第1 この記事の対象と結論
平成28年司法試験の民事系第2問(商法)を対象に,会社の機関決定と取締役の契約上の権利,解任訴訟の手続及び内部統制上の責任を検討する。
法務省の出題の趣旨・採点実感から整理した評価項目は43件,重み5は7件,重み合計は155である。
項目化と重みは本記事の分析であり,法務省の公式配点ではない。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象問題 | 平成28年司法試験・民事系第2問(商法) |
| 公式問題文 | 民事系科目の問題PDFの実頁6〜8 |
| 答案の基準 | 平成28年の本問。試験後の法を前提に現行実務を説明する記事とは区別する。 |
| 資料の状態 | 問題文は実頁6〜8,出題趣旨は実頁7〜9,採点実感は実頁11〜19の第2問部分を確認した。 |
| 主要事項 | 通知を欠く決議,役職連動報酬,解任の正当理由と長期残任期,流会後の解任訴訟,C・Dの内部統制責任 |
| 評価項目・重み | 総数43,重み5は7,重み合計155。 |
| 答案分量 | 改行込み3738字,改行除外3625字。見出し・空白を含め5000字以内。 |
| 判例の扱い | 出題趣旨・採点実感が挙げる最高裁判決4件と関連する最高裁判決1件を裁判所HPの判決全文で確認した(第7の3)。 |
| 法令版・試験後の改正 | 参照した条文版と確認の限界は第7に示す。改正履歴全体の網羅確認をしたものではない。 |
| 年度別の案内 | 法務省資料の年度別所在一覧 |
| 確認日 | 令和8年10月31日 |
採用した結論は,初回の代表取締役解職決議は無効,解職を前提とするAの報酬請求は月額50万円,海外事業の失敗によるAの解任には正当な理由がないというものである。
Bの解任訴訟は意図的な欠席工作による流会へ規律を類推して認め,内部統制についてはCの責任を否定し,Dに3000万円の賠償責任を認める。
残任期8年による賠償額の減額,役職連動への同意及び流会の解釈には議論の余地があり,別の結論も理由を検討して評価する。
通知欠缺の原則と例外,Aの説明が決議へ与える影響,報酬減額への同意,海外事業の判断過程,流会と否決の関係,Dの通報後の義務及び支払回避との因果関係が,重み5の7事項である。
第4の評価表,第5の答案及び同節の解説を対応させて読むことができる。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一つの項目には,一つの判定対象を置いた。
根拠欄の頁は,それぞれのPDFの先頭を1頁とした実頁である。
公式文をそのまま採点表とみなしたものではなく,記述を本問の答案から判断できる形に整理している。
「記載なし」は,本問の関連範囲を読んだ結果,その事項に固有の記述を確認できない場合に用いる。
一般的な制度の趣旨又は誤りの指摘から整理したものは「間接」とする。
許容される別説と通常の処理を区別し,適用条件の異なる項目を全答案へ累積して要求しない。
注意事項も重みと別の属性であり,同じ内容の正方向の項目と逆方向の注意を重ねて評価しない。
2 5段階の重み付けの基準
| 重み | 基準 |
|---|---|
| 5 | 答案の骨格,又は採点実感が評価の分かれ目とした事項。 |
| 4 | 主要な理由付け・当てはめ。出題趣旨が検討を求め,採点実感も評価又は具体的な誤りの指摘を通じて取り上げた事項を含む。 |
| 3 | 通常の法的処理又は中核となる理由付け。 |
| 2 | 補助的な事項,補強又は典型的な誤りへの注意。 |
| 1 | 補充的な参照・範囲の説明。 |
重みごとの件数を先に割り当てることはしない。
本問では重み1は0件である。
重み合計を公式得点,順位又は合格可能性へ換算することはできない。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
公式問題文の第2問を対象とする。
前半の甲社は全株式に譲渡制限があり,Aが株式・議決権の25%,Bが20%を有する。
取締役6人のうち,代表取締役社長Aと代表取締役専務Bが海外事業をめぐって対立し,BはAに通知せず取締役会を開いた。
A以外の5人が出席し,3対2でAを代表取締役から解職した。
その後,適法に開催された定例取締役会でAは改めて解職され,報酬が月額150万円から20万円へ減額された。
取締役会の決議で役職ごとに定められた額とこれに従った運用によれば,解職後のAの月額は50万円である。
定時株主総会は,海外事業の失敗を理由に取締役Aの解任を可決し,Aの任期は8年残っていた。
別の仮定では,招集通知後に資金流用が判明し,Aの欠席要請によって総会が流会となる。
後半の甲社は資本金20億円,従業員3000人超の上場会社となっている。
内部統制の基本方針,専門部署,内部通報制度等がある中で,営業部長Eと乙社代表者Fが工事代金を水増しし,見積額の分割と監査回答の偽装で発覚を妨げた。
