第1 別罪の証拠が見つかっても、取得の根拠を確認する
逮捕に伴う捜索の途中で、逮捕した事件とは別の犯罪に関係する物が見つかることがある。しかし、逮捕現場で見つけたという事情だけで、あらゆる物を無令状で差し押さえられるわけではない。逮捕事実との関連性、別罪についての現行犯逮捕の要件、任意提出の有無、別の令状の必要性を順に確認する。
例えば、強盗の被疑者を逮捕し、被害品を探している途中で薬物の疑いがある粉末を見つけた場合、粉末を発見したことと、その粉末を適法に押収できることは別の問題である。また、外観だけでは粉末の成分や誰の所持品であるかが明らかでないこともある。
本記事は、令和8年10月3日現在の法令を前提に、物の捜索・差押えと任意領置を扱う。通信端末の内容確認や電磁的記録の取得方法については、別の法的検討を要する。
第2 逮捕に伴う無令状捜索の対象
1 逮捕事実との関連性が必要となる
刑事訴訟法220条1項2号・3項は、適法な通常逮捕、現行犯逮捕又は緊急逮捕をする場合に必要があるとき、逮捕の現場で令状なしの差押え、捜索又は検証を認める。逮捕との時間的・場所的な結び付きに加えて、どの事件の証拠を取得する処分なのかを確認する必要がある。
東京高等裁判所昭和46年3月8日判決は、逮捕に伴う無令状の差押えができる物を、逮捕の基礎となった被疑事実と関連のある物に限るとした。逮捕事実とは全く関係のない別罪の証拠物を、その逮捕だけに基づいて差し押さえることはできないという判断である。
2 別罪の証拠でも、逮捕事実との関係を兼ねる場合がある
物が別罪の証拠にもなるからといって、常に逮捕に伴う差押えの対象から外れるわけではない。例えば、麻薬の譲渡を理由とする逮捕に際して見つかった麻薬は、譲渡事件の証拠となると同時に、所持罪の証拠ともなり得る。
最高裁大法廷昭和36年6月7日判決も、このような麻薬について譲渡の被疑事実との関連性を認めた。同判決を、逮捕現場で見つかった無関係な別罪の証拠をすべて差し押さえてよいとする根拠にしてはならない。
判断のためには、物の種類だけでなく、犯行の道具、被害品、犯行時の着衣、取引の記録などとして、逮捕事実の立証にどのように関係するのかを具体的に示す必要がある。
第3 別罪について現行犯逮捕する場合
1 物の発見だけでは足りない
別罪について刑事訴訟法212条・213条の現行犯逮捕の要件が独立して満たされる場合には、その逮捕に伴う差押えが問題となる。しかし、既に別の事件で逮捕されていることは、新しい罪についての要件確認を省略できる理由にはならない。
犯罪の現行性、犯罪及び犯人の明白性を、物の性状、所在、本人の支配・管理、発見前から把握していた事情などに即して確認する。薬物の疑いがある物でも、成分が不明、複数人が利用する場所にあった、誰の物か不明といった場合には、発見だけから所持の現行犯と断定できない。軽微な犯罪については同法217条の制限も確認する。
2 先行する違法な捜索が当然に解消されるわけではない
最高裁昭和53年9月7日判決は、承諾のないポケット内の所持品検査等によって初めて覚醒剤所持が明らかとなり、現行犯逮捕の要件が整った事案で、その逮捕に伴う証拠物の差押手続を違法とした。
後から現行犯逮捕したという結果だけで、発見までの処分を適法と扱うことはできない。どの時点で、何を根拠に、どこまで調べたかを順序に沿って検討する必要がある。
第4 任意提出による領置と別の令状
1 任意提出は自由な意思によるものかを確認する
刑事訴訟法221条は、被疑者その他の者が遺留した物、又は所有者、所持者若しくは保管者が任意に提出した物を領置できると定める。遺留物とは別に、任意提出の場合には提出者の立場と任意性が問題となる。
東京高等裁判所昭和46年3月8日判決は、酒気帯び運転の現行犯逮捕に関連して警察が占有していた車内で見つかった匕首について、本人が不要なので処分してほしいと申し出た事情から、自由な意思による任意提出と認め、その領置を適法とした。逮捕に伴う差押えの範囲を広げたのではなく、刑事訴訟法221条の別の根拠を認めたのである。
任意提出書に署名がある場合も、それだけで自由な意思の有無が決まるわけではない。誰が物を取り出したか、既に警察が取り上げていたか、どのような説明や要求があったか、拒否や留保の発言があったかを確認する。任意提出による領置が認められることと、それ以前の捜索・開披が適法であったことも別に検討すべき問題である。
