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配当を受けた債権者に不当利得返還請求はできるか―抵当権者と一般債権者で結論が分かれる最高裁判例と配当異議(AI作成)

第1 本記事の対象と結論

1 本記事の対象

(1) 問題となる場面

不動産の競売手続では,配当期日に配当表が作成され,これに基づいて各債権者に配当が実施される。
ところが,実際には債権を持っていない者や,優先権がないのに優先して扱われた者が配当を受けてしまうことがある。
配当期日に異議を述べなかった債権者が,配当が終わった後に,配当を受けた者に対して自分が受け取るはずだった分の返還を求めて不当利得返還請求をすることができるかが問題となる。
本記事は,この問題について,抵当権者と一般債権者とで結論が分かれた二つの最高裁判所の判決を中心に,配当異議の手続とあわせて整理する。

(2) 本記事の資料と基準日

調査基準日は令和8年9月25日である。
条文はe-Gov法令検索の現行条文により,裁判例は裁判所ウェブサイトに全文が掲載された最高裁判所の判決により確認した。
強制執行や配当要求と消滅時効の関係は,強制執行・財産開示手続と時効の完成猶予・更新―差押えの了知不要,申立ての取下げ及び配当要求で扱っている。

2 結論の要旨

①配当表に記載された債権又は配当の額に不服のある債権者及び債務者は,配当期日において配当異議の申出をすることができる(民事執行法89条1項)。
配当異議の申出をした債権者は配当異議の訴えを提起しなければならず,配当期日から1週間以内に訴えを提起したことを執行裁判所に証明しないと,配当異議の申出は取り下げたものとみなされる(同法90条1項・6項)。
②抵当権者は,配当期日に配当異議の申出をしなかった場合でも,債権又は優先権を有しないのに配当を受けた債権者に対して,その者が配当を受けたことによって自己が配当を受けることができなかった金銭相当額の返還を請求することができる(最高裁平成3年3月22日判決)。
③これに対し,配当期日に配当異議の申出をしなかった一般債権者は,配当を受けた他の債権者に対して,自己が配当を受けることができなかった額に相当する金員の不当利得返還請求をすることができない(最高裁平成10年3月26日判決)。
④平成10年判決は平成3年判決に言及していないが,両判決の理由付けを対比すると,抵当権者が抵当不動産の代金から優先弁済を受ける権利を有するのに対し,一般債権者は特定の執行の目的物について優先弁済を受けるべき実体的権利を有しておらず,他の債権者が配当を受けたというだけでは民法703条の「損失」が生じたとはいえないことが,結論の違いにつながっていると考えられる。
⑤配当表に債権者として記載されなかった者は,配当異議の訴えを提起する原告適格を有しないとされている(最高裁平成6年7月14日判決)。
⑥配当異議の訴えを提起したことの証明は,配当異議の申出をした者が自らの責任において,法定の期間内に執行裁判所に対してする必要がある(最高裁平成6年12月6日判決)。

第2 配当の手続と配当異議の条文

1 配当表の作成

民事執行法85条1項は,執行裁判所は,配当期日において,同法87条1項各号に掲げる各債権者について,その債権の元本及び利息その他の附帯の債権の額,執行費用の額並びに配当の順位及び額を定めると規定している。
同条2項は,「執行裁判所は、前項本文の規定により配当の順位及び額を定める場合には、民法、商法その他の法律の定めるところによらなければならない。」と定め,同条5項は,これらの事項が定められたときは,裁判所書記官が配当期日において配当表を作成しなければならないとしている。
同法84条1項は,「執行裁判所は、代金の納付があつた場合には、次項に規定する場合を除き、配当表に基づいて配当を実施しなければならない。」と定めている。

2 配当異議の申出

民事執行法89条1項は,「配当表に記載された各債権者の債権又は配当の額について不服のある債権者及び債務者は、配当期日において、異議の申出(以下「配当異議の申出」という。)をすることができる。」と定めている。
同条2項は,「執行裁判所は、配当異議の申出のない部分に限り、配当を実施しなければならない。」と定めている。
配当異議の申出がなければ,その部分は配当表のとおりに配当が実施されることになる。

3 配当異議の訴えと1週間の期間

(1) 訴えの提起

民事執行法90条1項は,「配当異議の申出をした債権者及び執行力のある債務名義の正本を有しない債権者に対し配当異議の申出をした債務者は、配当異議の訴えを提起しなければならない。」と定め,同条2項は,この訴えは執行裁判所が管轄するとしている。
同条4項は,配当異議の訴えの判決においては,配当表を変更し,又は新たな配当表の調製のために配当表を取り消さなければならないとしている。

