10~12頁の刑事系第1問、採点実感は原本PDF33~36頁を対象とする。
答案原稿は見出し・空白・改行を含め約3900字である。
以下の答案例は読みやすさのため改行を追加しており、その掲載用テキストも約4000字で、5000字以内に収まる。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 評価項目の示し方

各行は一つの評価対象を示す。
「通常」は積極的に検討する事項、「注意」は採点実感が指摘する誤りを避ける事項である。
「許容分岐」はその構成を採る答案に適用する条件を示す。
例えば片面的共同正犯を否定する答案に、同罪を肯定する構成を同時に要求するものではない。

出典欄は公式PDFの頁と短い原文を示し、PDFの折返し・改行だけを除いている。
評価項目の文章や切り分けは本記事による。
片方の資料に独立した対応記載がない場合は、その旨を表示する。
注意項目が通常項目と同じ不足を指摘する場合は対応番号を示し、学習用の採点でも同じ不足を二重に計上しない。

2 5段階の重み付けの基準

重み5は、本問の主要な犯罪成立や法的構成を分ける中心判断である。
重み4は、主要論点の理由付け・具体的当てはめ又は採用した分岐の中核を支える事項である。
重み3は、通常必要な構成要件・体系・罪数又は論述の整理である。
重み2は中心判断の補強、重み1は補足又は対象範囲に関する事項である。

注意事項という理由だけで一律に低い重みを付けない。
作為義務の欠落は犯罪成立の中核を損なうので重み5である。
他方、手書きの判読性は実体的な罪責判断とは異なる条件なので重み1とする。
各段階に一定数を割り当てる方式は採らず、本問では独立して重み2とする項目はない。

第3 本問の概要

1 問題文と事実関係

甲は3月1日に乙との子Aを出産した。
乙は5月1日に別居し、鍵を返したが、合鍵を秘密に持っていた。
甲が家賃を払い、6月1日頃から丙と同棲した。
丙は家賃以外の生活費を負担し、当初はおむつ交換や入浴に協力したが、6月20日頃から世話をしなくなった。

Aは容易に入手できる安価な市販の乳児用ミルクにはアレルギーがあり、本件では母乳しか飲めなかった。
甲はAを殺すため、7月1日朝を最後に授乳と水分補給をやめた。
約24時間を超えると生命の危険が生じ、約48時間を超えると治療なしでは救命できず、約72時間を超えると治療によっても救命できないという時間的条件が示されている。

7月2日昼前にはAに生命の危険が生じた。
丙は甲の意図を察したが、このままではAが確実に死亡すると思いながら、働き掛けなかった。
甲は丙が意図に気付いていないと思い、丙が何か言えば殺害を諦めるつもりであった。

7月3日昼過ぎ、甲の母親(Aの祖母。以下「祖母」という。)は同日夕方の訪問を申し出た。
丙は、祖母がAの衰弱を見れば病院に連れて行くと考え、外出予定があるという嘘で訪問を断念させた。
同日夕方なら適切な治療で救命可能であった。
甲は同日夕方に憐れみから授乳を再開したが、Aは僅かしか飲まず、甲は通報を恐れて病院へ連れて行かなかった。

7月4日昼、乙はAを自分で育てたいと思い、甲丙の留守中に合鍵で入りAを連れ出した。
約300メートル離れた歩道でAの衰弱に気付き、病院に連れて行こうとタクシーへ手を挙げた。
運転手が脇見で発見に遅れ、無理な停車操作で歩道に乗り上げ、乙とAに衝突した。
タクシーに乗って搬送中だったという事案ではない。

Aの現実の死因は衝突による脳挫傷である。
事故がなくても、Aは既に救命不能で、1、2日後には衰弱で死亡したであろうとされる。
この仮定的な経過を、現実の死因と混同しないことが重要である。

2 設問が求めること

具体的な事実を摘示し、甲・乙・丙の刑法上の罪責を論じる。
特別法違反は対象外であり、タクシー運転手の罪責を独立に論じる設問でもない。
不作為の実行行為と着手、死亡結果の帰責、丙の関与形態、乙の親としての地位と正当化、故意及び罪数まで結論をつなぐ必要がある。

