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広告の規制と表現の自由―あん摩師等の広告制限を合憲とした昭和36年大法廷判決と,景品表示法の不実証広告規制を合憲とした令和4年判決(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 対象

本記事は,事業者の広告を法律で制限することが,憲法21条1項の表現の自由及び憲法22条1項の職業の自由との関係でどこまで許されるかを,最高裁の二つの判決を中心に整理するものである。
取り上げるのは,あん摩師等の広告を一定の事項に限った規定を合憲とした最高裁昭和36年2月15日大法廷判決と,景品表示法の不実証広告規制を合憲とした最高裁令和4年3月8日判決である。
確認の基準日は令和8年10月4日であり,判決は裁判所ウェブサイトの判決全文で,法令はe-Gov法令検索の現行本文で確認した。

2 結論

①最高裁は,広告の制限について,昭和36年判決以来,規制の目的が公共の福祉に合致し,手段が必要かつ合理的であれば憲法21条1項に違反しないという緩やかな枠組みで判断しており,令和4年判決も昭和36年判決を先例として引用している。
②もっとも,昭和36年判決には,広告も表現の自由の保障に含まれ,真実で正当な広告まで一切禁止するのは違憲であるとする少数意見があり,規定を限定して解釈すべきだとする少数意見もあった。
③両判決が合憲とした規制は,いずれも,虚偽又は誇大な表示や根拠のない表示による弊害を防ぐものであった。
これに対し,真実で誤解を生まない広告を,それが購買意欲を刺激すること自体を理由に制限する規制は,両判決が扱った場面とは異なり,目的と手段の結び付きをより慎重に検討する必要がある。
④実務では,規制される広告が虚偽・誇大なものか真実のものか,規制の理由が誤認の防止か受け手の判断への介入か,表示義務等のより緩やかな手段で足りないかを分けて検討するのが有用である。

第2 広告は憲法上どう保障されるか

1 表現の自由と営業の自由の二面

広告は,商品やサービスの情報を伝える表現であると同時に,事業者が顧客を獲得するための営業活動でもある。
そのため,広告の規制は,表現の自由(憲法21条1項)の制約として論じることも,営業の自由を含む職業の自由(憲法22条1項)の制約として論じることもできる。
令和4年判決も,景品表示法7条2項が憲法21条1項と22条1項のいずれにも違反しないと判断しており,両方の観点から検討されている。

インターネット上の販売サイトの表示のように,広告と販売行為が一体となる場面では,経済活動の制約としての側面も強く現れる。
どちらの条文を主に用いるかを決めるときは,規制が奪うものが「情報を伝えること」なのか「売ること」なのかを具体的に見る必要がある。

2 営利的な表現の特性

営利を目的とする広告も,受け手である消費者が商品やサービスを比較し,自律的に選択するための情報を提供する点で,消費者の知る権利に資する。
他方で,営利的な表現は,政治的な表現と比べて民主政の過程との関連が薄く,利益の動機に支えられているため規制によって萎縮しにくく,表示が真実かどうかを客観的に判断しやすいといった特性がある。
こうした特性から,営利的な表現の規制については,政治的な表現の規制ほど厳格な審査は必要ないとする見解がある。
また,学説には,合法的な活動についての真実で誤解を生まない表現を規制する場合には,規制によって守られる利益が実質的であり,規制がその利益を直接促進し,必要以上に広汎でないことを求めるべきだとするものが有力であるとされる(法務省「令和6年司法試験の論文式試験出題の趣旨」公法系科目第1問の解説)。

第3 昭和36年のあん摩師等の広告制限判決

1 事案と当時の規定

最高裁昭和36年2月15日大法廷判決(昭和29年(あ)第2861号,刑集15巻2号347頁)は,当時の「あん摩師、はり師、きゆう師及び柔道整復師法」7条違反の刑事事件である。
同条は,あん摩,はり,きゅう等の業務又は施術所に関し,いかなる方法によるかを問わず,列挙した事項以外の事項の広告を禁止し,列挙した事項であっても施術者の技能,施術方法又は経歴にわたる広告を禁止していた。
被告人はきゅう業を営む者であり,きゅうの適応症であるとして,神経痛,リウマチ,血の道,胃腸病等の病名を記載したビラ約7,030枚を配布したことが同条違反に問われた。

