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企業のAIガバナンス体制の作り方―責任者,リスク分類,利用承認,監査及び事故対応(AI作成)

第1 AIガバナンスとは

企業でAIを安全に利用するには,「AIの利用を禁止する」又は「利用者の自己責任に任せる」という二択では足らない。
利用目的,データ,出力の影響,外部サービスとの接続及び人による確認の程度に応じて,責任者,承認,監視,事故対応を設計する必要がある。

人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律(令和7年法律第53号)7条は,AIを事業活動で活用しようとする者について,活用による効率化等に努めること及び国等の施策に協力することを定めるが,社内体制の具体的な内容を定めるものではない。
同法13条に基づく適正性確保指針(令和7年12月19日人工知能戦略本部決定)及び総務省・経済産業省の「AI事業者ガイドライン(第1.2版,令和8年3月31日)」は,自主的な取組を促す文書である。
同ガイドラインは,環境・リスク分析,ゴール設定,システムデザイン,運用,評価及び再分析という継続的な取組を示している。
個人情報保護法,著作権法,営業秘密,業法,契約及び海外法制は,利用場面ごとに確認する。

AI事業者ガイドラインは,AIガバナンスを,AIの利活用によって生じるリスクをステークホルダーにとって受容可能な水準で管理しつつ,そこからもたらされる便益を最大化することを目的とする,技術的,組織的及び社会的システムの設計及び運用と定義している。
リスクをゼロにすることではなく,企業の目的との整合も必要である。

同ガイドラインは,事業者をAI開発者,AI提供者及びAI利用者に分けている。
自社が用途ごとにどの立場にあるかで確認事項が変わり,自社サービスにAIを組み込めば提供者を兼ねることがある。

対象は,生成AIのチャットサービスだけではない。
採用・人事評価,信用判断,不正検知,価格設定,広告配信,画像認識,顧客対応,文書作成,プログラム生成,予測モデル及び自律的に外部操作を行うAIエージェントなども含み得る。

第2 AI利用を把握する

1 AI台帳を作る

最初に,社内でどのAIが,何の目的で,どのデータを使い,誰にどのような影響を与えているかを把握する。
法令で様式が定められているものではないが,台帳には,例えば次の事項を記録することが考えられる。

① サービス・モデル・提供者・バージョン
② 利用部門,責任者及び利用目的
③ 入力データと出力データの種類
④ 個人情報,秘密情報及び第三者の著作物の有無
⑤ 外部システム,ファイル,メール,決済等への接続
⑥ 意思決定への利用方法と人による確認
⑦ リスク分類,承認者及び承認条件
⑧ 開始日,次回見直し日,停止条件及び事故履歴

利用ガイドラインが「何をしてよいか」を示す文書であるのに対し,AI台帳は「実際に何を使っているか」を追跡する記録である。
両者を分け,リンクさせると管理しやすくなる。
法律事務所の例は,法律事務所の生成AI利用ガイドラインの作り方で整理している。

2 シャドーAIを前提に確認する

購買記録や正式申請だけでは,個人アカウント,ブラウザー拡張機能,無償サービス及び既存ソフトに追加されたAI機能を把握できないことがある。
アンケート,端末・ネットワークの適法な範囲での確認,経費・契約情報,ヒアリング及び相談しやすい申告制度を組み合わせる。
発見後の初動は,シャドーAIの問題点で整理している。

第3 リスクを分類する

すべてのAI利用に同じ審査を課すと,重要案件に十分な時間を割けない。
企業独自の区分として,例えば低・中・高リスクに分類し,管理の深さを変える方法がある。
これは一例であり,法令上の統一様式ではない。

高リスクとして慎重に扱う要素には,次のものがある。

① 生命・身体,雇用,信用,教育,保険その他の重要な利益に影響する
② 要配慮個人情報,機微な営業秘密又は大量の個人データを扱う
③ 差別,排除,監視又はプロファイリングにつながる可能性がある
④ 誤りが多数の顧客・取引先に波及する
⑤ 外部への送信,公開,契約,支払,削除又はシステム変更を自動実行する
⑥ 結果の理由を検証しにくい
⑦ 第三者の権利を侵害する出力を生む可能性が高い

