第1 この記事の対象と結論
本記事は,令和2年司法試験の知的財産法第1問について,法務省の出題の趣旨及び採点実感を基に,模範解答と34項目の評価表を示すものです。
評価項目と5段階の重みは,本記事独自の整理であり,法務省が公表した採点基準や配点ではありません。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 令和2年司法試験・知的財産法第1問(特許法) |
| 基準時 | 2020年8月12日 |
| 公式資料 | 出題の趣旨・採点実感の対象範囲を実読・校正 |
| 評価項目 | 34項目。5段階の重み合計141 |
| 答案の構成 | 設問1⑴・⑵,設問2,設問3 |
| 留意点 | 許容分岐の適用条件を区別。公式配点ではない |
設問1では,査定前の出願人地位の回復と,特許権取得後の第三者保護を分けます。
設問2では,低い発見率,副作用,人体診断方法という三つの事情を,発明該当性と産業利用可能性のどこで評価するかが重要です。
設問3では,FRAND宣言を理由に全ての権利行使を一括して否定せず,差止め,料相当額を超える賠償,料相当額内の賠償を分けて検討します。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
出題の趣旨から,問題の構造,法律構成,効果及び救済を抽出し,採点実感から評価の分かれ目や不十分な答案の特徴を補いました。
各行は,答案の記載から充足を判定できる単位としています。
同じ事項の肯定形とその裏返しの負例は公開表で統合し,37件の内部追跡項目との対応を別途保持しています。
「必須」「高評価」「負例」「許容分岐」という区分と,重みは別の尺度です。
「適用条件:全答案」は判定対象となる範囲を示し,全ての高評価事項を全答案の合格要件とする趣旨ではありません。
特定の構成を採る場合だけ必要な項目を,別の構成の答案へ一律に要求しません。
2 5段階の重み付けの基準
重み5は,採点実感が評価の分かれ目とした事項又は答案の骨格そのものです。
重み4は,出題の趣旨が検討を求め,採点実感も取り上げた事項(高く評価した・多数の答案の不足を指摘した)です。
重み3は,どちらか一方が明示する中核の理由付け,重み2は,一方が軽い表現で触れる補強又は典型的な誤り,重み1は,一方が控えめに触れるだけの事項です。
各段階への件数割当ては行っていません。
「記載なし」は関連範囲を実読した結果を意味し,「間接」は関連記述からの推論を意味します。
未読又は未確認を,低い重みや「記載なし」で埋めてはいません。
第3 本問の概要
1 問題文と事実関係
Xはカプセル内視鏡Lを開発しています。
設問1⑴は,Xが特許を受ける権利をYへ譲渡した後,代金不払いを理由に査定前に契約を解除した場合の出願人地位の回復を扱います。
小問⑵は,Yが特許権を取得してZへ譲渡し,Zが実施利益を得ている状況で,Xが解除した場合を扱います。
Zは譲受け時,Yの債務不履行の事実について善意です。
設問2の診断方法Mは,初期徴候の多様な疾病αを20%の確率で発見できる一方,利用すると下痢等の副作用を必ず生じます。
設問3では,Lの部品に利用されるWの特許Pが規格Sに必須となり,WがFRAND条件で誰にでも許諾する用意を撤回不能の形で宣言しています。
2 設問が求めること
各設問は独立し,設問1の二つの小問も独立します。
Xの出願人地位の回復,XからZへの法律上の請求,Mの発明該当性及び産業利用可能性,WからXへの差止め及び損害賠償を,それぞれの到達点とします。
設問1⑵の異なる制度構成を比較する要求と,設問3の二つの救済を区別する要求を落とさないことが重要です。
基準時は試験実施日の2020年8月12日です。
問題文にないZの移転登録やXの具体的な許諾意思・交渉態度は,必要な前提を明示し,又は場合を分けます。
原事件の外国準拠法,契約文言,互恵条件及び具体的な交渉経緯を,本問の事実として補いません。
第4 評価項目と重み
1 設問1⑴
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 【必須】譲渡契約解除の遡及効と民法545条1項本文の原状回復を出願上の権利復帰へ接続する。(適用条件:全答案) | 5 | PDF p30:回復義務 | PDF p24:解除に遡及効 |
| 2 | 【必須】特許庁長官への出願人名義変更届を特許法34条4項の具体的手段として示す。(適用条件:全答案) | 4 | PDF p30:出願人名義変更 | PDF p27:特許庁長官への届出 |
| 3 | 【高評価】Yの協力がなければXの特許を受ける権利の確認訴訟をYに提起し、勝訴確定判決を添えて単独で名義変更する経路とその理由を示す。(適用条件:全答案) | 5 | PDF p30:確認を求める訴訟 | PDF p27:確認判決が必要 |
| 4 | 【負例】Yが既に出願人である与件から承継届出済みを前提とし、当初の届出欠缺を作ってXから未移転と扱わない。(適用条件:全答案) | 2 | 記載なし(第1問関連範囲実読済み) | PDF p27:届出が既に行われている |
2 設問1⑵
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 5 | 【高評価】74条の特例と545条の解除前第三者保護を対比し、自己の依拠する制度が優先する理由を示す。(適用条件:全答案) | 5 | PDF p31:自己の立場を明らか | PDF p27:説得的な論証 |