(2) 1週間以内の証明

民事執行法90条6項は,配当異議の申出をした債権者又は債務者が,配当期日から1週間以内に,執行裁判所に対し配当異議の訴えを提起したことの証明をしないときは,配当異議の申出は取り下げたものとみなすと定めている。
知れていない抵当証券の所持人に対する配当異議の申出の場合と,買受人が同法78条4項ただし書により金銭を納付すべき場合(2週間以内)には,同項に別の定めがある。

4 担保不動産競売への準用

民事執行法188条は,同法第2章第2節第1款第2目(強制競売。45条から92条まで)の規定を,81条を除いて担保不動産競売に準用している。
そのため,抵当権の実行としての競売でも,前記の84条,85条,89条及び90条の規定が用いられる。

第3 抵当権者は不当利得返還請求ができる―最高裁平成3年3月22日判決

1 判示

最高裁判所第二小法廷平成3年3月22日判決(平成2年(オ)第1820号,民集45巻3号322頁)は,「抵当権者は、不動産競売事件の配当期日において配当異議の申出をしなかつた場合であつても、債権又は優先権を有しないにもかかわらず配当を受けた債権者に対して、その者が配当を受けたことによつて自己が配当を受けることができなかつた金銭相当額の金員の返還を請求することができるものと解するのが相当である。」とした。

2 理由

(1) 抵当権者の損失

同判決は,その理由として,抵当権者は抵当権の効力として抵当不動産の代金から優先弁済を受ける権利を有するのであるから,他の債権者が債権又は優先権を有しないにもかかわらず配当を受けたために優先弁済を受ける権利が害されたときは,その債権者は抵当権者の取得すべき財産によって利益を受け,抵当権者に損失を及ぼしたものであるとした。

(2) 法律上の原因

また,配当期日において配当異議の申出がされることなく配当表が作成され,この配当表に従って配当が実施された場合において,「右配当の実施は係争配当金の帰属を確定するものではなく、したがつて、右利得に法律上の原因があるとすることはできない」とした。
配当異議の申出をしなかったことや,配当が実施済みであることは,それだけでは抵当権者の不当利得返還請求を妨げないということである。

第4 一般債権者は不当利得返還請求ができない―最高裁平成10年3月26日判決

1 判示

最高裁判所第一小法廷平成10年3月26日判決(平成8年(オ)第983号,民集52巻2号513頁)は,「配当期日において配当異議の申出をしなかった一般債権者は、配当を受けた他の債権者に対して、その者が配当を受けたことによって自己が配当を受けることができなかった額に相当する金員について不当利得返還請求をすることができないものと解するのが相当である。」とした。

2 理由

同判決は,その理由として,不当利得返還請求権を有するというためには民法703条にいう損失が生じたことが必要であるが,一般債権者は,債務者の一般財産から債権の満足を受けることができる地位を有するにとどまり,特定の執行の目的物について優先弁済を受けるべき実体的権利を有するものではなく,他の債権者が配当を受けたために自己が配当を受けることができなかったというだけでは損失が生じたということができないとした。
民法703条は,「法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。」と定めている。

3 二つの判決の比較

(1) 結論を分けた要素

項目抵当権者(平成3年判決)一般債権者(平成10年判決)
配当異議の申出しなかったしなかった
執行の目的物についての権利抵当不動産の代金から優先弁済を受ける権利を有する特定の執行の目的物について優先弁済を受けるべき実体的権利を有しない
民法703条の損失優先弁済を受ける権利が害されたときは損失がある他の債権者が配当を受けたというだけでは損失があるとはいえない
不当利得返還請求できるできない

(2) 当事者の役割を取り違えない

二つの判決は,いずれも配当異議の申出をしなかった債権者が配当後に不当利得返還請求をした事案である。
両判決の理由付けからみると,結論を分けたのは,請求する者が抵当権者として抵当不動産の代金から優先弁済を受ける権利を有していたか,一般債権者にとどまるかであると考えられる。
抵当権者以外の優先権者(先取特権者等)がこの場面でどう扱われるかは,本記事の調査範囲では,直接判断した最高裁判例を確認できなかった。
一般債権者について請求を否定した平成10年判決を,抵当権者の請求にそのまま当てはめることはできず,逆に,抵当権者について請求を肯定した平成3年判決を,一般債権者の請求の根拠とすることもできない。
請求する者が抵当権者か一般債権者か,請求の相手方が債権又は優先権を有しないのに配当を受けた者か,どの手続段階で何をしたかを,最初に確認する必要がある。

