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職務代行者・管理人等を務めた弁護士は後にその紛争の代理人になれるか――福岡地裁令和5年8月30日決定と職務基本規程27条・81条(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

1 扱う問題と基準日

本記事は,裁判所から職務代行者,管理人,遺言執行者等に選任され,当事者のいずれにも偏らない立場で職務を行った弁護士が,任務の終了後に,同じ紛争で一方当事者の代理人になれるかを扱う。
想定する読者は,こうした職務に選任された弁護士と,かつての職務代行者等が相手方の代理人として現れた当事者である。

基準日は令和8年9月25日である。
法令はe-Gov法令検索の現行条文により,弁護士職務基本規程(以下「職務基本規程」という。)は日本弁護士連合会(以下「日弁連」という。)の「日本弁護士連合会関係法規集」(令和7年9月1日現在)により確認した。

主要な文献は,日弁連弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(日弁連,2026年9月。以下「本書」という。)である。
本書は,はしがきで,本書の見解は日弁連の公式見解ではないと断っている。

2 結論

結論は次のとおりである。
①裁判所に選任された職務代行者等を務めた弁護士について,任務終了後の受任を正面から禁止する明文は,弁護士法25条にも職務基本規程27条にもない。
②ただし,福岡地裁令和5年8月30日決定は,マンション管理組合法人の理事職務代行者を務めた弁護士が,後にその法人を相手とする訴訟で相手方の代理人となった事案で,弁護士法25条1号又はその類推適用により訴訟行為を排除した。
③懲戒の場面では,日弁連綱紀委員会平成20年10月14日議決が,株式会社の職務代行者の任務が実質的に終了して1か月足らずで株主権確認訴訟の一方の側の代理人として承継参加を申し立てた行為を,品位を失うべき非行に当たるとした。
④他方,最高裁令和4年6月27日決定は,取締役責任調査委員会の委員であった弁護士が会社の代理人として元取締役を訴えた事案で,弁護士法25条2号・4号の類推適用を否定した。
⑤本記事では,元職務代行者等の受任の可否は,かつて誰のために職務を行ったか,後の事件で誰の側に立つか,任務中に自ら判断した事項が後の紛争の争点になっているか,任務終了からの期間等を具体的に見て判断されるものと整理する。
⑥実務上は,選任された弁護士は同じ紛争で一方当事者から受任しないことを基本とし,相手方となった当事者は早期に異議を述べて訴訟行為の排除を申し立てることが考えられる。

第2 条文の枠組み

1 弁護士法25条と職務基本規程27条

(1) 同意があっても解除されない号

弁護士法25条は,職務を行い得ない事件を1号から9号までに定め,依頼者の同意で禁止が解けるのは3号と9号だけである(同条ただし書)。
1号は「相手方の協議を受けて賛助し、又はその依頼を承諾した事件」,4号は「公務員として職務上取り扱つた事件」,5号は「仲裁手続により仲裁人として取り扱つた事件」である。

職務基本規程27条も1号から5号までで同じ構造をとり,同意で解除できるのは3号だけである(同条ただし書)。
同条5号は,弁護士法25条5号の仲裁人を広げ,「仲裁、調停、和解斡旋その他の裁判外紛争解決手続機関の手続実施者として取り扱った事件」を対象にしている。

(2) 4号の「公務員」と5号の「手続実施者」

本書は,職務基本規程27条4号の「公務員」には,弁護士法25条4号の解釈とは別に,法令により公務に従事する者一般が含まれると解すべきであるとする(本書101頁)。
また,本書は,従来4号に当たるとされていた調停委員等は5号の適用を受けるとし,5号の「手続実施者」を,仲裁人,調停委員,斡旋員等,紛争を解決するために中立公正な立場で手続に参与する者と説明する(本書101頁~102頁)。

(3) 明文のない中立的職務

本書は,4号・5号のいずれにも当たらない中立公正な第三者的職務を行った後に何が禁止されるかについては,明文を欠くといわざるを得ないと認めている(本書103頁)。
そのうえで,1号・2号は,調整型の職務で各当事者から受任し又は賛助したような場合には当たり得るが,それ以外の第三者的職務には必ずしも当たらず,3号と職務基本規程28条は第三者的職務をそもそも想定していないとする(本書103頁)。
裁判所に選任された職務代行者が4号の「公務員」に当たるかについては,後に見る平成20年の日弁連綱紀委員会の議決も判断を示していない。