| 6 | 【許容分岐】特許法ルートでは解除の遡及効から123条1項6号の冒認に接続し、現在の権利者Zに74条1項の移転を請求する構成を示す。(適用条件:74条ルートを採用又は比較対象として論じる場合) | 4 | PDF p30:冒認 | PDF p27:特許を受ける権利を有する者 |
| 7 | 【許容分岐】民法ルートでは545条1項本文・ただし書を特定局面の優先規律とし、Zが解除前第三者として移転登録を経た場合に移転請求を否定する。(適用条件:545条ルートを採用又は比較対象として論じる場合) | 4 | PDF p31:移転登録を既に経ていれば | PDF p24:保護されるための要件 |
| 8 | 【高評価】545条の善意・権利保全と79条の2の善意実施・有償実施継続との要件・効果の差を具体的に比較する。(適用条件:両制度を比較する場合) | 4 | PDF p30:有償の法定通常実施権 | PDF p27:要件・効果の差異 |
| 9 | 【高評価】74条の移転を認める枝で、善意Zの79条の2第1項の通常実施権と同2項の相当対価を示す。 移転否定枝で適用しない。(適用条件:74条移転認容枝(採用又は比較)) | 5 | PDF p30:法第79条の2各項 | PDF p27:有償の法定通常実施権 |
| 10 | 【負例】解除前第三者の問題を、解除後の二重譲渡の対抗問題へ無説明に置き換えない。(適用条件:全答案) | 2 | 記載なし(第1問関連範囲実読済み) | PDF p27:権利の二重譲渡状態 |
3 設問2
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 11 | 【必須】2条1項の定義を示し、自然法則利用に必要な反復可能性は必ずしも高確率を要しないという黄桃判決の規範を示す。(適用条件:全答案) | 5 | PDF p31:反復可能性 | PDF p24:高確率である必要はない |
| 12 | 【高評価】植物育種の特性を前提とする黄桃判決の規範を、人の疾病の診断へ及ぼせる理由と限界を示す。(適用条件:全答案) | 4 | PDF p31:同様の規範が妥当するか | PDF p24:特性に鑑みて |
| 13 | 【必須】20%の発見率と初期徴候の多様性を評価し、規範をMの反復実施・同一結果に具体的に当てはめる。(適用条件:全答案) | 4 | PDF p31:20%の発症発見確率 | PDF p24:適切に当てはめた |
| 14 | 【高評価】有用な技術の創出という法目的と今後の改良発明の可能性を踏まえ、低確率技術の特許保護の理由を示す。(適用条件:全答案) | 4 | PDF p31:改良発明 | PDF p24:今後の改良発明の可能性 |
| 15 | 【必須】副作用の問題を未完成発明か産業利用可能性かに位置付け、両要件を区別して規範と当てはめを示す。 低確率・副作用を高度性へ安易に分類しない。(適用条件:全答案) | 5 | PDF p31:産業利用可能性 | PDF p25:完成の有無 |
| 16 | 【高評価】エネルギー発生装置事件・紙幣パンチ孔事件等の関連判例を、危険・弊害と発明完成又は産業利用可能性を区別する役割で用いる。(適用条件:全答案) | 4 | PDF p31:エネルギー発生装置事件 | PDF p25:紙幣パンチ孔事件 |
| 17 | 【高評価】弊害は他の現在又は将来技術で回避し得ることを踏まえ、副作用必発でも保護を認める構成又は反対構成を理由付きで示す。(適用条件:副作用の肯否両構成における理由の検討) | 4 | PDF p31:別の | PDF p25:別の技術によって回避 |
| 18 | 【必須】Mが人体診断方法であり、医師の特許侵害責任を免除する明文制度を欠くため29条1項柱書の産業利用可能性が問題となることを示す。(適用条件:全答案) | 5 | PDF p31:明文措置を欠く | PDF p25:特許法上の制度を欠く |
| 19 | 【高評価】東京高判平成14年4月11日の医療方法除外の立場とその是非を検討し、採る規範をMに当てはめる。(適用条件:全答案) | 4 | PDF p31:東京高判平成14年4月11日 | PDF p25:その是非を検討 |
| 20 | 【高評価】医療方法を広く非特許とする川上規制に対する、医療も産業であること及び医薬・医療機器が特許対象となることとの整合性からの批判を検討する。(適用条件:全答案) | 4 | PDF p31:いわゆる川上規制 | PDF p25:いわゆる川上規制 |
| 21 | 【高評価】医療行為の研究開発を促す必要も踏まえて、除外又は肯定を理由付きで選択する。(適用条件:全答案) | 4 | PDF p31:促す必要性 | PDF p25:研究開発を促す必要性 |
4 設問3
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 22 | 【必須】Pを利用した部品を内蔵するLのXによる製造販売が、Pの業としての実施であることを68条本文に接続する。(適用条件:全答案) | 4 | PDF p31:業としての実施 | PDF p25:同法第68条本文 |
| 23 | 【高評価】WがPの規格必須化により広範な実施・利益を得ることを権利行使制限の検討へ用いる。(適用条件:全答案) | 3 | 間接(PDF p31〜32の先例・権利濫用検討指示。具体的利害命題は記載なし) | PDF p25:多くの者に実施される |
| 24 | 【必須】XがWのFRAND宣言を前提にLを製造販売しているという利害・信頼を、権利行使制限の検討へ結び付ける。(適用条件:全答案) | 3 | 間接(PDF p31〜32の先例・権利濫用検討指示。具体的利害命題は記載なし) | PDF p25:本件宣言を前提に |
