第1 別の弁護士に相談することはできる
受任中の事件について,依頼者が別の弁護士の意見を求めることは,第4版229頁が当然に認められる依頼者の権利として説明するところである。
40条も,他の弁護士,弁護士法人又は共同法人に依頼しようとする依頼者を,正当な理由なく妨げることを禁止する。
追加依頼を考える際には,意見だけを求める相談,共同で事件処理を依頼する追加受任,従前の弁護士からの交代を分ける必要がある。
相談しただけで,現在の委任契約が当然に終わるわけではない。
第2 相談・追加受任・交代の違い
| 依頼の形 | 明確にしておく事項 |
|---|---|
| 意見だけを求める | 相談の対象,確認できた資料,意見の前提と限界,現在の代理人との連絡の要否。 |
| 弁護士を追加する | 各弁護士の担当範囲,提出・連絡の窓口,方針決定の方法,費用。 |
| 弁護士を交代する | 従前の委任の終了,新しい受任の範囲,期限,記録・預り品の引継ぎ,清算。 |
第4版230頁は,新たに受任する際に,従前の弁護士との関係を継続するのか終了するのか明確にし,記録の引継ぎや費用・実費の清算を円滑かつ明確に処理することを重視している。
依頼者が追加と交代を曖昧にしたまま,それぞれの弁護士に異なる指示を出すことは避けるべきである。
相談に当たっては,依頼内容,これまでの提出書面,現在の証拠,手続の進行状況,次の期限などを整理して示すことが有用である。
新しい弁護士が一部の資料しか確認できていない場合,その意見がどの前提に基づくものかを確かめる必要がある。
第3 41条は受任弁護士間の意見不一致を扱う
1 依頼者への説明が必要となる場面
41条は,同じ事件を受任している他の弁護士等との間で事件処理について意見が一致せず,それにより依頼者に不利益を及ぼすおそれがあるとき,その事情を説明する義務を定める。
単に専門家の意見が違うことを禁止する規定でも,意見が違えば直ちに全員が辞任するという規定でもない。
例えば,和解を優先するか訴訟を継続するかについて意見が分かれ,必要な対応や期限の管理に支障が生じるおそれがあれば,不一致の内容と不利益の可能性を依頼者に説明することが問題となる。
これは条文を具体化した例であって,特定の議決事例を再現したものではない。
2 42条・43条との区別
42条が扱うのは複数の依頼者相互の現実の利害対立であり,41条の弁護士間の意見不一致とは主体が異なる。
43条が扱うのは依頼者との信頼関係が失われ,回復が困難な場合である。
各条の要件を分け,説明,役割の見直し,辞任等の必要性を判断することになる。
説明・報告の一般的なルールは,29条・36条の説明義務と報告義務を参照されたい。
第4 セカンドオピニオンと不当介入の境界
72条が禁じるのは,他の弁護士等が受任する事件への「不当な」介入である。
第4版229頁~230頁は,目的又は手段の不当性を問題にし,事実関係を十分に把握せず先任弁護士の能力や報酬を不合理に批判し,不安をあおって自己への依頼を誘引する行為を典型例として挙げる。
十分な情報を踏まえて合理的な意見を述べ,その結果,依頼者から受任を求められたというだけでは,不当介入とはならないと同書は説明する。
他方,検討資料の不足を隠して有利な結果を保証するような説明は,適切な意見の提供とはいえない。
第5 交代する場合の引継ぎ
交代を選ぶ場合には,新旧の受任関係と訴訟代理権等の手続上の処理,迫った期限,事件記録,預り金・預り品,報酬・実費を確認する必要がある。
引継ぎが済むまで誰が何を担当するかを明確にし,連絡の空白を作らないことが重要となる。
辞任の要件と終了時の義務は,弁護士が受任事件を途中で辞任するときのルールで扱っている。
追加相談を希望したことと,辞任が必要となることは,それぞれの条文に従って判断すべき問題である。
第6 出典・関連記事
①日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」(令和8年10月4日確認)。
②日弁連弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(日本弁護士連合会,令和8年9月)145頁~147頁・229頁~230頁。本記事は同書の解説を参照したものであり,同書の記述を日弁連の公式見解又は個別事件の原議決そのものとして扱うものではない。
③弁護士職務基本規程の現行条文・条文別索引。