第4 評価項目と重み

1 甲の罪責

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1通常。不作為による殺人の作為義務・作為可能性を示し、母子関係だけでなく養育・依存の具体的事実から実行行為を認定する5PDF 10頁「作為義務,作為可能性」PDF 33頁「不真正不作為犯の実行行為性」
2通常。Aの状態の変化と生命への現実的危険から実行の着手時期を認定する5PDF 10頁「Aの体調の変化」PDF 33頁「実行行為(実行の着手)」
3通常。脱水等の危険、乙の故意の連れ出し、運転手の過失、現実の脳挫傷死を区別し、判例の事案も踏まえて因果関係を論証する5PDF 10頁「Aが脳挫傷により死亡」PDF 33頁「因果関係に関する自説」
4通常。着手時の殺意を確認し、後の翻意と区別して殺人既遂・未遂の結論を導く3PDF 10頁「故意の存在」PDF 34頁「各犯罪の故意」
5通常。授乳再開について中止の任意性と危険除去のための行為を評価し、中止未遂の成否を示す4PDF 10頁「甲が授乳を再開したため中止未遂」PDF 34頁「甲について中止未遂罪」
6注意。授乳再開後の殺意喪失だけを理由に殺人を検討せず、保護責任者遺棄致死のみで処理しない【採点は番号4へ統合】3対象範囲に独立した対応記載なしPDF 34頁「授乳を再開して以降は殺意がない」
7注意。作為義務の検討を欠落させない【採点は番号1へ統合】5対象範囲に独立した対応記載なしPDF 34頁「作為義務に触れていない」
8注意。殺人の実行行為とする具体的な不作為を特定する【採点は番号1へ統合】4対象範囲に独立した対応記載なしPDF 34頁「どの行為を実行行為」
9注意。実行の着手を先に認定し、因果関係を検討してから中止未遂を論じる3対象範囲に独立した対応記載なしPDF 34頁「実行の着手を認定する前」
10注意。危険の現実化という抽象語だけで済ませず、危険と現実の結果を具体化する【採点は番号3へ統合】4対象範囲に独立した対応記載なしPDF 34頁「危険と結果のいずれについても具体的」

2 丙の罪責

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
11通常。意思連絡の欠如と片面的共同正犯の肯否を処理し、共犯関係を検討する4PDF 11頁「甲と丙の間に殺人罪の共謀はない」PDF 34頁「甲との共犯関係の成否」
12通常。同居開始、当初の世話、世話の停止、甲による授乳を検討し、甲と整合する理由で丙固有の作為義務を判断する5PDF 11頁「丙の具体的な作為義務」PDF 34頁「甲に作為義務を認定した論拠と矛盾なく」
13通常。単独正犯と幇助犯を区別し、採用する構成に必要な義務と実行・促進を論証する4PDF 11頁「殺人罪の単独正犯又は幇助犯」PDF 35頁「不真正不作為犯の成立範囲」
14通常。片面的共同正犯を認める構成でも、丙自身の作為義務を省略しない【許容分岐:片面的共同正犯を肯定する答案】4PDF 11頁「片面的共同正犯を肯定する立場」PDF 34頁「片面的共同正犯の肯否」
15通常。祖母への虚偽説明を、作為正犯・作為幇助・継続する不作為の一事情のいずれとするか明示し、その要件に具体的事実を当てはめる5PDF 11頁「嘘をついて断った」PDF 34頁「作為による殺人罪の単独正犯」
16通常。幇助構成を採るときは、甲が丙の加功を認識していないことと片面的幇助の可否を論じる【許容分岐:幇助犯を肯定する答案】4PDF 11頁「片面的幇助犯に関する見解」PDF 34頁「丙について片面的幇助犯の肯否」
17注意。幇助の故意を、甲の犯罪及び自己の促進行為に対する認識・意思として具体化する【許容分岐:幇助犯を肯定する答案】3対象範囲に独立した対応記載なしPDF 35頁「幇助の故意の内容が不正確」
18注意。不作為犯の成立を限定する一般論と、作為義務を十分検討しない単独正犯の肯定を併存させない【採点は番号12へ統合】4対象範囲に独立した対応記載なしPDF 35頁「作為義務の検討が不十分なまま」
19注意。正犯意思だけで単独正犯を認めない【採点は番号13へ統合】3対象範囲に独立した対応記載なしPDF 35頁「正犯意思があると認定し」
20注意。共犯の成否の検討を全面的に落とさない【採点は番号11へ統合】3対象範囲に独立した対応記載なしPDF 35頁「共犯の成否を全く検討」
21注意。身分犯の解釈だけで共犯を成立させない【採点は番号13へ統合】3対象範囲に独立した対応記載なしPDF 35頁「身分犯に関する解釈のみ」