2 職務基本規程81条

(1) 条文と趣旨

職務基本規程81条は,「弁護士は、法令により官公署から委嘱された事項について、職務の公正を保ち得ない事由があるときは、その委嘱を受けてはならない。」と定める。
本書は,80条が官公署からの委嘱を正当な理由なく拒絶してはならないとするのに対し,81条は公正を保ち得ない事由がある場合に委嘱を受けること自体を禁じる規定であり,官公署における弁護士の職務の公正とこれに対する国民の信頼を確保することを目的とすると説明する(本書245頁~246頁)。
「職務の公正を保ち得ない事由」について,本書は,客観的・実質的にみて委嘱に係る職務に対する信頼を損ねる事情をいうとし,当事者等との間に利益相反規定に抵触する事情があることをその典型例に挙げる(本書246頁)。

(2) 対象となる委嘱

本書は,81条の「法令により官公署から委嘱された事項」には,被選任資格が弁護士に限られない職務に弁護士が選任される場合も含むという広義説をとる(本書246頁)。
本書が80条の解説で挙げる例には,成年後見人,遺言執行者,破産管財人,民事再生法上の監督委員,会社法上の検査役,調停委員等がある(本書244頁)。
また,本書は,破産管財人の顧問先が破産債権者となる場合を論じる箇所で,後見人,相続財産清算人及び取締役職務代行者を,官公署から委嘱された事項についての職務の公正さの問題として並べている(本書123頁)。

(3) 81条が規律する時点

81条の文言は委嘱を「受けてはならない」というものであり,任務が終わった後の受任を直接定めたものではない。
もっとも,本書は,委嘱を受けた後に公正を保ち得ない事由に気づきながら職務を続けた場合も,同条違反とされる可能性があるとする(本書246頁)。
任務終了後の受任は,次に見る5条・6条と弁護士法56条1項の問題として扱われることになる。

3 明文のすき間を埋める5条・6条

(1) 本書の整理

本書は,第三者的職務の後の関連事件の受任の可否は,職務の内容,権限,当事者との関係等を考慮して類型ごとに検討する必要があり,27条4号・5号に当たらない以上一律に禁止されるわけではないが,中立・公正さを害して5条・6条に違反するかという観点から検討するのが近時の傾向であるとする(本書119頁)。
また,本書は,官公署の委嘱によらない中立的職務について,議決例では5条・6条が根拠とされることが多いが予測可能性に欠けるとし,規定の整備も含めて検討を要するとしている(本書247頁)。

(2) 5条・6条と弁護士法56条1項の関係

職務基本規程5条は「弁護士は、真実を尊重し、信義に従い、誠実かつ公正に職務を行うものとする。」と,6条は「弁護士は、名誉を重んじ、信用を維持するとともに、廉潔を保持し、常に品位を高めるように努める。」と定める。
職務基本規程82条2項は,5条・6条を含む第1章の規定を,職務の行動指針又は努力目標を定めたものとして解釈し適用するものとしている。
そのため,懲戒の場面では,5条・6条は,弁護士法56条1項の「品位を失うべき非行」に当たるかを判断する際のよりどころとして働くと考えられる。

第3 職務代行者とはどのような立場か

1 職務執行停止・職務代行者選任の仮処分

(1) 仮処分と登記

法人の役員の選任の効力等が争われているときは,仮の地位を定める仮処分(民事保全法23条2項)として,役員の職務の執行を停止し,職務代行者を選任する仮処分命令が発せられることがある。
民事保全法56条は,法人を代表する者その他法人の役員として登記された者について,職務の執行を停止し,若しくはその職務を代行する者を選任する仮処分命令がされた場合に,裁判所書記官が登記を嘱託すると定めている。

