第1 結論
服薬中の社員の配置を判断するときは,本人が眠気を感じるかだけでなく,実際に使用する薬の電子添文等の注意と,担当する運転・機械操作の危険を確認する必要がある。
電子添文に,自動車の運転等の危険を伴う機械操作へ従事させないよう注意する旨が記載されている場合,本人の「眠くない」「これまで事故がない」という説明だけで,その注意を外して配置することは適切でない。
他方,運転又は危険機械操作の制限が必要であることと,すべての仕事ができないことは別の問題である。
会社は,本人の同意を得て主治医・産業医等と情報を共有し,安全に行える実在の業務,勤務時間,通勤方法及び再評価の条件を検討する。
本記事は,令和8年10月14日に確認した公開資料を基に,企業の人事・法務担当者が行う情報確認と配置判断の手順を説明する。
第2 薬ごとの注意と本人の症状を分ける
1 運転を避ける注意と慎重な対応を求める注意
PMDAの薬の使用中の運転に関する説明は,使用中の運転が禁止されている薬と,禁止されないまでも注意が必要な薬があることを示している。
「薬を飲んでいる」という事実だけで一律に就業全体を禁止するのでも,すべての薬を副作用の自己申告だけで評価するのでもなく,個々の製品の現在の注意を確認する。
確認するのは,製品名・剤形,電子添文の版,運転・機械操作についての文言,処方又は用量の変更,併用薬及び実際に生じている症状である。
市販薬についても,外箱や説明書の表示を確認し,不明な点は薬剤師又は登録販売者に相談する。
会社の担当者が薬理作用を独自に判断したり,薬の名前から本人の病名を推測したりする必要はない。
2 タリージェの電子添文を例に読む
令和8年10月14日にPMDAで確認したタリージェの電子添文は,令和7年1月改訂の第9版である。
8.1では,めまい,傾眠,意識消失等が起こることがあるため,投与中の患者を自動車の運転等の危険を伴う機械操作に従事させないよう注意している。
この注意を,「眠気が出た日だけ運転を避ければよい」と読み替えることはできない。
服用中の社員については,フォークリフト運転や危険な切断機操作等を予定業務から除外することを前提に,処方医・産業医等へ確認し,代替業務を検討する。
補助者又は監督者を付けることだけを,電子添文の注意を外す理由にしない。
この例は,すべての鎮痛薬又はすべての機械について同一の制限を定めるものではない。
他の薬や設備に適用するときは,当該製品の注意と具体的な危険源を改めて確認する。
3 眠気の自覚がないことだけでは安全性を確認できない
PMDAの服用中に運転を避ける薬がある理由についての説明は,眠気のほか,注意力の低下,目のかすみ,めまい等が運転に支障を生じさせることを挙げている。
したがって,面談では眠気だけを尋ねず,注意,視覚,ふらつき,反応及び物を落とすなどの変化も本人の申告として確認する。
長期間同じ薬を使用していても,服用量又は体調の変化によって副作用が強くなる可能性がある。
事故がなかったという経過は記録するが,電子添文の注意に反する配置を認める根拠にはしない。
第3 業務上の運転・機械操作と通勤を具体化する
1 作業名ではなく操作と危険源を示す
会社は,「現場作業」「軽作業」という名称だけでなく,車両の種類,走行経路,作業時間,歩行者との接触,機械の可動部,材料の供給・取出し,刃具交換,清掃及び異常時対応を整理する。
操作に必要な左右の手足,姿勢,視認,注意の持続,緊急停止及び退避の動作も主治医・産業医等へ伝える。
機械の運転を外しても,吊り荷の近くでの補助,車両の誘導,高所又は不安定な場所での作業等に危険が残ることがある。
禁止又は制限する工程と,安全に分離できる工程を個別に区分し,運転をしなければ周辺作業はすべて安全であると扱わない。
金属加工の工程別の確認は,職場復帰支援プランの記事で説明している。
2 通勤時の自動車運転も別に確認する
業務上の運転を外す場合でも,自家用車による通勤が予定されていれば,通勤の安全性を別に確認する必要がある。
厚生労働省の勤務情報提供の様式例は,職務上の車・機械の運転だけでなく,通勤方法と通勤時間を記載する構成である。
本人と相談し,公共交通機関,家族等による送迎,時差勤務又は在宅で実施できる業務など,現実に利用できる方法を検討する。
どの方法が可能かは,通勤経路,身体機能,勤務制度及び受入体制に即して確認し,特定の手段を会社が当然に提供する義務があると一律に扱わない。
第4 主治医・産業医等への照会と判断記録
1 本人の同意を得て勤務情報を提供する
厚生労働省の治療と就業の両立支援指針5(1)~(3)は,勤務情報を主治医へ伝え,主治医と産業医等の意見を踏まえ,本人及び職場の意向も確認して事業主が判断する流れを示している。
