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研修・勉強会・Web学習は労働時間か―厚生労働省の令和8年6月リーフレットの事例と裁判例(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 対象と基準日

会社の研修,終業後の勉強会,eラーニング等のWeb学習,自宅での練習の時間が労働時間に当たるかは,残業代の請求や労働時間の管理でよく問題になる。
厚生労働省は,令和8年6月,研修・教育訓練の時間が労働時間に当たるかについてのリーフレットを2種類作成し,該当する事例と該当しない事例を示した。
本記事は,これらのリーフレット,平成29年の労働時間の把握に関するガイドライン,最高裁判例及び下級審の裁判例から,判断の基準を整理するものである。
基準日は令和8年10月23日である。
条文はe-Gov法令検索で現行の規定を確認し,最高裁判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で,同サイトに掲載のない裁判例は判例秘書で本文を確認した。

2 結論

①労働時間に当たるかは,会社が「自由参加」「自己研鑽」と呼んでいるかではなく,使用者の指揮命令下に置かれていたといえるかで客観的に決まる。
②業務上参加が義務づけられた研修,使用者の指示による業務に必要な学習,所定時間内に行われる教育・訓練は,労働時間に当たる。
③形式上は自由参加でも,不参加が減給の対象になる,参加しないと業務に就けない,正社員登用の要件になっている,日時・参加者を会社が決めてレポートを求め欠席を指導する,といった事情があれば,事実上の強制として労働時間に当たる。
④会社が学習の道具や場所を提供するだけで,受講の指示も試験もなく,人事評価にも反映させていなければ,労働時間に当たらないとされやすい。
⑤会社が奨励したWeb学習について,一審が労働時間と認め,控訴審がこれを否定した裁判例があるとおり,境界の事案では判断が分かれる。
会社は,研修ごとに業務か自由参加かを決めて,あらかじめ労使で確認し,書面にしておくべきである。

第2 労働時間の基準

最高裁平成12年3月9日判決(平成7年(オ)第2029号,民集54巻3号801頁。三菱重工業長崎造船所事件)は,労働基準法上の労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるものではない。」とした。
そして,業務の準備行為等を事業所内で行うことを使用者から「義務付けられ、又はこれを余儀なくされたときは」,特段の事情のない限り,その時間は労働時間に当たるとした。

同じ日に同じ事件について言い渡された最高裁平成12年3月9日判決(平成7年(オ)第2030号,集民197号75頁)は,入退場門と更衣所との間の移動,終業後の洗身・入浴,休憩時間中の作業服等の一部の着脱の時間は,使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できないとして,労働時間に当たらないとした。
義務付けられているか,又は余儀なくされているかが,結論を分けている。

第3 厚生労働省のガイドライン(平成29年)

厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)は,使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たるとし,その例の一つとして,「参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間」を挙げている。
また,労働時間を自己申告させる場合について,休憩や自主的な研修,教育訓練,学習等であるため労働時間ではないと報告されていても,実際には使用者の指示により業務に従事しているなど使用者の指揮命令下に置かれていたと認められる時間は,労働時間として扱わなければならないとしている。

第4 厚生労働省のリーフレット(令和8年6月)

1 2種類のリーフレット

厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署は,令和8年6月,次の2種類のリーフレットを作成した。
①「労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い」(労働基準監督署への問合せが多い事項について,実際の相談事例をもとに解説したもの)
②「「研修・教育訓練」に関する労働時間の考え方」(裁判例等に基づいて事例を紹介したもの)

どちらも,研修・教育訓練について「業務上義務づけられていない自由参加のもの」であれば労働時間に該当しないとしたうえで,「研修・教育訓練への不参加について、就業規則で減給処分の対象とされていたり、不参加によって業務を行うことができなかったりするなど、事実上参加を強制されている場合には、研修・教育訓練であっても労働時間に該当します。」としている。
②は,所定時間内など業務中に行われる教育・訓練は,基本的には労働時間に該当するとしている。

