第1 本記事の対象と結論
1 対象と基準日
本記事は,家族,知人,同僚等が事件を起こしたとき,その人をかばって警察に嘘の説明をしたり,身代わりとして出頭したりすると,刑法103条の犯人隠避罪になるのかを,条文と最高裁判例に沿って整理するものである。
犯人自身が他人にかばうよう頼んだ場合,親族がかばった場合及び証拠隠滅罪との違いもあわせて扱う。
条文はe-Gov法令検索で令和8年9月25日時点の刑法及び刑事訴訟法を確認し,裁判例は裁判所ウェブサイトの裁判例検索で判決・決定の全文を確認した。
2 結論
①刑法103条は,罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し,又は隠避させた者を,3年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金に処するとしている。
②「罪を犯した者」には,犯罪の嫌疑によって捜査中の者も含まれる。
③犯人が既に逮捕・勾留されていても,現にされている身柄の拘束を免れさせるような性質の行為は「隠避させた」に当たり,身代わり犯人として出頭させて虚偽の陳述をさせた行為について犯人隠避教唆罪が認められている。
④犯人と口裏合わせをした上,参考人として,犯人の身柄拘束の継続に疑念を生じさせる内容の虚偽供述をした行為も「隠避させた」に当たるとされている。
⑤犯人自身が他人に頼んで自分をかくまわせ,又は隠避させたときは,犯人蔵匿・隠避罪の教唆犯が成立するとするのが最高裁判例である。
⑥親族が犯人の利益のために犯したときは,刑を免除することができるが,犯罪が成立しなくなるわけではない(刑法105条)。
第2 条文
1 刑法103条
刑法103条は,「罰金以上の刑に当たる罪を犯した者又は拘禁中に逃走した者を蔵匿し、又は隠避させた者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。」と定める。
対象となるのは,罰金以上の刑に当たる罪を犯した者であり,拘留又は科料だけが定められた罪を犯した者は含まれない。
本記事では,嘘の説明や身代わりが問題となる「隠避させた」を中心に扱う。
2 刑法104条との違い
刑法104条は,「他人の刑事事件に関する証拠を隠滅し、偽造し、若しくは変造し、又は偽造若しくは変造の証拠を使用した者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金に処する。」と定める。
103条が人(犯人等)を対象とするのに対し,104条は証拠を対象とする。
嘘の説明が捜査を誤らせる場面では,犯人の身柄の拘束との関係が問題なのか,証拠の隠滅・偽造が問題なのかを分けて考える必要がある。
3 法定刑の改正
平成29年3月27日決定(後記第4)は,平成28年法律第54号による改正前の刑法103条を適用している。
e-Gov法令検索の改正履歴では,同法による改正後の平成28年6月23日施行の103条及び104条が「三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金」と定め,その後,令和4年法律第67号により懲役が拘禁刑に改められている。
過去の事件については,行為時の条文を確認する必要がある。
第3 「罪を犯した者」と「隠避させた」の意味
1 罪を犯した者
(1) 捜査中の被疑者を含む
最高裁昭和24年8月9日第三小法廷判決(昭和24年(れ)第1566号・刑集3巻9号1440頁)は,恐喝の被疑者として逮捕状が発せられ逃走中の者をかくまった事件で,刑法103条は司法に関する国権の作用を妨害する者を処罰しようとするものであるから,当時の条文の「罪ヲ犯シタル者」には犯罪の嫌疑によって捜査中の者も含むと解釈しなければ立法の目的を達し得ないとした。
かばった相手が後に有罪判決を受けたかどうかによって,犯人蔵匿・隠避罪の成否が決まるわけではない。
(2) 逮捕・勾留されている者も含む
最高裁平成元年5月1日第一小法廷決定(昭和63年(あ)第247号・刑集43巻5号405頁)は,刑法103条は捜査,審判及び刑の執行等広義における刑事司法の作用を妨害する者を処罰しようとする趣旨の規定であり,同条の「罪ヲ犯シタル者」には犯人として逮捕勾留されている者も含まれるとした。
2 身代わり出頭
(1) 平成元年決定の事案
平成元年決定の事案では,殺人未遂事件の犯人が逮捕・勾留された後,被告人が他の者を教唆して,その事件の身代わり犯人として警察署に出頭させ,自分が犯人であると虚偽の陳述をさせた。
