第1 結論
子会社管理とは,親会社が,企業集団の方針とリスクに応じて,子会社の重要事項を把握し,必要な承認・報告・監査を行う仕組みである。
子会社の数だけで一律に管理方法が決まるものではなく,事業規模,業種,所在国,規制,財務的重要性,保有情報及び不祥事リスクを踏まえて設計する必要がある。
子会社は親会社とは別法人である。
そのため,親会社の事前承認やグループ方針があっても,法律又は定款上必要な子会社の株主総会,取締役会又は取締役の決定を当然に代替するものではない。
親会社は重要事項を把握して企業集団全体を監督し,子会社の役員は子会社のために必要な機関決定と判断を行うという二つの層を区別しなければならない。
実務上は,①管理対象となる子会社とリスクを棚卸しし,②事前承認,事前協議,事後報告及び定期報告を分け,③関係会社管理規程と権限基準に落とし込み,④例外運用を記録し,⑤内部監査その他の独立した確認によって運用を検証することが重要である。
第2 子会社管理の法的な位置付け
1 会社法上の子会社
会社法2条3号は,会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものを子会社と定義する。
会社法施行規則3条1項・3項は,財務及び事業の方針の決定を支配している場合をいうとし,議決権割合が過半数である場合のほか,40%以上(又は緊密な者等の議決権を合わせて過半数)であって,役員構成,支配契約,資金調達額等の要件に該当する場合を含めて判定する(支配していないことが明らかな場合等を除く。)。
したがって,子会社管理の対象を整理するときは,連結財務諸表上の範囲又は名称だけに依存せず,議決権,役員派遣,資金関係,契約関係及び実質的な意思決定への関与を確認する必要がある。
2 子会社は別法人である
親会社が子会社の全株式を保有していても,子会社は独立した法人である。
取締役会設置会社では,取締役会が業務執行の決定,取締役の職務執行の監督及び代表取締役の選定・解職を行い,重要な財産の処分・譲受け,多額の借財その他の重要な業務執行の決定を取締役へ委任できない(会社法362条2項及び4項)。
取締役会を置かない会社では,原則として取締役が業務を執行する(会社法348条)。
また,子会社の取締役は,法令,定款及び株主総会決議を遵守し,子会社のため忠実に職務を行う義務を負う(会社法355条)。
親会社の指示又は承認があることだけで,子会社役員の善管注意義務又は忠実義務の問題がなくなるわけではない。
3 企業集団の内部統制
大会社である取締役会設置会社の取締役会は,取締役の職務執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備を決定しなければならない(会社法362条4項6号及び5項)。
会社法施行規則100条1項5号は,当該株式会社並びにその親会社及び子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するための体制を掲げ,同号ロは子会社の損失の危険の管理に関する規程その他の体制,同号イは子会社の取締役等から親会社への職務執行の報告に関する体制を定めている。
この規定は,全ての企業集団に同じ承認事項又は同じ組織を要求するものではない。
会社の規模,事業内容,リスク及びグループ構造に応じて,実効性のある仕組みを設計する必要があり,体制の整備を決定した後の運用の監督は,取締役の善管注意義務及び監視義務の問題として求められる。
第3 管理対象とリスクの棚卸し
1 子会社台帳を作る
最初に,子会社ごとに,商号,所在地,事業内容,持株比率,機関設計,役員,従業員数,売上高,総資産,借入・保証,主要許認可,重要契約,個人情報・営業秘密の取扱い,情報システム及び内部監査の状況を一覧化する。
海外子会社については,現地法,外為・制裁,贈収賄,労務,税務及び送金規制も確認する。
