第1 子ども本人の慰謝料と家族の負担を分ける
1 年齢だけで慰謝料がなくなるわけではない
子どもが交通事故でけがをした場合も,身体侵害による精神的苦痛について慰謝料が問題となる。
収入のない子どもの慰謝料と,収入減少等を評価する休業損害は別の損害項目であり,働いていないという理由だけで慰謝料がなくなるわけではない。
本記事は,傷害事故で確認する項目を,自賠責の支払基準,赤い本2026年版及び現行民法に基づき整理する。
死亡事故の本人分・遺族固有分は,交通死亡事故の慰謝料と損害賠償額で扱う。
2 まず四つの欄を作る
| 確認する欄 | 主な内容 |
|---|---|
| 子どもの入通院慰謝料 | 傷害と治療中の苦痛。基準,入院・通院期間及び治療内容を確認する。 |
| 付添い・移動等の費用 | 必要な付添いの日数・内容,交通費及び支出を確認する。慰謝料とは別に整理する。 |
| 残った障害による損害 | 症状固定,残存症状,検査及び後遺障害の評価を確認する。 |
| 示談と支払の条件 | 代理する権限,清算の範囲,過失割合,既払金及び支払先を確認する。 |
第2 子どもの入通院慰謝料の目安
1 傷害と相当な治療期間を確認する
赤い本2026年版上巻218頁は,原則として別表Ⅰを用い,他覚所見のないむち打ち症等では別表Ⅱを用いるとしている。
次表は入院がなく,記載した通院期間全体が算定の基礎となると仮定した目安であり,子ども専用の定額表ではない。単位は万円である。
| 仮定した通院期間 | 別表Ⅰ | 別表Ⅱ |
|---|---|---|
| 1か月 | 28 | 19 |
| 3か月 | 73 | 53 |
| 6か月 | 116 | 89 |
表には,付添費,交通費,後遺障害分,過失相殺及び既払金を反映していない。
症状・治療内容・通院頻度による期間の評価や別表の使い分けは,交通事故の慰謝料相場と計算方法を参照されたい。
2 自賠責では慰謝料と看護料を別に計算する
令和2年4月1日以後の事故に適用される自賠責支払基準の傷害慰謝料は1日4300円である。
対象日数は,傷害の態様,実治療日数その他を勘案し,治療期間の範囲内で定める。欠席した日数又は親が付き添った日数がそのまま慰謝料の対象日数になるものではない。
傷害による損害の限度額120万円には,治療関係費,文書料,休業損害及び慰謝料等を含む。
子どもの慰謝料と付添いの看護料について,それぞれ別に120万円の枠があるわけではない。
第3 親の付添いと仕事を休んだ負担
1 12歳以下の付添いに関する自賠責の取扱い
自賠責支払基準の看護料では,入院中は原則として12歳以下の子どもに近親者等が付き添った場合,1日4200円とされる。
自宅看護又は通院看護では,医師が看護の必要性を認めた場合を対象とし,近親者等は1日2100円とされる。ただし,12歳以下の子どもの通院等に近親者等が付き添った場合には医師の証明を要しないとされる。
年齢要件と,現実に付き添った日・内容を区別して記録する。
13歳以上だから全ての付添費が否定される,又は12歳以下だから全ての通院日について実際の付添いを確認しなくてよい,という意味ではない。上記は自賠責の支払基準の説明であり,裁判上の付添費の日額を一律に定めたものでもない。
2 親の減収と看護料を二重に足さない
同支払基準は,近親者等に休業損害が発生し,資料によって所定の看護料を超えることが明らかな場合は,必要かつ妥当な実費とする旨を定めている。
したがって,親の減収を主張する場合には,付添いの必要性・実施日と,欠勤・有給休暇・給与への影響を対応させて確認する。
所定の看護料に親の給与減少をそのまま全額重ねて請求する計算にはしない。
勤務先の証明,給与明細,付添日誌及び診療記録を照合し,どの費目でどの負担を評価するかを明確にする。
3 条件を置いた付添費の計算例
10歳の子どもに近親者が通院で10日付き添い,その10日について自賠責の通院看護料が認められると仮定する。
所定額での計算は2100円×10日=2万1000円である。この金額は子どもの慰謝料とは別の費目である。
さらに傷害慰謝料の対象日数を30日と認定すると仮定すれば,慰謝料は4300円×30日=12万9000円となる。
両項目の小計は15万円であるが,治療費等を含む損害全体,限度額及び既払金の確認が別に必要であり,15万円がそのまま振込額になるとは限らない。この例は実際の認定事例ではない。
第4 学校生活への影響と残った症状の記録
1 欠席日数だけを金額に置き換えない
欠席,体育・部活動への参加制限,通学時の介助,試験や行事への影響は,事故後の生活状況を具体的に示す資料となる。
ただし,「欠席1日につき何円」「修学旅行を欠席したら一律何万円」という換算表を,上記の算定基準が定めているわけではない。
医師の指示による制限と,学校又は家庭の判断による対応を分け,その理由と期間を記録する。
学習の遅れや進級・進学への影響について具体的な費用又は損害を主張する場合も,事故・治療との関連,必要性及び支出を個別に確認する。
2 診療記録と学校の資料を対応させる
| 資料 | 記録する内容 |
|---|---|
| 診療記録・医師の説明 | 症状,検査,治療方針,運動・通学等の制限と期間 |
| 学校の記録・連絡 | 欠席日,参加できなかった授業・行事,配慮や介助の内容 |
