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DNARは何を意味するか―心肺蘇生,救急搬送,再入院,抗菌薬,輸液及び人工呼吸器の個別確認(AI作成)

第1 問題の所在と結論

1 本記事が扱う問題

DNAR(Do Not Attempt Resuscitation)は,心停止時に心肺蘇生を試みないという方針である。ところが,実務では「DNARだから救急車を呼ばない」,「DNARだから抗菌薬や輸液もしない」,「看取り希望だから再入院させない」など,心肺蘇生以外の治療方針まで一括して決めたものとして扱われることがある。

日本集中治療医学会は,DNAR指示は心停止時にのみ有効であり,心肺蘇生不開始以外の医療・看護は別に議論すべきであると勧告している。本人の意思を正確に反映するためには,救急搬送,再入院,気管挿管・人工呼吸器,抗菌薬,輸液,人工的水分・栄養補給及び苦痛緩和を個別に確認しなければならない。

本記事は,令和8年9月22日現在の厚生労働省,日本集中治療医学会及び総務省消防庁の資料に基づき,DNARの範囲,意思決定の手順,救急現場との接続及び記録の方法を整理するものである。

2 結論の要旨

第一に,DNARが直接決めるのは,心停止時に心肺蘇生を開始しないことだけである。心停止前の酸素投与,抗菌薬,輸液,栄養,人工呼吸器又はICU入室等を自動的に差し控え又は中止する根拠にはならない。

第二に,DNARと人生の最終段階における治療の差控え・中止は別の合意形成を要する。本人の病状,治療目標,期待できる効果及び負担を示し,各治療項目について判断する必要がある。

第三に,救急隊が現場で蘇生を中止できるかは,地域のメディカルコントロール協議会及び消防本部の手順によって異なる。施設内のDNAR記録があるだけで,119番通報後に当然に蘇生又は搬送が行われないとは限らない。

第四に,意思確認書は選択肢へ一度チェックを付けるだけの書面ではなく,誰が,いつ,どの病状と説明を前提に決め,どの場面で再確認するかを記録する必要がある。

第2 DNARが対象とするもの

1 心停止時の心肺蘇生

DNARは,「心停止が起きたとき,心肺蘇生を試みない」という医療方針である。ここでいう心肺蘇生には,胸骨圧迫,電気的除細動,蘇生薬の投与,気道確保その他の蘇生処置が含まれる。

「急変時には何もしない」という曖昧な指示に置き換えてはならない。心停止前の呼吸困難,発熱,脱水,意識障害,出血又は疼痛には,原因と本人の意向に応じた診察・治療が必要となり得る。

2 DNARと終末期医療は同義でないこと

日本集中治療医学会の勧告は,DNARと終末期医療を同義とせず,それぞれの合意形成を別個に行うよう求めている。終末期にDNARを選択することはあるが,DNARがある患者について心肺蘇生以外の治療を差し控え又は中止する場合は,改めてその治療方針について合意形成を行う。

厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」は,本人の意思決定を基本とし,医療・ケアの開始,不開始,内容の変更及び中止を,医療・ケアチームが医学的妥当性と適切性を踏まえて慎重に判断する枠組みを示している。DNARの記載だけでこの過程を省略することはできない。

3 Partial DNARを用いないこと

日本集中治療医学会は,胸骨圧迫は行うが気管挿管は行わないなど,心肺蘇生の一部だけを実施する「Partial DNAR」を行わないよう勧告している。心停止時の蘇生処置は一つの救命行為として評価し,実施するか,DNARとするかを決める。

一方,心停止前の治療について,気管挿管は希望しないが抗菌薬は希望する,入院は希望しないが施設内での酸素投与や苦痛緩和は希望するという選択はあり得る。これはPartial DNARではなく,心停止前の治療目標を項目別に決める問題である。

第3 個別に確認すべき治療・対応

1 救急搬送

「心肺蘇生を希望しない」ことと「119番通報又は救急搬送を希望しない」ことは同じではない。骨折,窒息,出血,強い疼痛等,心停止とは異なる救急事態について治療を希望することがある。

救急搬送については,①どの症状なら主治医へ連絡するか,②どの症状なら119番通報するか,③夜間・休日の連絡先,④施設内で対応できる範囲,⑤搬送先候補を確認する。「急変時は搬送しない」とだけ記載せず,想定する病状と例外を具体化する。

2 再入院

本人が施設又は自宅での療養を希望していても,症状緩和,骨折治療,短期間の感染症治療等のために入院を選ぶことがある。反対に,治療効果より移動・せん妄・身体拘束等の負担が大きいと本人が考え,再入院を望まないこともある。