(2) 職務代行者の権限と立場

株式会社の取締役又は代表取締役の職務代行者は,仮処分命令に別段の定めがある場合を除き,会社の常務に属しない行為をするには裁判所の許可を得なければならない(会社法352条1項)。
一般社団法人の理事又は代表理事の職務代行者にも同じ規定がある(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律80条1項)。
職務代行者は,法人の機関の職務を代行する以上,その法人のために職務を行う立場にある。
後に見る平成20年の事案の原弁護士会綱紀委員会も,代表者の職務を代行する以上,会社のために善管注意義務に基づき業務を遂行すべきことは当然であるとしている(弁護士懲戒事件議決例集第11集129頁)。

2 職務代行者と似た裁判所選任の地位

(1) 一時役員と仮理事

会社法346条2項は,役員が欠けた場合等に,裁判所が利害関係人の申立てにより一時役員の職務を行うべき者を選任できると定める。
建物の区分所有等に関する法律49条の4第1項も,管理組合法人の理事が欠けた場合に,裁判所が仮理事を選任する制度を置いている。
これらは欠員を埋める制度で職務代行者とは趣旨が異なるが,裁判所に選任されて法人のために職務を行う点は共通する。

(2) 後見の分野の職務代行者

後見の分野でも,家庭裁判所は,成年後見人の解任の審判事件が係属している場合に,成年後見人の職務の執行を停止し,又はその職務代行者を選任することができる(家事事件手続法127条1項。後見等開始の審判前の保全処分――財産の管理者,後見命令及び職務執行停止参照)。
本記事の検討はこれらの地位にも基本的に当てはまると考えられるが,職務の内容や権限は制度ごとに確認を要する。

第4 福岡地裁令和5年8月30日決定

1 事案の骨子

本書の紹介によれば,事案は次のとおりである(本書119頁)。
マンションの管理組合法人XがYに対して訴訟を提起していたところ,裁判所からXの理事職務代行者に選任された弁護士が,その訴訟を取り下げた。
その後,Xが同一内容でYを訴えたところ,同じ弁護士がYの訴訟代理人となったため,Xがその弁護士の訴訟行為の排除を申し立てた。

2 弁護士法25条1号又はその類推適用による排除

(1) 決定の判断

同決定は,弁護士が裁判所から理事職務代行者に選任されて関与した事件は,弁護士法25条1号の「その依頼を承諾した事件」に当たるとして,同号又はその類推適用により,後の訴訟でY(元代表理事)の訴訟代理人となった弁護士の訴訟行為を排除した(福岡地裁令和5年8月30日決定,判例時報2584号107頁)。
同決定は裁判所HP未掲載であり,本記事では判例秘書で確認された決定の要旨だけを記載し,判文は引用しない。

(2) 本記事の理解

弁護士法25条1号は,先に弁護士を信頼して協議又は依頼をした当事者の利益を保護するとともに,弁護士の職務執行の公正を確保し,弁護士の品位を保持することを目的とする(最高裁平成29年10月5日決定)。
理事職務代行者は管理組合法人の機関としてその法人のために職務を行う立場にあり,この事案では,法人のYに対する訴訟そのものを扱っていた。
その弁護士が同じ内容の訴訟でYの側に立つことは,法人から見れば,かつて自分のために事件を扱った弁護士が相手方に回ることであり,1号が防ごうとする事態と実質的に異ならない。

他方で,職務代行者の地位は,法人との委任契約ではなく裁判所の選任に基づくため,文言上の「依頼」に当たるかには議論の余地がある。
同決定が,1号の直接適用だけでなくその類推適用にも依拠する構成をとったのは,この点を意識したものと考えられる。
なお,同決定は地方裁判所の一つの決定であり,同種の事案の扱いが裁判例上固まっているとまではいえない。