3 乙の罪責

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
22通常。住居侵入罪の保護法益と侵入の意味を示す4PDF 11頁「住居侵入罪の保護法益」PDF 34頁「住居侵入罪の保護法益及び実行行為」
23通常。婚姻・賃貸借名義だけで決めず、別居、鍵の返却、甲の賃料負担、秘密の合鍵使用を評価する4PDF 11頁「甲に内緒で所持していた合鍵」PDF 34頁「住居侵入罪の保護法益及び実行行為」
24注意。住居権説を採るとき、甲が権利者かという問題と乙が権利者でなくなったかという問題を混同しない【許容分岐:住居権説を採用する答案】3対象範囲に独立した対応記載なしPDF 35頁「甲が住居権者であるかどうか」
25通常。親権者も未成年者略取罪の主体となり得ることを、平成17年12月6日決定を参考に検討する4PDF 11頁「最決平成17年12月6日」PDF 34頁「未成年者略取罪の主体」
26通常。未成年者略取罪の保護法益を示し、略取の意味と乳児の連れ出しを当てはめる4PDF 11頁「未成年者略取罪の保護法益」PDF 34頁「略取の意義」
27注意。有形力で連れ出した事案を誘拐と取り違えない【採点は番号26へ統合】3対象範囲に独立した対応記載なしPDF 35頁「未成年者誘拐罪を認定」
28注意。親の監護利益を保護する構成でも、甲の虐待的な養育状況を実質的に評価する【許容分岐:親の監護利益を保護法益に含める答案】4対象範囲に独立した対応記載なしPDF 35頁「甲のAに対する養育状況」
29通常。侵入・連れ出しを救出と評価する余地を拾い、採用する違法性阻却事由の要件と本件事実から結論を出す5PDF 11頁「衰弱が深刻なAを救出」PDF 34頁「各成立要件に事実関係を的確に当てはめ」

4 答案全体

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
30通常。甲乙丙の各犯罪につき故意の内容と認定を示す3対象範囲に独立した対応記載なしPDF 34頁「各犯罪の故意」
31通常。複数犯罪を認める場合、各人ごとに的確な罪数処理を行う3PDF 11頁「的確な罪数処理」PDF 34頁「罪数等」
32通常。行為と侵害法益から検討すべき犯罪を選び、構成要件を順に吟味する3PDF 10頁「具体的な事実関係を分析」PDF 33頁「各犯罪の構成要件要素を一つ一つ吟味」
33通常。主要論点を厚くし、周辺論点は簡潔にして答案の配分を整える3対象範囲に独立した対応記載なしPDF 33頁「答案全体のバランス」
34通常。事実の列挙だけでなく、各事実が規範との関係で持つ意味を評価する4PDF 11頁「具体的な諸事実を抽出」PDF 35頁「具体的事実の持つ意味」
35通常。各人の罪責の論理的な整合性と具体的な結論の妥当性を保つ4PDF 11頁「論理的な整合性」PDF 33頁「法的思考過程が相互に論理性」
36通常。判例の結論の暗記にとどまらず、事案・理論構成・射程を本問と比較する3PDF 12頁「当該判例の具体的事案の内容」PDF 36頁「当該判例の具体的事案の内容」
37通常。実行行為・結果・因果関係・故意という体系と各論の要素の関係を理解して論じる3対象範囲に独立した対応記載なしPDF 36頁「実行行為,結果,因果関係,故意」
38注意。手書き答案では採点者が読める文字で丁寧に書く【本答案例は印字原稿なので適用外】1対象範囲に独立した対応記載なしPDF 35頁「なるべく読みやすい字で丁寧」

5 重みの分布

重み項目数位置付け
57主要な成立・不成立又は構成を分ける判断
415主要論点の論証・当てはめ
315通常必要な法的検討・整理
20中心判断の補強
11補足的な条件

表示上の重みの合計は141である。
この合計は試験の100点満点に対応しない。
重複注意、採用しない分岐及び手書きの条件を含む表示上の値であり、答案を評価するときの分母とは区別する。

第5 模範解答

1 答案の前提と表記

条文は平成26年当時の問題を解くために参照する。
答案中の条番号は、別記がない限り刑法を示す。
Aという表記を統一し、問題が明示する時点・約という幅・本人の認識と客観的事情を維持する。
本答案の各結論には争い得るものがあり、公式資料の評価要求と本答案の採用説は区別する。