台帳は会社の存在を記録するだけの名簿ではない。
承認・報告事項の閾値,監査頻度,担当部門及び有事連絡先を決める基礎資料として更新する必要がある。
2 管理項目を分類する
| 分類 | 主な管理項目 | 典型的な確認資料 |
|---|---|---|
| 経営・機関 | 定款,役員,事業計画,重要な組織変更,株主総会・取締役会 | 議事録,決裁書,事業計画 |
| 財務・資本 | 予算,借入,保証,増減資,配当,資金移動,債権放棄 | 予算書,資金繰り表,契約書 |
| 取引・投資 | 重要契約,M&A,新規事業,固定資産,関連当事者取引 | 契約書,投資審査資料,評価書 |
| 法務・規制 | 訴訟,行政調査,許認可,競争法,個人情報,知的財産 | 当局文書,訴訟記録,法務審査記録 |
| 人事・労務 | 役員人事,重要人材,重大労災,ハラスメント,労使紛争 | 人事決裁,調査報告,労務記録 |
| 危機管理 | 不祥事,事故,情報漏えい,品質問題,災害,事業継続 | 初動報告,証拠保全記録,対策本部記録 |
3 重要性とリスクで濃淡を付ける
全子会社へ同じ承認手続を課すと,重要案件が大量の定型案件に埋もれ,親会社の審査が形式化しやすい。
売上高や金額だけでなく,法令違反時の影響,顧客・取引先への影響,レピュテーション,機密情報,事業継続及び不可逆性を評価して管理の濃淡を付けるべきである。
経済産業省「グループ・ガバナンス・システムに関する実務指針」も,グループ設計を一律に決めるのではなく,各社の事業特性等に応じた管理とモニタリングを重視している。
同指針は法令そのものではなく,実務上の設計を検討するための指針として位置付ける必要がある。
第4 事前承認,協議及び報告の使い分け
1 事前承認事項
親会社の事前承認は,企業集団全体へ重大な影響を及ぼす事項,資本又は信用を大きく拘束する事項,親会社による専門審査が必要な事項及び後から回復しにくい事項に限定するのが基本である。
典型例は,多額の借入・保証,増減資,重要なM&A,大規模投資,重要資産の処分,グループ方針から外れる取引及び重大な関連当事者取引である。
「承認」という名称を用いる場合,誰が何を審査し,どの資料に基づき,どの期限までに回答するかを定める必要がある。
親会社が承認した後も,子会社側で必要な機関決定を省略してはならない。
2 事前協議事項
親会社の知見を利用する必要はあるが,最終決定を子会社へ残すべき事項は事前協議とする。
契約条件の調整,訴訟方針,重要な人事・労務問題,新規事業の法的論点及び情報セキュリティ対策などが考えられる。
協議の結果と採否を記録し,親会社の意見に従わなかったことだけを違反と扱わない。
子会社の事業環境又は現地法令に照らして別の判断をする場合には,その理由と代替措置を残すことが重要である。
3 事後報告・定期報告事項
日常の業務執行,定型的な取引及び即時性を要する対応は,事後報告又は定期報告に適する。
月次の業績・資金繰り,訴訟・事故の推移,内部通報の件数,監査指摘の改善状況,許認可の更新及び主要なリスク指標を定期報告とし,重大な逸脱は臨時報告へ切り替える仕組みにする。
報告項目を増やすだけでは十分ではない。
受領部門,確認期限,追加質問,経営陣へのエスカレーション及び完了確認までを決めなければ,報告が蓄積されるだけで監督につながらない。
第5 承認・報告事項と金額基準
1 金額基準だけに依存しない
承認基準は,絶対額,子会社の売上高・総資産・純資産に対する割合,予算外か否か,契約期間,解約可能性及び法的・社会的影響を組み合わせる。
小額でも,行政処分,個人情報漏えい,贈収賄,競争法違反,重大労災又は重要顧客の信用に関わる事項は即時報告の対象となり得る。
同じ金額基準を全子会社へ適用すると,小規模子会社には過大,大規模子会社には過小となる。
子会社群を複数のリスク区分に分け,区分ごとの閾値を設ける方法が実務的である。