2 多数意見

多数意見は,適応症の広告まで許さない理由について,「もしこれを無制限に許容するときは、患者を吸引しようとするためややもすれば虚偽誇大に流れ、一般大衆を惑わす虞があり、その結果適時適切な医療を受ける機会を失わせるような結果を招来することをおそれたためであつて、このような弊害を未然に防止するため一定事項以外の広告を禁止することは、国民の保健衛生上の見地から、公共の福祉を維持するためやむをえない措置として是認されなければならない。」と述べ,同条は憲法21条に違反しないとした。
多数意見は,きゅうが実際に病気に効果があるかどうかにかかわらず同条違反が成立するとしており,広告の内容が真実である可能性があっても,虚偽誇大に流れるおそれを防ぐために一律に禁止することを認めたものである。
もっとも,審査の基準を詳しく示すことなく,公共の福祉を理由に合憲の結論を導いている。

3 補足意見と少数意見

この判決には,補足意見が2つ,少数意見が4裁判官分ある。
補足意見の一つは,契約の誘引としての広告は憲法21条の「表現」に当たらないとし,「本法七条広告の禁止は憲法二一条に違反しない。むしろ同条の問題ではない。」と述べた。
もう一つの補足意見は,適応症とその効能の説明を記載した本件の広告は同条2項の「施術者の技能」に関する広告に当たるとした上で,広告の自由が表現の自由に含まれるとすれば,列挙事項以外を原則として禁止する1項の立法形式には議論の余地があるとしつつ,2項の禁止は広告の自由に対する合理的な制限であるとした。

少数意見のうち2裁判官は,広告も表現の自由の保障に含まれるとして,同条を違憲とした。
その意見は,「広告が商業活動の性格を有するからといつて同条の表現の自由の保障の外にあるものということができない。」とし,虚偽誇大に流れるおそれがあるというだけで真実の広告まで一切禁止するのは行き過ぎであり,医薬品についてさえ当時の薬事法34条が虚偽又は誇大な広告だけを禁止していることと対比しても,きゅう等について医薬品と区別して正当な広告まで一切禁止する合理的な根拠は見いだせないと指摘した。
そして,「本法七条が真実、正当な適応症の広告までも一切禁止したことは不当に表現の自由を制限した違憲な条章であつて無効であると断ずるの外なく」と述べている。
残る2裁判官は,同条を限定して解釈し,一般的な適応症の広告は禁止の範囲外である,又は現実に弊害を招くおそれのある程度の虚偽誇大な広告に限って処罰すべきであるとして,被告人を罪とならないとする意見であった。

4 判決の読み方

多数意見は,広告が虚偽誇大に流れて受け手を誤らせることを防ぐという目的から,真実の広告を含めた一律の禁止を認めたものである。
これに対し,少数意見は,真実で正当な広告まで禁止する点に違憲又は限定解釈の根拠を見いだしており,現在の議論の出発点になっている。
この判決を先例として用いるときは,「広告の規制は緩やかに審査される」と一般化するだけでなく,規制の目的が虚偽誇大な広告の弊害防止であったことを押さえる必要がある。

第4 令和4年の景品表示法の不実証広告規制判決

1 規定と争点

不当景品類及び不当表示防止法(以下「景品表示法」という。)5条1号は,商品の品質等を実際より著しく優良であると示す表示(優良誤認表示)を禁止している。
同法7条2項は,内閣総理大臣が,表示が優良誤認表示に当たるかを判断するため必要があるときは,事業者に表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ,事業者が資料を提出しないときは,措置命令との関係で優良誤認表示とみなすと定めている。
最高裁令和4年3月8日第三小法廷判決(令和3年(行ツ)第33号,集民267号29頁)は,この規定が憲法21条1項,22条1項に違反するかが争われた措置命令の取消訴訟である。

