第1 試し出勤とは何か
1 結論
本記事でいう試し出勤とは,長期間休業していた社員の円滑な職場復帰を支援するため,正式な復職決定の前に,勤務時間又は勤務日数を短縮して試験的に出勤する会社の自主的な制度である。
法律で全国一律の期間,回数又は合格基準が決められている制度ではない。
会社は,就業規則等の制度根拠と個別の実施計画を整え,本人,主治医,産業医等及び職場の情報を組み合わせて復職可否を判断する必要がある。
正式な復職決定後の短時間勤務,残業制限又は業務軽減は,通常の就労を前提とする復職後の配慮であり,本記事でいう復職前の試し出勤とは区別する。
試し出勤の目的は,社員を一回の出勤で合格又は不合格にすることではない。
通勤を続けられるか,予定時間を安定して過ごせるか,作業後の疲労が翌日までに回復するか,どのような配慮があれば働けるかなど,診察室だけでは分からない具体的な事実を安全に確認することにある。
本記事は,民間企業の私傷病休職からの復職を主な対象とし,令和8年10月30日現在の法令及び公表資料に基づいて,試し出勤の意味,復職までの流れ,期間,給与及び復職判断の基準を説明する。
2 通勤訓練及び模擬出勤との違い
厚生労働省の職場復帰支援の手引きは,正式な職場復帰決定前の取組を,①図書館やデイケア等で軽作業を行う模擬出勤,②自宅から職場付近まで移動して帰宅する通勤訓練,③本来の職場等へ試験的に継続して出勤する試し出勤に分けている。
この手引きは心の健康問題により休業した労働者を対象とする資料である。
他の私傷病については,令和8年の治療と就業の両立支援指針を基本とし,症状,治療,職務及び安全上の特性に応じて,この三分類及び復職支援の手順を参考にする。
通勤訓練は,決めた時刻に起きて通勤経路を移動できるかを確認する方法であり,通常は会社の仕事をしない。
職場での試し出勤では,滞在時間,行う活動,指揮命令の有無及び会社が成果を利用するかを明確にしなければならない。
名称が「リハビリ出勤」又は「慣らし勤務」であっても,実際の取扱いは内容に即して判断される。
第2 試し出勤から復職までの流れ
1 本人の申出と主治医の情報
令和8年4月1日から適用された厚生労働省の「治療と就業の両立支援指針」は,治療と就業の両立支援を,本人から支援を求める申出があったことを端緒に進めることを基本としている。
本人は,会社から職務内容や勤務条件の情報を受け,主治医に,現在の症状,治療予定,通勤及び業務に影響する症状や副作用,就業の可否並びに望ましい配慮について意見を求める。
主治医の「復職可能」という一文だけでは,具体的な職務に耐えられるかを判断できないことがある。
会社は,予定する勤務時間,作業内容,出張,夜勤,運転,危険作業等を主治医に伝え,どの活動を避けるべきか,制限をどのくらい続けるか,再評価時期はいつかを確認するのが望ましい。
2 会社が実施の可否と計画を決める
会社は,主治医の意見,本人の希望,産業医等の意見及び職場の状況を踏まえ,試し出勤を実施するかを決める。
全ての休職者に試し出勤を義務付けるのではなく,何を確認する必要があり,試し出勤によってその不確実性を減らせるかを検討する。
実施する場合は,開始前に,①目的,②休職中か正式復職後か,③開始日及び終了予定日,④出勤日,時間及び場所,⑤行う活動と禁止する業務,⑥給与及び交通費,⑦事故時の対応,⑧健康情報を扱う者,⑨中止・変更基準,⑩評価日及び復職判断の手続を文書にするのが望ましい。
3 実施中の記録と見直し
実施中は,「意欲がない」「問題行動があった」といった評価語ではなく,到着時刻,滞在時間,行った活動,休憩,症状,作業後及び翌日の回復状況等の事実を記録する。
体調が悪化した場合は,直ちに失敗と扱わず,計画どおり中止又は負荷を下げ,原因と再実施の可否を検討する。
4 復職の判断と復職後の支援
試し出勤が終わったら,会社は,その記録だけでなく,本人の自己評価,主治医及び産業医等の意見,予定する職務,配置可能性並びに必要な配慮を合わせて復職可否を判断する。
復職後に短時間勤務,残業制限,出張制限又は業務軽減を行う場合は,その内容,期間,賃金及び再評価日を職場復帰支援プランに定める。
第3 試し出勤の期間と進め方
1 一律の法定期間はない
試し出勤について,「必ず2週間」又は「1か月できれば復職可能」といった全国共通の法定期間はない。
必要な期間は,休職期間,症状の変動,通勤時間,職務の負荷,安全上の危険及び確認したい事項によって異なる。
厚生労働省の職場復帰支援の手引きは,正式な復職決定前の試し出勤を,目的を達成するために必要な時間帯,態様,時期及び期間に限り,いたずらに長期にわたることを避けるよう求めている。
したがって,会社は最初から終了予定日と評価日を定め,漫然と延長しないことが重要である。
2 段階的に負荷を上げる場合
段階的な計画では,例えば,通勤訓練,短時間の職場滞在,軽い模擬課題,復職後に近い時間帯・活動という順に負荷を上げることが考えられる。
ただし,単に滞在時間だけを延ばすのでは足りない。
復職後に必要な注意力,対人対応,身体負荷又は安全判断をどの段階で確認するかを決め,症状又は疲労が増えた場合の停止条件も置く必要がある。
第4 試し出勤中の給与,労災及び傷病手当金
1 給与は名称ではなく実態で決まる
