第1 日本の自動車関税は何パーセントか
日本原産で対象となる自動車・自動車部品には,通常のColumn 1税率が15%未満であれば,その通常税率と追加の232条関税を合わせて15%にする方式が定められている。
通常税率が15%以上の場合は,この方式による追加の232条関税はゼロであり,通常税率まで15%へ下がるわけではない。
また,すべての「自動車関連商品」が,この対象品目に入るとは限らない。
以下では,2025年9月4日付け大統領令の第4節,CBPの実施案内及び2026年6月29日付け部品関税の相殺案内を基に,計算方法と確認手順を整理する。
2026年10月14日の確認時点で,個別品番について最新のHTSUS分類・原産地・適用除外まで確定した一覧を示すものではない。
実際の申告では,輸入日のHTSUSとChapter 99の注,その後の改正通知及び対象商品の仕様を照合する必要がある。
関税制度全体は,トランプ関税とは―税率の仕組み・日本への影響・最高裁判決を解説を参照されたい。
第2 通常税率と追加関税を分けて計算する
1 15%を通常税率にそのまま足す方式ではない
対象となる日本原産の自動車・部品について,通常税率をr%とすると,rが15未満の場合の追加232条関税は15-r%である。
通常税率が15以上の場合には,この追加部分はゼロとなる。
次の表は,この二つの税目だけを比較した仮定例であり,特定の商品を分類した結果や運賃・手数料込みの見積りではない。
| 仮定する通常税率 | 追加232条関税 | 二つの合計 |
|---|---|---|
| 2.5% | 12.5% | 15% |
| 3% | 12% | 15% |
| 15% | 0% | 15% |
| 25% | 0% | 25% |
例えば課税価格が10,000ドル,通常税率が2.5%で,この15%方式の適用条件を満たす場合,通常関税は250ドル,追加部分は1,250ドル,二つの合計は1,500ドルとなる。
通常関税2.5%に追加15%を足して1,750ドルと計算するのは,この方式の説明としては誤りである。
ただし,経済的な内訳の計算と,ACEで税額をどのHTSUS行へ記録するかという申告方法は別であり,申告にはCBPの入力指示を用いる。
2 一般品の12.5%方式と混同しない
強制労働を理由とする301条措置には,日本の一定の非除外品について通常税率との合計を12.5%にする別の方式がある。
これは自動車・部品の15%方式とは根拠法も対象も異なる。
7月28日付けUSTR告示は,既に232条の対象となる自動車部品等に除外があることを説明しているが,除外の可否はAnnex及びHTSUSの注を商品ごとに確認する必要がある。
「15%+12.5%」と国別の数値を単純に足すことも,どの品目も低い方だけを使えると考えることも適切でない。
第3 対象品目と原産地の確認
1 自動車用という用途だけで判断しない
CBPの2025年9月15日付け実施案内は,日本原産の乗用車・ライトトラック及び対象部品について区分を示している。
一方,同じ自動車業界で使う商品でも,対象となる自動車部品,金属製品,汎用機械その他の分類に分かれる可能性がある。
まず10桁の通常HTSUS分類を検討し,Chapter 99の対象注と照合する。
中大型車両・その部品及びバスについては別の措置もあるため,乗用車・ライトトラックの説明をそのまま当てはめない。
完成車,エンジン,電子部品,汎用品といった商品名だけで税率を確定せず,材質,機能,仕様及び用途を確認することが必要である。
2 日本企業の商品と日本原産品を区別する
15%方式の要件は,対象商品が「日本の産品」であることであり,日本企業が販売することや日本から発送することだけではない。
海外工場で製造した商品,日本で組み立てた商品及び第三国の部材を使う商品については,製造工程と適用される原産地の判断を確認する必要がある。
日本の販売会社が発行した請求書だけで,日本原産の適用条件を満たしたと扱わない。
判断資料としては,工程表,主要部材の調達先,組立て・加工の内容,製品仕様及び既存の通関記録をそろえる方法が考えられる。
分類又は原産地によって税額が大きく変わる場合には,米国の通関専門家に相談し,CBPへの事前教示等を検討する。
第4 自動車部品の関税相殺制度
1 承認された輸入者が承認額の範囲で使う