| 25 | 【必須】大合議と同じ構成を採るなら宣言だけで実施許諾の抗弁を認めず、契約効果と権利濫用を理由付きで区別する。 宣言だけから当然に全権利行使不可としない。(適用条件:大合議の構成を採る場合) | 4 | PDF p31:抗弁を否定しつつ | PDF p25:実施許諾 |
| 26 | 【必須】差止めではXがFRAND条件で許諾を受ける意思を有するとき、民法1条3項の権利濫用によりWの請求を制限する。(適用条件:権利濫用構成) | 5 | PDF p32:ライセンスを受ける意思 | PDF p28:意思があるかどうか |
| 27 | 【高評価】Xの許諾意思の有無を場合分けし、意思がない枝では差止めを認めるなど、各枝を理由付き結論まで示す。(適用条件:権利濫用構成) | 5 | PDF p32:意思を有するとき | PDF p28:それぞれを場合分けし |
| 28 | 【必須】FRAND料相当額を超える賠償請求は原則として制限されることと、その信頼・普及等の論拠を示す。(適用条件:権利濫用構成) | 5 | PDF p32:相当額を超える | PDF p28:阻まれる論拠 |
| 29 | 【必須】XがFRAND許諾を受ける意思を有しない等の特段の事情がある場合は、料相当額超過請求の制限に例外があることを示す。(適用条件:権利濫用構成) | 4 | PDF p32:特段の事情がない限り | PDF p28:意思があるかどうか |
| 30 | 【必須】FRAND料相当額の範囲内は原則として損害賠償を認める。(適用条件:権利濫用構成) | 5 | PDF p32:損害賠償請求は | PDF p28:認められることを指摘 |
| 31 | 【高評価】料相当額の範囲内でも著しく不公正となる特段の事情があるときは請求を制限する。(適用条件:権利濫用構成) | 5 | PDF p32:著しく不公正 | PDF p28:触れられた答案はほとんどなく |
| 32 | 【必須】差止めと損害賠償を同じ効果として一括せず、それぞれ独立に結論を導く。(適用条件:全答案) | 5 | PDF p32:差止請求 | PDF p28:区別して論じる必要 |
| 33 | 【高評価】アップル対サムスン大合議の立場を正確に示し、その是非を論じて規範を定立し本件事実に適用する。(適用条件:大合議を採用又は比較する場合) | 4 | PDF p32:その当否を論じた後 | PDF p25:裁判例の理解の正確性 |
| 34 | 【許容分岐】宣言を申込み、Xの製造販売を承諾として許諾契約成立を論じる別構成も、根拠と効果を示せば許容される。(適用条件:契約成立説を自説として採る場合) | 2 | 記載なし(第1問関連範囲実読済み) | PDF p28:一定の評価を与えた |
5 重みの分布
| 重み | 項目数 |
|---|---|
| 1 | 0 |
| 2 | 3 |
| 3 | 2 |
| 4 | 16 |
| 5 | 13 |
| 合計 | 34項目・重み合計141 |
公開表の行から,N=n1+n2+n3+n4+n5=34,W=n1+2n2+3n3+4n4+5n5=141となります。
これは公式の点数への換算式ではありません。
採用する法律構成によって適用項目が変わるため,全項目を機械的に書き込むことも答案の目的ではありません。
重み5の項目は,次の13件です。
番号は本記事の公開表の通し番号です。
公開番号1:譲渡契約解除の遡及効と民法545条1項本文の原状回復を出願上の権利復帰へ接続する。
適用条件:全答案。
重み5の理由:解除による権利復帰は査定前の名義回復と登録後の第三者関係の共通の起点であり、採点実感も解除の遡及効への言及を求める。
公開番号3:Yの協力がなければXの特許を受ける権利の確認訴訟をYに提起し、勝訴確定判決を添えて単独で名義変更する経路とその理由を示す。
適用条件:全答案。
重み5の理由:協力しないYを相手に確認判決を得て単独届出へ進む具体的救済経路が、手続を実現できる答案と結論だけの答案を分ける。
公開番号5:74条の特例と545条の解除前第三者保護を対比し、自己の依拠する制度が優先する理由を示す。
適用条件:全答案。
重み5の理由:74条と545条の二つの第三者保護制度を示すだけでなく、優先関係を説得的に論証できるかが採点実感の高評価の分かれ目である。
公開番号9:74条の移転を認める枝で、善意Zの79条の2第1項の通常実施権と同2項の相当対価を示す。
移転否定枝で適用しない。
適用条件:74条移転認容枝(採用又は比較)。
重み5の理由:74条による移転を認める場合の善意Z保護は79条の2の有償通常実施権に具体化され、これを無償又は移転否定の枝で適用すると結論が変わるため中心項目となる。
公開番号11:2条1項の定義を示し、自然法則利用に必要な反復可能性は必ずしも高確率を要しないという黄桃判決の規範を示す。
適用条件:全答案。
重み5の理由:20%という低確率を発明該当性で処理するには自然法則利用と反復可能性の規範が必要であり、定義から本件評価へ進む設問2の骨格となる。
公開番号15:副作用の問題を未完成発明か産業利用可能性かに位置付け、両要件を区別して規範と当てはめを示す。
低確率・副作用を高度性へ安易に分類しない。
適用条件:全答案。
重み5の理由:副作用を未完成発明と産業利用可能性のどちらで処理するかの分類が設問2の結論と論証を左右し、採点実感も二つの考え方の理解を評価する。