Dは3月末に担当者から実名の具体的通報の報告を受けながら放置し,4月末に残金3000万円が支払われた。
Cは5月に報告を受けて直ちに調査を指示し,約2週間で不正が判明した。
2 設問が求めること
| 設問 | 立場・対象 | 指定・仮定・除外 | 到達点 |
|---|---|---|---|
| 1⑴ | Aに通知しない初回取締役会の解職決議 | 後日の再決議とは区別する。 | 初回決議の効力 |
| 1⑵ | 甲社に対するAの報酬請求 | 代表取締役からの解職を前提にする。 | 月額の請求額 |
| 2⑴ | 取締役解任による甲社の賠償責任 | ⑵の資金流用という別仮定を持ち込まない。 | 正当理由と損害の範囲・額 |
| 2⑵ | 株主BによるAの解任の訴え | 流会した別の事実関係。代表訴訟とは区別する。 | 提訴手続と流会時の可否・解任事由 |
| 3 | 甲社に対するC・D各自の423条1項責任 | 構築と運用,知った主体と時期を分ける。 | 任務懈怠・損害・因果関係・帰責事由 |
第4 評価項目と重み
番号4・5・6・8はAの特別利害関係を肯定する立場に対応する。
番号10の否定説を採る答案には,Aの議決参加を前提とした理由付けと通知欠缺の影響を求め,4・5・6・8の同一結論を累積して要求しない。
番号16の「50万円から20万円」は役職連動への同意を認める立場に対応し,これを否定する答案は番号14・15・17により150万円の契約拘束を評価する。
1 設問1⑴――通知を欠く解職決議
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | Bの招集権を366条1項により認める。 | 3 | PDF実頁7・設問1⑴。 | PDF実頁11・設問1⑴。 |
| 2 | 取締役及び監査役に対する1週間前の通知を確認する。 | 3 | PDF実頁7・設問1⑴。 | PDF実頁11・設問1⑴。 |
| 3 | 取締役会の通知には会議の目的の記載を要しないとする。 | 3 | PDF実頁7・設問1⑴。 | PDF実頁11・設問1⑴。 |
| 4 | Aを解職決議の特別利害関係取締役とし,議決から除外する。 | 4 | PDF実頁7・設問1⑴。 | PDF実頁11・設問1⑴。 |
| 5 | 議決に加われる5人の出席と賛成3人により定足数・多数決を判断する。 | 3 | PDF実頁7・設問1⑴。 | PDF実頁11・設問1⑴。 |
| 6 | 議決参加の制限と招集通知を受ける必要とを区別する。 | 4 | PDF実頁8・設問1⑴。 | PDF実頁12・設問1⑴。 |
| 7 | 通知を欠く決議の原則無効と,結果に影響しない特段の事情による例外を示す。 | 5 | PDF実頁7・設問1⑴。 | PDF実頁11・設問1⑴。 |
| 8 | 特別利害関係取締役の審議参加の可否を理由とともに検討する。 | 4 | PDF実頁8・設問1⑴。 | PDF実頁12・設問1⑴。 |
| 9 | Aの説明機会と賛否3対2を評価し,結果への影響可能性を具体的に判断する。 | 5 | PDF実頁8・設問1⑴。 | PDF実頁12・設問1⑴。 |
| 10 | 非公開会社の経営対立を踏まえ,Aの特別利害関係を否定する別説を理由付ける。【適用条件】別説を採用する場合のみ。 | 4 | PDF実頁8・設問1⑴。 | PDF実頁12・設問1⑴。 |
| 11 | 後日の適法な解職決議だけで初回決議の瑕疵が当然に遡及治癒すると扱わない。 | 2 | 記載なし。 | PDF実頁12・設問1⑴。間接(趣旨又は誤りの指摘から整理)。 |
2 設問1⑵――報酬減額
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 12 | 報酬規制の趣旨をお手盛り防止・株主利益保護として説明する。 | 3 | 記載なし。 | PDF実頁13・設問1⑵。間接(趣旨又は誤りの指摘から整理)。 |
| 13 | 株主総会による総額上限の決定と取締役会への個別配分の委任を許容する。 | 3 | PDF実頁8・設問1⑵。 | PDF実頁13・設問1⑵。 |
| 14 | 具体化した報酬は契約内容となり,一方的には減額できないとする。 | 4 | PDF実頁8・設問1⑵。 | PDF実頁13・設問1⑵。 |
| 15 | 役職ごとの定めと運用から150万円から50万円への減額に対する同意を検討する。 | 5 | PDF実頁8・設問1⑵。 | PDF実頁13・設問1⑵。 |
| 16 | 50万円から20万円への追加減額に同意がないことから請求額を導く。 | 4 | PDF実頁8・設問1⑵。 | PDF実頁13〜14・設問1⑵。 |
| 17 | 役職連動の同意を認めない場合は150万円の契約上の報酬が残ると説明する。【適用条件】役職連動への同意を否定する場合のみ。 | 3 | PDF実頁8・設問1⑵。 | PDF実頁14・設問1⑵。間接(趣旨又は誤りの指摘から整理)。 |
