第1 結論
固定カメラで自動撮影した映像であっても、直ちに著作物性が否定されるわけではない。しかし、希少な対象が映ったこと、撮影に長時間を要したこと、機材が高価であったこと又は商業的価値が高いことだけでは、著作権法上の創作性を基礎付けない。
最初に、撮影場所、カメラ位置・角度、画角、レンズ、光、撮影開始時期等について撮影者の個性が表れているかを確認する。次に、長時間の原映像から特定のシーンを選び、長さを決め、時系列と異なる順序で配置した編集映像について、選択・配列・映像の変化に別個の創作性があるかを確認する。原映像と編集映像は、著作物性、著作者、保護される表現及び侵害判断が異なり得る。
第2 固定カメラだから当然に著作物でないとは限らない
著作権法2条1項1号は、著作物を、思想又は感情を創作的に表現したもので、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものと定義する。同法10条1項7号は映画の著作物、同項8号は写真の著作物を例示する。
文化庁の令和2年著作権法改正資料は、写り込みに関する説明の中で、創作性が認められない行為の例として固定カメラでの撮影を挙げる。この記載は、固定カメラ映像の全てに著作物性がないという一律の判断ではない。撮影前に表現上の選択がされた事案と、記録目的で機械的・定型的に設置された事案を区別する必要がある。
写真について、知的財産高等裁判所令和元年12月26日判決は、構図、陰影、画角、焦点位置及びシャッターチャンス等の工夫に個性が表れ得ることを示している。動画でも、撮影者が選択できた事項と、対象の偶然の動き又は撮影機器が自動的に決めた事項を分ける。
第3 原映像と編集映像を分ける
| 対象 | 主な創作性の候補 | 侵害判断で比較するもの |
|---|---|---|
| 長時間の原映像 | 撮影場所、位置、角度、画角、レンズ、光、撮影時期その他の撮影設計 | 実際の映像表現、フレーム又は連続部分 |
| 原映像から抜き出した静止画 | 元フレームの構図等に加え、どの瞬間・範囲を切り出したか | 切り出された具体的画像 |
| 短く編集した映像 | シーンの選択、各シーンの長さ、順序、接続、音、字幕、速度等 | 選択・配列による映像の展開と個々の創作的部分 |
東京高等裁判所平成16年7月26日判決(平成14年(ネ)第6311号)は、連続映像について、各映像自体の創作性だけでなく、その組合せ・配列により表現される映像の変化も保護対象となり得るとした。したがって、原映像の著作物性が弱い又は争われる場合でも、編集映像の選択・配列に独立した創作性が認められる可能性がある。
もっとも、動物が映った場面を全て時系列に並べただけなど、選択・配列がありふれ又は機械的な場合は、編集したという事実だけで強い保護が生じるとは限らない。
第4 創作性を基礎付ける具体的な選択
著作物性を主張するときは、「苦労した」「珍しい映像である」という説明ではなく、次の選択を具体化する。
①なぜその場所を選び、他の候補地を採用しなかったか。
②被写体と背景をどの範囲で収めるため、位置・高さ・角度をどう決めたか。
③レンズ、焦点、露光、光源、色、フレームレート等を選択したか。
④撮影開始時期、時間帯及び録画条件をどう決めたか。
⑤どの場面を、どの基準で採用・除外したか。
⑥各シーンの長さ、順番及び場面転換をどう決めたか。
⑦字幕、音、速度変更、トリミングその他の編集を加えたか。
技術上又は安全上の制約によって選択の余地がほとんどなかった事項と、多数の候補から表現目的に応じて選んだ事項を分けることが重要である。
第5 同じ場所・画角・順序で別に撮影した映像
著作権は、動物の生息場所、撮影のアイデア、撮影方法又は動物の行動という事実そのものを独占する権利ではない。他人が同じ場所にカメラを置いて別の日に撮影した場合、被写体の動きや光等が異なり、元映像の具体的表現が再製されていないことがある。
他方、先行映像へアクセスした上で、創作性のあるカメラ設計、特徴的なシーンの選択及び順序まで同じにした場合は、単なるアイデアの利用か、先行映像の本質的特徴を直接感得できる翻案かを検討する必要がある。判断では、①先行映像のどの部分に創作性があるか、②後行映像がその具体的表現に依拠したか、③共通部分が対象の性質・撮影目的から当然に決まるものか、④相違部分に新たな表現上の選択があるかを対応させる。
元映像のフレーム又は映像ファイルを直接抜き出した場合と、同じ方法を参考にして新たに撮影した場合を混同しない。
第6 誰が著作者・権利者になるか
映画の著作物の著作者は、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当し、著作物の全体的形成に創作的に寄与した者である(著作権法16条)。企画を提案した者、撮影機材を設置した者、編集者、番組責任者等の肩書だけで決めず、具体的な表現形成への寄与を確認する。
知的財産高等裁判所令和6年3月28日判決(令和5年(ネ)第10093号)は、映像全体の創作性、全体的形成への創作的寄与及び映画製作者への著作権帰属を分けて判断した。著作者と、製作について経済的な収入・支出及び法律上の権利義務を負う映画製作者は同一とは限らない。
会社、テレビ局、制作会社又は共同研究チームが関与する場合は、職務著作、映画の著作物の権利帰属、制作契約及び権利譲渡・利用許諾も確認する。
第7 主張し得る権利と請求
映像又は静止画の無断利用については、利用態様に応じて、複製権、公衆送信権、翻案権、氏名表示権及び同一性保持権等が問題となる。差止め・廃棄等は著作権法112条、損害額の推定等は同法114条が定める。
請求前には、被侵害著作物を原映像、編集映像又は特定のフレームとして特定し、どの具体的表現が利用されたかを示す。原映像全体の著作物性が争われる場合でも、編集映像又は個別フレームの創作的部分を予備的に主張できるかを検討する。
第8 撮影・編集時に保存する資料
①元の撮影ファイル及び書き出し前のデータ。
②撮影日時、機器、位置、レンズその他のメタデータ。
③設置場所、角度、画角及び撮影条件を決めた記録。
④試し撮り、採用しなかった画角及び設定変更の履歴。
⑤編集プロジェクト、タイムライン、採用・除外したシーン及び各版の書出し。
⑥企画書、絵コンテ、編集方針、メール及び会議記録。
⑦撮影・編集担当者、指示者及び各人の作業内容。
⑧制作委託、雇用、権利譲渡及び利用許諾の契約。
公開前には原ファイルのハッシュ値を記録し、配信サービスへの投稿日時、公開URL及び表示された氏名も保存する。第三者の映像を発見した場合は、URL、画面、取得日時、動画の開始・終了時刻及び共通部分を保全する。
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第10 出典
①e-Gov法令検索「著作権法」2条、10条、16条、19条、21条、23条、27条、29条、112条及び114条。
②文化庁「令和2年通常国会 著作権法改正について」。
③知的財産高等裁判所令和元年12月26日判決(写真の構図、陰影、画角、焦点位置等)。
④東京高等裁判所平成16年7月26日判決(平成14年(ネ)第6311号。連続映像の組合せ・配列)。
⑤知的財産高等裁判所令和6年3月28日判決(令和5年(ネ)第10093号。映像の著作物性、著作者及び映画製作者)。
確認日:令和8年9月23日。固定カメラによる野生動物映像と同一の事実関係を扱う判決全文を確認したものではない。上記の法令、文化庁資料並びに写真及び連続映像に関する判決から判断手順を整理した。判例秘書は検索していない。