公開番号18:Mが人体診断方法であり、医師の特許侵害責任を免除する明文制度を欠くため29条1項柱書の産業利用可能性が問題となることを示す。
適用条件:全答案。
重み5の理由:一般的な医師免責の欠如から医療方法を産業利用可能性で排除する制度上の接続が、医療というラベルだけの答案との差となる。
公開番号26:差止めではXがFRAND条件で許諾を受ける意思を有するとき、民法1条3項の権利濫用によりWの請求を制限する。
適用条件:権利濫用構成。
重み5の理由:受許意思のある相手方への差止めを権利濫用とする規範と理由が、設問3差止請求の中心的判断枠組みである。
公開番号27:Xの許諾意思の有無を場合分けし、意思がない枝では差止めを認めるなど、各枝を理由付き結論まで示す。
適用条件:権利濫用構成。
重み5の理由:問題文にXの受許意思の確定事実がないため、その有無の両枝を閉じることが差止めの条件付き結論を左右する。
公開番号28:FRAND料相当額を超える賠償請求は原則として制限されることと、その信頼・普及等の論拠を示す。
適用条件:権利濫用構成。
重み5の理由:FRAND料相当額を超える損害賠償を原則制限することとその理由が、差止めと区別した金銭請求の中心的判断枠組みである。
公開番号30:FRAND料相当額の範囲内は原則として損害賠償を認める。
適用条件:権利濫用構成。
重み5の理由:金銭請求では宣言後もFRAND対価を確保するという原則が重要であり、差止めの制限を範囲内賠償へそのまま広げないことが中心的区別となる。
公開番号31:料相当額の範囲内でも著しく不公正となる特段の事情があるときは請求を制限する。
適用条件:権利濫用構成。
重み5の理由:料相当額の範囲内でも著しい不公正による例外を残すことが大合議の判断枠組みを正確に示し、一律請求可という答案との評価の分かれ目になる。
公開番号32:差止めと損害賠償を同じ効果として一括せず、それぞれ独立に結論を導く。
適用条件:全答案。
重み5の理由:差止めと二種類の賠償額を別々の原則例外で処理できるかが、宣言により請求が一律制限されるとする答案との評価の分かれ目である。
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
以下は,出題の趣旨及び採点実感の対象範囲を実読・校正した答案です。
設問1⑵では両構成を比較し,主位として民法545条の第三者保護を優先する構成を採ります。
設問2では副作用だけで直ちに保護対象から外さず,人体診断方法の産業利用可能性を最終的に否定します。
設問3では権利濫用の構成を用います。
条文は特記しない限り特許法です。
答案は校正版原稿の末尾改行を含め2402字です。
以下では読みやすさのため句点後にも改行しており,枠外の解説は答案の字数に含めません。
許容される別構成を否定したり,全ての答案に同じ結論を要求したりするものではありません。
2 答案
第1 設問1
1 小問⑴
譲渡契約の解除により,YはXに原状回復義務を負い,特許を受ける権利は遡及的にXに復帰する(民法545条1項本文)。
Yへの承継の届出は既にされているという与件を前提とする。
出願後の権利承継には特許庁長官への届出を要する(特許法34条4項)。
Yが協力しなければ,XはYに対して当該発明につき特許を受ける権利を有する旨の確認訴訟を提起する。
その勝訴確定判決の正本と確定証明書を承継証明として添付し,単独で出願人名義変更届を提出して地位を回復する。
補正・変更がなく,対象発明の同一性にも問題はない。
査定前なので,特許権の移転請求とは区別される。
2 小問⑵
解除の遡及効からYが特許を受ける権利を有しなかったものとすると,冒認に当たり(123条1項6号),Xは現在の特許権者Zに74条1項の移転を請求できるという構成がある。
この場合,Zが冒認該当性を知らず国内で発明実施の事業をしていたなら,移転登録後もその発明・事業目的の範囲で通常実施権を得るが,Xは相当の対価を請求できる(79条の2各項)。
この第三者保護は,特許権自体をZに残すものではない。
他方,契約解除の局面では民法545条の原状回復・第三者保護を74条に優先させる見解がある。
解除前に譲渡目的の権利を基礎として新たな権利を取得した第三者につき,善意で権利保全要件を備えれば保護する。
Zは解除前に特許権を譲り受け,不履行の事実について善意であるから,移転登録を経ていれば,Xの移転請求は認められない。
Zの適法な実施利益もXへ返還する義務はない。
私は後者を採る。
Xが自ら譲渡して正当な出願人地位をYに与えた後の契約解除については,無権原出願の是正という74条の一般制度よりも,解除に特有の取引安全を調整する545条を優先すべきだからである。
有償の実施継続だけを保障する79条の2では,善意で特許権を取得した者の権利そのものへの信頼が失われる。
したがってZが移転登録済みなら,XのZに対する移転・実施利益に係る請求は認められない。
移転を否定するこの枝で79条の2を適用せず,解除前の第三者を二重譲渡の対抗問題として処理しない。
第2 設問2
1 20%の発見率
発明は自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう(2条1項)。
自然法則利用の技術として,当業者が反復実施して同一結果を得られる必要がある。
黄桃の育種増殖法事件は,植物育種の特性と,育種後は従来方法で増殖できることから,高い再現確率まで要求しなかった。
Mは植物育種ではないが,初期徴候の多様な疾病の診断は,個々の患者で常に成功することを要求すれば有用な技術の保護まで失う。
20%でも反復して発見効果を得られ,その公開は改良発明の基礎にもなる。
