第1 トランプ関税はすべて還付されるのか
トランプ関税がすべて還付されるわけではない。
2026年2月20日の米国連邦最高裁判決は,国際緊急経済権限法(IEEPA)に関税を課す権限がないと判断したものであり,通商法301条や通商拡大法232条の関税まで一括して取り消したものではない。
還付の検討では,まず納付した税額のうち,IEEPAに基づく部分を分ける必要がある。
IEEPA関税については,米国税関・国境警備局(CBP)がCAPEという電子的な処理の仕組みを段階的に導入している。
ただし,最高裁判決があったことと,個別の輸入申告について申請でき,返金を受けられることは別の問題である。
以下は,2026年10月14日に確認したCBP通知とJETROの10月7日付け報告を基に,申請主体,清算状態,申請後の確認及び契約当事者間の精算を整理する。
関税制度全体と日本原産品の税率の仕組みは,トランプ関税とは―税率の仕組み・日本への影響・最高裁判決を解説を参照されたい。
第2 誰が申請し,誰が返金を受けるのか
1 記録上の輸入者と通関業者
CAPEの申請主体は,記録上の輸入者であるImporter of Record(IOR),又はそのIORに代わって輸入概要書を提出した通関業者である。
日本から商品を輸出したというだけで,日本の売主が他社の輸入申告について直接申請できるとは限らない。
米国子会社,現地の買主又は日本企業自身のいずれがIORになっているかを,輸入申告の記録から確認する。
通関業者に依頼する場合も,対象申告番号,IEEPA関税額,申請対象となる清算状態及び作業を引き受ける範囲を共有する必要がある。
すべての申告を一括して渡すよりも,処理済み・未処理・対象外・要確認を区分した一覧を用意すると,重複申請や確認漏れを防ぎやすい。
2 受領口座と契約上の帰属は別に確認する
CBPの案内では,還付はIOR又はCBP Form 4811によって指定された者への支払として扱われる。
また,電子還付用の銀行口座情報の登録は,申請用のACEアカウントや申請の受理とは別に確認する事項である。
JETROの10月7日付け報告も,ACHの口座情報未登録によって支払手続が進まなかった例を紹介している。
CBPから実際に送金を受ける者と,売主・買主間で最終的に還付の利益を取得すべき者は,同じとは限らない。
例えば,買主がIORであっても,売主が関税相当額を別途補填していた場合には,その補填の合意,請求書及び精算条項を確認する必要がある。
反対に,関税込みの固定価格で販売したという事情だけから,売主に当然の返還請求権があると結論付けることもできない。
この部分は米国の申請制度の説明ではなく,契約内容と準拠法に基づいて検討すべき問題である。
第3 清算状態とCAPEの対象を確認する
1 未清算,清算後,最終清算済みを区分する
liquidationは,輸入時に概算で納付した関税等をCBPが最終的に確定する手続である。
商品の引渡しが終わった日や,請求書を支払った日と同じ意味ではない。
申告ごとの清算日と現在の状態を,ACEやCBPの通知,通関業者の記録で確認する。
| 区分 | 確認すること | 申請上の注意 |
|---|---|---|
| 未清算又は清算後80日以内 | 清算日,対象税目,申告の種類 | フェーズ1・2の対象条件を確認する。期間内でもすべての申告が無条件に受理されるわけではない。 |
| reconciliationの対象 | 調整申告の提出済み・未提出,提出期限 | CBPの専用通知に従い,CAPEと調整申告の順序を確認する。 |
| 最終清算済み | CITでの救済,IOR番号の提出状況,対象者への通知 | フェーズ3は限定された対象から始まっている。最終清算済みというだけで申請可能とはいえない。 |
2 フェーズ3について確認できる範囲
JETROの2026年10月7日付け報告によれば,CBPは10月6日に最終清算済みの申告を扱うフェーズ3を開始した。
同報告が示す当初の対象は,IEEPA関税の還付について訴訟を提起し,CITで救済を確認した企業のうち,7月30日までにIOR番号をCBPへ提出していた輸入者である。
同日より後に番号を提出した企業への手続は,追って発表されるとされている。
したがって,「10月6日以降は最終清算済みの申告も全輸入者が申請できる」と読み替えてはならない。
一方,この限定を,未清算等を対象とするフェーズ1・2まで含めた「すべての還付には個別訴訟が必要」という一般論に広げるのも適切でない。
該当する段階と対象申告を特定し,CBPからの個別通知及び最新の対象条件を確認する必要がある。
3 reconciliation対象の申告