第5 日弁連綱紀委員会平成20年10月14日議決

1 事案の経過

(1) 職務代行者の選任と株主の認定

議決書によれば,事案の経過は次のとおりである(弁護士懲戒事件議決例集第11集120頁~121頁。同族会社であることは同集122頁~123頁)。
同族会社である株式会社で,代表取締役が認知症の影響で入院した後,取締役の就任・解任の登記をめぐる争いが生じ,神戸地方裁判所尼崎支部は,平成16年12月10日,取締役らの職務の執行を停止して職務代行者を選任する仮処分決定をした。
平成17年3月31日,同支部は,代表取締役の長男(後の異議申出人)の申立てにより,対象弁護士を会社の代表取締役兼取締役の職務代行者に選任した。
対象弁護士自身はこの選任を非訟事件によるものと説明しているが(同集126頁),本記事では議決書の呼称に従う。

同年6月2日,代表取締役の成年後見人は,代表取締役が会社の全株式を有する株主であることの確認を求める株主権確認訴訟を,長男らを被告として提起した。
対象弁護士は,この訴訟の係属中の同年8月31日付けで,代表取締役が全株式を所有する旨の株主名簿を作成した。
これを踏まえ,成年後見人は,より高額を申し出た三男に,同年9月16日付けの売買契約で全株式を譲渡した。

(2) 任務の終了と承継参加

同年10月2日,臨時株主総会で新たな取締役が選任され,続く取締役会で代表取締役が選任されたことにより,対象弁護士の職務代行者としての任務は実質的に終了した。
対象弁護士は,同年10月20日に任務終了報告書を裁判所に提出し,同じ日に,株式を譲り受けた三男の代理人として,株主権確認訴訟に承継参加の申立てをした。
長男の訴訟代理人から弁護士法25条及び職務基本規程27条に違反するとの主張がされ,対象弁護士は,平成18年3月2日付けで三男の代理人を辞任した。

2 兵庫県弁護士会と日弁連の判断

(1) 兵庫県弁護士会綱紀委員会――懲戒委員会の審査を求めない

原弁護士会である兵庫県弁護士会の綱紀委員会は,職務代行者は裁判所の選任によって会社のために職務を行う者であり,選任を申し立て費用を予納した長男を「依頼者」とみることはできず,会社との関係で対立する「相手方」を観念することも困難であるとした(同集129頁)。
そのうえで,任務は10月2日に終了しており,その後に委任を受けたことは最高裁の判例(対象弁護士が援用した最高裁昭和40年4月2日判決は,「受任している事件」に終了した事件を含まないとする。同集127頁)からみて問題はないとし,好ましいとはいえないが直ちに弁護士法や職務基本規程に違反するとまではいえないとして,懲戒委員会の審査を求めないことを相当とした(同集130頁)。

(2) 日弁連綱紀委員会――懲戒審査相当

長男の異議申出(弁護士法64条1項)を受けた日弁連綱紀委員会は,判断を改め,兵庫県弁護士会の懲戒委員会に事案の審査を求めることを相当とした(同集120頁)。
議決は,職務代行者の地位が弁護士法25条及び職務基本規程27条の各4号の「公務員」に当たるか否かの議論はさておき,対象弁護士が公正に職務を遂行すべき立場にあったことは明らかであるとした(同集121頁)。
そして,株主の認定をした当時,株式の帰属をめぐる訴訟が既に係属していたのであるから,職務代行者の終任の前後を問わず,公正さに疑いを抱かれる行為は厳に慎むべきであったとした(同集121頁)。

議決は,任務の実質的終了から1か月も経たないうちに,自ら全株式の所有を認定した者から株式を取得したとする三男の委任を受けて承継参加を申し立てたことは,職務代行者としての職務遂行の公正を疑わしめ,ひいては弁護士の職務の公正を疑わしめるおそれがあるとした(同集121頁)。
そのうえで,職務基本規程5条を括弧書で掲げ,弁護士法56条1項の品位を失うべき非行に当たるとした(同集121頁)。

(3) 弁明に対する判断

対象弁護士は,三男の懇請を断り切れなかったことや,職務代行者として行った株式の帰属の認定の正しさを証明したい気持ちがあったこと,法と規程を確認したうえで受任したことを弁明した(同集121頁)。
議決は,三男の委任を受ければ,激しく対立していた長男から職務の公正性に多大な疑念を抱かれることは容易に予想できたとし,自らの認定の正しさを証明したいという動機はかえって訴訟活動に無理をおかす危険をはらむもので弁解にならないとした(同集121頁~122頁)。
法と規程を確認したという点についても,職務代行者及び弁護士としての「公正らしさ」の確保の観点に考えが至らなかったことは非難を免れないとしている(同集122頁)。

