第1 最初に確認すること
不動産小口化商品の分配金や償還金が支払われなくなったときは,商品の呼び名だけで回収方法を決めず,契約の種類,債務者,請求できる金銭の内容,支払時期及び回収対象となる財産を順に確認する必要がある。
本稿は,令和8年10月18日を基準として,資料の保存と相談の準備,競売・保全・税務へつなぐ確認事項を説明するものである。
分配停止,行政処分,不動産への差押え及び事業者の倒産は,それぞれ別の出来事である。
一つの出来事だけから,契約の当然終了,全額返還義務,販売会社の賠償責任又は税務上の損失計上を決めることはできない。
国土交通省は,返金交渉等をうたい,別の投資商品の購入や手数料の支払を求める二次被害にも注意を促している。
回収を持ちかける連絡を受けたときは,依頼先と契約内容を確かめ,新たな送金を求められた経緯も保存することが大切である。
第2 消える前に証拠を保存する
1 契約と送金の証拠
契約成立前・成立時に交付された書面,契約約款,申込書,変更合意,出資の受領証,振込記録及び分配金の入金記録を一組にして保存する。
商品の名称・号数,契約日,契約当事者の正式名称,出資額,振込先名義及び実際の入出金日を対応させることが重要である。
複数の商品へ投資している場合は,商品ごとに分け,合計額だけで整理しない。
2 説明と支払停止の経緯
広告,募集ページ,鑑定に関する説明,想定利回り,優先・劣後の条件,運用予定期間及び償還条件の表示を,URLと保存日時が分かる形で保存する。
PDFとしての保存に加え,元の電子ファイル,メール及び添付資料も保管する。
説明会の配布資料,面談や電話の記録,分配停止・償還延期の通知,その後の説明の変更も,日付順に並べる。
現在の募集ページだけを見て,申込み当時も同じ説明だったと扱ってはならない。
事業者の説明,行政庁が認定した事実,裁判所の資料に記載された事実及び報道機関の取材内容は,出所を分けて記録する。
第3 誰に,何を請求するのかを分ける
1 営業者・販売会社・所有者を区別する
営業者,販売会社・代理人,不動産の登記名義人,賃借人及び保証人は,同じ主体とは限らない。
ブランド名やグループ名だけで請求先を選ばず,契約書の当事者表示と登記等で法人を特定する必要がある。
販売に関与した会社が,営業者の返還債務を当然に負うとはいえない。
匿名組合型では,商法536条1項により,匿名組合員の出資は営業者の財産に属する。
対象不動産へ投資したという説明があっても,そのことだけで投資家自身が不動産の共有持分や抵当権を取得したことにはならない。
任意組合型,共有持分を利用する型,信託を利用する型等は,それぞれ契約と権利関係を確認する必要がある。
2 請求の根拠を一つにまとめない
約定の分配金請求,契約終了に伴う出資価額の返還,取消し・解除等に伴う返還及び説明内容を理由とする損害賠償は,根拠も必要な事実も異なる。
同じ送金について複数の構成を検討する場合も,重複して回収できることを意味しない。
取消し・解除や損害賠償の可否は,契約条項,説明の内容・時期,相手方の行為,投資判断との関係,適用法令及び期間制限を個別に検討する必要がある。
行政処分が出たことだけで,すべての投資家について同じ請求が成立するとはいえない。
第4 返還の時期と金額を契約から確認する
1 運用予定期間と支払期限
運用予定期間が1年と表示されていても,その表示だけで1年後に元本全額を支払う約束があるとは限らない。
契約の存続期間,終了事由,不動産売却との関係,中途解約の条件,支払期限及び計算方法を,契約書の文言に沿って確認する必要がある。
一方,予定期間と確定期限が異なることは,事業者が無制限に支払を延期できることを意味しない。
2 優先出資と元本保証
優先・劣後の仕組みは,どの範囲の損失を誰が先に負担し,どの財産を原資として分配するかを定めるものである。
優先出資という名称だけで,元本保証,抵当権又は他の債権者に対する法律上の優先権が付くと判断してはならない。
損失の定義,劣後出資の実在・維持,計算時点,費用の控除及び他の債権との関係を確認する必要がある。
3 金額の意味を混同しない
募集総額,出資総額,不動産の取得代金,鑑定評価額,競売の売却基準価額,実際の売却代金及び投資家への返還原資は,別々の数字である。
比較するときは,金額ごとに対象となる権利,価格時点,算定目的,借入金・税金・費用の扱い及び根拠資料を記録する。
募集総額と売却基準価額の差額だけから,個々の投資家の損害額や回収率を計算することはできない。
第5 競売になっても,売却代金がそのまま投資家へ届くわけではない
1 公告・物件明細書・現況調査報告書・評価書を読み合わせる
公告では事件番号,対象不動産及び売却の日程等を確認し,配当要求の終期は当該事件の公告・記録で別途確認する。
物件明細書では買受人が引き受ける権利や占有関係を,現況調査報告書では現実の利用,契約の記載,関係者の説明及び調査範囲を,評価書では価格時点・評価条件・補正の内容を確認する。
三点セットの記載は資料ごとの目的と調査範囲に即して読む必要があり,すべての私法上の権利関係が確定したことを意味しない。
例えば,物件明細書に買受人へ対抗できる占有権原がないと記載されていても,現実に土地が使われていないことまで意味するわけではない。
