第1 本記事の対象と基準日
1 対象
本記事は,政令の題名の次に置かれる「内閣は、……の規定に基づき、この政令を制定する。」という形の一文,すなわち制定文について,その意味,書き方の区別,根拠となった法律の条項が後の改正で移動しても制定文が書き換えられない理由,及び現在の委任根拠を確かめる方法を整理するものである。
制定文に書かれた条番号をそのまま現行の法律に当てはめると,全く別の規定を指してしまうことがあり,この点は平成24年の参議院予算委員会でも取り上げられた。
政令の委任の範囲を検討する場面や,法令の沿革を調べる場面で,制定文をどう読むかは実務上の意味を持つ。
2 基準日と資料
本記事の調査基準日は令和8年9月26日であり,法令の条文はe-Gov法令検索で,改正政令の原文は官報で,国会での質疑は国会会議録検索システムで,それぞれ同日に確認した。
法制執務上の説明は,法制執務研究会編『新訂ワークブック法制執務』(ぎょうせい,平成19年12月10日初版発行・平成22年5月31日3版発行)の該当頁による。
同書のはしがきは,同書の記述が内閣法制局の公的見解ではないことを断っており,本記事でも法制執務の一般的な説明として紹介する。
第2 制定文の意味と書き方
1 制定文とは
『新訂ワークブック法制執務』155頁は,制定文を,「政令の題名の次に置かれる当該政令を制定するについての根拠を明らかにするための文章」及び既存の法律の全部改正法の題名の次に置かれる文章をいうとし,「この制定文は、いずれも当該法令の一部を成すものと考えられている。」と説明している。
同頁によれば,制定文が付けられるようになったのは昭和23年ごろからであり,内閣府令や省令等の下位法令でも,政令にならって制定文が付けられることが多い。
例えば,内閣官房の内部組織を定める内閣官房組織令(昭和32年政令第219号)の制定文は,「内閣は、内閣法(昭和二十二年法律第五号)第十六条第二項及び第十七条の規定に基き、この政令を制定する。」である。
2 制定文が置かれる理由
憲法73条6号は,内閣の事務として「この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。」を掲げ,ただし書で,政令には特にその法律の委任がある場合を除いて罰則を設けることができないと定めている。
内閣法11条は,「政令には、法律の委任がなければ、義務を課し、又は権利を制限する規定を設けることができない。」と定めている。
『新訂ワークブック法制執務』156頁は,政令が法律の規定を実施するため又は法律の委任に基づいて制定されるものであることから,制定文を付けて,その政令がいかなる法律のいかなる条項の規定に基づき,又はいかなる法律を実施するためのものであるかなど,制定の根拠を明らかにすることにしていると説明している。
3 「規定に基づき」と「実施するため」
(1) 委任政令と実施政令
『新訂ワークブック法制執務』157頁~158頁は,法律が「……については、政令で定める」のように具体的な定めを政令に委任している場合に,その委任に基づいて定める政令(委任政令)の制定文では「……の規定に基づき」の表現を用いると説明している。
これに対し,特段の委任がなくても,法律を実施するためにこれに関する規定を定める政令(実施政令)の制定文では「……を実施するため」の表現を用い,両方の性格を併せ持つ政令では両方の表現が併せて用いられる。
制定文の書き方を見れば,その政令が法律のどの条項の委任を受けたものか,法律の実施のための定めか,という性格の見当が付くことになる。
(2) 制定文が付かない場合
同書156頁~157頁は,政令であってもすべての場合に制定文が付けられるわけではなく,根拠法が限時法である場合のその失効に伴う委任政令の廃止などには制定文を付けないことがあると説明している。
また,法律に制定文が付けられるのは,既存の法律の全部を改正する法律である場合に限られる。
第3 根拠条項が動いても制定文は書き換えない
1 法制執務上の取扱い
『新訂ワークブック法制執務』157頁は,政令の制定文について,「当該制定文に引用されている法律の題名や条名等がその後の改正の結果変更されても、制定文の改正は行わないこととされている。これは、制定文は、当該政令の制定当時の根拠を示すものであるという考え方によるものである。」と説明している。
同頁の編注は,法令集において制定文中の法律の題名や条名等に傍線を付けたものがあるが,それは根拠に変更があったことを示すための法令集編集者の便宜的な措置であり,実際の制定文にそのような措置がとられるわけではないと述べている。
したがって,制定文に書かれた条番号は制定当時の法律の条番号であり,現行の法律の同じ番号の条文を指しているとは限らない。
2 平成24年2月6日の参議院予算委員会
(1) 質疑の経過
平成24年2月6日の参議院予算委員会で,脇雅史委員は,内閣官房組織令の制定文が引用する内閣法「第十六条第二項」がどのような規定なのかを問うた。
これに対し,山本庸幸内閣法制局長官は,「現在の内閣法十六条は「内閣官房に、内閣官房副長官補三人を置く。」という規定でございまして、多分それは制定文でございまして、その後改正をされまして、その条項が移動したというふうに考えます。」と答弁した。
脇委員は,法律を改正したときは関連する条項をすべて直すべきであるとして,制定文を改めない運用を強く批判した。