この議決により,事案は原弁護士会の懲戒委員会の審査に付されることになる(弁護士法64条の2第2項・3項)。
議決例集第11集には,その後の兵庫県弁護士会懲戒委員会の判断は掲載されておらず,本記事では最終的な懲戒処分の有無を確認できていない。

3 この議決から読み取れる判断要素

本記事では,この議決が重視した事情を次のように整理する。
①職務代行者として,後の訴訟の争点(株式の帰属)について自ら認定をしていたこと
②認定の当時,その争点をめぐる訴訟が既に係属しており,当事者の対立が明らかであったこと
③代理人となった相手が,自らの認定によって利益を受けた側であったこと
④任務の実質的終了から1か月足らずという時間的な近さ
⑤受任の理由として挙げた事情が,かえって公正さへの疑念を強めるものであったこと

この議決は,終わった事件は「受任している事件」に当たらないという形式論で結論を出さず,任務の前後を通じた公正らしさを問題にした点で,原弁護士会の判断と対照的である。
他方で,議決は弁護士法25条や職務基本規程27条の各号に当たるとはしておらず,訴訟手続の中で訴訟行為を排除する根拠を示したものではない。

第6 最高裁令和4年6月27日決定との対比

1 取締役責任調査委員会の委員の事案

(1) 大阪高裁の排除と最高裁の破棄

取締役責任調査委員会の委員であった弁護士らが,調査の後に会社の訴訟代理人として元取締役らに損害賠償を求めた事案で,大阪高裁令和3年12月22日決定(判例タイムズ1493号50頁,判例時報2538号22頁)は,弁護士法25条2号・4号の趣旨に反するとして訴訟行為を排除した。
最高裁令和4年6月27日決定は,委員会は会社が取締役らの損害賠償責任の有無等を調査検討するために設置したもので,取締役らも事情聴取の結果が会社の損害賠償請求訴訟で証拠として用いられる可能性を当然認識していたというべきであるとして,2号・4号の類推適用を否定した。
同決定は,弁護士に委任して訴訟を追行する当事者の利益や訴訟手続の安定等を考慮すると,弁護士法25条の規定について「みだりに拡張又は類推して解釈すべきではない」と述べている。
この決定の詳しい内容は,取締役責任調査委員会の委員弁護士は後続訴訟を代理できるか-最高裁令和4年6月27日決定と弁護士法25条で扱っている。

(2) 同じ事案の懲戒請求に対する日弁連綱紀委員会の議決

本書によれば,同じ事案では懲戒請求もされ,日弁連綱紀委員会は,弁護士法25条2号・4号にも職務基本規程5条・6条にも違反しないと議決した(本書121頁~122頁)。
議決例集第26集に掲載された令和5年の日弁連綱紀委員会の議決は,委員が調査の時点で既に責任追及訴訟の代理人となることが事実上予定されていたとすれば,委員会の職務行使の公正さに重大な疑念が生じるおそれがあり,5条・6条に抵触する可能性も否定できないと指摘した(弁護士懲戒事件議決例集第26集80頁~82頁)。
そのうえで,元取締役らは調査の性格や聴取結果が不利益に用いられる可能性を十分認識して事情聴取に応じており,信頼が裏切られた事情も実害もないとして,異議申出を棄却した(同集80頁,82頁)。

2 職務代行者の事案との違い

(1) かつて誰のために職務を行い,後に誰の側に立つか

調査委員会の事案では,委員は会社のために調査を行い,後の訴訟でも同じ会社の代理人になった。
福岡地裁の事案では,理事職務代行者として管理組合法人のために訴訟を扱った弁護士が,後の訴訟ではその法人の相手方の代理人になっている。
前者は立場が連続しているのに対し,後者は立場が反転しており,弁護士法25条1号が想定する事態に近いのは後者である。

