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被保佐人の死亡後に元保佐人は入院費・直葬費を支払えるか―相続放棄・債務超過時の対応(AI作成)

被保佐人が死亡した後に入院費や直葬費の請求が届いても,元保佐人が相続財産から直ちに支払えるとは限らない。
成年後見人の死後事務,相続人の相続放棄への影響及び債務超過の相続財産からの支払は,それぞれ別の問題である。
本記事は,令和8年10月26日現在の現行法を基準として,元保佐人が確認すべき権限,原資,債務の性質及び支払の順序を整理するものである。

第1 結論

1 四つの確認を終えるまで支払を保留する

元保佐人が最初に確認すべき事項は,①本人の死亡時に有していた代理権の範囲,②請求された費用の契約者及び発生時期,③相続財産と相続債務の概算額,④相続人の所在及び相続放棄の予定である。
これらを確認しないまま,預貯金から入院費又は直葬費だけを全額支払うことは避けるべきである。

本人の死亡により,保佐人の代理権は消滅する。
元保佐人には民法873条の2が準用されないため,成年後見人と同じ死後事務の権限があるものとして処理することはできない。
元保佐人が死亡後に行動できる余地は,主として民法876条の5第3項が準用する654条の応急処分及び民法697条以下の事務管理によって検討することになる。

2 相続放棄できるかという問題とは分ける

相続人が相続財産から葬儀費用を支払った場合に法定単純承認となるかという問題と,元保佐人がその支払をする権限を有するかという問題は異なる。
大阪高裁平成14年7月3日決定は前者を扱った裁判例であり,元保佐人の権限や,債務超過時にどの債権者へ支払うべきかを判断した裁判例ではない。

第2 成年後見人と保佐人では死亡後の権限が異なる

1 本人の死亡により代理権は消滅する

民法111条1項1号により,代理権は本人の死亡によって消滅する。
本人の生前に財産管理に関する代理権を付与されていた保佐人であっても,死亡後にその代理権をそのまま行使することはできない。

死亡後に必要となる事務は,生前の代理権の延長ではなく,任務終了後の応急処分又は事務管理等の別の根拠に当てはめる必要がある。
生前の代理行為目録は,元保佐人が担当していた事務の範囲を確認する資料になるが,死亡後の包括的な処分権限を新たに生じさせるものではない。

2 民法873条の2は保佐人に準用されない

民法873条の2は,成年被後見人の死亡後に成年後見人が行う保存行為,弁済期が到来した債務の弁済及び家庭裁判所の許可を要する一定の行為を定める。
しかし,保佐人について任務終了後の規定を準用する民法876条の5第3項は,民法873条を掲げる一方で,873条の2を掲げていない。
したがって,元保佐人は,凍結口座からの払戻しについて民法873条の2第3号の許可を申し立てることができない。

成年被後見人の死亡後の事務は成年被後見人が死亡した後に元後見人ができることで扱っているが,その結論を被保佐人の事案へそのまま移すことはできない。

3 応急処分と事務管理の限界

民法876条の5第3項が準用する654条は,任務終了後に急迫の事情があるとき,相続人等が事務を処理できるまで必要な処分をすることを求める。
これは,放置すると本人の財産又は関係者の利益に差し迫った損害が生じる場面のための規定であり,一般的な遺産処理を元保佐人へ委ねる規定ではない。

民法697条以下の事務管理による場合も,事務の性質に従い,最も本人の利益に適合する方法で管理しなければならず,本人の意思が知れているときはその意思に従う必要がある。
死亡後の事務では,相続人全体の利益,債権者との関係及び相続財産の状態を確認し,元保佐人の便宜だけで支払先を選ばないことが重要である。

第3 最後の入院費を支払う前に確認すること

1 誰の債務であるか

死亡前の診療に関する入院費は,通常は本人が生前に負った債務であり,相続財産に属する債務となる。
ただし,請求書の宛名だけで判断せず,診療契約の当事者,連帯保証人又は身元引受人の有無,請求期間,保険給付及び預り金の精算を確認する必要がある。

本人の死亡後に追加された個室料,遺体搬送費,遺品処理費その他の費目があれば,死亡前の診療債務と同じ契約に基づくかを分ける。
請求額に疑義があるときは,請求の内訳と根拠を取得し,債務の存在及び額を確定できるまで支払わない。