社会に有用な技術の創出という法目的に照らし,低確率だけで発明該当性を否定すべきでない。
2 副作用
下痢等の必発を高度性の問題とせず,技術の完成又は産業利用可能性の問題として検討する。
危険を除去する技術手段が欠けて目的の技術的効果を得られないなら未完成とする考え方がある一方,技術として完成していても利用に伴う弊害から産業利用可能性を否定する考え方がある。
エネルギー発生装置事件や紙幣パンチ孔事件等も,技術的効果と安全・適法な利用をどの要件で評価するかに関係する。
もっとも,Mの副作用は疾病発見の効果自体を失わせない。
別の現在又は将来の技術で弊害を回避する余地もあり,副作用がある技術を一律に保護対象外とすれば改善を阻害する。
示された下痢等だけから未完成又は産業利用不能と断定せず,この点では両要件を満たすと解する。
3 人体診断方法
しかしMは,人の疾病αの発症の有無を診断する医療方法である。
医療も経済活動であり,医薬・医療機器には特許が認められるのに方法だけを広く排除する川上規制は,医療研究開発を阻害するとの批判がある。
それでも,医師が侵害責任を恐れて必要な診断を控える事態は避けなければならない。
医師の一般的免責を定める明文制度を欠く現行法では,東京高判平成14年4月11日と同様,29条1項柱書の産業利用可能性から除外する解釈が相当である。
Mは単なる機器作動・データ収集でなく疾病判断を含むので,最終的には産業上利用できるものに当たらない。
第3 設問3
1 差止め
Pの発明を利用する部品を内蔵したLの製造販売は業としての実施であり,Wは原則として差止めを求め得る(2条3項1号,68条,100条1項)。
宣言は許諾する用意の表明で,当然にWX間の許諾合意を意味しない。
知財高裁平成26年5月16日の大合議と同様,許諾の抗弁は認めず,権利濫用を検討する。
Wは標準化による広範な実施の利益を得る一方,Xは宣言を前提に規格を利用する。
必須特許を回避できないXへの差止めは,不当に高額な条件を迫り,規格普及と信頼を害する。
他方WはFRAND対価を得られる。
そこでXが本件条件で許諾を受ける意思を有することを主張立証すれば,差止請求は民法1条3項の権利濫用となる。
意思がなければ許されるが,その不存在は厳格に認定すべきである。
本問では交渉状況等が不明なので両場合を分ける。
2 損害賠償
損害賠償は差止めと区別する。
Wは民法709条により請求でき,過失は推定される(特許法103条)が,FRAND料相当額を超える部分は,宣言への信頼・規格普及を害するため原則として権利濫用となる。
ただしWが,Xに本件条件で許諾を受ける意思がない等の特段の事情を主張立証した場合は別である。
料相当額の範囲内は発明公開の対価を確保すべく原則として請求できる。
しかしXが宣言・交渉過程等から,その請求さえ著しく不公正となる特段の事情を主張立証した場合は,この部分も制限される。
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 評価項目と答案・解説の対応
| 番号 | 評価項目 | 重み | 答案・解説の対応箇所 | 適用条件 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 譲渡契約解除の遡及効と民法545条1項本文の原状回復を出願上の権利復帰へ接続する。 | 5 | 第1 設問1/1 小問⑴「譲渡契約の解除により,YはXに原状回復義務を負い,特許を受ける権利は遡及的にXに復帰する(民法545条1項本文)。」 | 全答案 |
| 2 | 特許庁長官への出願人名義変更届を特許法34条4項の具体的手段として示す。 | 4 | 第1 設問1/1 小問⑴「出願後の権利承継には特許庁長官への届出を要する(特許法34条4項)。」 | 全答案 |
| 3 | Yの協力がなければXの特許を受ける権利の確認訴訟をYに提起し、勝訴確定判決を添えて単独で名義変更する経路とその理由を示す。 | 5 | 第1 設問1/1 小問⑴「出願後の権利承継には特許庁長官への届出を要する(特許法34条4項)。」 | 全答案 |
| 4 | Yが既に出願人である与件から承継届出済みを前提とし、当初の届出欠缺を作ってXから未移転と扱わない。 | 2 | 第1 設問1/1 小問⑴「譲渡契約の解除により,YはXに原状回復義務を負い,特許を受ける権利は遡及的にXに復帰する(民法545条1項本文)。」 | 全答案 |
| 5 | 74条の特例と545条の解除前第三者保護を対比し、自己の依拠する制度が優先する理由を示す。 | 5 | 第1 設問1/2 小問⑵「解除の遡及効からYが特許を受ける権利を有しなかったものとすると,冒認に当たり(123条1項6号),Xは現在の特許権者Zに74条1項の移転を請求できるという構成がある。」/第1 設問1/2 小問⑵「他方,契約解除の局面では民法545条の原状回復・第三者保護を74条に優先させる見解がある。」/第1 設問1/2 小問⑵「私は後者を採る。」 | 全答案 |
| 6 | 特許法ルートでは解除の遡及効から123条1項6号の冒認に接続し、現在の権利者Zに74条1項の移転を請求する構成を示す。 | 4 | 第1 設問1/2 小問⑵「解除の遡及効からYが特許を受ける権利を有しなかったものとすると,冒認に当たり(123条1項6号),Xは現在の特許権者Zに74条1項の移転を請求できるという構成がある。」 | 74条ルートを採用又は比較対象として論じる場合 |
