第1 検察庁のシステムで何が変わるか
検察庁は,刑事手続のデジタル化に対応するため,Microsoft SharePointを用いた「弁護人選任届提出及び証拠開示等システム(仮称)」を準備している。
このシステムは,弁護人選任届をオンラインで提出する入口と,個別事件について証拠を受領し,弁護側の意見書・証拠等を提出する入口を分けている。
日弁連会員向け資料によれば,弁護士の登録方法には,日弁連を通じてあらかじめ全国利用のアカウントを登録する一括登録と,個別事件の発生後に担当検察庁で登録する事件単位登録が予定されている。
もっとも,アカウント登録が済んだことと,特定事件の事件別サイトを利用できることは同じではない。
第2 二つのサイトを区別する
1 弁護人選任届提出用サイト
弁護人選任届提出用サイトは,検察庁へ弁護人選任届を電子的に提出するための入口である。
一括登録を済ませた弁護士は,全国の検察庁に対する選任届提出用サイトを利用できる予定である。
ただし,選任届の提出に利用できることから,直ちに個別事件の証拠へアクセスできるわけではない。
選任届を提出した事件について,検察官又は検察事務官による確認と事件別サイトへの招待が必要となる。
2 事件別サイト
事件別サイトは,個別事件ごとに開設されるSharePoint上の領域である。
弁護人は,招待を受けた事件別サイトで,開示証拠の受領・閲覧・ダウンロード,弁護側の意見書・証拠その他の資料の提出等を行う予定である。
事件別サイトは,検察官又は検察事務官からの招待によって利用できる。
一括登録済みであっても,全事件の事件別サイトが一覧で自動的に利用可能になるわけではない。
第3 一括登録と事件単位登録
| 項目 | 日弁連を通じた一括登録 | 担当検察庁での事件単位登録 |
|---|---|---|
| 利用開始の考え方 | 施行前に登録を準備する | 事件発生後に個別登録する |
| 利用範囲 | 全国の弁護人選任届提出用サイト | 原則として登録対象の事件 |
| 申請先 | 日弁連 | 当該事件を担当する検察庁 |
| 本人確認 | 日弁連が登録情報を確認する | 弁護士記章その他の本人確認資料による |
| 事件別サイト | 個別事件ごとに別途招待が必要 | 登録対象事件について招待を受ける |
| 所要期間 | 月次処理のため余裕が必要 | 原則として当日又は翌開庁日の処理が想定される |
一括登録は,今後の事件に備えて共通アカウントを準備する手続である。
事件単位登録は,必要な事件が生じた後に,その事件について利用できる状態を整える手続である。
緊急事件で一括登録の反映を待てない場合には,事件単位登録を利用し,併せて一括登録情報の変更・更新を行うことが想定されている。
登録方法と事件への招待は別工程として記録する必要がある。
第4 一括登録の日程
日弁連会員向け案内では,令和8年10月から一括登録の受付が開始されている。
令和8年11月30日までの初回受付分については,令和9年1月以降,検察庁から招待メールを順次送る予定とされている。
初回期限後も一括登録を申し込むことはできる。
その場合,毎月1日までの申込分を日弁連が同月15日頃に検察庁へ提供し,検察庁が月末までに登録する流れが示されており,申込みから利用可能となるまで最大約2か月を要する場合がある。
したがって,一括登録を選ぶ場合は,事件の期限が迫ってから申し込むのではなく,利用開始前に余裕をもって登録する必要がある。
登録完了予定だけでなく,実際に招待メールを受信し,ログインできることまでを確認する。
第5 登録できるメールアドレス
日弁連資料では,弁護士一人について,弁護士本人のメールアドレス一つと事務職員用のメールアドレス一つを登録する取扱いが示されている。
弁護士が複数の事務所用アドレスを使い分けている場合でも,システム登録上の入口は一つに定める必要がある。
メールアドレス,氏名又は職務上の氏名を変更したときは,登録情報の更新が必要である。
アカウントの共用を避け,誰がどの通知を受信し,誰が事件別サイトへアクセスしたかを追跡できる状態にする必要がある。
事務職員用アカウントを設定する場合も,弁護士本人の確認責任が移るわけではない。
事件終了,退職,異動又は担当変更の際は,閲覧権限の削除とダウンロード済みデータの取扱いを確認する。
第6 すべての証拠がオンラインになるわけではない
事件別サイトが設けられても,検察官が保有するすべての証拠を一律にダウンロードできるわけではない。
証拠の内容・性質,第三者のプライバシー,画像・動画の内容,データ量その他の事情により,検察庁での閲覧等が残る場合がある。
オンラインで閲覧だけできる資料,ダウンロードできる資料,検察庁で確認する資料及び現物確認を要する証拠を区別する必要がある。