2 労働時間に該当しないとされた事例

①終業後の夜間に行う勉強会で,弁当は提供するが,参加の強制はせず,参加しないことについて不利益な取扱いもしないもの
②労働者が,会社の設備を無償で使用する許可をとったうえで,自ら申し出て,一人で又は先輩社員に依頼し,使用者からの指揮命令を受けることなく勤務時間外に行う訓練
③会社が外国人講師を呼んで開催する任意参加の英会話講習で,英会話が業務と関連しないもの
④始業前又は終業後に会社が練習の場所や道具を貸し出しているが,練習を行うかどうかや練習内容は労働者に委ねられ,使用者が実施状況や内容を確認していない場合(美容室,建設業)
⑤営業時間外にキッチン等を無償で使うのに管理者の許可が必要だが,労働者が自ら先輩に指導を依頼し,自発的に技術の習得に向けて練習していた場合(飲食店)
⑥労働者の自主的なスキルアップのためのweb学習ツールを提供しているが,使用者は受講を指示しておらず,習熟度を測る試験も実施しておらず,受講状況を人事評価に反映させていない場合(情報通信業)
⑦使用者からの指示が一切ない中で,幼稚園教諭が,自発的に自宅で手遊びの知識の習得やピアノの練習をしていた場合(幼稚園)

3 労働時間に該当するとされた事例

①使用者が指定する社外研修について,休日に参加するよう指示され,後日レポートの提出も課されるなど,実質的な業務指示で参加する研修
②自分が担当する業務について,あらかじめ先輩社員の業務を見学しなければ実際の業務に就くことができないとされている場合の業務見学
③自由参加のサークル活動とされた勉強会であるが,使用者があらかじめ参加者・日時・場所を決め,参加後にレポートの提出を求め,遅刻や欠席に指導が行われていた場合(学習塾)
④形式上は自由参加の研修であるが,店舗の商品の説明が主な内容で,受講が正社員になるための要件とされ,参加できるよう使用者がシフトを調整していたなど,事実上参加が強制されていた場合(小売業)
⑤レポートの作成を主な業務とする労働者について,社内のマニュアルで必要な知識・情報の積極的な収集が求められている中,始業前のマーケット情報の収集が使用者に黙示的に容認されていた場合(金融業)

②のリーフレットは,訓練や練習について明示的な指示がなくても,実質的に指示があったとして労働時間に該当すると判断されるケースもあるとしている。

4 あらかじめ労使で確認しておくこと

①のリーフレットは,研修・教育訓練を労働時間に該当しないとする場合には,上司がその研修・教育訓練を行うよう指示しておらず,かつ,開始の時点で本来の業務やそれに不可欠な準備・後処理が終わっていて,労働者がそれらの業務から離れてよいことについて,あらかじめ労使で確認しておくよう求めている。
具体的には,通常の勤務場所とは異なる場所で行うことや,通常の勤務でないことが外形的に見分けられる服装で行うこと等を定め,その取扱いの手続を書面で明確にすることが望ましいとしている。

第5 裁判例

1 Web学習(NTT西日本ほか事件)

大阪地裁平成22年4月23日判決(平成19年(ワ)第9940号ほか,判例秘書の判例番号 L06550528)は,会社が従業員に業務関連の技能を習得させるために奨励したWEB学習について,教材の内容が会社の業務と密接に関連し,原告にもその知識を修得する必要性があったことがうかがわれること,上司がチャレンジシートでWEB学習によるスキルアップを明示的に求めていたこと等から,業務上の指示によるもので労働時間に当たるとした。
この判決は,社員が友人・知人・家族等に会社のグループの商品等を購入してもらう「全社員販売」の時間も労働時間とし,時間外・休日の手当として合計214万円余りと付加金60万円の支払を命じた。