2 判断

最高裁は,同項の目的を,優良誤認表示とみなして直ちに措置命令をすることで,一般消費者の自主的かつ合理的な選択を阻害されない利益をより迅速に保護することにあるとし,この目的が公共の福祉に合致することは明らかであるとした。
その上で,①一般消費者は表示どおりの品質等が備わっていると期待するのが通常であるから,品質等を示す表示をする事業者は裏付けとなる合理的な根拠を有していてしかるべきであること,②優良誤認表示とみなされるのは,一定の期間内に合理的な根拠を示すものと客観的に評価される資料を提出しない場合に限られ,適用範囲は合理的に限定されていること,③措置命令は,事業者が根拠資料を備えた上で改めて同様の表示をすることを何ら制限しないことを挙げた。
そして,このようなみなし規定は目的を達成するための手段として必要かつ合理的であり,立法府の合理的裁量の範囲を超えるものではないとして,同項は憲法21条1項,22条1項に違反しないと判断した(裁判官全員一致)。

3 昭和36年判決との関係

令和4年判決は,結論が「当裁判所大法廷判決」の趣旨に徴して明らかであるとして,昭和36年判決と,小売市場の許可制を合憲とした最高裁昭和47年11月22日大法廷判決を引用している。
昭和36年判決は,令和の時代にも,広告規制の合憲性を判断する先例として用いられているということである。
もっとも,令和4年判決が合憲とした規制は,根拠のない優良な表示を対象とし,根拠資料を備えれば同じ表示を再びすることを妨げないものであった。
真実の広告そのものを禁止する規制ではない点で,昭和36年判決の規制よりも対象が限定されている。

第5 真実の広告を規制するときの検討の視点

1 虚偽・誇大の防止か,真実の情報の規制か

二つの判決が合憲とした規制は,いずれも,虚偽又は誇大な表示,あるいは根拠のない表示による弊害を防ぐことを目的としていた。
これに対し,実際に販売する商品の写真のように,それ自体は真実で誤解を生まない情報を規制する場合は,両判決とは場面が異なる。
本記事では,広告の規制を検討するときに,まず規制される広告が虚偽・誇大・根拠のないものか,真実で誤解を生まないものかを区別することが出発点になると整理する。

2 規制の理由が受け手を動かすことにあるとき

真実の広告を規制する理由が,その広告が受け手の購買意欲を強く刺激し,十分に考えないまま購入させてしまうことにある場合,規制は受け手が自ら判断する能力を前提としない,パターナリスティックな性格を持つ。
このような規制は,受け手である消費者の知る権利を制約する面もあるため,規制で守ろうとする利益が実質的か,広告の制限がその利益を直接促進するか,より緩やかな手段では足りないかを具体的に検討する必要がある。
例えば,販売の段階で対面による説明や現物の確認が既に義務付けられているときは,広告の段階で情報を遮断することが目的の達成にどれだけ寄与するのかが問われる。

3 より緩やかな手段

真実の広告を全面的に禁止するのではなく,次のような手段で目的を達成できないかを検討する。
①広告に,商品の利用に伴う費用,期間,負担等の注意事項を表示させる義務
②誇張的な表示や,誤解を招く強調の禁止
③契約から引渡しまでの熟慮期間の設定や,販売時の説明義務の拡充
④違反に対する措置命令等の事後的な是正
代替手段を挙げるときは,現行制度で既に採られている措置の再提示にならないようにし,現行制度との差分と,同程度に目的を達成できる理由を示すことが重要である。

4 内容規制か内容中立規制かの区別に頼らない

表現の規制では,表現の内容に着目した規制か,時・場所・方法に着目した内容中立的な規制かの区別が審査の厳しさの手掛かりとされることが多い。
しかし,営利広告の規制にはもともと内容に着目する規制が多く含まれるため,その区別だけで審査の厳しさが決まるわけではない。
法務省の令和6年司法試験の採点実感(公法系科目第1問)も,営利広告の規制について内容規制か内容中立規制かを厚く論じる答案について,その二分論で審査密度が決まるものではないという理解に欠けると指摘している。
営利広告の規制では,表現の特性と,規制対象が虚偽・誇大なものか真実のものかという区別を軸に検討するのが適切である。