| 7 | 民法ルートでは545条1項本文・ただし書を特定局面の優先規律とし、Zが解除前第三者として移転登録を経た場合に移転請求を否定する。 | 4 | 第1 設問1/2 小問⑵「他方,契約解除の局面では民法545条の原状回復・第三者保護を74条に優先させる見解がある。」 | 545条ルートを採用又は比較対象として論じる場合 |
| 8 | 545条の善意・権利保全と79条の2の善意実施・有償実施継続との要件・効果の差を具体的に比較する。 | 4 | 第1 設問1/2 小問⑵「解除の遡及効からYが特許を受ける権利を有しなかったものとすると,冒認に当たり(123条1項6号),Xは現在の特許権者Zに74条1項の移転を請求できるという構成がある。」/第1 設問1/2 小問⑵「他方,契約解除の局面では民法545条の原状回復・第三者保護を74条に優先させる見解がある。」/第1 設問1/2 小問⑵「私は後者を採る。」 | 両制度を比較する場合 |
| 9 | 74条の移転を認める枝で、善意Zの79条の2第1項の通常実施権と同2項の相当対価を示す。 移転否定枝で適用しない。 | 5 | 第1 設問1/2 小問⑵「解除の遡及効からYが特許を受ける権利を有しなかったものとすると,冒認に当たり(123条1項6号),Xは現在の特許権者Zに74条1項の移転を請求できるという構成がある。」/第1 設問1/2 小問⑵「私は後者を採る。」 | 74条移転認容枝(採用又は比較) |
| 10 | 解除前第三者の問題を、解除後の二重譲渡の対抗問題へ無説明に置き換えない。 | 2 | 第1 設問1/2 小問⑵「私は後者を採る。」 | 全答案 |
| 11 | 2条1項の定義を示し、自然法則利用に必要な反復可能性は必ずしも高確率を要しないという黄桃判決の規範を示す。 | 5 | 第2 設問2/1 20%の発見率「発明は自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう(2条1項)。」 | 全答案 |
| 12 | 植物育種の特性を前提とする黄桃判決の規範を、人の疾病の診断へ及ぼせる理由と限界を示す。 | 4 | 第2 設問2/1 20%の発見率「黄桃の育種増殖法事件は,植物育種の特性と,育種後は従来方法で増殖できることから,高い再現確率まで要求しなかった。」 | 全答案 |
| 13 | 20%の発見率と初期徴候の多様性を評価し、規範をMの反復実施・同一結果に具体的に当てはめる。 | 4 | 第2 設問2/1 20%の発見率「黄桃の育種増殖法事件は,植物育種の特性と,育種後は従来方法で増殖できることから,高い再現確率まで要求しなかった。」 | 全答案 |
| 14 | 有用な技術の創出という法目的と今後の改良発明の可能性を踏まえ、低確率技術の特許保護の理由を示す。 | 4 | 第2 設問2/1 20%の発見率「黄桃の育種増殖法事件は,植物育種の特性と,育種後は従来方法で増殖できることから,高い再現確率まで要求しなかった。」 | 全答案 |
| 15 | 副作用の問題を未完成発明か産業利用可能性かに位置付け、両要件を区別して規範と当てはめを示す。 低確率・副作用を高度性へ安易に分類しない。 | 5 | 第2 設問2/2 副作用「下痢等の必発を高度性の問題とせず,技術の完成又は産業利用可能性の問題として検討する。」/第2 設問2/2 副作用「もっとも,Mの副作用は疾病発見の効果自体を失わせない。」 | 全答案 |
| 16 | エネルギー発生装置事件・紙幣パンチ孔事件等の関連判例を、危険・弊害と発明完成又は産業利用可能性を区別する役割で用いる。 | 4 | 第2 設問2/2 副作用「下痢等の必発を高度性の問題とせず,技術の完成又は産業利用可能性の問題として検討する。」 | 全答案 |
| 17 | 弊害は他の現在又は将来技術で回避し得ることを踏まえ、副作用必発でも保護を認める構成又は反対構成を理由付きで示す。 | 4 | 第2 設問2/2 副作用「もっとも,Mの副作用は疾病発見の効果自体を失わせない。」 | 副作用の肯否両構成における理由の検討 |
| 18 | Mが人体診断方法であり、医師の特許侵害責任を免除する明文制度を欠くため29条1項柱書の産業利用可能性が問題となることを示す。 | 5 | 第2 設問2/3 人体診断方法「それでも,医師が侵害責任を恐れて必要な診断を控える事態は避けなければならない。」 | 全答案 |
| 19 | 東京高判平成14年4月11日の医療方法除外の立場とその是非を検討し、採る規範をMに当てはめる。 | 4 | 第2 設問2/3 人体診断方法「それでも,医師が侵害責任を恐れて必要な診断を控える事態は避けなければならない。」 | 全答案 |
| 20 | 医療方法を広く非特許とする川上規制に対する、医療も産業であること及び医薬・医療機器が特許対象となることとの整合性からの批判を検討する。 | 4 | 第2 設問2/3 人体診断方法「しかしMは,人の疾病αの発症の有無を診断する医療方法である。」 | 全答案 |
| 21 | 医療行為の研究開発を促す必要も踏まえて、除外又は肯定を理由付きで選択する。 | 4 | 第2 設問2/3 人体診断方法「しかしMは,人の疾病αの発症の有無を診断する医療方法である。」 | 全答案 |
| 22 | Pを利用した部品を内蔵するLのXによる製造販売が、Pの業としての実施であることを68条本文に接続する。 | 4 | 第3 設問3/1 差止め「Pの発明を利用する部品を内蔵したLの製造販売は業としての実施であり,Wは原則として差止めを求め得る(2条3項1号,68条,100条1項)。」 | 全答案 |