2 答案

第1 甲の罪責

1 授乳等をやめた行為につき、まず殺人罪(刑法199条。以下、法令名を省略する。)を検討する。

不作為による殺人の実行行為を認めるには、結果回避の作為義務と作為可能性があり、その不作為が作為による殺害と同視できることを要する。
義務の有無は、身分関係だけでなく、保護の引受けや被害者の依存状態など具体的な支配関係から判断する。

甲はAの母であるだけでなく、出生以来同居して養育してきた。
Aは生後4か月で自ら栄養や水分を摂れず、容易に入手できる安価な市販の乳児用ミルクにはアレルギーがあり、本件では母乳しか飲めなかった。
甲は7月1日朝まで2、3時間おきに授乳し、Aは順調に成育していた。
乙は別居し、丙も世話をやめており、Aの生命維持は現実に甲に依存していた。
甲には授乳等によってAを保護する義務があり、従前どおり授乳することも可能であった。
甲が他の世話を続けながら生命維持に不可欠な供給だけを断つ行為は、作為による殺害と同視できる。

2 実行の着手は生命に対する現実的な危険が生じた時点で認める。
授乳等をやめて約24時間を超えると、脱水や体力消耗による生命の危険が生じる。
本件でも7月2日昼前にはその危険が生じたとされており、遅くともその時点で着手を認める。
最終授乳直後から直ちに切迫した危険があったとまでは断定しない。

3 Aは死亡しているが、帰責すべき結果は現実に生じた脳挫傷による死亡である。
因果関係は、当初の行為の危険が結果に現実化したかによって判断し、介在行為の誘発関係、異常性及び結果への寄与を考慮する。

授乳等の停止が作り出したのは、脱水・体力消耗による死亡の危険である。
乙による連れ出し自体はこれを救うための行為ではなかったが、容体に気付いて病院へ連れて行こうとしたことは、その危険への対応として理解できる。
しかし、乙が歩道上からタクシーに手を挙げた際、脇見で発見が遅れた運転手が無理に停車しようと誤操作し、歩道へ乗り上げて衝突した。
これが別種の致命傷である脳挫傷を生じさせたのであり、脱水状態がその致命傷を生じさせたという事情もない。
救助行動の契機を与えたことだけでは、事故死を授乳等の停止の危険の現実化とはいえない。

第三者の異常な行為の介在と死因となった傷害の発生経緯を重視した最高裁昭和42年10月24日決定(昭和42年(あ)第710号)も参考になる。
ただし、同決定では致命傷の発生時点が確定困難であったのに対し、本問では事故による脳挫傷が死因と明示されている。
この相違を踏まえても、甲の不作為と現実の死亡との因果関係は否定する。
事故がなくても後日死亡したという仮定は、現実の死因を置き換えない。

4 甲はAを死亡させるために授乳等をやめており、着手時の殺意がある。
後の翻意は既に成立した未遂を消滅させないから、殺人未遂罪(199条、203条)が成立する。

5 7月3日夕方の授乳再開について、中止未遂(43条ただし書)を検討する。
憐れみから再開したので、自己の意思による中止という点は肯定できる。
しかし、既に約48時間を超え、授乳だけでは救命できず、病院での治療を要する段階であった。
結果発生の危険を作った後には、その危険を除去するための真摯な救助行為が必要である。
甲はAが早く快復するには病院に連れて行く必要があると考えながら、通報を恐れて連れて行かず、Aが僅かしか飲まないのに授乳だけを続けた。
母乳で少しずつ元気になると考えていたとしても、この対応を真摯な救助と評価できず、中止減免は認めない。
授乳再開後に病院へ連れて行かなかった点を含む一連の不保護についての保護責任者遺棄罪は、殺人未遂罪に吸収されると解する。
事故死について遺棄致死罪も成立しない。

第2 丙の罪責

1 まず、甲の不保護を知りながら働き掛けなかった行為を検討する。
共同正犯(60条)は相互に意思を通じて共同実行する関係を要し、片面的共同正犯は認めない。
甲は丙が事態を知らないと思っており、殺人の共謀もないから、共同正犯は成立しない。

もっとも、これは丙自身の不作為による単独正犯又は幇助犯の成否を決めるものではない。
丙は父ではないが、6月1日頃から同居し、生活費を出し、当初は世話もしていた。
しかし、6月20日頃以降は世話をせず、生命維持に必要な授乳は甲が担っていた。
甲と異なり、丙がAの生命保護を全面的に引き受け、甲に代わってその保護を支配していたとは認め難い。
したがって、作為による殺害と同視できる不作為の単独正犯は成立しない。