弁護人は,犯人が既に逮捕・勾留されている場合には,身代わり犯人として出頭しても犯人隠避罪は成立しないと主張した。
(2) 判断
最高裁は,犯人として逮捕勾留されている者に,現になされている身柄の拘束を免れさせるような性質の行為も,刑法103条にいう「隠避」に当たると解すべきであるとして,犯人隠避教唆罪を認めた原判断を正当とした。
犯人が既に捕まっているから身代わりをしても罪にならない,という理解は判例によって否定されている。
第4 参考人の虚偽供述(最高裁平成29年3月27日決定)
1 事案
(1) 交通事故と口裏合わせ
最高裁平成29年3月27日第二小法廷決定(平成27年(あ)第1266号・刑集71巻3号183頁)の事案では,Aが普通自動二輪車(以下「A車」という。)を運転して赤信号を無視して交差点に進入し,相手の二輪車の運転者を死亡させた上,救護義務・報告義務を果たさなかった。
被告人は,自らが率いる不良集団の構成員であったAから事故を起こしたことを聞き,A車の破損状況から捜査機関が犯人を突き止めるものと考えて,Aの逮捕に先立ち,Aとの間で,A車は盗まれたことにする旨の話合いをした。
(2) 参考人としての虚偽供述
Aが逮捕・勾留された後,被告人は参考人として警察官の取調べを受けた。
被告人は,A車が事故の加害車両と特定されていることを認識しながら,Aがその単車に実際に乗っているのを見たことはない,Aはその単車を盗まれたと言っていた,事故のことは知らないなどと述べ,犯人はAではなく別人であるとする虚偽の説明をした。
決定が認定した虚偽供述は,犯行時に別の場所にいたというアリバイの供述ではなく,加害車両を盗まれていたという説明である。
2 判断
最高裁は,被告人が,Aとの間で,A車が盗まれたことにするという,Aを犯人として身柄の拘束を継続することに疑念を生じさせる内容の口裏合わせをした上,参考人として警察官に対してその口裏合わせに基づいた虚偽の供述をしたものであるとした。
その上で,このような行為は,「罪を犯した者」をして現にされている身柄の拘束を免れさせるような性質の行為と認められるから,刑法103条にいう「隠避させた」に当たるとし,平成元年決定を参照して犯人隠避罪の成立を認めた原判断を是認した。
3 小貫芳信裁判官の補足意見
(1) 供述内容の限定
小貫芳信裁判官の補足意見は,虚偽供述が隠避に当たるには,客観的に刑事司法作用を誤らせる危険性を有するもの,すなわち犯人の身柄拘束の継続に疑義を生じさせる性質のものであることを要するとした。
また,単に身柄拘束の可否の判断に何らかの関連を有する供述というだけでは処罰の範囲を画することができないので,その可否の判断に直接ないし密接に関連した供述内容でなければならないとし,本件の供述は,Aが事故車の運転者ではあり得ないことを内容とするものであると指摘した。
(2) 口裏合わせの意味
同補足意見は,参考人の供述は関係者の供述や客観的証拠との整合性を確認して信用性が判断されるところ,口裏合わせはその有力な確認方法をあらかじめ奪い,信用性の確認を困難にするものであるとして,口裏合わせの事実は虚偽供述が隠避に当たるというための重要な考慮要素であるとした。
補足意見は法廷意見と同じ効力を持つものではないが,平成29年決定の射程を考える上で参考になる。
4 平成29年決定の射程
(1) 決定が重視した事実
平成29年決定は,①犯人と事前に口裏合わせをしたこと,②犯人が逮捕・勾留されている間に参考人として供述したこと,③供述の内容が犯人の身柄拘束の継続に疑念を生じさせるものであったことを前提に,隠避に当たるとしたものである。
参考人が取調べで事実と異なることを述べれば,それだけで常に犯人隠避罪が成立するとしたものではない。
(2) 個別の事案での検討
実際の事件では,誰の刑事事件か,その人が身柄を拘束されていたか,事前の相談や口裏合わせがあったか,供述の内容が逮捕・勾留の判断にどの程度直接関係するかを,一つずつ確かめる必要がある。
虚偽の内容が証拠の隠滅・偽造にかかわる場合は,刑法104条の問題になることもある。
第5 犯人自身が他人に頼んだ場合
1 犯人蔵匿・隠避罪の教唆犯
(1) 最高裁の判断
刑法103条は,犯人が自ら逃げ隠れする行為を処罰の対象としていない。
しかし,最高裁令和3年6月9日第一小法廷決定(令和3年(あ)第54号・集刑329号85頁)は,最高裁昭和35年7月18日第二小法廷決定(昭和35年(あ)第98号・刑集14巻9号1189頁)を参照して,犯人が他人を教唆して自己を蔵匿させ又は隠避させたときは,刑法103条の罪の教唆犯が成立するとした。