| 18 | 退職慰労金の一任に関する議論を月額報酬の個別配分へそのまま転用しない。 | 2 | 記載なし。 | PDF実頁14・設問1⑵。間接(趣旨又は誤りの指摘から整理)。 |
3 設問2⑴――解任と損害賠償
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 19 | 339条の自由解任と,任期への期待を保護する法定賠償責任の趣旨を示す。 | 4 | PDF実頁8・設問2⑴。 | PDF実頁14・設問2⑴。 |
| 20 | 解任の正当な理由の意義を示す。 | 3 | PDF実頁8・設問2⑴。 | PDF実頁14・設問2⑴。 |
| 21 | 十分な調査・適切な危険評価・取締役会承認を事業失敗と区別して評価する。 | 5 | PDF実頁8・設問2⑴。 | PDF実頁14・設問2⑴。 |
| 22 | 残任期及び一般取締役報酬を基礎に損害を算定し,実損の限界を示す。【適用条件】正当な理由を否定する場合。 | 3 | PDF実頁8・設問2⑴。 | PDF実頁15・設問2⑴。 |
| 23 | 残任期8年という長さを損害賠償額の減額要素とするか,理由を付して検討する。【適用条件】正当な理由を否定する場合。 | 4 | PDF実頁8・設問2⑴。 | PDF実頁14・設問2⑴。 |
4 設問2⑵――解任の訴えと流会
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 24 | Aを除いた総議決権を分母としてBの3%要件を確認する。 | 3 | PDF実頁8・設問2⑵。 | PDF実頁15・設問2⑵。 |
| 25 | 非公開会社では6か月の継続保有要件が不要であるとする。 | 2 | PDF実頁8・設問2⑵。 | PDF実頁15〜16・設問2⑵。 |
| 26 | 30日以内という出訴期間を流会への解釈と対応させて示す。 | 3 | PDF実頁8・設問2⑵。 | PDF実頁15・設問2⑵。 |
| 27 | 会社と解任対象役員Aを共同被告とする。 | 3 | PDF実頁9・設問2⑵。 | PDF実頁15・設問2⑵。 |
| 28 | 取締役でもあるBによる会社への提訴に386条1項1号を直接適用し,監査役を会社代表とする。 | 3 | PDF実頁9・設問2⑵。 | 記載なし。 |
| 29 | 本店所在地の地方裁判所の専属管轄を示す。 | 2 | PDF実頁9・設問2⑵。 | PDF実頁15・設問2⑵。 |
| 30 | 流会と条文の否決との差を示し,854条の趣旨から適用可能性を論証する。 | 5 | PDF実頁9・設問2⑵。 | PDF実頁16・設問2⑵。 |
| 31 | Aによる欠席要請という意図的妨害を具体的に評価して解任訴訟の可否を判断する。 | 4 | PDF実頁9・設問2⑵。 | PDF実頁16・設問2⑵。 |
| 32 | 資金流用を職務執行上の不正行為等として解任事由に当てはめる。 | 3 | PDF実頁9・設問2⑵。 | PDF実頁16・設問2⑵。 |
| 33 | 招集通知後に判明した事情を解任事由にできるかを検討する。 | 2 | 記載なし。 | PDF実頁15・設問2⑵。 |
5 設問3――内部統制と取締役の責任
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 34 | 423条1項について任務懈怠・損害・因果関係・帰責事由を区別する。 | 4 | PDF実頁9・設問3。 | PDF実頁17・設問3。 |
| 35 | 大会社の取締役会による内部統制の基本方針決定義務を根拠規定と結び付ける。 | 4 | PDF実頁9・設問3。 | PDF実頁17・設問3。 |
| 36 | 代表取締役等の構築・運用義務を善管注意義務・忠実義務と関係付ける。 | 4 | PDF実頁9・設問3。 | PDF実頁17・設問3。 |
| 37 | 会社の規模・事業内容,具体的な体制及び巧妙な偽装から構築の合理性を判断する。 | 4 | PDF実頁9・設問3。 | PDF実頁17・設問3。 |
| 38 | 外形的に機能する体制の下で他の役職員を信頼できる条件及び限界を示す。 | 4 | PDF実頁9・設問3。 | PDF実頁17・設問3。 |
| 39 | Cへの通報時期と直後の調査を区別し,Cの運用義務違反を判断する。 | 4 | PDF実頁9・設問3。 | PDF実頁18・設問3。間接(趣旨又は誤りの指摘から整理)。 |
| 40 | 実名・具体的通報を受けたDが調査・報告を怠ったことを運用義務違反と評価する。 | 5 | PDF実頁9・設問3。 | PDF実頁17〜18・設問3。 |
| 41 | 不正歴なし・監査上の指摘なし・Eへの信頼が具体的通報の放置を正当化しないと評価する。 | 4 | PDF実頁9・設問3。 | PDF実頁17・設問3。 |
| 42 | 3月末の通報,約2週間の調査及び4月末の支払を結び付け,3000万円との因果関係を論証する。 | 5 | PDF実頁9・設問3。 | PDF実頁18・設問3。 |