2 累積取引と分割を捕捉する
一件ごとの金額が基準未満でも,同一相手方,同一目的又は一定期間内の一連の取引として重要になることがある。
累積基準を設け,意図的又は結果的な取引分割によって承認を回避できないようにする必要がある。
3 緊急時の事後承認と中止条件
事故対応,資金決済,保全処分その他の緊急時に通常の事前承認が間に合わない場合は,緊急連絡先,暫定権限,事後報告期限及び事後検証を定める。
緊急対応を理由に恒常的な例外運用へ移行してはならない。
事後検証では,緊急性,選択した措置,代替手段,損失回避効果及び再発防止を確認する。
前提が変わった場合又はリスクが許容限度を超えた場合の中止・再承認条件も定めるべきである。
第6 関係会社管理規程と権限基準
1 規程に置く事項
関係会社管理規程には,目的,適用範囲,主管部門,子会社の区分,事前承認・協議・報告事項,提出資料,期限,緊急時の取扱い,記録保存,監査,違反・例外の扱い及び規程改定の責任者を定めることが考えられる。
関係会社管理規程は法令が作成を義務付ける規程ではなく,経産省の指針もベストプラクティスを示すものである。
詳細な金額基準や提出様式は別表に分けると改定しやすい。
主管部門を総務・法務だけに限定せず,財務,経理,人事,情報システム,内部監査その他の専門部門の役割を明確にする。
複数部門が関与する案件では,最終責任者と審査順序を定める必要がある。
2 子会社の機関決定を代替しない
規程には,親会社の承認が,子会社において法律,定款又は社内規程上必要な機関決定を代替しないことを明記するのが安全である。
親会社の承認書と子会社の取締役会議事録等を別に作成し,それぞれの判断主体,検討資料及び理由を残す。
親会社側も,承認を形式的に行うのではなく,企業集団全体への影響,子会社の利益,利益相反,返済可能性,代替案及び反対意見を確認する。
承認権限を持つ以上,実務上は審査と監督の役割を果たす体制が必要である。
3 例外運用を記録する
例外には,案件,通常ルール,例外の理由,承認者,期間,代替統制,見直し日及び終了条件を記録する。
例外が反復する場合は,担当者の注意不足だけでなく,基準が実態に合っていないか,承認経路が過度に重いか,特定部署が統制を迂回していないかを点検する。
第7 モニタリングと内部監査
1 日常管理と独立した確認を分ける
子会社の事業部門による管理,親会社の主管・リスク管理部門によるモニタリング及び内部監査による独立した確認は役割が異なる。
内部監査人協会の「3ラインモデル」は,統治機関,経営管理者及び内部監査の役割を組織体一般について整理する専門職上のモデルであり,会社法上の機関又は法定義務を直接定めるものではない。
上記の親子会社への当てはめは,本記事の整理である。
2 内部監査の範囲
内部監査では,規程の有無だけでなく,承認前の実質的審査,必要資料,期限,累積取引,例外記録,指摘後の改善及び現地での運用を確認する。
高リスク子会社は定期監査,低リスク子会社はテーマ監査又は自己点検を組み合わせるなど,リスクに応じて頻度を変える。
親会社の内部監査部門が子会社を監査する根拠,資料アクセス,現地法上の制約,監査結果の報告先及び是正期限を規程・契約・子会社側規程で整える必要がある。
3 取締役会等への報告
取締役会等への報告では,報告件数だけでなく,重大案件,期限超過,例外運用,未改善の監査指摘,内部通報の傾向及びリスク区分の変更を示す。
報告を受けた側が追加調査,改善命令,資源配分又は管理方法の変更を判断できる内容にする。
第8 親会社取締役の責任と裁判例
1 最高裁平成21年7月9日判決
最高裁平成21年7月9日第一小法廷判決(平成20年(受)第1602号)は,親子会社の事案ではなく,従業員らの架空売上げの計上の発覚により株価下落の損害を受けた株主が,会社に会社法350条の損害賠償を求めた事案である。