(2) 相手方の認識と信頼

最高裁令和4年決定は,取締役らが委員会の性格と事情聴取の結果の使われ方を認識していたことを重視した。
平成20年の日弁連綱紀委員会の議決では,議決自身が,三男の委任を受ければ激しく対立していた長男から多大な疑念を抱かれることは容易に予想できたと述べている。
中立の立場で判断をした者が一方の側に転じることは,通常,相手方の想定の外にあり,最高裁令和4年決定が類推を否定した事情とは向きが逆である。

(3) 拡張・類推を抑える判示との関係

最高裁令和4年決定の判示からすると,弁護士法25条の各号を第三者的職務一般に広げることには限界があるが,福岡地裁の事案は,同じ法人の同じ内容の請求について立場を反転させたもので,1号の趣旨が直接に妥当する場面であったと考えられる。
これに対し,平成20年の事案のように,職務を行った法人自体は後の訴訟の当事者でなく,他の当事者間の紛争で一方の代理人になった場合は,訴訟行為の排除よりも懲戒の問題として扱われやすいと考えられる。

第7 訴訟行為の排除の申立ての仕組み

1 最高裁大法廷昭和38年10月30日判決

最高裁大法廷昭和38年10月30日判決は,弁護士法25条1号に違反する訴訟行為について,相手方は異議を述べ,裁判所に対しその行為の排除を求めることができるとした。
他方で,同判決は,相手方が違反を知り又は知り得たにもかかわらず異議を述べずに訴訟手続を進行させ,第二審の口頭弁論が終結したときは,後日その無効を主張することは許されないとした。
そのため,実務上は,元職務代行者等が相手方の代理人として現れたことを知った段階で,速やかに異議を述べ,排除の申立てをしておくことが考えられる。

2 最高裁平成29年10月5日決定

(1) 申立権と即時抗告

最高裁平成29年10月5日決定は,弁護士法25条1号に違反する訴訟行為について,相手方である当事者は,裁判所に対し,これを排除する旨の裁判を求める申立権を有するとした。
排除の決定に対しては,自らの訴訟代理人の訴訟行為を排除された当事者は民事訴訟法25条5項の類推適用により即時抗告をすることができるが,排除された弁護士自身は自らを抗告人とする即時抗告をすることはできないとした。

(2) 依頼者と同視される者

同決定は,破産手続開始前に再生手続の申立て等を受任していた弁護士が,破産管財人の提起した訴訟で被告の代理人となった事案で,弁護士法25条1号違反の有無を検討するに当たっては破産者と破産管財人は同視されるべきであるとして,訴訟行為を排除した。
形式上の当事者が入れ替わっても実質で判断する考え方であり,職務代行者の事案を考える際にも参考になる。

第8 81条と第三者的職務をめぐるその他の議決例

1 市の顧問弁護士が調査委員会の委員に就任した例

日弁連綱紀委員会平成29年11月15日議決(弁護士懲戒事件議決例集第20集98頁)は,市立中学校の生徒が自死した事態について市の顧問弁護士として具体的な助言をしていた弁護士が,調査委員会の委員に就任したことを,委員としての職務の中立性に疑念を抱かせる行為であり,職務基本規程5条・6条及び27条5号の趣旨に照らして軽率な行為であったとした(同集100頁)。
もっとも,委員として活動した期間が短く,自ら辞任し,市との顧問契約も実質的に解消していたこと等から,品位を失うべき非行と直ちに断ずることまではできないとして,異議申出を棄却した(同集100頁~101頁)。
本書は,この議決が27条5号を引くのは文言上無理があり,端的に81条を根拠とすべきであったとする(本書122頁)。
また,本書は,地方公共団体の顧問弁護士は公務員そのものではないため,顧問弁護士として職務を行っていたことが81条の「職務の公正を保ち得ない事由」に当たるかを検討すべきとの見方もあり得る事例であるとしている(本書247頁~248頁)。