服薬情報の照会も,就業判断に必要な目的・範囲を明らかにし,本人の同意を得て行う。
主治医には,現在の処方を前提とする運転・危険機械操作の制限,実施できる代替業務,勤務時間・休憩,制限の期間及び再評価時期を尋ねる。
産業医等には,その医学的情報と具体的な職務・設備・安全対策を照合してもらい,会社は実際に割り当てる業務を決定する。
2 照会文例
照会では,服薬の有無だけで復帰不可又は復帰可という結論へ誘導せず,判断に必要な工程と代替案を示す。
次は,会社が主治医へ尋ねる事項の例であり,厚生労働省の公式様式そのものではない。
①添付の勤務情報・工程表を前提に,現在の処方による通勤運転,業務上の車両運転及び危険機械操作への制限をご教示ください。
②それらの作業を除外した代替業務について,可能な勤務時間,休憩及びその他の配慮をご教示ください。
③制限を継続する期間,症状又は処方が変わった際の対応及び再評価時期をご教示ください。
④電子添文の注意と今回の就業意見との関係に不明点がある場合,その前提及び判断理由をご説明ください。
診断書が短期間で休業意見から条件付き就業意見へ変わったときも,病名,症状・身体機能,検査結果及び想定した作業条件のどこが変わったかを確認する。
判断変更だけで診断書を信用できないと決めつけず,現在の仕事を安全に行うために必要な情報を補う。
詳しい比較方法は,休業診断書の読み方の記事で説明している。
3 現場には作業制限と対応を伝える
指針3(8)は,健康情報の取得・共有を必要な範囲に限定し,適切に取り扱うことを求めている。
現場の管理者には,原則として,禁止工程,可能な業務,勤務時間・休憩,中止基準,連絡先及び再評価日を伝える。
診断名や処方の詳細まで一律に共有せず,各担当者の役割に必要な情報を明確にする。
第5 代替業務と再評価
1 服薬を続けながら行える仕事を検討する
危険機械操作を制限する場合は,機械の可動部,吊り荷又は車両から隔離された記録・確認等の業務を候補として,必要な身体機能と残る危険を評価する。
検品や座り仕事という名称だけでは安全性を確定できず,製品の重量,持運び,長時間の姿勢及び緊急退避も確認する。
代替する工程の担当者,期間及び現場の負担も記録し,実在しない仕事を前提に配置可能と判断しない。
会社は,就業させるために本人へ自己判断で休薬・減量するよう求めない。
処方の見直しが必要かは治療上の判断であり,本人が処方医へ相談する事項である。
治療と両立できる配置を先に検討する。
2 処方変更や症状変化を再評価につなげる
再評価日は,主治医・産業医等の意見を踏まえて設定し,処方又は用量の変更,新しい症状,担当工程又は通勤方法の変更があれば,予定日前でも確認する仕組みを設ける。
薬を変更又は中止したという事実だけで危険作業を自動的に再開せず,残る症状,新しい薬の注意及び身体機能を確認する。
一律に「服用から何時間後なら運転できる」という時間を会社が決めない。
再開する工程,判断根拠,勤務条件,観察事項及び次の再評価日を記録し,本人と現場へ説明する。
第6 実務チェックリスト
①実際の製品・剤形と,電子添文の版及び運転・機械操作の注意を確認したか。
②眠気だけでなく,注意,視覚,ふらつき及び反応の変化を確認したか。
③業務上の運転,機械操作,周辺の危険作業及び通勤を分けて整理したか。
④本人の同意を得て,実在する工程と代替業務を主治医・産業医等へ示したか。
⑤禁止・制限する作業,可能な勤務条件,措置期間及び再評価日を明記したか。
⑥就業のための自己判断による休薬・減量を求めていないか。
⑦症状や処方が変わった際の作業停止・連絡・再評価の手順を定めたか。
⑧現場への健康情報の共有を,役割に必要な範囲に限定したか。
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金属加工業の職場復帰支援プランの作り方――工程別作業表,禁止作業,中止基準及び再評価日
第8 出典・参考資料
①PMDA「Q2 服用(使用)中は車の運転をしてはいけないくすりがあるそうです。何故ですか?」及び「Q3 くすりの使用中に車の運転をしていいかどうかはどうしたらわかりますか?」。
②PMDAタリージェ錠・OD錠の電子添文(令和7年1月改訂,第9版)2頁,8.1,8.4及び11.1.1。
製品別情報ページから,使用時点の版を確認する。
③厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」(令和8年2月10日厚生労働省告示第28号,同年4月1日適用)3(4),3(8),5(1)~(5),5(7)及び5(8)。
④厚生労働省「勤務情報を主治医に提供する際の様式例」1頁及び「治療の状況や就業継続の可否等について主治医の意見を求める際の様式例」1頁。