| 付添いの日誌・領収書 | 日付,付き添った人,移動・介助の内容及び支出 |
| 事故前後の生活の記録 | 本人の訴え,睡眠・移動・学習等の変化とその経過 |
この表は,請求する損害と資料を対応させるための整理であり,各資料があれば特定の増額が認められるという認定基準ではない。
本人の訴えを保護者だけで判断せず,診療時に医師へ伝え,必要な受診と記録につなげる。
3 成長後の影響と後遺障害を早期の清算から分ける
症状が残る場合は,症状固定の判断,残存障害の内容及び今後の診療方針を確認する。
将来の就労への影響を扱う逸失利益は,今収入がないことだけを理由にゼロとするものではない。自賠責支払基準も幼児・児童・生徒・学生の基礎収入について規定している。
もっとも,後遺障害等級,基礎収入,労働能力への影響及び算定期間を確認しないまま,将来分を定額で加算することはできない。
医学的経過が未確定の部分を含む最終示談では,何を清算するかを明確にする必要がある。
4 受診・登校・付添いを記録する空欄票
家庭で記録を続けるための子どもの交通事故・経過記録票PDFと経過記録票Excelを用意した。本人の言葉、保護者が観察した事実、医師の説明、学校との連絡、付添者と時間、支出の資料を分けて記入する。
PDFには印刷して手書きする空欄票と架空の記入例、Excelには経過を追記するシートと使い方を収録している。診療録、学校との連絡、領収書の保存先と対応させ、後日の追記には追記日を残す。
欠席日数や記録の量を慰謝料へ自動換算するものではない。診断や事故との因果関係、付添いの必要性、後遺障害の判断には、それぞれの資料を照合する必要がある。公式の学校・医療機関・裁判所の様式ではなく、ブログ独自の補助資料である。記入後は共有先と必要な範囲を確認する。
第5 未成年者の示談と親の代理権
1 18歳未満か,誰が親権者かを確認する
民法4条は成年を18歳とし,同法5条は未成年者の法律行為について原則として法定代理人の同意を必要とする。
親権を行う者は子の財産を管理し,その財産に関する法律行為について子を代表する(同法824条)。保護者として受診に付き添っていることだけで,その人が最終示談を代理する権限を持つと決めつけない。
本人の年齢,戸籍,親権についての合意・裁判及び現在の代理権を確認し,示談書では子ども本人と代理する人を区別して表示する。
18歳以上の本人の請求は,親であるという理由だけで当然に代理できるものではない。
2 共同親権の場合は受診と財産上の示談を分ける
2026年4月1日施行の改正により整備された民法824条の2は,親権を父母が共同して行う原則と,一方のみが親権者である場合,他方が親権を行うことができない場合,子の利益のため急迫の事情がある場合等の取扱いを定める。
監護・教育に関する日常の行為についての単独行使も規定するが,子どもの損害賠償請求権を処分する示談は,通常の受診への付添いと同じ手続でよいと即断しない。
父母双方が親権者である場合は,他方の同意,共同での代理,又は単独行使を可能とする事情・裁判等を確認する。
特定の事項について協議が調わない場合の家庭裁判所の手続は,親権行使者の指定調停を参照されたい。
3 親と子の利益が相反する場合を確認する
民法826条は,親権を行う父又は母と子との利益が相反する行為等について,子のために特別代理人の選任を家庭裁判所へ請求する旨を定める。
親が加害者側でもある場合や,親子それぞれの請求権を一括して扱う合意については,誰のどの権利をどの条件で処分するかを確認し,利益相反の有無を検討する必要がある。
同じ事故で親子が被害を受けたという事情だけで,全件について特別代理人が必要になると一律には扱わない。
具体的な行為と利害関係を確認する手続は,裁判所の特別代理人選任の案内及び親と未成年の子の利益相反と特別代理人を参照されたい。
4 支払先と清算条項を確認する
示談書では,子どもの損害,付添費等の内訳,請求・受領を代理する権限,振込先及び将来分を含む清算範囲を確認する。
子どものための賠償金と,親自身の費用負担を評価した部分を区別して記録し,受領額・使途を追跡できるようにする。
金額・過失割合・既払金の検算及び照会文の例は,交通事故の示談案の確認方法を参照されたい。
第6 出典と本記事の範囲
1 確認した原資料
①民法4条,5条,695条,709条,710条,722条,824条,824条の2及び826条(e-Gov法令検索の現在施行表示,2026年10月4日確認)。
②金融庁・国土交通省自賠責保険の支払基準,第2の1(1)⑥,第2の3,第3の1(2)及び令和2年4月1日適用に関する附則。
③国土交通省自賠責保険・共済の限度額と補償内容。
④日弁連交通事故相談センター東京支部『民事交通事故訴訟 損害賠償額算定基準』2026年版上巻218頁~220頁(原本PDF232頁~234頁)。
⑤裁判所特別代理人選任及び親権行使者の指定調停。
2 算定の説明と個別の認定を区別する
本記事の金額は,資料に定められた基準又は条件を仮定した計算である。
学校生活への影響についての資料整理は,個別事情を確認するための説明であり,行事欠席,学習の遅れ又は成長後の影響に関する認定実例を横断比較したものではない。
山中弁護士への事件のご依頼・ご相談は交通事故のお問い合わせから可能である。