駐車場営業,設備の所有・撤去,立入りできなかった部分,越境や隣接建物からの落下物等は,契約・現地・図面と併せて確認する事項である。
2 宗右衛門町の資料から分かる価格の区別
大阪地方裁判所令和8年(ヌ)第123号の評価書では,対象土地について,競売市場修正前の算定額66億1539万1000円に,競売市場修正率0.70等を適用し,売却基準価額を46億3077万円としている。
公告の買受可能価額は37億461万6000円である。
この0.70は当該評価書の補正であり,すべての不動産競売へ一律に適用される法定の割引率ではない。
これらは実際の落札額や売却代金ではない。
令和8年10月18日の時点では,同事件の期間入札と開札は将来の日程であるため,本稿は売却の成否を示すものではない。
3 配当と投資家の回収
売却代金が入っても,執行費用,担保権,租税債権その他の債権の内容,順位及び手続への参加状況を確認しなければ,債権者ごとの配当額は分からない。
また,不動産所有者に対する債権と,別法人である営業者に対する債権は,同一ではない。
営業者側に残る財産と,投資家へ支払われる金額も別途確認する必要がある。
第6 保全・執行では期限と参加資格を確認する
金銭の支払を求める訴訟,財産の処分を防ぐための保全及び回収のための執行は,目的と要件が異なる。
支払の請求だけを続ける間に財産の状態や手続の段階が変わることがあるため,請求の見通しと並行して,保全の必要性,対象財産,担保及び費用を検討することが重要である。
不動産競売の配当要求については,民事執行法51条の資格と,同法87条の配当を受けるべき債権者の範囲を確認する。
差押登記の前後で仮差押えの扱いが異なり,債権の存在を主張するだけで当然に配当へ参加できるわけではない。
対象事件の配当要求の終期を事件記録と公告で確認し,期限までに必要な手続を取れるかを検討する必要がある。
終期を過ぎた場合や,既に仮差押え・担保権の登記がある場合は,その登記時期と債権の内容に即して参加資格を確認する。
一般的な説明だけで「もう何もできない」又は「仮差押えがあれば足りる」と判断せず,売却の進行状況と他の財産への対応も確認する。
請求通知の発送だけで期間制限や手続期限の管理を終えないことが大切である。
第7 税務判断の前に権利の種類を確定する
法人税基本通達9-6-1から9-6-3は,金銭債権の貸倒損失に関する取扱いである。
投資商品の価値が下がったというだけでは,その投資を直ちに金銭債権の貸倒れとして処理できることにはならない。
まず,匿名組合等への出資持分なのか,契約上既に発生した返還請求権なのか,未払分配金請求権なのか,損害賠償請求権なのかを区別する。
返還請求権等を検討するときは,発生原因,発生日,相手方,金額の確定状況,支払期限,担保及び保証の有無を整理する必要がある。
訴訟や配当要求で主張した権利と,税務申告の対象としている権利の対応も確認する。
法人税基本通達9-6-2による事実上の貸倒れでは,債務者の資産状況,支払能力等から全額を回収できないことが明らかになったかが問題となり,担保物がある場合の取扱いも定められている。
競売開始や売却基準価額の公表だけから,その年の全額貸倒れを決めることはできない。
配当見込み,確定した配当額,その他の資産・保証及び回収経過を確認し,どの事業年度の判断資料になるかを検討する必要がある。
個人の所得税,法人の出資持分の処理及び消費税は,金銭債権に関する上記の法人税の取扱いをそのまま当てはめて結論を出さない。
税理士へは,契約書,送金・入金一覧,返還計算,訴状・和解書・判決等,債権届出・配当資料及び回収経過をまとめて渡すことが有用である。
第8 相談時に持参する資料と質問
相談時には,商品ごとの契約一式,送金・分配履歴,説明資料,支払停止の通知及び時系列表を持参する。
不動産や債権に関する裁判所の資料があるときは,事件番号と資料一式を添える。
事業者との連絡窓口,相手方の回答,既に行った解約・請求・申立て及びその結果も伝える必要がある。
弁護士への確認事項は,請求先,請求の根拠・金額・時期,必要な追加証拠,期限,保全の候補,回収対象財産及び費用である。
税理士への確認事項は,保有している権利の分類,金額と発生日の資料,既往の処理,回収不能の根拠及び対象年度である。
法律上の請求と税務処理の前提が食い違わないよう,双方が同じ契約と時系列を参照できる状態を作ることが重要である。
第9 出典・関連記事
①商法(536条)
②民事執行法(51条・87条)
③裁判所・不動産買受手続の説明
④BIT・大阪地裁令和8年(ヌ)第123号(物件明細書PDF実頁5頁~6頁,現況調査報告書7頁~15頁,評価書16頁~27頁。価格計算は20頁~21頁)
⑤国税庁・法人税基本通達第9章第6節「貸倒損失」
⑥大阪府・令和8年9月1日付け行政処分
⑦国土交通省・被害回復等を装った詐欺(二次被害トラブル)への注意喚起
⑧不動産クラウドファンディングの契約・鑑定・情報開示―令和8年改正と相続税評価案(AI作成)
⑨不動産競売の手続の流れと期間―申立て,差押え,現況調査・評価,期間入札,売却許可,代金納付,引渡命令及び配当(AI作成)
⑩裁判・相続・財産分与で不動産鑑定評価書を読む―依頼目的,価格時点,対象権利及び前提条件(AI作成)
⑪法人の貸倒損失の計上基準―法人税・消費税(AI作成)