| 43 | 詐取総額5000万円と回避可能損害3000万円を区別し,既払分に責任を広げる条件を示す。 | 4 | PDF実頁9・設問3。 | PDF実頁18・設問3。 |
6 重みの分布
| 重み | 項目数 |
|---|---|
| 1 | 0 |
| 2 | 5 |
| 3 | 14 |
| 4 | 17 |
| 5 | 7 |
総数は0+5+14+17+7=43項目であり,重み合計は1×0+2×5+3×14+4×17+5×7=155となる。
重み5は番号7・9・15・21・30・40・42の7項目である。
いずれも論点名を挙げるだけでは足りず,決議への影響,同意,経営判断の過程,条文の解釈又は通報後の損害回避という具体的な接続を要する。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
以下は,本問の事実と公式資料を踏まえて作成した解答例である。
会社法の条文を中心に,規範,事実評価,結論を示す。
別説を全て併記するものではなく,Aの特別利害関係を認め,役職連動への黙示の同意を推認し,意図的な妨害による流会に解任訴訟の規律を類推する立場を採る。
答案は改行込み3738字であり,確認した資料の範囲は第7のとおりである。
2 答案
第1 設問1
1 ⑴について
取締役会の招集権者を定款又は取締役会で定めていないから,Bは招集できる(会社法366条1項)。
通知は1週間前に全取締役及び監査役に発する必要があるが(368条1項),取締役会では通知に会議の目的を記載する必要はない。
本件の問題はAへの通知を欠く点にある。
代表取締役の解職は取締役会の権限であり(362条2項3号),解職対象のAは,大きな権限と影響力を持つ地位からの排除が問題となる場面で公正な議決権行使を期待しがたいから,判例のとおり特別利害関係取締役として議決に加われない(369条2項,最高裁昭和44年3月28日判決)。
他方,BがAと対立し解職を企てたことだけで,Bも当然に議決から排除されるわけではない。
議決可能な取締役5人全員が出席し,3人が賛成したから,定足数・多数決の要件は満たす(同条1項)。
しかし,議決権を欠くことと通知を受ける必要がないことは別である。
特別利害関係取締役の議決参加を禁ずる趣旨は公正な決議の確保にあるが,自らの解職について説明し,審議に参加する機会まで当然に奪うものではない。
Aにも通知を要する。
判例は,一部の取締役に対する通知を欠く決議は特段の事情のない限り無効であるが,その者が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは有効になるとする(最高裁昭和44年12月2日判決)。
本件は賛否3対2と拮抗し,海外事業の判断過程をAが説明すれば賛成者が翻意する可能性を否定できない。
Aが議決に加われないという票数計算だけでは特段の事情を認められず,初回決議は無効である。
後日の適法な取締役会で改めて解職したことは,初回決議を当然に遡って有効にしない。
2 ⑵について
以下では指定どおり代表取締役の解職を前提とする。
取締役報酬の決定を株主総会に留保する361条1項の趣旨は,お手盛りを防止して株主の利益を保護することにあり,総額の上限を決めて各人への配分を取締役会に委ねることは許される(最高裁昭和60年3月26日判決)。
もっとも,委任に基づき個人の報酬が具体化すれば会社との契約内容となるから,職務内容に著しい変更があっても,本人の同意なく一方的に減額できない(最高裁平成4年12月18日判決)。
Aの月額150万円は,取締役会の決議で役職ごとに定められた額とこれに従った運用による代表取締役としての額である。
この定めと運用から,役職の変更に伴って一般取締役の月額50万円になることにも,黙示の同意があると解する。
これは解職による当然の契約消滅ではなく,報酬合意の解釈である。
これに対し,50万円から20万円への追加減額には運用上の根拠もAの同意もない。
したがってAは月額50万円を請求できる。
役職連動への同意が認められない場合には,従来の150万円が契約上維持される余地がある。
第2 設問2
1 ⑴について
株主総会は取締役をいつでも解任できるが(339条1項),正当な理由のない解任について会社は損害賠償責任を負う(同条2項)。
これは解任の自由と,任期中在任し報酬を得るとの取締役の期待とを調整する法定責任である。
正当な理由は,職務上の不正,重大な法令・定款違反,職務遂行に支障を来す事情など,取締役に経営を委ねることが困難となる客観的事情をいう。
海外事業は失敗したものの,Aは必要十分な調査を行い,危険を適切に評価し,取締役会の賛成も得ている。
経営には危険が伴い,結果として収益が上がらず撤退したことだけでは,Aに経営を委ねられない事情とはいえない。
設問⑵の流用発覚は別の仮定であり,ここに持ち込まない。
正当な理由はなく,甲社は賠償責任を負う。