(2) 内閣法制局長官の説明
山本長官は,法令の本体は題名以下の条文であり,改正があればそれは全部直しているとした上で,「要するに制定文というのは作ったときのその当時の状態を示すものでありまして、法令としての効力は題名以下の法令の本文であるということでございます。」と答弁した。
同じ質疑で,枝野幸男国務大臣は,「法令の解釈論といたしましては、それぞれの法令は何年何月何日に改正されたと、その時点における他の法令の規定が前提になっておりますので、現在のような運用が法令の解釈上問題になるとは思いません。」とする一方,法令は専門家だけが使うものではないので分かりにくい点があるとも述べた。
野田佳彦内閣総理大臣は,「根拠はあるということは、その法制局の今の答弁のとおりなんです。」と述べた上で,編集の問題等については早急に対応しなければならないと答弁している。
(3) 現在の内閣法の条番号
令和8年9月26日時点の内閣法では,16条は「内閣官房に、国家安全保障局を置く。」で始まる規定であり,内閣官房副長官補を置く規定は17条に移っている。
内閣官房の内部組織を政令に委ねる規定は,「この法律に定めるもののほか、内閣官房の所掌事務を遂行するため必要な内部組織については、政令で定める。」とする24条である。
平成24年の質疑の時点で既に,制定文の「第十六条」と当時の内閣法16条とは対応しておらず,その後の改正で条番号はさらに動いている。
3 法令の一部であることとの関係
『新訂ワークブック法制執務』155頁が制定文を「当該法令の一部を成すもの」とする一方で,同書157頁は制定文を制定当時の根拠を示すものとして改正しないとしている。
山本長官の答弁も,制定文を制定当時の状態を示すものと位置付け,法令としての効力は題名以下の本文にあると説明している。
本記事では,制定文は政令の一部ではあるが,その内容は制定時点の根拠を記録したものであり,現在の委任関係を示すものではない,と整理する。
第4 現在の委任根拠の確かめ方
1 最新の改正政令の制定文を見る
政令を一部改正する政令にも,それ自体の制定文が付けられる。
改正政令の制定文は,その改正の時点での根拠条項を引用するため,最新の改正政令の制定文を見れば,現在の委任根拠に近い情報が得られる。
例えば,内閣官房組織令を改正した令和8年政令第118号(令和8年4月8日公布・施行)の制定文は,「内閣は、内閣法(昭和二十二年法律第五号)第二十四条の規定に基づき、この政令を制定する。」であり,昭和32年の制定文にある「第十六条第二項及び第十七条」ではなく,現行の24条を引用している。
2 改正履歴の探し方
e-Gov法令検索では,各法令の改正履歴として,改正法令の題名・番号と公布日・施行日の一覧を確認できる。
内閣官房組織令については,令和8年9月26日時点でe-Gov法令検索のAPIから20件の履歴が得られ,最新は令和8年政令第234号(国家情報会議設置法の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令)であった。
改正政令の本文と制定文は,公布日が分かれば官報で確認できる。
令和8年政令第118号は,令和8年4月8日の官報特別号外第22号6頁に掲載されている。
官報や法令の条文の確かめ方については,民事訴訟規則はe-Gov法令検索に載っていないでも扱っている。
3 根拠法の側から探す
制定文から出発せず,根拠となる法律の現行条文を「政令で定める」という文言で検索し,その政令に対応する委任規定を探すこともできる。
政令の規定が法律の委任の範囲内かどうかを検討する場面では,制定文の記載ではなく,現行の法律の委任規定と政令本文の条項とを突き合わせる必要がある。
その際,改正によって法律の条番号が移動したときは,政令本文で法律の条項を引用している部分は改正されるのが通例であり,制定文だけが制定時の条番号のまま残る,という違いを意識しておくとよい。
4 法令案の審査との関係
内閣法制局は,内閣法制局設置法3条1号により,「閣議に附される法律案、政令案及び条約案を審査し、これに意見を附し、及び所要の修正を加えて、内閣に上申すること。」を所掌しており,政令案の制定文もその審査の対象となる。
法令案の誤りを防ぐための内閣法制局の手引については立法の品質管理を可視化した文書で,内閣法制局の組織については内閣法制局の長官,次長,部長,総務主幹及び参事官で,法制局の実務一般については内閣法制局に関するメモ書きで扱っている。
第5 出典
1 法令・官報
①日本国憲法73条6号(e-Gov法令検索)
②内閣法11条,16条,17条及び24条(e-Gov法令検索)
③内閣官房組織令(昭和32年政令第219号)の制定文及び改正履歴(e-Gov法令検索)
④内閣法制局設置法3条1号(e-Gov法令検索)
⑤内閣官房組織令の一部を改正する政令(令和8年政令第118号),令和8年4月8日官報特別号外第22号6頁(官報)
2 国会会議録
平成24年2月6日参議院予算委員会における山本庸幸内閣法制局長官,枝野幸男国務大臣及び野田佳彦内閣総理大臣の答弁(国会会議録(58番),国会会議録(64番),国会会議録(66番),国会会議録(68番))
3 文献
法制執務研究会編『新訂ワークブック法制執務』(ぎょうせい,平成19年12月10日初版発行・平成22年5月31日3版発行)155頁~158頁