第5 配当異議の手続で注意すべき点

1 配当表に記載されていない者―最高裁平成6年7月14日判決

(1) 事案と判断

最高裁判所第一小法廷平成6年7月14日判決(平成2年(オ)第1128号,民集48巻5号1109頁)の事案では,競売の開始後に抵当権及び被担保債権の一部を法定代位により取得した者が,抵当権移転の附記登記を経由しておらず,配当表に債権者として記載されなかった。
その者は配当期日に異議の申出をした上で配当異議の訴えを提起したが,同判決は,配当異議の申出及び配当異議の訴えを提起することができるのは配当表に記載された債権者に限られ,配当表に記載されなかった者は,自己が配当を受けるべき債権者であることを主張して配当異議の訴えを提起する原告適格を有しないとして,訴えを却下した。

(2) 執行異議による是正

同判決は,配当を受けるべき債権者であるにもかかわらず配当表に記載されなかった者は,「配当表の作成手続の違法を理由として、執行異議の申立てによりその是正を求めるべきである」としている。
民事執行法11条1項は,「執行裁判所の執行処分で執行抗告をすることができないものに対しては、執行裁判所に執行異議を申し立てることができる。」と定めている。

2 訴え提起の証明―最高裁平成6年12月6日判決

最高裁判所第三小法廷平成6年12月6日判決(平成6年(オ)第1024号,集民173号481頁)の事案では,配当異議の申出をした者が,配当期日の6日後に配当異議の訴えを提起したが,訴えを提起した旨の届出書を執行裁判所に提出したのは配当期日の9日後であった。
同判決は,配当期日から1週間以内に執行裁判所に対し配当異議の訴えを提起したことの証明をしなかったのであるから,執行裁判所が配当表に従って配当を実施したことに違法はないとした。
また,別件訴訟のために提出すると述べて民事訟廷事務室に届出書を提出しただけでは足りず,配当異議の申出をした者は,「自らの責任において、執行裁判所に対して法定の期間内に配当異議の訴えを提起したことを証明することが必要」であるとした。

3 受益者の返還義務の範囲

民法704条は,「悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。」と定めている。
配当を受けた債権者がいつから悪意の受益者に当たるか,利息がいつから付されるかを,配当の場面について判断した最高裁判例は,本記事の調査範囲では確認できなかった。
調査範囲は,裁判所ウェブサイトの最高裁判例の全文検索で「配当異議の申出」を含むとされた判例の判示事項と,本記事で紹介した4件の全文である。

第6 当事者ごとの確認事項

1 抵当権者

①配当期日に配当表を確認し,債権又は優先権を有しないのに配当を受ける予定の債権者がいないか。
②配当異議の申出をしたときは,配当期日から1週間以内に配当異議の訴えを提起し,その証明を執行裁判所に対して行ったか。
③配当が実施された後であっても,平成3年判決によれば,債権又は優先権を有しないのに配当を受けた債権者に対して,自己が配当を受けることができなかった金銭相当額の返還を請求できること。
④請求の相手方が,債権又は優先権を有しないのに配当を受けた者に当たることを示す資料(債権の不存在,優先権の不存在の根拠)。

2 一般債権者

①配当期日に配当表を確認し,不服があればその場で配当異議の申出をしたか。
②配当異議の申出をしなかった場合,平成10年判決によれば,配当後に配当を受けた他の債権者に対して不当利得返還請求をすることはできないこと。
③配当異議の申出をしたときは,配当期日から1週間以内に配当異議の訴えを提起し,その証明を執行裁判所に対して行ったか。

3 配当表に記載されなかった債権者

①自分が配当表に債権者として記載されているか。
②記載されていないときは,配当異議の訴えではなく,配当表の作成手続の違法を理由とする執行異議を検討すること(平成6年7月14日判決)。

4 配当を受けた債権者

①自己の債権と優先権の根拠を,配当の後も説明できるように資料を保管しているか。
②配当異議の申出がなく配当が実施された後でも,抵当権者から不当利得返還請求を受けることがあること(平成3年判決)。

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第8 出典

1 法令

①e-Gov法令検索「民事執行法」(11条,84条,85条,89条,90条,188条)
②e-Gov法令検索「民法」(703条,704条)

2 裁判例

①最高裁平成3年3月22日第二小法廷判決(平成2年(オ)第1820号,民集45巻3号322頁)
②最高裁平成6年7月14日第一小法廷判決(平成2年(オ)第1128号,民集48巻5号1109頁)
③最高裁平成6年12月6日第三小法廷判決(平成6年(オ)第1024号,集民173号481頁)
④最高裁平成10年3月26日第一小法廷判決(平成8年(オ)第983号,民集52巻2号513頁)