損害は解任がなければ得られた利益である。
代表取締役の地位を既に失ったAにつき,原則として一般取締役の報酬月額50万円を基礎とする。
残任期8年では50万円×12月×8年=4800万円となる。
ただし,実際の将来報酬の蓋然性,中間利息や損害と相当因果関係のある利益控除等の問題は残る。
さらに,非公開会社で任期を伸長できる制度の下でも,8年という長い残任期を理由に賠償額を減ずるべきかが問題となる。
将来報酬の不確実性や解任の自由への過大な制約を理由とする減額も考えられる。
しかし,法が長期任期を許容し会社もこれを採用した以上,残任期が長いことだけで保障を当然に通常の任期相当へ切り縮めるべきではない。
具体的な損害の立証・控除を別として,長さだけによる一律減額は認めない。
2 ⑵について
Bは,Aの職務執行上の不正を理由に,甲社とAを共同被告として解任の訴えを提起する(854条1項,855条)。
対象役員Aを除いた議決権を基準にすると,Bの割合は20/75で3%を超える。
非公開会社なので6か月の継続保有要件はないが,少数株主としての持株又は議決権要件まで不要になるわけではない(854条2項)。
後記の解釈に従い,流会した総会の日から30日以内に,本店所在地を管轄する地方裁判所に訴える(856条)。
Bは株主の資格で提訴するが,同時に甲社の取締役でもあり,取締役が会社を訴える場合に該当する。
よって386条1項1号が直接適用され,甲社は監査役が代表する。
854条1項は解任議案が総会で「否決されたとき」を要件とする。
本件は定足数不足による流会であり,文言上の否決ではない。
しかし,同条は職務上の重大な不正等があっても,多数決によって解任を実現できない場合に少数株主を保護する制度である。
不正を行った役員自身が友好株主に欠席を求め,採決そのものを妨げた場合を一律に除くと制度の趣旨を没却する。
そこで,このような意図的な妨害による流会には否決の場合の規律を類推適用すべきである。
通常の偶発的流会まで直ちに同視するものではない。
Aの多額の会社資金流用は,職務執行に関する不正行為に当たる。
招集通知後に判明した事実であっても,通知に掲げられたA解任という議題は変わらず,解任事由が通知時の海外事業の失敗に固定される根拠はない。
発覚時期のみを理由に排除されない。
したがってBの訴えを認め,Aを解任すべきである。
第3 設問3
1 共通の枠組み
取締役が任務を怠り,それにより会社に損害を生じさせ,帰責事由があるときは423条1項の責任を負う。
取締役は委任関係に基づく善管注意義務及び忠実義務を負う(330条,民法644条,会社法355条)。
大会社である甲社では,取締役会が内部統制システムの基本方針を決定し(362条4項6号・5項),代表取締役等がこれを具体的に構築・運用する。
会社の規模,事業内容及び不正の危険に応じた合理的な体制と運用が必要であるが,不正の発生だけで義務違反となるものではない。
2 Cについて
甲社は資本金20億円,従業員3000人超の上場会社である。
基本方針に加え,専門部署,内部通報制度,研修及び相見積りの規程を設け,同規模・同業種の上場会社と同程度の体制を備えていた。
E・Fは見積額を分割し,他部署を巧妙に欺き,会計監査人への回答も偽装した。
これらから,構築した体制が当初から不合理だったとはいえない。
合理的な体制が外形的に機能し,問題を疑うべき特別の事情がなければ,代表取締役は他の役職員が報告に従って職務を遂行していると信頼できる。
他方,具体的な異常を知った後も無条件に信頼できるわけではない。
Cは3月末の通報を知らず,それ以前に不正を疑う具体的事情も示されていない。
5月に報告を受けると直ちに調査を指示し,約2週間で不正を解明したから,運用上も必要な対応をしている。
4月末の支出に先立って調査すべきだったとはいえず,Cの任務懈怠及びそれに基づく損害との因果関係は認められない。
3 Dについて
法務・コンプライアンスを担当するDは,3月末に内部通報制度の担当者から実名の具体的な通報があった旨の報告を受けた。
そこで制度を実際に作動させ,速やかに事実を調査し,Cや監査役へ報告すべきだった。
過去に不正がなかったこと,会計監査人が問題を指摘しなかったこと,元部下Eへの信頼は,この具体的な疑いを放置する理由にならない。
監査人への回答も偽装されており,従前の監査だけでは疑いは解消しない。
何もしなかったDには運用上の任務懈怠があり,調査可能であったのに放置した過失も認められる。
5月の調査で約2週間で判明したことから,Dが3月末に調査していれば4月末までに不正を把握し,未払3000万円の支払を止められたと考えられる。
この額について任務懈怠と損害との因果関係があり,Dは甲社に3000万円の賠償責任を負う。
他方,水増し5000万円のうち,3月末までの支払に含まれる2000万円については,通報後の調査により回収できた等の具体的事情がなければ,その全額をDの不作為による損害とすることはできない。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