控訴審の大阪高裁平成22年11月19日判決(平成22年(ネ)第1610号,判例秘書の判例番号 L06521068)は,この判断を取り消した。
判決は,会社がIP通信を重視するようになり,従業員にWEB学習等によるスキルアップを推奨していたこと,上司が資格の取得を明示的に求めていたこと,学習の状況が社内のシステムで把握されていたことを認めた。
しかし,WEB学習は,各従業員がその自主的な意思によって作業をすることによってスキルアップを図るものであり,成果を測るには技能試験等を行うしかないが,そのような試験は行われていないとした。
そして,「WEB学習の推奨は,まさに従業員各人に対し自己研鑽するた(ママ)のツールを提供して推奨しているにすぎず,これを業務の指示とみることもできないというべきである。」として,WEB学習の時間を労働時間と認めなかった。

上司が資格の取得を明示的に求めていても労働時間に当たらないとされた点で,会社側に有利な判断であるが,一審は同じ事実から逆の結論を出している。
令和8年6月のリーフレットが,受講の指示がなく,試験もなく,受講状況を人事評価に反映させていないweb学習を「該当しない」事例としているのは,控訴審判決が挙げた事情と重なる。
逆に,受講を指示し,試験を行い,又は受講状況を人事評価に反映させれば,労働時間に当たる方向に傾くと考えられる。

2 美容院の始業前の練習

東京地裁平成21年4月16日判決(平成20年(ワ)第8154号,判例秘書の判例番号 L06430399)は,美容院の店長として勤務していた原告の割増賃金の請求について,営業開始時刻(始業時刻)を一律に原告の労務の提供の開始時刻とし,終業時刻はレジ締めの時刻に15分を加えた時刻を基準として,時間外労働の時間を算定した。
会社は,美容師は技術の研鑽が必要なので営業開始前から店を開放しており,多くの社員が営業開始前に出社して自主的に練習しているが,出社を義務付けていないと主張していた。
リーフレットの美容室の事例(練習の場所を貸すだけで,実施状況や内容を確認しない場合)と同じ型の事案である。

3 教育訓練の命令の限界

教育訓練を命じることができる場合でも,その内容には限界がある。
仙台高裁秋田支部平成4年12月25日判決(平成2年(ネ)第142号,判例秘書の判例番号 L04720448。JR東日本(本荘保線区)事件)は,就業規則に基づいて会社が教育訓練を命じることができることを認めたうえで,「その裁量は無制約なものではなく、その命じ得る教育訓練の時期、内容、方法において労働契約の内容及び教育訓練の目的等に照らして不合理なものであってはならないし、また、その実施に当たっても社員の人格権を不当に侵害する態様のものであってはならないことはいうまでもない。」と述べた。
そして,組合のマーク入りのベルトを着用したことを理由に就業規則の全文の書き写し等を命じた教育訓練を,人格権を侵害する違法なものとした。
最高裁平成8年2月23日判決(平成5年(オ)第502号,判例秘書の判例番号 L05110017)は,この原審の判断を是認して上告を棄却した。

第6 判断の目安

事情労働時間に当たる方向当たらない方向
参加の指示上司・会社が参加や受講を指示している指示がなく,参加するかは本人に委ねられている
不参加の扱い減給・不利益な扱い,業務に就けない,登用の要件不利益な扱いがない
会社の関与日時・参加者を決める,レポートを求める,遅刻・欠席を指導する場所や道具を貸すだけで,内容や実施状況を確認しない
評価受講状況や成果を人事評価に反映させる,試験を行う評価に反映させず,試験もない
内容業務に直接必要な知識・技能(商品の説明,担当業務の見学等)業務と関連しない内容(業務と無関係の英会話等)
時間帯所定時間内,又は業務の前後で本来の業務と区別がない本来の業務が終わり,業務から離れてよいことが明確

