第1 教育目的だけで教材利用が許されるわけではない
漫画やイラストの技術を教える教室で,市販作品のコマ絵をコピーし,スクリーンに映し,受講者へ模写用の紙を配る場合,それぞれの行為を分けて著作権を確認する必要がある。
本記事は,営利目的で設置された日本国内の教室を中心に,教材を用意する運営者と練習する受講者の行為を整理する。
確認日は令和8年10月14日である。
著作権法35条は営利目的で設置された教育機関を対象から除き,30条の4も表現の享受目的を併せ持つ利用には適用されない。
一方,営利の教室であることだけで引用が一切できなくなるわけではない。
教室の設置目的,教材の使い方,引用の範囲及び必要な許諾を,授業を始める前に確認する。
第2 コピー・上映・配布・オンライン送信を分ける
書籍をスキャンし,教材ファイルや紙の拡大コピーを作る行為は複製権(21条)の問題である。
その画像を教室のスクリーンへ投影する行為は上映権(22条の2),複製した紙を公衆である受講者へ渡す行為は譲渡権(26条の2)の問題となる。
メール送付,受講者サイトへの掲載又は授業動画の配信には公衆送信権(23条)も関係する。
人数が少ないことや,申込み・会員登録が必要であることだけで,公衆性を否定することはできない。
募集範囲,運営者と参加者の関係,人数及び利用態様を確認する。
正規に書籍を購入したことは,教材用の複製,上映又はオンライン掲載の許諾を受けたことを意味しない。
第3 35条・38条と30条の4の適用範囲
35条は,学校その他の教育機関のうち営利目的で設置されたものを除外している。
単に受講料を取るかどうかだけで,教育機関の設置目的を判断する制度ではない。
非営利の教育機関についても,授業の過程,必要な限度及び権利者の利益を不当に害しないことなどの要件があり,作品全体を教材として自由に配布できるわけではない。
38条1項による上映等には,非営利,観衆等から料金を受けないこと及び実演家等への報酬に関する条件がある。
営利の有料教室はこの規定による無許諾上映を前提にできず,同項は教材コピーやウェブ掲載を一般的に許す規定でもない。
30条の4の非享受目的の利用と,人が作画技術を学ぶための利用も同一ではない。
文化庁の令和元年10月24日付けの解説は,民間のカルチャー教室で漫画を手本として配布・模写し,作品を投影して吟味する例について,一般に享受目的も併存すると説明している。
同条が使えない場合も,引用,私的使用その他の規定が使えるかは,行為ごとに別に判断する。
第4 解説のための引用と模写用のお手本
32条1項は,公表された著作物の引用について,公正な慣行への適合と,引用目的上の正当な範囲を求める。
作品を使った説明の内容,対象箇所を示す必要性,利用量,画像の大きさ,解説と画像の関係及び配布先を具体的に検討する。
引用部分と自分の解説を区別し,48条に従い出所・著作者名を示す必要がある。
例えば,特定の構図を批評・解説するために必要なコマ絵を示す場合と,その絵をそのまま写すための拡大コピーを教材の中心として配る場合では,利用の意味が異なる。
「数コマなら引用」「出典を書けば適法」という共通の数値基準はない。
模写用の提供について引用の範囲を説明できない場合は,権利者の許諾を得る教材,又は運営者自身が権利を処理したオリジナル教材へ切り替えることが実務上の選択肢となる。
引用として適法に作成した複製物の配布には,47条の7も関係する。
配布が常に禁止されるという意味ではなく,元の複製に引用の要件があるかを先に確認する。
適法な授業用引用から,広告画像や授業動画の販売への利用まで当然に広げない。
第5 受講者の模写と教室の複製を別に判断する
運営者が教材をコピーして配る行為と,受講者が自ら絵を描く行為は,別の検討対象である。
受講者が私的使用を目的として自ら模写する場合は30条1項を検討するが,作品を販売したり公衆に配布したりする目的まで,同じ扱いにはできない。
教材をコピーする運営者が,受講者の私的使用をそのまま自分の根拠とすることもできない。
最高裁令和4年10月24日判決は,音楽教室の生徒の演奏について,目的・態様,演奏への関与内容・程度等を総合して利用主体を判断した。
自主的な演奏と技術教授の対価としての受講料を踏まえ,当該教室運営者を生徒の演奏の利用主体とは認めなかった。
この判断は生徒の演奏についてのものであり,教室のすべての教材利用を許した判決ではない。
漫画教室の模写についても,運営者が対象を選ぶこと,指導すること又は受講料を得ることだけから,直ちに運営者を複製主体と断定しない。
受講者の自主的な練習か,運営者が販売・納品する作品を受講者に制作させる仕組みかなど,具体的な関与と利用目的を確認する。
音楽の演奏と漫画の複製は異なる行為であり,上記判決の結論をそのまま移すことはできない。
第6 許諾書と授業記録で確認すること
許諾を得る場合は,作品・掲載箇所,利用主体,コピー部数,拡大・加工,投影,紙配布,オンライン利用,授業動画,受講者作品の公開,期間及び対価を対応させる。
出版社が窓口であっても,対象の利用を許諾する権限があるかを確認する。
共同制作物や原作付き作品では,共有者又は原著作者の権利も調べる。
授業計画,配布教材の版,引用する箇所の選定理由,受講者数,サイトのアクセス範囲,許諾書及び連絡記録を保存することが有用である。
侵害を指摘された場合は,運営者自身の教材利用,受講者の模写及び公開・販売を区別し,行為ごとに停止・変更の対象を決める。
過去の行為に対する賠償と,継続中の侵害又は再発のおそれを前提とする差止めも分けて検討する。
第7 教材代・使用料を支払う際の税務
書籍などの購入代金,オリジナル教材の制作報酬及び既存作品の著作権使用料を,契約書・請求書の実質から区別する。
所得税法204条1項1号は,原稿・デザインの報酬だけでなく著作権使用料も源泉徴収の対象に挙げており,支払者・受領者の属性と例外を確認する必要がある。
源泉徴収を行ったことや使用料を計上したことは,必要な利用許諾を取得したことの証明にはならない。
無断利用の精算金も,名称だけで消費税の対象外としない。
国税庁No.6257は,無体財産権の侵害について権利者が受け取る賠償金を,実質が対価に当たる課税対象の例として挙げる。
弁護士と税理士は,過去の利用,今後の許諾,清算する請求,支払内訳及び税込・税別の合意を同じ資料で確認することが有用である。
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第9 出典と確認範囲
著作権法2条,21条,22条の2,23条,26条の2,28条,30条,30条の4,32条,35条,38条,47条の7,48条,63条,65条及び112条。
令和8年6月24日施行版の該当条文を参照した。
文化庁「柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方」(令和元年10月24日)問7,PDF14~15頁・本文7~8頁。
最高裁第一小法廷令和4年10月24日判決(令和3年(受)第1112号)PDF1~2頁,特に理由4。
所得税法204条1項1号・2項及び国税庁No.2792,No.2793,No.6257。
税務は国内の通常の取引を中心とし,非居住者への使用料,租税条約,個別の課税期間や仕入税額控除まで一律に判断するものではない。
教材の適否や複製主体の判断は,個々の作品,利用目的,授業内容及び契約によって変わる。
漫画教室での模写を直接判断した裁判例の網羅的な調査はしておらず,上記音楽教室判決の射程を区別した。
本記事の教材管理・契約確認は,条文と確認資料に基づく実務上の提案である。