CBPの6月23日付け通知は,6月29日から,reconciliation用にフラグが付けられた一定の申告についてCAPEの機能を拡張すると案内している。
対象として挙げられた申告には,調整申告であるType 09をまだ提出していないことなどの条件がある。
その通知では,CAPEの申請が受理されてから調整申告を提出する順序を示す一方,調整申告の提出期限を優先する必要がある場合も説明している。
還付処理を待つという理由だけで,別の申告期限を過ぎてよいわけではない。
第4 申請から返金までの確認
1 対象一覧を作成して申請結果を追う
CBPは,ACE PortalのCAPEに輸入申告番号の一覧をCSVで提出する方式を示している。
10月5日付け官報通知では,1回のCAPE Declarationに含められる申告は最大9,999件であり,検証で却下されたファイルは修正・再提出することを説明している。
申請後は,ファイルのアップロード,システムによる受理,対象申告の処理,清算・再清算及び送金を区分して記録する。
ファイルを提出できたことだけで還付完了と扱わず,却下された番号,処理待ちの番号及び実際の入金額を照合する。
通関業者との依頼書にも,申請だけを行うのか,却下理由の確認や入金照合まで行うのかを明記するとよい。
2 期限を混同しない
CAPEの受付条件に出てくる「清算後80日」と,protest等の法的な不服申立期間は,目的も意味も異なる。
CBPの清算通知ページは,19 U.S.C. §1514に基づき,清算・再清算等から180日以内のprotestを説明しているが,特定のIEEPA還付について何を申し立てるべきか,CITの救済との関係でどの手続が利用できるかは,個別に確認する必要がある。
80日を経過したことだけで全救済が消滅すると判断したり,180日以内であればCAPEが必ず使えると判断したりしてはならない。
また,10月5日付け官報通知の11月4日という日付は,情報収集に関する意見募集の期限である。
これをIEEPA関税の還付申請期限として扱うことはできない。
第5 日本企業が契約上の精算で確認すること
1 関税分をどのように負担したか
| 費用の負担方法 | 確認する資料 | 精算を検討する際の論点 |
|---|---|---|
| 関税実額を別途請求した | 申告番号別の税額,請求・支払記録 | 還付後に実額との差額を戻す合意があるか。 |
| 売主が買主へ関税分を補填した | 補填の合意,送金,対象期間 | 還付時の返金・控除について約束していたか。 |
| 関税込みの固定価格を定めた | 価格算定資料,価格改定条項 | 関税の減少を価格へ反映する合意があるか。 |
| 国内の仕入先へ値下げを求めた | 発注,価格協議,合意の記録 | 還付を国内仕入先へ当然に転嫁できるという前提を置かず,取引ごとの合意と適用法を確認する。 |
2 将来の契約で精算条件を定める
関税相当額を価格へ反映させる契約では,増額だけでなく,税率引下げ,適用除外,訂正又は還付があった場合の調整も併せて定める方法が考えられる。
対象申告,返金の受領者,資料提供の範囲,利息・申請費用の扱い,精算時期及び精算額に争いがある場合の協議手続を具体化する。
還付対象外の通常関税や232条関税まで,契約上の計算から一括して差し引かないことも重要である。
値上げ・値下げ要求への対応と国内取引の規制は,トランプ関税で値上げ・値下げ要求に応じる必要はあるか―価格転嫁と契約実務で整理している。
日本原産の自動車・部品の232条関税については,トランプ関税と日本の自動車・部品―15%方式の計算と関税相殺制度を参照されたい。
第6 出典・参考資料
1 判決とCBPの原資料
連邦最高裁・Learning Resources, Inc. v. Trump判決(2026年2月20日。本文20頁,PDF26頁の結論)。
CBP・CAPEの導入案内(2026年4月10日)。
CBP・CAPEフェーズ1の稼働通知(4月20日)。
CBP・reconciliation対象の取扱い(6月23日)。
CBP・官報の情報収集通知(10月5日。PDF2~3頁)。
この通知は情報収集についての意見募集を含むものであり,それだけで最新の全申請条件が確定するものではない。
2 フェーズ3の報告と期限の法令
JETRO・フェーズ3の申請受付開始(10月7日。対象条件は本文及び注2~5)。
フェーズ3の開始・当初の対象については,CBPの10月6日付け裁判所への報告を紹介したこの資料に基づく。
CBP・清算の公式通知ページ(19 U.S.C. §1514に基づく180日のprotest期間の説明)。