不作為による幇助には正犯と同程度の支配までは要しないが、犯罪を阻止すべき具体的な作為義務が必要である。
過去の世話や共同生活は義務を肯定する方向の事情であり、丙が反対すれば甲は中止したという阻止可能性もある。
しかし、丙への継続的な保護の委託や犯罪阻止の引受けまでは示されていない。
本答案は、これらの事情だけで甲への説得を刑法上義務付けるには足りず、幇助犯も成立しないと解する。
単に殺意があることや、65条によって母親の身分を利用できることだけでは、丙自身の義務を補えない。

2 次に、祖母の来訪を虚偽の説明で断った行為は、作為による殺人として検討する。
不作為の義務を否定したことは、積極的に救助を妨げる行為の免責を意味しない。

7月3日昼過ぎ、Aは病院での治療を要するが、同日夕方に適切な治療を受ければまだ救命可能であった。
Aを溺愛する祖母は同日夕方の訪問を申し出ており、抽象的な救助の期待にとどまらない。
丙は、祖母が来ればAの異変に気付き病院に連れて行くと考え、死亡させるために虚偽を述べ、祖母は訪問を断念した。
祖母が必ず救命したと事実を補うことはできないが、具体化した外部救助の機会を遮断して現存する生命の危険を維持した点に、殺害の現実的危険がある。
これは自ら救助を妨害する実行行為であり、甲の行為への従属的な加功にとどまらないと評価する。
実行の着手及び殺意が認められる。

3 現実の事故死との因果関係は、甲について述べた理由で否定され、丙には単独正犯としての殺人未遂罪が成立する。
丙は救助妨害を解消する行為をしておらず、甲が授乳を再開しても丙自身の中止未遂とはならない。

なお、来訪拒絶を甲の殺人の幇助と評価する立場でも、甲が加功を認識していない点を検討しなければならない。
幇助は正犯の実行を容易にする一方向の加功でも成立し得るから、片面的幇助は可能である。
丙は甲の殺人行為を認識してその継続を助ける意思を有し、救助機会の遮断による促進を論じられる。
ただし、本答案は独立した実行行為と評価したため、この幇助を別罪として加算しない。

第3 乙の罪責

1 甲方への立入りにつき住居侵入罪(130条前段)を検討する。
保護法益は住居の事実上の平穏であり、居住者の意思に反する立入りは通常その平穏を害するから「侵入」に当たる。

乙は甲の夫で賃貸借の名義人でもあるが、5月1日に別居し、甲が賃料を払い、甲から立入りを禁じられて鍵を返していた。
甲方は現に甲らが生活する住居であり、乙が秘密に残した合鍵で入ることは、その意思に反する侵入である。
乙はこれらの事実を認識しているから故意もある。
名義又は婚姻関係だけで正当な立入りとはならない。

2 Aを抱きかかえて連れ出した行為につき、未成年者略取罪(224条)を検討する。
同罪は未成年者の自由・安全と、その保護のための監護関係を保護する。
略取とは、有形力を用いて従来の生活・監護関係から離脱させ、自己等の事実的支配下に置くことである。
生後4か月のAを抱えて運び出す行為もこれに当たり、意思を形成させる誘拐とは異なる。

最高裁平成17年12月6日決定(平成16年(あ)第2199号)は、親権者である父も主体となり得るとし、親権者である事情を違法性阻却の判断で考慮した。
乙にも親としての地位はあるが、これだけで構成要件該当性は否定されない。
乙は甲の下にいるAを自分の支配下へ移すことを認識しており、故意もある。

3 ただし、本問は、同決定のように子が母側で平穏に監護されていた事案と異なり、甲がAを生命の危険にさらしていた。
甲の監護利益を形式的に保護して直ちに犯罪成立とすることはできず、両行為の正当化を検討する。

親権の行使としての正当行為(35条)は、子の利益に向けられた社会的に相当な保護行為でなければならない。
乙は侵入・連れ出しの時点で虐待や重い脱水を知らず、甲と協議せず秘密に監護状態を変更している。
母の虐待は乙に有利な客観的事情であり、乱暴な奪取でなかったことも考慮するが、乙が危険を認識して救護措置を選んだわけではない。
一方的な連れ出しを、結果として危険から離したというだけで正当な親権行使とは評価しない。

また、緊急避難(37条1項)には現在の危難、補充性、法益の均衡に加え、危難を認識して避ける意思を要すると解する。
Aには現在の危難があり、生命を守る利益は大きい。
しかし乙が容体に気付いたのは約300メートル離れた後であり、侵入・略取時には避難意思がない。
甲の不保護を急迫不正の侵害と構成して正当防衛(36条1項)を考えても、同じ時点で防衛意思を欠く。
したがって、上記2罪の違法性は阻却されない。