再入院の方針は,病名を問わず一律に決めるのではなく,治療による回復可能性,治療期間,侵襲,退院後の生活及び本人が重視することを基に検討する。

3 気管挿管及び人工呼吸器

心停止前に呼吸不全となった場合の気管挿管・人工呼吸器は,心停止後の心肺蘇生とは別の治療である。DNARであっても当然に実施しないことにはならない。

説明では,非侵襲的換気や酸素投与を含む代替手段,人工呼吸器から離脱できる見込み,鎮静,身体拘束,ICU入室及び本人の苦痛を確認する。実施しない場合の呼吸困難への緩和措置も併せて計画する。

4 抗菌薬

肺炎,尿路感染症その他の感染症に対する抗菌薬は,投与経路,治療場所及び目的を分けて検討する。経口薬を施設で用いる,静脈投与のため入院する,症状緩和を主目的として一定期間用いるなど,複数の選択肢があり得る。

「感染症の治療をするか」だけでなく,治癒又は延命を目標とするのか,苦痛の軽減を期待するのか,効果をいつ評価し,無効又は負担が大きい場合にどうするかを記録する。

5 輸液

輸液は,脱水の改善,薬剤投与経路の確保等を目的として行われる一方,浮腫,胸水,頻回な穿刺,点滴を保つための行動制限等の負担を生じることがある。投与の有無だけでなく,目的,量,期間及び見直し条件を確認する。

6 人工的水分・栄養補給

胃瘻,経鼻経管栄養及び中心静脈栄養等は,DNARとは別に方針を決める。導入済みであっても,継続,投与量の変更,他の方法への変更又は中止を,本人の状態と意思に応じて再評価する。

胃瘻後に感染症等による入退院を繰り返す場面の判断手順は,「胃瘻後に入退院を繰り返すときの本人意思―ACP,家族の関与,治療の差控え・中止及び成年後見人の役割(AI作成)」で整理している。

7 苦痛緩和

DNAR又は積極的治療を行わない方針であっても,疼痛,呼吸困難,不安,せん妄その他の苦痛を緩和する医療・ケアは必要である。鎮痛・鎮静を自動的に中止してはならず,症状緩和の目標,薬剤,連絡先及び観察項目を決めておく。

第4 本人意思を確認する手順

1 本人による決定を基本とすること

厚生労働省のガイドラインは,本人による意思決定を基本とする。説明は,現在の病状,予測される経過,各治療の目的,期待できる効果,負担及び代替手段を含み,本人が理解しやすい言葉と方法で行う。

認知症又は成年後見開始の事実だけで,本人の意思決定能力を一律に否定しない。項目ごとに理解と表明の可能性を評価し,時間帯,説明方法,意思伝達手段及び同席者を工夫する。

2 ACPとして繰り返し話し合うこと

人生会議(ACP)は,将来の医療・ケアについて,本人を主体に家族等及び医療・ケアチームが繰り返し話し合い,共有する取組である。DNAR確認書を一度作成することだけでは終わらない。

病状の進行,入退院,治療への反応,生活場所の変更,本人の発言の変化等があれば再確認する。文書には,作成日だけでなく,次回の見直し時期又は見直しの契機を記載する。

3 本人の意思を確認できない場合

本人の意思を確認できない場合,家族等が本人の意思を推定できるときは,その推定意思を尊重する。推定できないときは,家族等と十分に話し合い,医療・ケアチームが本人にとっての最善の方針を検討する。

家族等は自らの希望を本人の希望へ置き換えるのではなく,本人の従前の発言,生活歴,価値観及び宗教的信条を伝える役割を担う。意見が対立するときは,多職種の臨床倫理カンファレンス又は複数の専門家による検討を行い,議事を残す。

4 成年後見人の役割

成年後見人には,一般的な医療同意権はない。DNAR,救急搬送又は個別治療を本人に代わって包括的に決定する権限が当然に生じるわけではない。

もっとも,後見人は,本人の意思に関する情報の提供,説明の場への参加,医療・介護関係者の連絡調整,診療契約及び費用の処理並びに記録の確保を行い得る。医療機関又は施設から署名を求められた場合は,「同意者」としてではなく,説明を受けた者又は情報提供者としての署名にできないかを確認する。この点は「成年後見人の医療行為の同意(AI作成)」で詳しく整理している。