試し出勤中に給与が必要かは,「試し出勤」という名称だけでは決まらない。
会社の指揮命令により通常業務の一部を行い,会社が成果を利用するなど,労務を提供したと評価される時間については,賃金の支払が必要となる。
無給の訓練として行うのであれば,会社の利益となる仕事をさせず,実施計画と実際の運用を一致させる必要がある。
給与・最低賃金の詳しい検討は,「休職中の試し出勤制度―給与・最低賃金,労災・通勤災害及び傷病手当金の取扱い(AI作成)」で説明している。
2 労災と傷病手当金も個別に確認する
試し出勤中の事故が労災保険の対象となるかも,業務性,会社の管理状況及び実際の活動によって判断が分かれる。
傷病手当金についても,出勤した事実だけで直ちに結論が決まるものではなく,療養のため労務不能であるか,報酬が支払われたかを保険者が個別に判断する。
開始前に,会社の勤怠・給与処理と申請書への記載方法を確認し,不明な点は加入する健康保険の保険者に問い合わせるのが安全である。
第5 復職判断で確認する基準
1 一回の成功又は中止だけで決めない
試し出勤に一度参加できたことは,通常勤務を継続できることの十分な証明ではない。
反対に,体調不良で一度中止し,又は予定時間を完了できなかったことだけで,直ちに復職不可となるわけでもない。
会社は,確認したい事項,結果,結果が生じた理由,条件変更又は代替資料による確認の余地を検討する必要がある。
試し出勤を拒否・中止した場合の詳しい考え方は,「試し出勤を拒否・中止・失敗した社員の復職可否-協力義務,判断資料及び休職期間満了(AI作成)」で説明している。
2 疾患名ではなく機能と職務を照合する
復職判断では,診断名だけでなく,症状,治療の副作用,日内・日間の変動,通勤可能性,集中力,対人対応,身体負荷,危険作業及び翌日までの回復を確認する。
同じ疾患でも職務が違えば必要な能力は異なり,同じ職種名でも実際の業務負荷は異なる。
疾患及び職務ごとの試し出勤の有効性は,「試し出勤が有効な場合と有効でない場合-疾患別・職種別の復職判断(AI作成)」で説明している。
3 必要な配慮を含めて判断する
復職可能性は,配慮のない通常勤務を直ちに行えるかだけで判断するものではない。
主治医及び産業医等の意見を踏まえ,勤務時間の短縮,作業の転換,深夜業・出張・残業の制限,休憩場所の確保等により,安全に就業できるかを検討する。
もっとも,会社が現実に行える配慮と,雇用契約上予定された職務の範囲も確認する必要がある。
第6 よくある質問
1 試し出勤は復職扱いですか
一律には決まらず,就業規則,会社の復職決定,個別の実施計画及び実際の活動を確認する必要がある。
本記事では,正式な復職決定前の試験的な出勤を試し出勤と呼び,復職後の短時間勤務等とは区別している。
会社は,開始前に休職中か正式復職後かを明示し,給与,勤怠,社会保険及び復職判断の手続と矛盾しない取扱いを定めるのが望ましい。
2 試し出勤は必ずしなければなりませんか
試し出勤は法律上,全ての休職者に一律に義務付けられた制度ではない。
就業規則等の根拠,試し出勤で確認する必要性,計画の合理性及び本人の事情を確認する必要がある。
参加が難しい場合も,理由を説明し,通勤訓練,診断書の補充,面談その他の代替資料で判断できないかを協議することが望ましい。
3 主治医が復職可能と書けば会社は復職させなければなりませんか
主治医の意見は重要であるが,主治医が具体的な職務内容を十分に把握していない場合もある。
会社は,主治医の意見を尊重しつつ,産業医等の意見,職務内容,試し出勤の記録及び必要な配慮を合わせて判断する。
4 試し出勤は何日できれば合格ですか
全国共通の日数又は合格基準はない。
通勤の継続性,予定時間中の安定性,必要な作業能力及び翌日の回復等,計画で定めた確認事項に応じて評価する。
5 試し出勤中は無給ですか
一律に無給とはいえない。
会社の指揮命令下で実作業を行う場合は賃金の支払が必要となるため,開始前に活動内容,給与,交通費及び勤怠処理を文書で確認する必要がある。
6 試し出勤に失敗すると退職になりますか
予定を完了できなかったことだけで,自動的に退職になるわけではない。
休職期間満了による雇用終了の可否は,就業規則,休職期間満了時の回復状況,配置及び配慮の可能性並びに会社の判断手続に即して別に検討される。
第7 開始前の確認項目
試し出勤を開始する前に,会社と社員は,少なくとも次の事項を確認するのが望ましい。
①試し出勤で何を確認するか
②休職中か正式復職後か
③期間,日数,時間,場所及び活動内容
④行ってよい作業と禁止する作業
⑤給与,交通費,労災及び傷病手当金の取扱い
⑥体調悪化時の連絡,中止及び受診手順
⑦記録する事実と評価日
⑧主治医,産業医等,人事及び上司の役割
⑨健康情報を共有する範囲
⑩復職可否を誰がどの資料で決めるか
第8 出典・参考資料
1 法令及び指針
・労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律27条の3
・治療と就業の両立支援指針(令和8年厚生労働省告示28号)
2 厚生労働省等の資料
・心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き
・休職と職場復帰支援
・復職前の試し出勤時の労災補償や傷病手当金等の注意点(こころの耳)