4 容体に気付いた後、病院へ連れて行くため歩道上からタクシーを止めようとした行為は救助行為である。
運転手の脇見・誤操作による歩道への乗上げを乙が予見して防止できた事情はなく、過失致死罪(210条)は認めない。
甲・丙との意思連絡や、その犯罪を助ける故意もない。

5 乙には住居侵入罪と未成年者略取罪が成立し、侵入が略取の手段であるから牽連犯(54条1項後段)とする。

3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説

(1) 答案と評価項目の対応

甲の第1の1は、養育・依存・可能性から不作為の実行行為を説明し、番号1・7・8・32・34・35に対応する。
第1の2は着手時期を具体化し、番号2・9・37に対応する。
第1の3は現実の死因と介在事情を検討し、番号3・10・34・36に対応する。
第1の4・5は故意、中止及び罪数を処理し、番号4~6・30・31に対応する。

丙の第2の1は共犯関係、丙固有の義務、正犯・幇助の区別を扱い、番号11~14・18~21・34・35に対応する。
第2の2は祖母への積極的な虚偽説明を別の行為として評価し、番号15・30・34に対応する。
第2の3の別構成の説明は番号16・17の検討方法を示すが、本答案の主位構成で同時に幇助犯を成立させるものではない。

乙の第3の1は番号22~24・30に、第3の2は番号25~27・30・36に、第3の3は番号28・29・34・35に対応する。
第3の4は死亡結果について責任が残るかを簡潔に確認する補足である。
第3の5は番号31に対応する。
番号33は答案全体の配分、番号38は手書きの場合の条件であり、同じ種類の論証ではない。

番号答案箇所満たすための記述本答案の対応
1第1の1不作為による殺人の作為義務・作為可能性を示し、母子関係だけでなく養育・依存の具体的事実から実行行為を認定する母であることに加え、継続養育、月齢、母乳への依存と授乳可能性を評価する。
2第1の2Aの状態の変化と生命への現実的危険から実行の着手時期を認定する約24時間という幅と、7月2日昼前の具体的な危険発生を結び付ける。
3第1の3脱水等の危険、乙の故意の連れ出し、運転手の過失、現実の脳挫傷死を区別し、判例の事案も踏まえて因果関係を論証する脱水死の危険と脳挫傷死を区別し、歩道への乗上げという介在事故を検討する。
5第1の5授乳再開について中止の任意性と危険除去のための行為を評価し、中止未遂の成否を示す憐れみによる翻意と、病院へ連れて行かない危険除去の不足を分ける。
7第1の1作為義務の検討を欠落させない義務を具体的事実から論じる。番号1と重複して採点しない。
8第1の1殺人の実行行為とする具体的な不作為を特定する授乳・水分補給だけを断つ不作為を実行行為として特定する。
10第1の3危険の現実化という抽象語だけで済ませず、危険と現実の結果を具体化する危険と死因を具体化する。番号3へ統合して評価する。
11第2の1意思連絡の欠如と片面的共同正犯の肯否を処理し、共犯関係を検討する甲が丙の察知を知らないことから意思連絡を否定し、他の構成は別に検討する。
12第2の1同居開始、当初の世話、世話の停止、甲による授乳を検討し、甲と整合する理由で丙固有の作為義務を判断する世話の開始と停止、甲の授乳継続を対比し、義務の有無を判断する。
13第2の1単独正犯と幇助犯を区別し、採用する構成に必要な義務と実行・促進を論証する正犯と幇助で要求する義務を区別した上で、それぞれの成立を判断する。
14第2の1片面的共同正犯を認める構成でも、丙自身の作為義務を省略しない本答案は片面的共同正犯を採らないため適用しない。肯定説でも固有の義務が必要である。
15第2の2祖母への虚偽説明を、作為正犯・作為幇助・継続する不作為の一事情のいずれとするか明示し、その要件に具体的事実を当てはめる現に申し出られた祖母の訪問を断念させた行為を、具体的な救助機会の遮断と評価する。
16第2の3幇助構成を採るときは、甲が丙の加功を認識していないことと片面的幇助の可否を論じる本答案の主位構成には適用しない。幇助構成を採る場合の一方向の促進を別解として説明する。
17第2の3幇助の故意を、甲の犯罪及び自己の促進行為に対する認識・意思として具体化する幇助を肯定する別解では、甲の犯罪と自己の促進行為への認識を示す。
18第2の1不作為犯の成立を限定する一般論と、作為義務を十分検討しない単独正犯の肯定を併存させない限定的な正犯義務を採る以上、殺意だけで義務を補わない。番号12へ統合する。
22第3の1住居侵入罪の保護法益と侵入の意味を示す事実上の平穏と居住者の意思に反する侵入を結び付ける。
23第3の1婚姻・賃貸借名義だけで決めず、別居、鍵の返却、甲の賃料負担、秘密の合鍵使用を評価する名義・婚姻と、別居・賃料・鍵・秘密の立入りを比較する。
24第3の1住居権説を採るとき、甲が権利者かという問題と乙が権利者でなくなったかという問題を混同しない住居権説を採っていないので適用外である。甲の現実の居住と乙の立入りを区別する。
25第3の2親権者も未成年者略取罪の主体となり得ることを、平成17年12月6日決定を参考に検討する親権者も主体になり得ることと、親としての地位による正当化を別段階に置く。
26第3の2未成年者略取罪の保護法益を示し、略取の意味と乳児の連れ出しを当てはめる自由・安全と監護関係を示し、抱えて運び出す有形力を略取に当てはめる。
28第3の3親の監護利益を保護する構成でも、甲の虐待的な養育状況を実質的に評価する母側の監護が平穏な判例との違いを示し、甲の虐待を乙に有利な事情として評価する。
29第3の3侵入・連れ出しを救出と評価する余地を拾い、採用する違法性阻却事由の要件と本件事実から結論を出す客観的危難と乙の認識時期を分け、採用した正当化の要件から結論する。
34各人の当てはめ事実の列挙だけでなく、各事実が規範との関係で持つ意味を評価する時間経過、世話の分担、居住実態などを法的要件との関係で評価する。
35全体各人の罪責の論理的な整合性と具体的な結論の妥当性を保つ甲の義務と丙の義務、丙の不作為と作為、乙の主体性と正当化を矛盾なく区別する。
38印字答案手書き答案では採点者が読める文字で丁寧に書く手書きの判読性は適用外である。印字原稿の確認を手書きの評価へ読み替えない。