一つの事情だけで決まるのではなく,これらを総合して,使用者の指揮命令下に置かれていたといえるかを判断することになる。

第7 生成AIの研修・AIエージェントの作成課題

会社が社員に生成AIの使い方を学ばせ,又はAIエージェントの作成を求める取組も,同じ基準で判断される。
期限と本数を決めて全員に作成を求め,進捗を集計して督促し,評価に反映させる運用であれば,労働時間に当たる方向に傾く。
この問題は,ソフトバンクの「1人100本」の取組を題材に,会社は社員に生成AIの利用・AIエージェントの作成を命じられるか―業務命令の根拠,作成・学習の時間と労働時間,人事評価で整理している。

第8 労働者・会社の対応

1 労働者

研修や学習の時間が労働時間に当たると考える場合は,参加の指示や評価への反映が分かる資料(指示のメール,研修の案内,チャレンジシート,評価の記録)と,実際に要した時間の記録を残しておくことが重要である。
NTT西日本ほか事件では,原告がノートに記載した時間をもとに一審が時間外労働の時間を算定している。
所定労働時間を超える時間が労働時間に当たれば,使用者は,労働基準法37条1項により割増賃金を支払わなければならない。

2 会社

会社は,研修・勉強会・学習ごとに,業務として行わせるのか自由参加にするのかを決め,社員に示しておく必要がある。
業務として行わせるなら,所定時間内に行うか,時間外の分を労働時間として記録して割増賃金を支払う。
自由参加にするなら,不参加による不利益を設けず,受講状況を評価に結び付けず,リーフレットが勧めるように本来の業務と区別できる形で行い,取扱いを書面にしておく。
飲み会や歓送迎会のような職場の行事が業務に当たるかについては,職場の飲み会・歓送迎会・接待は業務か――参加の強制,労働時間,労災及び飲酒の強要で扱っている。

第9 関連記事

①会社は社員に生成AIの利用・AIエージェントの作成を命じられるか―業務命令の根拠,作成・学習の時間と労働時間,人事評価(AI作成)
②職場の飲み会・歓送迎会・接待は業務か――参加の強制,労働時間,労災及び飲酒の強要(AI作成)
③AIで時短した職員を損させない法律事務所の評価制度-隠れた生産性,品質指標及び余力配分(AI作成)
④教育訓練休暇給付金の実務―無給休暇,加入5年以上,就業規則と失業給付への影響(AI作成)
⑤時間外労働,休日労働及び深夜労働と残業代請求(AIリライト)

第10 出典

1 法令

①労働基準法32条・37条(e-Gov法令検索。令和8年10月23日確認)https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049

2 最高裁判例(裁判所ウェブサイト掲載)

①最高裁平成12年3月9日判決(平成7年(オ)第2029号,民集54巻3号801頁)https://www.courts.go.jp/hanrei/52572/detail2/index.html
②最高裁平成12年3月9日判決(平成7年(オ)第2030号,集民197号75頁)https://www.courts.go.jp/hanrei/62775/detail2/index.html

3 裁判例(判例秘書で本文を確認)

①仙台高裁秋田支部平成4年12月25日判決(平成2年(ネ)第142号,判例秘書の判例番号 L04720448)
②最高裁平成8年2月23日判決(平成5年(オ)第502号,判例秘書の判例番号 L05110017)
③東京地裁平成21年4月16日判決(平成20年(ワ)第8154号,判例秘書の判例番号 L06430399)
④大阪地裁平成22年4月23日判決(平成19年(ワ)第9940号ほか,判例秘書の判例番号 L06550528)
⑤大阪高裁平成22年11月19日判決(平成22年(ネ)第1610号,判例秘書の判例番号 L06521068)

4 厚生労働省の資料

①厚生労働省「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月20日策定)https://www.mhlw.go.jp/kinkyu/dl/151106-04.pdf
②厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「労働時間の考え方:「研修・教育訓練」等の取扱い」(令和8年6月)https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001717823.pdf
③厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「「研修・教育訓練」に関する労働時間の考え方」(令和8年6月)https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001717824.pdf
④厚生労働省「労働基準関係リーフレット」https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000056460.html