2 家庭裁判所が選任した遺言執行者と同じ事務所の弁護士の例

日弁連綱紀審査会平成30年11月13日議決(弁護士懲戒事件議決例集第21集215頁)は,家庭裁判所に選任された遺言執行者と同じ事務所の別の弁護士が,遺言無効確認等請求訴訟で一部の相続人の代理人となった事案である(同集216頁~217頁)。
議決は,職務基本規程58条の趣旨に鑑み,57条ただし書の「職務の公正を保ち得る事由」がない限り,81条により遺言執行者について辞任その他の適切な措置を採る必要があるとし,それをせずに職務を続けたことは5条・6条及び81条に違反するとした(同集217頁~218頁)。
もっとも,家庭裁判所が遺言執行者の解任申立てを却下していたことから,辞任が事実上不可能になったと考えたことにはある程度やむを得ない面があったとして,懲戒委員会の審査を求める議決は得られなかった(同集215頁~216頁,218頁)。

この議決は,81条を委嘱を受ける時点だけでなく,公正を保ち得ない事由が生じた後に職務を続ける場面にも及ぼしたものといえる。
遺言執行者と相続人の代理人の関係については,遺言執行者が特定の相続人の代理人をしたことに関する,弁護士会の懲戒例で詳しく扱っている。

第9 実務上の注意

1 職務代行者等に選任された弁護士の側

(1) 就任の段階

81条は,公正を保ち得ない事由があるときは委嘱を受けてはならないと定めているから,選任の打診を受けた段階で,法人,その役員,対立する当事者との間に依頼関係,顧問関係その他の利害関係がないかを確認することになる。
平成29年の日弁連綱紀委員会の議決のように,一方当事者の顧問弁護士として当該事態について助言していた場合は,中立性に疑念を抱かせる行為と評価され得る。

(2) 在任中

在任中に紛争の一方当事者から任務終了後の受任を打診されても,応じたり約束したりしないことが考えられる。
平成20年の事案では,原弁護士会の手続で,長男の側が,任務終了報告と同じ日に承継参加の申立てがされたことから,在任中に既に依頼を承諾していたとしか考えられないと主張していた(弁護士懲戒事件議決例集第11集125頁)。
令和5年の日弁連綱紀委員会の議決も,委員の時点で後の訴訟代理人となることが事実上予定されていたとすれば,職務行使の公正さに重大な疑念が生じるおそれがあると指摘している(同第26集81頁)。

(3) 任務終了後

任務が終了しても,同じ紛争で一方当事者の代理人となれば,訴訟行為の排除(福岡地裁の決定)や懲戒手続(平成20年の議決)のおそれがある。
平成20年の議決は任務終了から1か月足らずの事案であるが,期間が長ければ問題がなくなると述べたものではなく,期間の長短は考慮要素の一つにとどまると考えられる。

本記事では,選任された職務に関係する紛争について,任務終了後も一方当事者から受任しないことを基本とする。
やむを得ず受任を検討するときは,次の点を具体的に確認し,検討の結果を記録に残しておくことが考えられる。
①選任された職務で,誰のために,どのような権限を行使したか
②後の事件が,職務中に扱った請求,訴訟又は争点と同じ紛争に属するか
③後の事件で,職務中に職務を行った法人等の相手方の側に立つことにならないか
④職務中に自ら行った認定や判断によって,依頼者が利益を受ける関係にないか
⑤相手方となる者が,選任の申立人である等,職務代行者の中立性を前提に行動していなかったか
⑥任務終了からの期間と,在任中に依頼者側と受任の話をしていなかったか
⑦同じ事務所の他の弁護士が一方当事者の代理人として関与していないか

2 元職務代行者等が相手方の代理人として現れた当事者の側

(1) 訴訟行為の排除の申立て

元職務代行者等が相手方の代理人として訴訟に現れた場合は,受訴裁判所に対し,弁護士法25条1号(又はその類推適用)に違反することを理由として訴訟行為の排除を申し立てることが考えられる。
申立てでは,福岡地裁の決定を踏まえ,職務代行者等が誰のためにどの事件を扱ったか,後の訴訟がそれと同じ紛争であること,代理人が立場を反転させていることを,選任決定,登記事項証明書,任務中の書面等で具体的に示すことになる。
申立ては,第7の1のとおり早期に行うことが考えられる。