2 弁済期が来ていても元保佐人の支払権限は別問題である

成年後見人については,民法873条の2第2号が,弁済期の到来した相続財産に属する債務の弁済を定めている。
しかし,この規定が元保佐人に準用されない以上,入院費であること又は弁済期が来ていることだけで,元保佐人の支払権限が認められるわけではない。

急迫の事情があるか,相続人が処理できるまでの必要な処分か,相続人全体のための事務管理として適切かを具体的に検討する必要がある。
病院が支払を待てないと述べていることだけで,直ちに応急処分の要件が満たされるとは限らない。

3 債務超過の可能性があるときは個別弁済を急がない

相続財産が全債務を弁済するのに足りない可能性があるときは,一つの無担保債権だけを全額支払うと,他の債権者へ配当できる財産を減らすことになる。
元保佐人によるこのような選択的な弁済を直接適法とした公表裁判例は,本記事の調査では確認できていない。

そのため,現預金,不動産その他の積極財産と,入院費,借入金,税金,施設費その他の債務を一覧化し,担保権,優先権,期限及び争いの有無を整理する。
債務超過の可能性を解消できないときは,家庭裁判所への相談,相続財産管理人又は相続財産清算人の選任の要否及び相続人への引継ぎを検討し,元保佐人限りで支払順位を決めないことが安全である。

第4 直葬費を支払う前に確認すること

1 直葬の契約者を確認する

直葬,火葬又は遺体搬送の契約が本人の死亡後に締結された場合,誰が葬祭事業者へ申込みをしたかが重要である。
相続人,親族,病院又は元保佐人が自己の名で契約したのであれば,その契約上の支払義務と,相続財産から最終的に費用を負担できるかは別に検討する必要がある。

請求書の名義,申込書,見積書,火葬許可に関する書類,費用の内訳及び依頼の経緯を保存する。
「最低限の直葬」であることは社会的相当性を判断する事情になるが,契約者,支払権限及び債権者間の公平を確認しなくてよいという意味ではない。

2 大阪高裁平成14年7月3日決定の射程

大阪高裁平成14年7月3日決定(平成14年(ラ)第408号,判例秘書の判例番号 L05720298)は,相続人が被相続人名義の貯金を解約し,葬儀費用等へ支出した後の相続放棄申述を扱った。
同決定は,葬儀が社会的に必要な行為であり,葬儀費用の支出が必ずしも民法921条1号の「相続財産の処分」に当たらないとして,申述を却下した原審判を取り消した。

もっとも,同決定は最高裁判例ではなく,元保佐人の死亡後の権限を判断したものでも,入院費の支払を判断したものでもない。
また,相続放棄の申述受理は,後の訴訟で放棄の実体的な有効性が争われる可能性まで確定するものではない。
したがって,「少額の葬儀費用なら相続財産から支払っても常に相続放棄できる」と一般化することはできない。

相続放棄と葬儀費用の関係は相続開始後の預貯金の払戻しと法定単純承認で,法定単純承認の全体は相続放棄でしてはいけないことで扱っている。

第5 預貯金を支払原資にするときの問題

1 手元現金と凍結口座を分ける

元保佐人が適法に管理していた手元現金がある場合と,死亡後に凍結された本人名義の預貯金を払い戻す場合は,必要となる行為が異なる。
支払自体の根拠が検討できても,そのための払戻し権限が当然に生じるわけではない。

元保佐人が民法873条の2第3号の許可を利用できない場合には,民法897条の2第1項の相続財産の保存に必要な処分として,相続財産管理人の選任その他の処分を申し立てる必要があるかを検討する。
申立ての要否及び具体的な処分は,相続人の状況,預貯金以外の財産,支払の緊急性及び管理費用との均衡に左右される。

2 死亡前の引出しを一般的な解決策にしない

本人の死期が近いことだけを理由として,将来の葬儀費用,入院費又は元保佐人の報酬を一括して引き出しておくことは,通常の解決策にはならない。
生前であれば本人の意思,付与された代理権の範囲,支払の必要性及び家庭裁判所への報告を確認し,死亡後のための包括的な資金確保と生前の具体的な債務弁済を区別する必要がある。