| 23 | WがPの規格必須化により広範な実施・利益を得ることを権利行使制限の検討へ用いる。 | 3 | 第3 設問3/1 差止め「Wは標準化による広範な実施の利益を得る一方,Xは宣言を前提に規格を利用する。」 | 全答案 |
| 24 | XがWのFRAND宣言を前提にLを製造販売しているという利害・信頼を、権利行使制限の検討へ結び付ける。 | 3 | 第3 設問3/1 差止め「Wは標準化による広範な実施の利益を得る一方,Xは宣言を前提に規格を利用する。」 | 全答案 |
| 25 | 大合議と同じ構成を採るなら宣言だけで実施許諾の抗弁を認めず、契約効果と権利濫用を理由付きで区別する。 宣言だけから当然に全権利行使不可としない。 | 4 | 第3 設問3/1 差止め「宣言は許諾する用意の表明で,当然にWX間の許諾合意を意味しない。」/第3 設問3/1 差止め「Wは標準化による広範な実施の利益を得る一方,Xは宣言を前提に規格を利用する。」/第3 設問3/2 損害賠償「損害賠償は差止めと区別する。」/第3 設問3/2 損害賠償「料相当額の範囲内は発明公開の対価を確保すべく原則として請求できる。」 | 大合議の構成を採る場合 |
| 26 | 差止めではXがFRAND条件で許諾を受ける意思を有するとき、民法1条3項の権利濫用によりWの請求を制限する。 | 5 | 第3 設問3/1 差止め「Wは標準化による広範な実施の利益を得る一方,Xは宣言を前提に規格を利用する。」 | 権利濫用構成 |
| 27 | Xの許諾意思の有無を場合分けし、意思がない枝では差止めを認めるなど、各枝を理由付き結論まで示す。 | 5 | 第3 設問3/1 差止め「Wは標準化による広範な実施の利益を得る一方,Xは宣言を前提に規格を利用する。」 | 権利濫用構成 |
| 28 | FRAND料相当額を超える賠償請求は原則として制限されることと、その信頼・普及等の論拠を示す。 | 5 | 第3 設問3/2 損害賠償「損害賠償は差止めと区別する。」 | 権利濫用構成 |
| 29 | XがFRAND許諾を受ける意思を有しない等の特段の事情がある場合は、料相当額超過請求の制限に例外があることを示す。 | 4 | 第3 設問3/2 損害賠償「損害賠償は差止めと区別する。」 | 権利濫用構成 |
| 30 | FRAND料相当額の範囲内は原則として損害賠償を認める。 | 5 | 第3 設問3/2 損害賠償「料相当額の範囲内は発明公開の対価を確保すべく原則として請求できる。」 | 権利濫用構成 |
| 31 | 料相当額の範囲内でも著しく不公正となる特段の事情があるときは請求を制限する。 | 5 | 第3 設問3/2 損害賠償「料相当額の範囲内は発明公開の対価を確保すべく原則として請求できる。」 | 権利濫用構成 |
| 32 | 差止めと損害賠償を同じ効果として一括せず、それぞれ独立に結論を導く。 | 5 | 第3 設問3/2 損害賠償「損害賠償は差止めと区別する。」/第3 設問3/2 損害賠償「料相当額の範囲内は発明公開の対価を確保すべく原則として請求できる。」 | 全答案 |
| 33 | アップル対サムスン大合議の立場を正確に示し、その是非を論じて規範を定立し本件事実に適用する。 | 4 | 第3 設問3/1 差止め「宣言は許諾する用意の表明で,当然にWX間の許諾合意を意味しない。」/第3 設問3/1 差止め「Wは標準化による広範な実施の利益を得る一方,Xは宣言を前提に規格を利用する。」/第3 設問3/2 損害賠償「損害賠償は差止めと区別する。」/第3 設問3/2 損害賠償「料相当額の範囲内は発明公開の対価を確保すべく原則として請求できる。」 | 大合議を採用又は比較する場合 |
| 34 | 宣言を申込み、Xの製造販売を承諾として許諾契約成立を論じる別構成も、根拠と効果を示せば許容される。 | 2 | 本答案では不採用。枠外(5)の許容分岐の説明を参照。 | 契約成立説を自説として採る場合 |
(2) 設問1の制度と救済をつなぐ
査定前は,特許権の移転ではなく,特許を受ける権利の確認判決を用いた出願人名義変更まで示します。
登録後は,74条による特許権移転と79条の2による有償の実施継続を,民法545条の第三者保護と対比します。
前者が第三者に残すのは一定範囲の通常実施権であり,後者が保護するのは取得した権利自体であるという違いが,制度選択の理由になります。
完成答案は民法の構成を採っていますが,公式資料は特許法の構成も認めています。
74条の移転を否定した枝で79条の2を適用したり,解除前の第三者の問題を無説明に解除後の二重譲渡へ置き換えたりしないことが必要です。
特許権移転を認める構成では,法定通常実施権の要件と相当対価を詰め,それ以前の実施利益の扱いも時期・権原に即して検討します。
民法の構成で適法な権利取得を認める場合に,Zの利益が当然にXの損失になると扱うことはできません。
(3) 設問2の三つの事情を混同しない
低い発見率は,反復可能性と目的とする技術的効果の問題です。
黄桃判決が高い確率を要求しなかった理由には,植物育種の特性と育種後の増殖可能性があります。
診断方法へ用いるには,多様な初期徴候の下でも有用な発見効果を得ることと,情報の公開が改良発明の基礎になることを示す必要があります。
副作用は,技術として未完成なのか,完成していても産業上利用できないのかを区別します。
完成答案では,発見効果は失われておらず,他の技術で弊害を回避・軽減する余地もあることから,副作用だけで両要件を否定しない構成を採っています。
関連判例の名称を挙げるだけでは,どの要件の理由付けに使うのかが明らかになりません。
人体診断方法については,医療も経済活動であり,医薬・医療機器に特許を認める以上,方法だけを広く除外する制度には批判があります。