(2) 甲の罪責の説明

番号1・2では、「母だから義務がある」という説明にとどめず、甲が生命維持を担っていた具体的な事実と、危険が現実化した時点を示す必要がある。
答案は定期的な授乳、Aの月齢と摂取可能な栄養、7月2日昼前の危険発生を用いた。

番号3・10では、現実に生じた脳挫傷死を評価する。
乙がタクシーを止めようとしたことが救助目的だったとしても、事故の具体的態様と脱水死の危険との関係を検討する必要がある。
昭和42年決定は、介在した第三者の行為と致命傷の発生経緯を重視した事案である。
その結論だけを引用せず、本問では死因が明確であるという違いも示した。

番号4・5・9では、殺意が後に失われたこと、既に成立した未遂、危険除去の行為を区別する。
甲が早い快復のためには病院が必要と考えながら連れて行かなかったことを、真摯な救助の不足として評価した。
甲が「授乳だけでは絶対に助からない」と認識していたと問題文へ事実を追加してはいない。

(3) 丙の罪責の説明

番号11~14・18~21では、共同正犯を否定して終わらず、丙自身の不作為の責任を検討する。
甲との意思連絡、丙の義務、正犯性、幇助の促進と故意は別の問題である。
本答案は過去の世話と生活費負担を義務肯定に有利な事情として認めつつ、具体的な引受け・支配を不足と評価した。
義務を肯定する答案も、世話をやめた後も義務が残る根拠と行為可能性を論証すれば、公式が示す検討方向から直ちに外れるものではない。

番号15では、不作為の義務を否定することと、後の積極的な救助妨害を肯定することは矛盾しない。
祖母が必ず救命したという客観的な結果を補うのではなく、訪問の申出が具体化し、夕方にはなお救命可能だったことから、虚偽でその機会を遮断する危険を論じた。

番号16・17は幇助を認める構成に対応する。
本答案は別解の説明を置いたが、作為正犯と幇助犯を累積成立させたわけではない。
正犯が加功を知らないこと、幇助者が正犯の犯罪を認識してその実行を容易にすることを分けて論じる必要がある。

(4) 乙の罪責の説明

番号22~27では、夫・賃借名義人・親権者という地位を、そのまま立入りや連れ出しの適法性に結び付けない。
住居侵入については居住実態と意思を、略取については子の支配を移した行為と保護利益を検討する。
平成17年12月6日決定の多数意見は、親権者の主体性と違法性阻却を分けている。