第6 相続人が相続放棄を検討している場合

1 元保佐人が相続放棄の可否を決めるわけではない

相続放棄は,相続人が自己のために相続の開始があったことを知った時から原則として3か月以内に,家庭裁判所へ申述して行う。
元保佐人は,相続財産及び債務の資料,管理していた預貯金,既に行った支払並びに未払請求を整理して相続人へ引き継ぐことになる。

相続人が預金を受け取ることと,相続放棄をすることは両立しない可能性があるため,引継ぎ時には,受領した財産を自己のものとして費消する前に放棄の要否を検討するよう案内する。
ただし,元保佐人が相続人へ特定の選択を強制したり,放棄の有効性を保証したりしない。

2 全員放棄後の不動産は市町村へ自動的に移らない

相続人全員が相続放棄をしても,不動産が直ちに市町村又は国へ移り,管理が自動的に引き継がれるわけではない。
民法940条の保存義務は,相続放棄時にその相続財産を現に占有していた者に限られ,相続人又は相続財産清算人へ引き渡すまで続く。

相続人のあることが明らかでない場合には,利害関係人又は検察官の請求により,家庭裁判所が民法952条の相続財産清算人を選任することがある。
空家等対策の推進に関する特別措置法に基づく市町村の助言,指導,勧告又は措置と,民法上の所有・管理・清算は別の制度である。
相続放棄した空き家の保存と引渡しは相続放棄した家・空き家はどうなるかで扱っている。

第7 元保佐人の確認手順

1 支払前の確認表

確認事項確認する資料支払を止める事情
死亡時の権限審判書,確定証明書,代理行為目録代理権の範囲外又は死亡後の根拠が不明
請求の性質契約書,申込書,請求書,明細書契約者,発生時期又は金額が不明
財産と債務通帳,残高証明,不動産資料,債務一覧債務超過の可能性又は他の債権者が存在
相続人戸籍,連絡記録,放棄申述受理通知書相続人の範囲又は意向が未確認
支払原資手元現金,預貯金,預り金台帳凍結口座からの払戻しが必要
緊急性督促書,期限,財産毀損の危険単なる早期回収の要請にとどまる

2 記録しておく事項

元保佐人は,死亡時の財産目録,通帳の最終記帳,現金出納帳,未払債務一覧,請求書,葬送契約書,相続人への連絡及び家庭裁判所へ相談した内容を一つの時系列にまとめる。
支払った場合は,支払日,金額,原資,法的根拠,緊急性,ほかの債権者への影響及び領収書を記録する。

支払わなかった場合も,請求を放置したのではなく,権限,債務額,債務超過及び相続人の意向を確認するため保留した経過を残す。
相続人又は相続財産管理人・清算人へ引き継ぐときは,原本と写しを区別し,受領書を作成する。

第8 令和8年成年後見制度改正との関係

令和8年法律第45号による改正後の民法876条の26は,改正後の補助人の死後事務を定める。
しかし,同法は令和8年10月26日現在まだ施行されておらず,現時点の被保佐人の死亡後事務には現行法を適用する。

同法附則は,施行日前に開始した保佐を原則として従前の例によるものとしている一方,施行前の補助は施行後の補助とみなす。
施行日が定まり,家庭裁判所の書式及び運用が公表された後は,事件の開始時期と類型を確認して改めて判断する必要がある。

第9 出典・参考資料

1 法令及び公的資料

①e-Gov法令検索・民法(111条,654条,697条,700条,702条,870条,873条の2,876条の5,897条の2,915条,921条,940条及び952条)
②裁判所・成年被後見人死亡後の成年後見人による死後事務の許可
③裁判所・相続財産清算人の選任
④大阪家庭裁判所・成年後見
⑤法務省・民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)について
⑥国土交通省・空家等対策の推進に関する特別措置法関連情報

2 裁判例

大阪高裁平成14年7月3日決定(平成14年(ラ)第408号,判例秘書の判例番号 L05720298)
裁判所ウェブサイトには掲載されていないため,判例秘書で全文を確認した。

3 関連記事

①保佐人・補助人の権限と実務
②成年被後見人が死亡した後に元後見人ができること
③相続開始後の預貯金の払戻しと法定単純承認
④相続放棄でしてはいけないこと
⑤相続放棄した家・空き家はどうなるか