2 取得の根拠がなければ、別の令状を検討する
逮捕事実との関連性がなく、別罪の現行犯逮捕や任意領置の要件も満たさない場合には、刑事訴訟法218条1項の令状による捜索・差押えを検討する。証拠が失われるかもしれないという抽象的な心配だけで、一般的な無令状押収権限が生まれるわけではない。
会社内で発見された従業員の私物についても、会社の代表者であるというだけで、当然にその私物の所有者、所持者又は保管者として提出できるわけではない。提出する人と物との関係を具体的に確認する必要がある。
第5 逮捕前の捜索と本人不在の場面
1 逮捕前の捜索を一律に禁止又は許容することはできない
最高裁大法廷昭和36年6月7日判決は、捜索・差押えと逮捕との時間的接着及び同一場所を重視し、一定の事案では逮捕の着手前の捜索・差押えも許されるとした。捜索開始時には不在だった被疑者が帰宅し、現実に時間的に接着した緊急逮捕を受けたという事実関係を含む判決である。
将来逮捕する予定があれば、不在の住居で証拠を探し続けてよいという一般的な許可ではない。逮捕の根拠と要件、現実に逮捕した場所・時刻、処分との結び付きを具体的に確認する。
2 人を探す権限と証拠を探す権限を区別する
刑事訴訟法220条1項1号の住居への立入りは、逮捕する被疑者を探すための権限である。同項2号による証拠物の捜索・差押えとは目的と要件が異なる。本人の不在が判明した後に、1号の権限だけで引出しを開けて証拠探しを続けることはできない。
別の捜索差押許可状を所持しているのか、2号の処分の要件を満たすのかを分けて確認する。不在時の立入りの詳細は、逮捕状を持った警察に居留守を使うとどうなるかで説明している。
第6 弁護人が早期に確保する記録
1 処分ごとの時刻・場所・説明を整理する
初回接見では、①逮捕理由と令状の種類、②捜索の開始と逮捕の時刻、③各物があった場所と取り出した人、④別罪の逮捕を告げられたか、⑤提出を求められたときの説明と本人の応答、⑥移動の経過を確認する。発見、検査、逮捕、差押え、任意提出の各段階を一つの出来事としてまとめないことが重要である。
捜索差押調書、押収品目録、任意提出書、領置調書、逮捕手続書を相互に照合し、映像、無線記録、現場写真等による確認を検討する。記載された処分名だけでなく、実際に行われた行為を確認する。
2 処分の違法と証拠能力の判断を分ける
最高裁昭和53年9月7日判決は、差押手続を違法としつつ、その事案では証拠能力を認めた。違法な処分があれば直ちに証拠が排除されるという関係ではない。
証拠排除を主張する場合は、令状主義の精神を没却するような重大な違法があるか、証拠として許容することが将来の違法捜査を抑制する見地から相当でないかを検討する。捜査官が事前に把握していた事情、令状を取得できた可能性、拒否の経過、強制の程度等を記録する意味は、この具体的評価にもある。
第7 関連記事
逮捕に伴う無令状捜索・差押え―逮捕の現場・第三者の身体・連行後の捜索(AI作成)
被疑者の逮捕(AIリライト)
平成16年度旧司法試験論文式試験の模範答案―全12問と出題趣旨を踏まえた解説。刑事訴訟法第1問でこの論点を扱っている。
第8 出典と確認範囲
e-Gov法令検索「刑事訴訟法」:212条、213条、217条、218条、220条、221条及び222条。令和8年8月13日施行版を確認した。
最高裁大法廷昭和36年6月7日判決:昭和31年(あ)第2863号、刑集15巻6号915頁。裁判所公表判決本文の多数意見を確認した。判例秘書の判例番号はL01610117である。
東京高等裁判所昭和46年3月8日判決:昭和45年(う)第3017号、高刑集24巻1号183頁。判例秘書L02620113で、本記事に関係する「論旨第二点について」の判文を確認した。データベース上で省略された他の論点まで全文確認したものではない。
最高裁第一小法廷昭和53年9月7日判決:昭和51年(あ)第865号、刑集32巻6号1672頁。裁判所公表判決本文で、先行する違法な検査と差押手続の関係、違法収集証拠排除の基準及び当該事案での証拠能力の結論を確認した。
任意提出の経緯、会社内の私物及び記録の確保に関する説明は、上記法令・裁判例を踏まえた実務上の確認事項であり、各裁判例がこれらすべての場面を直接判断したものではない。