番号28・29では、甲がAを生命の危険にさらしていた点が、母側で平穏に監護されていた判例との大きな違いである。
乙の行為が乱暴な奪取ではなく、自分で養育する目的を伴うことも有利な事情である。
本答案はこれらを考慮しても秘密の一方的な監護変更を正当化しないが、正当行為を肯定する構成を一律に排斥しない。

刑法35条の社会的相当性の評価と、36条・37条の防衛意思・避難意思は同一の要件ではない。
平成17年12月6日決定が虐待の認識を35条の独立した一般要件として定めたと述べるものではない。
本答案の35条の結論は本件の相当性に関する評価であり、36条・37条については意思を必要とする立場を明示して、約300メートル離れた後の認識を遡及させない構成を採った。

(5) 答案の弱点と扱わなかった事項

丙の初期の義務を否定する評価、祖母への虚偽を独立した実行行為とする評価、乙の正当行為を否定する評価には議論の余地がある。
公式資料は特定の結論の暗記を求めず、各構成の要件と事実の当てはめを求めている。
本答案の結論をそのまま覚えるより、反対事情を挙げて同じ基準から説明できるかを確認したい。

特別法違反、運転手の独立した罪責、現在の民事事件での親権・監護者指定の手続は扱っていない。
幇助を肯定する別解は要点にとどめ、全ての学説を並列して完成答案に盛り込んではいない。
手書きの判読性は、この印字答案からは評価できない。

第6 関連記事

1 同じ年度の司法試験の別の模範解答

平成26年司法試験民事系第2問(商法)の模範解答と評価項目及び平成26年司法試験公法系第1問(憲法)の模範解答と評価項目は、同年度の他科目を学ぶ際の参照先である。

2 同じ科目の別の年度の記事

平成27年司法試験刑事系第1問(刑法)の模範解答と評価項目では、占有、故意、共犯及び錯誤を行為ごとに区別する構成を扱っている。

3 本問の論点と関連する記事

平成30年司法試験刑事系第1問の模範解答と評価項目の設問2は、不作為の殺人と遺棄等の区別を比較する際の参照先となる。
事実関係と設問の要求が異なるため、本問へ結論をそのまま移すものではない。

第7 出典及び確認状態

1 公式問題・出題の趣旨・採点実感

平成26年司法試験論文式試験問題・刑事系科目のPDF2~3頁が対象である。
出題の趣旨はPDF10頁の刑事系第1問から12頁の第2問直前まで、採点実感等に関する意見はPDF33~36頁を参照した。

2 法令

法務省日本法令外国語訳データベースに掲載された日本語の刑法本文で、35~38条、43条、54条、60条、62・63・65条、130条、199・203条、210条、218・219条、224条を確認した。
翻訳文を法源として用いたものではない。

刑法の改正沿革及び平成22年法律第26号、平成23年法律第74号、平成25年法律第49号、平成25年法律第86号の刑法改正部分を照合し、上記の検討条文がその間の改正対象となっていないことを確認した。
全ての改正が試験日に施行済みだったという趣旨ではない。

3 裁判例

最高裁第三小法廷昭和42年10月24日決定(昭和42年(あ)第710号、刑集21巻8号1116頁)は、第三者の介在行為と致命傷の発生経緯について本文1~2頁を参照した。

最高裁第二小法廷平成17年7月4日決定(平成15年(あ)第1468号、刑集59巻6号403頁)は、危険の作出と手当ての全面的委託から、必要な医療措置を受けさせる義務を認めた事案であり、本文1~2頁を不作為の義務の具体化の参考とした。
本問の同居人に同じ結論を当然に適用するものではない。

最高裁第二小法廷平成17年12月6日決定(平成16年(あ)第2199号、刑集59巻10号1901頁)は、親権者による未成年者略取を扱う。
本文1~3頁の多数意見を主体性と違法性阻却の区別の根拠とし、補足意見・反対意見の説明を多数意見の判示に置き換えてはいない。

4 確認状態と読み方

確認日は令和8年11月2日である。
公式問題、趣旨、採点実感は保存された公式原本の対象部分を照合し、裁判例は裁判所掲載本文を確認した。
評価項目の切り分け、重み、答案の採用構成は本記事の整理であり、公式の模範解答・公表配点ではない。
異なる結論を採る答案については、その構成に必要な要件・事実評価・結論の一貫性から読む必要がある。