同判決は,通常想定される架空売上げの計上等の不正行為を防止し得る程度の管理体制が整えられ,不正が通常容易に想定し難い方法によるものであった事案において,代表取締役に,不正行為を防止するためのリスク管理体制を構築すべき義務に違反した過失があるとはいえないとした。
同判決は,不正が生じたことから直ちに過失を認めたものではなく,通常想定される不正を防止し得る体制の有無,不正の発生を予見すべき特別な事情の有無及びリスク管理体制の機能状況を検討したものと理解できる。
2 岡山地裁平成30年9月12日判決
岡山地裁平成30年9月12日判決(平成27年(ワ)第1087号)は,子会社の個人情報漏えいをめぐり,親会社取締役の責任が争われた株主代表訴訟である。
同判決は,子会社の個人データ管理は第1次的には子会社の取締役会が決定・実行すべき事項であるとしつつ,親会社取締役にどのような具体的義務があり,何に違反したかを原告が具体的に主張すべきであるとした。
その上で,原告の主張責任が果たされていないとして,請求を棄却した。
同判決は主張責任を理由に請求を棄却したものであり,親会社の管理内容や記録の要否を判断したものではない。
もっとも,実務上は,親会社が子会社について何を定め,どの報告を受け,どの兆候に対応したかを記録しておくことが,取締役の対応を説明する資料となる。
他方で,同判決は,あらゆる子会社不祥事について親会社取締役が責任を負わないとしたものでも,具体的な子会社管理基準を一律に示したものでもない。
3 責任判断と実務設計を分ける
裁判例は個別事案の組織,情報,予見可能性,損失及び取締役の行動を前提に責任を判断する。
裁判例から承認事項の一覧や金額基準が直接導かれるわけではない。
法令と裁判例で最低限の責任構造を確認し,経産省指針その他の実務資料を用いて自社の仕組みを設計するという順序が必要である。
第9 導入及び見直しの手順
1 現状を可視化する
子会社台帳,既存規程,権限基準,報告様式,取締役会議事録,内部監査報告及び過去の不祥事・例外案件を収集する。
規程に書かれた運用と実際の連絡・承認経路が一致しているかをヒアリングとサンプル案件で確認する。
2 リスク区分と管理類型を決める
子会社をリスク区分し,各区分について,事前承認,協議,臨時報告,定期報告及び監査の組合せを決める。
重要子会社であっても全事項を親会社承認にするのではなく,子会社側の迅速な業務執行と親会社の監督が両立するようにする。
3 試行して見直す
規程を公布する前に,過去案件へ新基準を当て,承認件数,審査負荷,見落とし,重複及び緊急案件への対応可能性を試算する。
導入後は,少なくとも一定期間ごとに,承認件数,差戻し理由,期限超過,例外,監査指摘及び重大事案を基に閾値と手続を見直す。
第10 実務チェックリスト
①子会社の範囲を議決権だけでなく実質支配も含めて確認したか。
②各子会社の事業,規制,財務,情報及び不祥事リスクを分類したか。
③事前承認,事前協議,事後報告及び定期報告を区別したか。
④金額だけでなく法令・信用・不可逆性を承認基準へ入れたか。
⑤累積取引と取引分割を捕捉できるか。
⑥親会社の承認後も子会社の機関決定を行うことを明記したか。
⑦緊急時の暫定権限,事後報告期限及び中止条件があるか。
⑧例外の理由,期間,代替統制及び終了条件を記録するか。
⑨報告を受ける部門とエスカレーション先が明確か。
⑩内部監査の権限,頻度,報告先及び改善確認が定められているか。
⑪海外子会社について現地法と資料アクセスの制約を確認したか。
⑫規程の運用実績を基に閾値と手続を定期的に見直しているか。
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第12 出典・参考資料
1 法令
会社法2条3号,348条,350条,355条,362条2項・4項(6号を含む。)・5項
会社法施行規則3条3項,100条1項5号