答案第1の1は番号1〜11,第1の2は番号12〜18,第2の1は番号19〜23,第2の2は番号24〜33,第3は番号34〜43に対応する。
番号10は採用しなかった別説であり,番号17は役職連動への同意を否定した場合の留保である。
番号22・23は,本答案のように解任の正当な理由を否定する場合に適用する。
重み5の事項は,第1の1の通知欠缺の効力と結果への影響(番号7・9),第1の2の同意解釈(番号15),第2の1の海外事業の評価(番号21),第2の2の流会と否決の関係(番号30),第3の3のDの通報後の義務及び3000万円との因果関係(番号40・42)に当たる。
分岐の適用は第4冒頭の共通条件による。
第4の重み5・4の項目及び条件付きの項目について,模範解答との対応を次の表に示す。
| 番号 | 重み | 評価項目 | 答案の該当箇所・留保 |
|---|---|---|---|
| 4 | 4 | Aを解職決議の特別利害関係取締役とし,議決から除外する。 | 第1の1・第2段落 |
| 5 | 3 | 議決に加われる5人の出席と賛成3人により定足数・多数決を判断する。 | 第1の1・第2段落 |
| 6 | 4 | 議決参加の制限と招集通知を受ける必要とを区別する。 | 第1の1・第3段落 |
| 7 | 5 | 通知を欠く決議の原則無効と,結果に影響しない特段の事情による例外を示す。 | 第1の1・第4段落 |
| 8 | 4 | 特別利害関係取締役の審議参加の可否を理由とともに検討する。 | 第1の1・第3段落 |
| 9 | 5 | Aの説明機会と賛否3対2を評価し,結果への影響可能性を具体的に判断する。 | 第1の1・第4段落 |
| 10 | 4 | 非公開会社の経営対立を踏まえ,Aの特別利害関係を否定する別説を理由付ける。【適用条件】別説を採用する場合のみ。 | 本答案では非採用。本解説(2)で別説の位置を示す。 |
| 14 | 4 | 具体化した報酬は契約内容となり,一方的には減額できないとする。 | 第1の2・第1段落 |
| 15 | 5 | 役職ごとの定めと運用から150万円から50万円への減額に対する同意を検討する。 | 第1の2・第2段落 |
| 16 | 4 | 50万円から20万円への追加減額に同意がないことから請求額を導く。 | 第1の2・第2段落 |
| 17 | 3 | 役職連動の同意を認めない場合は150万円の契約上の報酬が残ると説明する。【適用条件】役職連動への同意を否定する場合のみ。 | 第1の2・第2段落末尾。同意を否定する場合の記載。 |
| 19 | 4 | 339条の自由解任と,任期への期待を保護する法定賠償責任の趣旨を示す。 | 第2の1・第1段落 |
| 21 | 5 | 十分な調査・適切な危険評価・取締役会承認を事業失敗と区別して評価する。 | 第2の1・第2段落 |
| 22 | 3 | 残任期及び一般取締役報酬を基礎に損害を算定し,実損の限界を示す。【適用条件】正当な理由を否定する場合。 | 第2の1・第3段落。実損・控除の留保を含む。 |
| 23 | 4 | 残任期8年という長さを損害賠償額の減額要素とするか,理由を付して検討する。【適用条件】正当な理由を否定する場合。 | 第2の1・第4段落。一律減額を否定する立場。 |
| 30 | 5 | 流会と条文の否決との差を示し,854条の趣旨から適用可能性を論証する。 | 第2の2・第3段落。文言との差と制度趣旨を論じる。 |
| 31 | 4 | Aによる欠席要請という意図的妨害を具体的に評価して解任訴訟の可否を判断する。 | 第2の2・第3段落。意図的な欠席工作と通常流会を区別。 |
| 34 | 4 | 423条1項について任務懈怠・損害・因果関係・帰責事由を区別する。 | 第3の1。Dの過失は第3の3・第1段落にも記載。 |
| 35 | 4 | 大会社の取締役会による内部統制の基本方針決定義務を根拠規定と結び付ける。 | 第3の1 |
| 36 | 4 | 代表取締役等の構築・運用義務を善管注意義務・忠実義務と関係付ける。 | 第3の1 |
| 37 | 4 | 会社の規模・事業内容,具体的な体制及び巧妙な偽装から構築の合理性を判断する。 | 第3の2・第1段落 |
| 38 | 4 | 外形的に機能する体制の下で他の役職員を信頼できる条件及び限界を示す。 | 第3の2・第2段落。具体的異常の有無による限界を示す。 |
| 39 | 4 | Cへの通報時期と直後の調査を区別し,Cの運用義務違反を判断する。 | 第3の2・第2段落 |
| 40 | 5 | 実名・具体的通報を受けたDが調査・報告を怠ったことを運用義務違反と評価する。 | 第3の3・第1段落 |
| 41 | 4 | 不正歴なし・監査上の指摘なし・Eへの信頼が具体的通報の放置を正当化しないと評価する。 | 第3の3・第1段落 |