第6 現行法の広告規制の例

1 あん摩・はり・きゅうの広告

現行の「あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律」7条1項は,あん摩業,はり業,きゅう業等又はその施術所に関し,何人も,いかなる方法によるかを問わず,施術者である旨・氏名・住所,業務の種類,施術所の名称・電話番号・所在の場所,施術日又は施術時間,その他厚生労働大臣が指定する事項以外の事項について広告をしてはならないとしている。
同条2項は,これらの事項を広告する場合も,施術者の技能,施術方法又は経歴に関する事項にわたってはならないとしている。
昭和36年判決が対象とした規定の基本的な構造は,現在も維持されている。

2 柔道整復の広告

柔道整復師法24条も,柔道整復の業務又は施術所に関し,柔道整復師である旨・氏名・住所,施術所の名称・電話番号・所在の場所,施術日又は施術時間,その他厚生労働大臣が指定する事項を除くほか広告をしてはならないとし,技能,施術方法又は経歴に関する事項にわたる広告を禁止している。
整骨院・接骨院の広告の実務は,整骨院・接骨院と交通事故の施術費―柔道整復師・健康保険・広告規制 で説明している。

3 景品表示法の不当表示

景品表示法5条は,優良誤認表示(1号),有利誤認表示(2号)及び内閣総理大臣が指定する誤認されるおそれのある表示(3号)を禁止している。
不実証広告規制(同法7条2項)の条文は,令和4年判決が判断した当時と同じ内容で維持されている。
景品表示法の全体像は,景品表示法の仕組み―景品規制・不当表示・ステマ規制・法執行 で説明している。

第7 実務上の確認手順

広告規制の適法性や合憲性を検討するときは,次の順に確認するのが有用である。
①規制の根拠条文と,禁止される広告の範囲(列挙事項以外を一律に禁止するのか,特定の表示だけを禁止するのか)
②規制の目的が,虚偽・誇大・根拠のない表示の防止か,真実の情報が受け手に与える影響の防止か
③規制の対象となる媒体(チラシ,ウェブサイト,SNS,販売サイト,店舗の看板等)と,規制される範囲が明確か
④販売の段階での説明義務,表示義務その他の既存の措置との関係
⑤表示義務,誇張表示の禁止,事後的な是正等のより緩やかな手段で足りないか
⑥違反に対する制裁(刑事罰,措置命令,課徴金等)の内容

参入そのものを制限する許可制等の規制とは,規制される行為と権利が異なるため,別に検討する必要がある。
参入規制については,許認可・参入規制の合憲性―小売市場判決,薬局距離制限判決及び令和4年あん摩養成施設判決 で説明している。

第8 関連記事

①許認可・参入規制の合憲性―小売市場判決,薬局距離制限判決及び令和4年あん摩養成施設判決(AI作成)
②令和6年度司法試験公法系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した40項目と5段階の重み付け(AI作成)
③景品表示法の仕組み―景品規制・不当表示・ステマ規制・法執行(AI作成)
④整骨院・接骨院と交通事故の施術費―柔道整復師・健康保険・広告規制(AIリライト)

第9 出典

1 裁判例

最高裁昭和36年2月15日大法廷判決(昭和29年(あ)第2861号,刑集15巻2号347頁)
最高裁令和4年3月8日第三小法廷判決(令和3年(行ツ)第33号,集民267号29頁)
最高裁昭和47年11月22日大法廷判決(昭和45年(あ)第23号,刑集26巻9号586頁)
いずれも裁判所ウェブサイトの判決全文で,本記事で用いた判示を確認した。

2 法令

あん摩マツサージ指圧師、はり師、きゆう師等に関する法律(e-Gov法令検索)
柔道整復師法(e-Gov法令検索)
不当景品類及び不当表示防止法(e-Gov法令検索)
いずれも令和8年10月4日に現行本文を確認した。

3 公的資料

法務省「令和6年司法試験の論文式試験出題の趣旨」(公法系科目第1問は1頁~3頁)
法務省「令和6年司法試験の採点実感(公法系科目第1問)」(公法系科目のPDFの1頁~4頁)