リスク分類はサービス名だけで決めず,同じサービスでも利用目的,データ,接続権限及び人による確認方法によって変えるべきである。

第4 責任者と意思決定経路を定める

AIガバナンスでは,事業部門,情報システム,情報セキュリティ,法務・コンプライアンス,個人情報保護,人事,内部監査及び経営陣の役割を明確にする。

2026年改訂コーポレートガバナンス・コードの原則4-4は,取締役会が内部統制及び全社的リスク管理体制を適切に整備すべきものとしており,上場会社ではAIのリスクもこの体制の中で位置付ける必要がある。

実務上は,次の分担が考えられる。

① 経営陣・取締役会:基本方針,重大リスクの許容範囲,重要案件及び重大事故の監督
② AI統括責任者又は委員会:基準策定,高リスク案件の判断,部門間調整
③ 利用部門:目的,必要性,業務影響,出力確認及び日常運用
④ 専門部門:セキュリティ,個人情報,知的財産,契約,品質の審査
⑤ 内部監査:仕組みと運用の独立的評価

責任分担表を作るだけでなく,判断が割れた場合の決裁者,緊急停止権限,休日・夜間の連絡経路を決める。

第5 導入・利用承認の手順を設計する

申請書では,目的,期待効果,代替手段,対象者,利用データ,モデル,提供者,接続先,人による確認,想定される誤り,試験結果及び停止方法を確認する。

承認は「許可」又は「不許可」だけでなく,次のような条件付き承認が有用である。

① 個人情報・秘密情報を入力しない
② 対象を社内補助業務に限定する
③ 外部送信前に担当者と上司が確認する
④ 一定期間の試行とし,結果を再審査する
⑤ 特定のモデル・設定・アカウントだけを用いる
⑥ ログを保存し,異常時には直ちに停止する

モデルや利用規約,学習への利用設定,機能及び接続先が変わった場合は,当初承認の前提が維持されているか再審査する。

第6 データと個人情報を管理する

個人情報を含むプロンプトは利用目的の達成に必要な範囲内かを,個人データを含むプロンプトはサービス提供者がそれを機械学習に利用しないこと等を,十分に確認する必要がある。
個人情報保護委員会の注意喚起及び「よくある事例集」に加え,委託,第三者提供,外国への移転,安全管理措置等の該当性を事案ごとに検討する。

営業秘密については,情報の秘密管理性を損なわないよう,入力禁止情報,承認された環境,アクセス権限,ログ及び教育を整える。
第三者の文書・画像・コードを入力又は出力利用する場合は,著作権,契約上の利用制限及び出典確認も必要である。

第7 人による確認と技術的管理を組み合わせる

「人が確認する」と規程に書くだけでは不十分である。
確認者が,何を,どの資料と照合し,どの条件で差戻し又は利用停止するかを決める。

例えば,法令・判例・統計は一次資料と照合し,計算は別手段で再計算し,顧客向け文章は事実関係,差別表現,秘密情報及び権利侵害を確認する。
高い専門性が必要な出力は,適切な能力と権限を持つ者が審査する。

技術的管理としては,アクセス制御,入力制限,出力フィルター,接続先の限定,操作上限,サンドボックス,ログ,異常検知,承認前のシミュレーション及び緊急停止機能などがある。
人による確認と技術的管理を相互に補完させる。

第8 委託先・AIサービス提供者を管理する

導入時には,利用規約と契約を読み,次の点を確認する。

① 入力・出力データの利用目的,保存期間及び削除
② 学習利用の有無と設定
③ セキュリティ,アクセス管理及び再委託
④ データの保存場所と国外移転
⑤ 障害,漏えい,権利侵害等の通知
⑥ モデル・機能・規約の変更通知
⑦ 監査資料,ログ及び説明の提供
⑧ 知的財産権,保証,責任制限及び補償
⑨ 契約終了時のデータ返還・消去