それを踏まえてなお,医師の自由な診療を確保する措置を欠く当時法の解釈として産業利用可能性を否定する,という順序で論じています。
単なる機器の作動やデータの収集まで,当然に同じ結論になるものではありません。
(4) 設問3の三つの請求部分と例外
差止めでは,XがFRAND条件で許諾を受ける意思を有する場合と有しない場合を分けます。
本問には交渉の具体的事実がなく,意思を断定することはできません。
原事件の認定をXの事実に置き換えず,主張立証と厳格な意思認定の関係を示します。
損害賠償では,料相当額を超える部分は原則として制限され,許諾意思の欠如等の特段の事情をWが主張立証する場合に例外が問題となります。
料相当額内は原則として請求でき,その請求すら著しく不公正となる特段の事情をXが主張立証した場合に制限が問題となります。
両例外は請求部分と主張立証者が異なるため,一つの留保にまとめないことが重要です。
(5) 採らなかった構成と答案の限界
公開番号34の契約成立説は,宣言とXの行為を申込み・承諾として理由付ける場合の許容分岐です。
完成答案は大合議と同じ権利濫用の構成を採るため,この説を自説として展開していません。
また,完成答案の関連判例への言及は圧縮されており,その事案・規範・射程を全て説明したものではありません。
公式資料が当該判例を挙げていることと,原判決を独立に確認したことは,第7のとおり区別しています。
第6 関連記事
1 同じ年度の司法試験の記事
同年度の別問への個別リンクは,本稿には掲載していません。
2 同じ科目の別の年度の記事
3 関連する論点
本問では,譲渡契約の解除と第三者保護,医療方法の特許保護,標準必須特許とFRAND宣言が交差します。
各制度の原資料は第7にまとめています。
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
法務省「令和2年司法試験論文式試験問題・選択科目」知的財産法第1問(PDF18頁)。
https://www.moj.go.jp/content/001326059.pdf
法務省「令和2年司法試験論文式試験問題出題趣旨」知的財産法第1問(PDF30〜32頁の該当部分)。
https://www.moj.go.jp/content/001339369.pdf
法務省「令和2年司法試験の採点実感」選択科目の知的財産法第1問及び関連総論・批評(PDF24〜28頁の関連部分)。
https://www.moj.go.jp/content/001344499.pdf
頁はリンク先PDFの物理頁です。
出題の趣旨は第1問の全文,採点実感は第1問の採点方針及び再出現する批評を含む関連範囲を実読し,第2問固有の記載は評価根拠に用いていません。
2 法令
基準時当時の特許法及び民法を,e-Gov法令APIの2020年4月1日時点の履歴から確認しています。
特許法2条,29条1項柱書,34条,68条,74条,79条の2,100条,103条,123条及び民法1条3項,545条,709条等が関係します。
https://laws.e-gov.go.jp/law/334AC0000000121
https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
現在表示される法令の版と試験時点の版を混同せず,試験後の改正を本問の答案要求へ遡及させません。
3 裁判例
最高裁第三小法廷平成12年2月29日判決(黄桃の育種増殖法,平成10年(行ツ)第19号,民集54巻2号709頁)。
原判決PDF1・3・4頁を実読し,特に3頁の反復可能性の規範と植物育種に関する理由を確認しました。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-52244.pdf
東京高等裁判所平成14年4月11日判決(平成12年(行ケ)第65号)。
原判決PDF5〜6頁を中心に,医療方法の特許性を肯定する議論と,当時法の解釈上の医療行為除外を区別した理由を確認しました。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-11916.pdf
知的財産高等裁判所平成26年5月16日大合議判決(平成25年(ネ)第10043号)及び同日大合議決定(平成25年(ラ)第10007号)。
原文のライセンス契約,差止め及び損害賠償の判断を,それぞれPDF118〜132頁,20〜30頁で確認しました。
https://www.ip.courts.go.jp/vc-files/ip/file/H25ne10043_zen1.pdf
https://www.courts.go.jp/ip/vc-files/ip/file/H25ra10007_zen2.pdf
4 確認状態
確認日は2026年10月18日です。
法務省資料に記載された評価はSource statement,原資料と直接照合した事実はConfirmed,本記事独自の評価単位・重み・診断方法への射程判断はInferenceとして区別しています。
これらは本記事の根拠の状態を表すものであり,公式採点基準の表示ではありません。
エネルギー発生装置事件及び紙幣パンチ孔事件については,公式資料の言及を確認しましたが,本記事では各原判決の独立確認まで完了したものとは扱っていません。
当時の審査基準の細部や全改訂履歴にも一部未確認が残り,これらはUnknownです。
主として関連判例・行政基準の詳細な射程の確認範囲に関わる限界であり,公式資料の対象部分を実読したという状態とは分けています。