(2) 排除が認められにくい場面

最高裁令和4年決定のとおり,裁判所は弁護士法25条の拡張・類推に慎重であるから,元職務代行者等が職務中と同じ側の代理人になっている場合や,職務の対象となった法人が後の訴訟の当事者でない場合には,排除の申立てが認められないこともあり得る。
その場合でも,平成20年の日弁連綱紀委員会の議決のように,職務基本規程5条・6条に照らして品位を失うべき非行と評価される余地はある。

(3) 懲戒請求との違い

何人も,弁護士に懲戒の事由があると思料するときは,所属弁護士会に懲戒を求めることができる(弁護士法58条1項)。
懲戒請求は弁護士会の手続であり,係属中の訴訟で代理人の訴訟行為を排除する効果を持つものではない。

第10 関連記事

①取締役責任調査委員会の委員弁護士は後続訴訟を代理できるか-最高裁令和4年6月27日決定と弁護士法25条
②遺言執行者が特定の相続人の代理人をしたことに関する,弁護士会の懲戒例
③後見等開始の審判前の保全処分――財産の管理者,後見命令及び職務執行停止
④弁護士職務基本規程の現行条文と判例上の位置付け
⑤解説「弁護士職務基本規程」第3版と第4版の比較-規程改正,解釈の変更,新設項目及び削除された記述

第11 出典・参考資料

1 法令

①弁護士法(昭和24年法律第205号)25条・56条・58条・64条・64条の2(e-Gov法令検索)
②民事保全法(平成元年法律第91号)23条・56条(e-Gov法令検索)
③会社法(平成17年法律第86号)346条・352条(e-Gov法令検索)
④一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(平成18年法律第48号)80条(e-Gov法令検索)
⑤建物の区分所有等に関する法律(昭和37年法律第69号)49条の4(e-Gov法令検索)
⑥家事事件手続法(平成23年法律第52号)127条(e-Gov法令検索)

2 裁判例

①最高裁判所大法廷昭和38年10月30日判決(昭和35年(オ)第924号,民集17巻9号1266頁,裁判所ウェブサイト)
②最高裁判所第二小法廷昭和40年4月2日判決(昭和38年(オ)第1066号,民集19巻3号539頁,裁判所ウェブサイト)
③最高裁判所第一小法廷平成29年10月5日決定(平成29年(許)第6号,民集71巻8号1441頁,裁判所ウェブサイト)
④最高裁判所第一小法廷令和4年6月27日決定(令和4年(許)第3号,集民268号323頁,裁判所ウェブサイト)
⑤大阪高等裁判所令和3年12月22日決定(令和3年(ラ)第580号,判例タイムズ1493号50頁,判例時報2538号22頁,裁判所HP未掲載,判例秘書により確認)
⑥福岡地方裁判所令和5年8月30日決定(基本事件は令和5年(ワ)第1689号,判例時報2584号107頁,裁判所HP未掲載,判例秘書により確認)

3 弁護士懲戒の議決例

①日弁連綱紀委員会平成20年10月14日議決(平成19年綱第306号,懲戒審査相当)弁護士懲戒事件議決例集第11集120頁~130頁(原弁護士会綱紀委員会の議決書を含む)
②日弁連綱紀委員会平成29年11月15日議決(平成28年綱第892号,異議申出棄却)弁護士懲戒事件議決例集第20集98頁~101頁
③日弁連綱紀審査会平成30年11月13日議決(平成29年(コシ)第312号,懲戒審査相当の議決が得られなかったもの)弁護士懲戒事件議決例集第21集215頁~218頁
④日弁連綱紀委員会の令和5年の議決(異議申出棄却)弁護士懲戒事件議決例集第26集80頁~82頁

4 日本弁護士連合会の規程

①弁護士職務基本規程(平成16年11月10日会規第70号)5条・6条・27条・28条・57条・58条・80条・81条・82条(日本弁護士連合会関係法規集・令和7年9月1日現在)

5 文献

①日本弁護士連合会弁護士倫理委員会編著『解説「弁護士職務基本規程」第4版』(日本弁護士連合会,2026年)はしがき,101頁~103頁,119頁~123頁,244頁~248頁