| 42 | 5 | 3月末の通報,約2週間の調査及び4月末の支払を結び付け,3000万円との因果関係を論証する。 | 第3の3・第2段落。2週間と支払時点を接続。 |
| 43 | 4 | 詐取総額5000万円と回避可能損害3000万円を区別し,既払分に責任を広げる条件を示す。 | 第3の3・第2段落末尾。既払分への拡張は条件付き。 |
(2) 設問1⑴
出題趣旨は,招集手続の規定と特別利害関係を踏まえ,通知を欠いた場合の効力を検討することを求める。
採点実感も,通知欠缺から無効との結論を述べるだけでなく,結果に影響しない特段の事情の検討を重視する。
答案は,議決可能な人数を確認した上で,Aの説明が3対2の賛否を変え得ることを評価し,例外を否定した(番号4〜9)。
判例が禁じたのは議決権の行使であり,審議への参加の可否までは判示していない。
特別利害関係により議決に加われなくても,自己の解職について事情を説明する機会には意味があるというのが本答案の理由付けである。
出題趣旨は,閉鎖会社では特別利害関係を否定する見解等があることに触れ,採点実感はその理由として経営をめぐる取締役間の対立を挙げる(番号10)。
その見解を採るなら,その理由と議決参加を前提として通知欠缺の影響を検討する必要があるが,本答案と累積して要求されるものではない。
(3) 設問1⑵
公式資料が求めるのは,報酬を決める機関の権限と,具体化した報酬の契約上の拘束を結び付けた検討である。
答案は,総額上限内の個別配分を許すことと,既存債権を一方的に減らせないことを両立させた(番号13・14)。
その上で,150万円から50万円への役職連動と,50万円から20万円への追加減額を分け,前者への黙示の同意を役職ごとの定めと運用から推認し,後者には同意がないとした(番号15・16)。
役職連動への同意は事実の評価であり,解職なら常に報酬も下がるという一般則ではない。
同意を否定する立場では従前の150万円を基礎に検討する余地がある(番号17)。
退職慰労金の支給を一任する場合の議論を,本問の月額報酬の配分へそのまま移さないという採点実感の注意も,区別して読む必要がある(番号18)。
(4) 設問2⑴
出題趣旨・採点実感は,339条の制度趣旨と正当な理由の意義を示し,海外事業の失敗を事案に即して評価することを求める。
答案は,事業の結果と,十分な調査・危険評価・取締役会承認を経た意思決定過程とを分け,正当な理由を否定した(番号19〜21)。
正当な理由の定義は条文及び公式資料に示されておらず,答案の定義は本記事の整理である。
最高裁昭和57年1月21日判決も,持病の悪化による交替後の解任につき正当な事由がないとはいえないとした原審の判断を是認した事例判断であり,一般的な定義を示したものではない。
善管注意義務や経営判断だけを論じて,339条2項との関係を示さない答案とは区別する。
さらに,公式資料は8年という長い残任期を減額要素とすることができるかも検討対象にしている。
4800万円という単純計算だけで結論を閉じず,解任の自由と将来報酬の不確実性を考慮する考え方に対し,長期任期を認める制度と会社自身の選択を理由に,長さだけによる一律減額を否定した(番号22・23)。
この結論は本記事の採用説であり,法務省が同額の賠償を一律に指定しているものではない。
中間利息や具体的な利益控除は公式資料に記載のない補足であり,本問に事実のない控除額を作ってはいない。
(5) 設問2⑵
公式資料は提訴手続を明示的に求め,その上で流会が条文の「否決されたとき」に当たるかを制度趣旨から論ずることを求める。
答案は,少数株主資格,期間,共同被告,会社代表及び管轄を先に示した(番号24〜29)。
会社代表については,Bが株主として提訴しても取締役という身分は失わないため,386条1項1号を直接適用する。
流会の部分は,文言上の否決に当たらないことを示し,A自身の欠席工作が制度を無意味にすることを理由として,規律の類推適用を認めた(番号30・31)。
採点実感は,理由なく提訴可能という結論だけを書く答案を高く評価していない。
流会であれば常に同視するという説明にはせず,通常の偶発的な流会とは区別している。
また,解任の実体的事由は欠席要請そのものだけでなく,会社資金の流用に求めた(番号32)。
招集通知の発送後に発覚した事実を解任事由にできるかという点は,採点実感が追加的に評価した事項である。
答案はA解任という議題と,その判断を支える事由を区別し,発覚時期だけで資金流用を排除しないとした(番号33)。
この点は出題趣旨に明示がなく,採点実感による。
(6) 設問3
公式資料は,善管注意義務・忠実義務,取締役会の方針決定及び代表取締役等の構築・運用を整理し,C・Dごとに責任を検討することを求める。
答案は,共通要件を示した後,構築した体制と具体的な通報後の運用を分けた(番号34〜37)。
会社の規模・事業,制度の内容及び偽装の巧妙さを評価し,不正が起きたという結果だけから構築義務違反を認めていない。