昭和35年決定の後も,最高裁昭和40年2月26日第二小法廷決定(昭和39年(あ)第2370号・刑集19巻1号59頁)及び最高裁昭和60年7月3日第一小法廷決定(昭和60年(あ)第203号・集刑240号245頁)が同じ判断を示しており,令和3年決定はこの判例の流れを維持したものである。
犯人自身が知人に,かくまうよう,又は身代わりになるよう頼むことは,頼まれた人の犯罪とは別に,犯人自身の犯罪になり得る。
(2) 山口厚裁判官の反対意見
令和3年決定には,山口厚裁判官の反対意見がある。
反対意見は,犯人による自己蔵匿・隠避行為が構成要件に該当しないのに,他人を教唆した場合には教唆犯として処罰できるとするのは相当でないとした。
反対意見は多数意見と異なる見解であり,最高裁の判例は多数意見のとおりである。
2 証拠隠滅を頼んだ場合
最高裁令和5年9月13日第一小法廷決定(令和5年(あ)第134号・集刑332号201頁)は,最高裁昭和40年9月16日第一小法廷決定(昭和40年(あ)第560号・刑集19巻6号679頁)を参照して,犯人が他人を教唆して自己の刑事事件に関する証拠を隠滅させたときは,刑法104条の証拠隠滅罪の教唆犯が成立するとした。
この決定にも,令和3年決定の反対意見と趣旨を同じくする山口厚裁判官の反対意見が付されている。
第6 親族の特例
1 条文
刑法105条は,「前二条の罪については、犯人又は逃走した者の親族がこれらの者の利益のために犯したときは、その刑を免除することができる。」と定める。
親族の範囲は民法725条により,6親等内の血族,配偶者及び3親等内の姻族である。
2 読み方
(1) 犯罪は成立する
刑法105条は,刑を「免除することができる」とする規定であり,親族がかばった場合に犯人蔵匿・隠避罪や証拠隠滅罪が成立しなくなるとするものではない。
刑を免除するかどうかは裁判所の判断に委ねられている。
(2) 犯人の利益のためであること
刑法105条が適用されるのは,親族が犯人又は逃走した者の利益のために犯したときである。
親族であることだけでなく,誰の利益のための行為かも問題になる。
第7 事情聴取を受けるときの注意
1 参考人の立場
刑事訴訟法223条1項は,捜査機関が犯罪の捜査をするについて必要があるときは,被疑者以外の者の出頭を求めて取り調べることができると定め,同条2項は,同法198条1項ただし書を準用している。
同条項ただし書は,被疑者は,逮捕又は勾留されている場合を除いては,出頭を拒み,又は出頭後いつでも退去することができると定めるので,参考人も出頭を拒み,又は出頭後いつでも退去することができる。
2 かばうつもりの嘘の危険
家族や知人をかばうつもりで事実と異なる説明をすると,平成29年決定のように犯人隠避罪に問われることがある。
特に,本人と事前に話を合わせた上で,身柄拘束中の人が犯人でないことをうかがわせる内容を述べる場合は,同決定の事案に近くなる。
事情聴取を求められて不安があるときは,話す内容を決める前に弁護士に相談することが考えられる。
第8 関連記事
犯人が国外へ逃亡した事件と,犯人蔵匿・隠避や証拠隠滅の教唆については,被告人の保釈でも触れている。
逮捕・勾留の要件としての罪証隠滅のおそれは,被疑者及び被告人の勾留で説明している。
犯人隠避を理由とする検察官の懲戒処分の例は,平成14年5月以降の,検察官の懲戒処分事例で紹介している。
第9 出典
①e-Gov法令検索「刑法」
②e-Gov法令検索「刑事訴訟法」
③e-Gov法令検索「民法」
④最高裁昭和24年8月9日第三小法廷判決(昭和24年(れ)第1566号・刑集3巻9号1440頁)
⑤最高裁昭和35年7月18日第二小法廷決定(昭和35年(あ)第98号・刑集14巻9号1189頁)
⑥最高裁昭和40年2月26日第二小法廷決定(昭和39年(あ)第2370号・刑集19巻1号59頁)
⑦最高裁昭和40年9月16日第一小法廷決定(昭和40年(あ)第560号・刑集19巻6号679頁)
⑧最高裁昭和60年7月3日第一小法廷決定(昭和60年(あ)第203号・集刑240号245頁)
⑨最高裁平成元年5月1日第一小法廷決定(昭和63年(あ)第247号・刑集43巻5号405頁)
⑩最高裁平成29年3月27日第二小法廷決定(平成27年(あ)第1266号・刑集71巻3号183頁)
⑪最高裁令和3年6月9日第一小法廷決定(令和3年(あ)第54号・集刑329号85頁)
⑫最高裁令和5年9月13日第一小法廷決定(令和5年(あ)第134号・集刑332号201頁)