第5 救急現場とDNAR記録

1 施設内方針だけで救急隊の活動は決まらないこと

救急隊は,心肺停止傷病者に速やかに心肺蘇生を行うことを基本として活動する。救急現場では,医師が臨場せず,救急隊に本人の意思が事前共有されていないことも多い。

総務省消防庁の報告は,かかりつけ医等へ連絡し,医師から心肺蘇生中止の指示を受けた場合に蘇生を中止する地域の取組を紹介する一方,地域での検証と知見の蓄積が必要としている。全国一律に,特定の書式があれば救急隊が必ず蘇生を中止するという制度ではない。

2 事前に地域の手順を確認すること

施設,在宅医,訪問看護及び家族は,地域の消防本部又はメディカルコントロール協議会の手順を確認する。少なくとも,①書面の様式,②本人又は家族等の署名,③かかりつけ医の指示,④医師への連絡方法,⑤原本又は写しの保管場所,⑥救急隊へ提示する者を共有する。

119番通報の要否,通報後の蘇生,搬送の有無は別の判断である。看取りを予定しているときは,死亡確認を依頼する医師への連絡方法も含め,夜間・休日の具体的手順を作成する。

第6 意思確認票の作り方

1 一つの包括的な欄にまとめないこと

「延命措置を希望する・希望しない」という一欄だけでは,何を希望しないのかが分からない。少なくとも次の項目を分ける。

①心停止時の心肺蘇生

②心停止前の救急搬送

③再入院

④気管挿管及び人工呼吸器

⑤ICU入室,昇圧薬及び血液浄化

⑥抗菌薬(経口,点滴及び入院を要する治療)

⑦輸液

⑧人工的水分・栄養補給(胃瘻等)

⑨酸素投与,鎮痛・鎮静その他の苦痛緩和

2 各項目に記録する事項

各項目について,①本人の希望,②判断時の病状,③受けた説明,④希望の根拠となる価値観,⑤本人の意思を確認できない場合の推定根拠,⑥医療・ケアチームの評価,⑦家族等の氏名及び関係,⑧見直し時期を記載する。

「希望しない」だけでなく,「どの条件なら希望するか」,「判断を主治医と医療・ケアチームへ委ねるか」という選択肢も用意する。本人が決めることを望まない項目について,無理に二択を迫らない。

3 原本,写し及び更新履歴

原本の保管者,電子カルテ又は施設記録への保存場所,家族等が持つ写し,救急隊に示す書面を明確にする。更新時は旧版を消去せず,更新日,変更点及び理由を残し,関係者へ新しい版を共有する。

第7 紛争予防及び事後検証のための記録

DNARをめぐる紛争では,書式の有無だけでなく,意思確認の具体性と関係者間の共有が問題となる。大阪地裁令和5年12月8日判決(令和4年(ワ)第845号,判例秘書L07851433)は,在宅での看取り希望が当然にDNAR,救急車を呼ばないこと又は救急要請前に主治医へ連絡することまで含むものではないとしている。

この裁判例からも,看取り場所の希望,心停止時の蘇生,心停止前の治療,救急搬送及び連絡順序を分けて記録する必要がある。診療録,訪問看護記録,施設記録及び家族との連絡記録の内容が一致しているかも確認する。

第8 弁護士が相談を受けたときの確認事項

①本人の病名,病期,現在の意思決定能力及び意思伝達方法

②DNARを決めた日時,説明者,参加者及び作成された書面

③本人が実際に述べた内容と,家族等が述べた内容の区別

④救急搬送,再入院,人工呼吸器,抗菌薬,輸液,栄養及び苦痛緩和の個別方針

⑤各方針の医学的理由,期待できる効果及び負担

⑥病状変化後の再確認の有無

⑦主治医,施設,訪問看護及び家族等の間の共有状況

⑧夜間・休日の連絡先と救急要請の手順

⑨地域の消防本部又はメディカルコントロール協議会の取扱い

⑩実際の急変時の時系列,通報内容,救急隊への提示資料及び医師の指示

第9 出典・参考資料

1 公的ガイドライン等

厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」

厚生労働省「『人生会議』してみませんか」

日本集中治療医学会「Do Not Attempt Resuscitation(DNAR)指示のあり方についての勧告」

総務省消防庁「傷病者の意思に沿った救急現場における心肺蘇生の実施に関する検討部会」

総務省消防庁「令和7年版消防白書 第2章第5節4 救急業務高度化の推進」

2 裁判例

大阪地方裁判所令和5年12月8日判決・令和4年(ワ)第845号・判例秘書L07851433(在宅看取りの希望とDNAR,救急不搬送及び主治医への先行連絡の合意を区別した事例)