事件別サイトに表示されないことだけから,証拠が存在しない又は法律上開示対象ではないと判断してはならない。
また,検察官の保有証拠の開示と,裁判所が保管する訴訟記録の閲覧・謄写は別の手続である。
判決確定後に保管検察官が保管する刑事確定訴訟記録の閲覧とも区別しなければならない。
第7 法律上の証拠開示とシステム操作を分ける
刑事訴訟法上の証拠開示では,検察官請求証拠,証拠一覧表,類型証拠及び主張関連証拠等の根拠・要件を区別する。
事件別サイトは,これらの開示又は提出を電子的に実施するための経路であり,法律上の開示範囲を自動的に拡張する制度ではない。
証拠一覧表に記載されたこと,開示請求が認められたこと,事件別サイトにファイルが掲載されたこと及び弁護人が実際にダウンロードしたことは,それぞれ別の事実である。
請求日,回答日,開示根拠,対象証拠,掲載日,受領日及び不足資料を対応させて記録する必要がある。
第8 受領・提出時の確認事項
事件別サイトから証拠を受領するときは,少なくとも次の事項を確認する。
① 事件名,事件番号,被疑者・被告人及び担当検察庁。
② 招待メールの送信者と招待先アカウント。
③ ファイル名,証拠番号,容量及び更新日時。
④ 一覧表又は開示回答との対応。
⑤ ダウンロードできなかったファイルとエラー表示。
⑥ 閲覧期限又はダウンロード期限の有無。
⑦ 受領後の保存場所,アクセス権限及び複製範囲。
弁護側の意見書・証拠等を提出するときは,提出前の最終版,送信日時,送信先事件,受付結果及び差替えの有無を保存する。
結果が不明なときに同じファイルを直ちに再送信すると,重複提出となるおそれがあるため,送信履歴と相手方の受領状況を先に確認する。
第9 よくある質問
1 一括登録をすれば全国の証拠を閲覧できますか
閲覧できない。
一括登録により全国の選任届提出用サイトを利用できる予定であるが,証拠を扱う事件別サイトには個別事件ごとの招待が必要である。
2 事件単位登録はいつから利用できますか
主要規定の施行後,個別事件を担当する検察庁で利用する予定とされている。
具体的な開始日,本人確認資料及び受付時間は,施行時の公式案内を確認する必要がある。
3 すべての証拠をダウンロードできますか
すべての証拠が一律にダウンロード可能になるわけではない。
証拠の内容・性質によっては,検察庁での閲覧その他の方法が残る。
4 裁判所のLinKageCourtsと同じアカウントですか
同じシステムではない。
裁判所,検察庁及び警察のシステムは,利用者登録,事件へのアクセス権限及び取り扱う資料をそれぞれ確認する必要がある。
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制度全体と段階的施行は,刑事手続のデジタル化とは―令和7年法律第39号の施行日,電子令状,オンライン証拠開示及びLinKage(AI作成)を参照されたい。
第11 出典
日弁連会員ページ「刑事手続のデジタル化」: https://member.nichibenren.or.jp/nichibenrenjoho/juyokadai/keiji_digital.html
日弁連会員向け資料「刑事手続のデジタル化に用いる三つのシステム」: https://member.nichibenren.or.jp/nichibenrenjoho/juyokadai/keiji_digital/documentFile/260903_keiji_digital02.pdf
日弁連会員向け資料「アカウント登録方法の比較」: https://member.nichibenren.or.jp/nichibenrenjoho/juyokadai/keiji_digital/documentFile/260903_keiji_digital03.pdf
日弁連「刑事手続のデジタル化に関する意見書」: https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2025/250307.html
法務省「情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」: https://www.moj.go.jp/keiji1/keiji12_00210.html
e-Gov法令検索「刑事訴訟法」: https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000131
日弁連会員向けページには登録フォームその他の会員限りの情報が含まれる。
本記事は制度・日程・登録方法の概要だけを扱い,認証情報その他の非公開情報を掲載しない。