CBPの2026年6月29日付け通知は,自動車部品及び中大型車両部品の232条関税に関するimport adjustment offsetの取扱いを示している。
この相殺は,米商務省から承認を受けた輸入者だけが,承認された金額の範囲内で利用できる制度である。
米国で自動車を製造していることや,日本製部品を購入したことだけで,すべての輸入者へ自動的に相殺枠が与えられるわけではない。
同通知は,相殺ライセンスごとの利用額を追跡し,ACEのTR-015レポートを利用できることを案内する。
承認額を超えた分については,232条関税の負担と制裁の問題が生じ得るため,残額管理が必要である。
完成車の関税まで,部品向けの相殺枠で当然に減額できると理解してはならない。
2 通常関税までゼロになるわけではない
日本原産の対象部品で相殺できるのは,232条によって課される追加部分であり,通常のColumn 1関税ではない。
通常税率が3%で合計15%となる仮定例では,追加の12%部分が相殺の検討対象となり,通常の3%は残る。
承認枠が十分あり,対象条件と申告条件を満たすという前提を置いた計算例である。
| 確認する場面 | 232条の追加部分 | 通常関税 |
|---|---|---|
| 相殺を利用しない | 該当する額を負担する。 | 該当する額を負担する。 |
| 承認枠内で対象部品へ相殺を利用する | 条件と残額の範囲で相殺する。 | この制度では相殺されない。 |
| 承認枠を超える | 超過分の関税負担を確認する。 | 該当する額を負担する。 |
CBPは,相殺で追加税額を減らしても,その部品が232条の対象であるという扱い自体は残ることを明示している。
「相殺後にゼロになった追加部分」と「そもそも232条の対象外であること」を混同すると,他の措置との重複関係を誤るおそれがある。
過去の申告を訂正して相殺枠へ計上する取扱いについても,同通知のpost summary correctionの条件を確認する必要がある。
第5 日本企業への影響と契約上の確認
1 納付者と最終的な負担者
税関に対する輸入者の責任と,売主・買主間の費用負担は分けて考える必要がある。
関税が米国の輸入時に課されても,買主からの値下げ要求,売主の利益率の低下,米国での販売価格の上昇,又は国内仕入先への価格交渉という形で影響が分配され得る。
税率が15%だから日本の売主が必ず販売額の15%を負担する,という関係ではない。
確認すべき契約事項は,IOR,Incotermsとその版・指定場所,関税額を別途精算するか,価格が固定か,税率変更時の協議条件及び相殺の利益を価格へ反映するかである。
相殺枠の利用によって買主の実際の追加税額が減った場合に,価格の据置き・改定・精算のいずれを行うかも,当事者間で明確にするとよい。
2 IEEPA還付とは区別する
最高裁のIEEPA判決が,自動車・部品の232条関税を一括して取り消したものではないことに注意する必要がある。
CAPEによるIEEPA関税の還付と,部品関税の相殺ライセンスの利用は,根拠,対象及び手続が異なる。
同じ輸入申告に複数の税目が記録されている場合は,各税目と金額を分けて検討する。
トランプ関税は還付されるか―IEEPA関税の申請条件・CAPE・契約上の精算及びトランプ関税で値上げ・値下げ要求に応じる必要はあるか―価格転嫁と契約実務も参照されたい。
第6 出典・参考資料
1 日本原産の自動車・部品の15%方式
大統領令・Implementing the United States–Japan Agreement(2025年9月4日。第4節(a)~(c))。
第2節の一般関税と第4節の自動車・部品の措置は区別して読む必要がある。
CBP・日米合意の実施案内(9月15日。Automobiles and Automobile Parts)。
同じ通知に含まれるIEEPA相互関税の当時の案内を,そのまま現在の一般税率として使うことはできない。
USTR・強制労働301条措置の最終告示(2026年7月28日。日本の方式はPDF3~4頁,232条対象部品の除外についての説明はPDF17頁。実際の対象はAnnexも確認する)。
2 部品関税の相殺制度
CBP・自動車部品及び中大型車両部品の関税相殺案内(2026年6月29日。承認額,ライセンス,TR-015,日本産部品の追加部分及び訂正申告の説明)。
JETRO・日本製部品の通常関税と相殺の関係(7月1日)。