Cについては,他の役職員を信頼できる条件を示し,3月末には報告を受けていないこと,5月の報告後は直ちに調査したことを評価した(番号38・39)。
これに対し,Dは具体的な実名通報を知ったため,過去の不正歴や監査上の指摘がないこと,Eへの信頼だけで放置できない(番号40・41)。
同じシステムの下にいるというだけで,二人へ同じ責任を課していない。
採点実感は,約2週間で不正が判明した事情を,調査義務や因果関係の検討で無視しないことを求める。
答案は3月末に調査を始めれば4月末の3000万円を止められたと論じた(番号42)。
詐取総額5000万円との違いも示し,3月末までの支払に含まれる2000万円までDの不作為による損害とするには,通報後の回収可能性等の具体的な事情を要すると留保した(番号43)。
(7) 答案の弱点と扱わなかった事項
報酬の黙示の同意,長期残任期による損害の減額及び流会への規律の適用には,異なる結論を採る余地がある。
答案は一つの立場を理由とともに示したものであり,反対結論を一律に誤答とはしない。
閉鎖会社における特別利害関係の別説は解説で位置付けたが,答案の主位構成には採っていない。
E・Fの刑事責任,第三者に対する取締役責任及び監査役自身の責任は,本問のC・Dの会社に対する責任とは別の問題であり,答案の対象を広げて論じていない。
将来報酬の具体的な減額・控除や,既払金を回収できた可能性についても,問題文にない事実と金額を補って結論を確定していない。
法令の版と確認の範囲は第7に示す。
第6 関連記事
1 同じ年度の司法試験の記事
平成28年の他科目の問題や年度別の公式資料を探す場合は,法務省HPの司法試験・予備試験の資料の所在の年度別一覧を参照できる。
同年度の問題・出題趣旨は,第7の公式PDFからも読むことができる。
2 同じ科目の別の年度の記事
① 令和7年度・民事系第2問の模範解答と評価項目
② 平成29年・民事系第2問の模範解答と評価項目
3 本問の論点に関連する山中弁護士ブログの記事
取締役の報酬の配分を代表取締役に再一任できるかは,総額と個別配分,具体化した報酬の扱いを読む際の関連資料である。
後年の法改正を含む記事のため,本問の試験時の規律と区別して参照する。
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
① 平成28年司法試験・民事系科目の公式問題文――第2問,PDF実頁6〜8。
② 平成28年司法試験・公式の出題趣旨――民事系第2問,PDF実頁7の第2問見出しから9頁末。
③ 平成28年司法試験・民事系の公式採点実感――第2問,PDF実頁11〜19。
2 法令
会社法は,e-Gov法令APIの平成29年4月1日施行版データの該当条文を参照した。
主な条文は,330条,339条,355条,361条,362条,366条,368条,369条,386条,423条及び854条〜856条である。
平成28年法律第62号の制定法律(衆議院)の附則12条で,この改正による会社法の変更が943条1号に係ることを確認した。
ただし,試験実施時の法令本文全体及びその前後の改正履歴を網羅して確認したものではない。
本記事は現在の会社法上の実務を網羅して説明するものではない。
3 裁判例
通知を欠く取締役会決議,解職対象者の特別利害関係,報酬の配分の委任及び具体化した報酬の拘束については,公式の出題趣旨・採点実感が挙げる判例を,裁判所HPの判決全文で確認した。
① 最高裁第三小法廷昭和44年12月2日判決(昭和43年(オ)第1144号,民集23巻12号2396頁)――招集通知を欠いた取締役会決議の効力。
② 最高裁第二小法廷昭和44年3月28日判決(昭和43年(オ)第728号,民集23巻3号645頁)――代表取締役の解任決議と特別利害関係について,議決権の行使の禁止を述べたものであり,審議への参加の可否は判示していない。
③ 最高裁第三小法廷昭和60年3月26日判決(昭和59年(オ)第1100号,集民144号247頁)――報酬総額の決定と具体的な配分の委任を認めた原審の判断を是認した。
④ 最高裁第二小法廷平成4年12月18日判決(平成2年(オ)第1259号,民集46巻9号3006頁)――具体的に定められた報酬額は契約内容となり,職務内容に著しい変更があっても,同意なしには報酬請求権を失わない。
⑤ 最高裁第一小法廷昭和57年1月21日判決(昭和56年(オ)第974号,集民135号77頁)――持病の悪化による代表取締役の交替後の解任につき,正当な事由がないとはいえないとした原審の判断を是認した事例判断であり,「正当な理由」の一般的な定義は示していない。
4 確認状態
上記の問題文,出題趣旨及び採点実感は,記載した第2問の範囲を確認した。
評価項目の切り分け・重み・個別事実への評価及び答案の採用説は,本記事の分析である。
公式資料に書かれている要求,許容される別説及び本記事が補った説明は,第4と第5で区別している。
公式の解答例又は法務省の配点表を掲載したものではない。