第1 結論と本判決の位置付け
土地を目的とする先順位抵当権と後順位抵当権が設定された後,先順位抵当権が契約解除などにより競売前に消滅し,後順位抵当権の実行により土地と建物の所有者が異なることになった場合,法定地上権の同一所有者要件は,競売により消滅する最先順位の抵当権の設定時を基準に判断する。
最高裁第二小法廷平成19年7月6日判決(平成18年(受)第1398号)は,先順位抵当権の設定時にまでさかのぼって同一所有者要件を否定した原審を破棄し,第1審判決を取り消して,土地買受人の建物収去土地明渡請求を棄却する破棄自判をした。
第2 事実関係の時間軸
本件の理解には,登記の順位だけでなく,各抵当権の設定時,土地と建物の所有状態,先順位抵当権の消滅時及び競売時を並べる必要がある。
① 昭和44年,土地と建物の所有者が異なる状態で,両方に共同根抵当権(1番抵当権)が設定された。
② その後,相続により,土地所有者が建物共有者の1人となった。
③ 平成4年10月,土地に2番根抵当権が設定された。
④ 同月,1番抵当権の設定契約が解除され,その登記が抹消された。
⑤ その後,2番抵当権が実行され,買受人が土地所有権を取得した。
第3 原審の判断と最高裁の訂正
原審は,後順位抵当権者が「法定地上権の負担のない土地」として担保価値を把握していたと考え,先順位抵当権が後に契約解除で消滅した場合も,法定地上権を成立させなかった。
しかし,抵当権は被担保債権の弁済や設定契約の解除によって消滅することが予定された権利である。最高裁は,後順位抵当権者は,先順位抵当権の消滅による順位上昇の利益と,法定地上権成立の不利益とを予測して担保余力を把握すべきであるとした。
競売前に消滅した先順位抵当権者の利益を考慮する必要はない。そのため,実行される抵当権の設定時に同一所有者要件が満たされていれば,法定地上権の成立が認められる。
第4 平成2年判決との区別
最高裁第二小法廷平成2年1月22日判決は,競売により消滅する複数の抵当権が存在する場合に,その中の最先順位抵当権の設定時を基準とした。平成19年判決は,競売前に既に消滅した抵当権を,競売で消滅する抵当権と同列に扱うことはできないと区別した。
したがって,「先順位抵当権の設定時に土地建物が別所有であった」という事実だけで結論を出してはならない。競売の基礎となる抵当権と,配当又は競売により消滅する権利,競売前に消滅した権利を分ける必要がある。
第5 受任時の事実確認チェック
① 土地と建物の全部事項証明書を取得し,設定,移転,抹消及び競売の時点を一つの時系列にする。
② 各抵当権の被担保債権,共同担保目録,元本確定の有無及び消滅原因を確認する。
③ 各抵当権の設定時に,土地と建物が誰に属していたかを,相続関係も含めて固定する。
④ 競売で消滅する抵当権と,競売前に消滅した抵当権を分ける。
⑤ 建物が共有の場合は,土地所有者が建物共有者の1人であるか,共有持分と利用関係を確認する。
第6 破棄自判の意味
本件は,最高裁が法定地上権の成立を認めた後,事実審に差し戻さず,土地買受人の請求を棄却した。原審が適法に確定した事実と,最高裁が示した法解釈により,追加の事実審理をせず結論を出せたからである。
破棄判決を利用する際は,判示された法理だけでなく,最高裁が記録上の事実だけで自ら結論を出したのか,差戻審で追加審理させたのかを確認する必要がある。
第7 出典及び確認範囲
① 民法388条(e-Gov法令検索)
② 最高裁第二小法廷平成19年7月6日判決(平成18年(受)第1398号,民集61巻5号1940頁)
③ 森英明・絹川泰毅「最高裁民事破棄判決等の実情(上)―平成十九年度」判例時報2009号3頁以下(二次資料)
最高裁判決全文と現行民法の所在は確認済みである。判例秘書は照会0件/ヒット不明/本文確認0件であり,未検索は不存在又は未収録を意味しない。