提供者の認証や説明資料は重要であるが,自社の具体的な利用方法の安全性まで当然に保証するものではない。
重要な利用では,変更を継続的に確認し,代替手段や終了計画も用意する。

第9 運用中の監視・監査・教育

AIの性能や利用環境は変化する。
誤り率,差別的な結果,苦情,事故,モデル更新,利用範囲の拡大及び外部環境の変化を監視し,定期的に再評価する。

監査では,規程の有無だけでなく,台帳と実際の利用が一致しているか,承認条件が守られているか,ログが保存されているか,担当者が停止手順を理解しているかを確認する。

教育は,全員共通の基礎教育と,開発者,利用部門,承認者,経営陣,監査担当者向けの役割別教育に分ける。
具体的な事故事例,入力してはいけない情報,出力確認及び相談経路を含める。

第10 インシデント対応と利用停止

事故対応計画には,例えば次の手順を含めることが考えられる。

① 自動処理,外部接続又は利用を停止し,被害拡大を防ぐ。
② ログ,入力,出力,設定,モデル・規約の版及び関係者の記録を保全する。
③ 影響を受ける人,データ,システム,期間及び外部送信先を特定する。
④ 法令上の報告,取引先・顧客への通知,適時開示等を個別に判定する。
⑤ 訂正,削除,回収,説明,補償その他の救済を検討する。
⑥ 原因,承認・監視の不備及び再発防止策を記録する。

法令ごとに報告先,期限及び起算点が異なるため,一つの「事故報告」で済ませず,個人情報,サイバーセキュリティ,業法,契約及び開示の担当者を早期に集める。

第11 生成AI・AIエージェントで特に注意する点

生成AIは,もっともらしい誤情報,出典の誤り,秘密情報の出力,権利侵害などを生じ得る。
重要な判断を出力だけで行わず,根拠資料へのアクセスと検証可能性を確保する。

AIエージェントは,回答を生成するだけでなく,外部サービスとの通信,ファイル操作,メール送信,購入,コード実行等を自律的に行うことがある。
そのため,観測と制御が特に重要である。
AISIの「AIセーフティに関する評価観点ガイド(第1.20版)」は,AIエージェントの評価の観点として観測と制御を挙げる参考資料であり,法令ではない。
最小権限,操作対象の限定,金額・回数上限,段階的承認,実行前プレビュー,ログ,隔離環境,緊急停止及びロールバックの組合せは,本記事の実務上の提案である。

第12 規程・台帳・証拠を整える

実務上,次の文書・記録を分けて管理すると,変更と監査に対応しやすくなる。

① AI基本方針:企業としての原則と経営の責任
② AI利用ガイドライン:利用者向けの許可・禁止・確認事項
③ AI台帳:実際の用途,データ,責任者,承認条件及び見直し日
④ リスク評価・承認記録:判断根拠,試験,条件及び残余リスク
⑤ 委託先評価・契約記録:規約,設定,変更履歴及び証拠
⑥ 監視・監査記録:指標,ログ,苦情,改善措置
⑦ インシデント記録:認知,停止,調査,通知,救済及び再発防止

文書を作った日だけでなく,適用したモデル・サービスの版,承認時の設定及び見直し履歴を残すことが重要である。

第13 まとめ

企業のAIガバナンスは,AI台帳,リスク分類,責任分担,条件付き承認,データ管理,人による確認,技術的管理,委託先管理,監視・監査及び事故対応を一つの循環として運用する取組である。

ガイドラインを写すだけではなく,自社の事業,利用目的,影響を受ける人,データ及び接続権限に応じて具体化し,モデルや環境の変化に合わせて見直す必要がある。

第14 出典

総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン」掲載ページ(経済産業省サイト)
AI事業者ガイドライン(第1.2版,令和8年3月31日)
AIセーフティ・インスティテュート「AIセーフティに関する評価観点ガイド」掲載ページ
個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(令和5年6月2日)
個人情報保護委員会「よくある事例集」ad2-3-3