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第1 結論――傷病名ではなく残った障害ごとに認定する
1 脛骨顆間隆起骨折に固有の一つの等級はない
脛骨顆間隆起骨折は,前十字靱帯(ACL)の脛骨付着部が骨片とともに裂離する関節内骨折である。しかし,「脛骨顆間隆起骨折」という診断名だけから後遺障害等級は決まらない。症状固定時に残った①膝関節の可動域制限,②前方不安定性による動揺関節,③疼痛等の神経症状を別々に検討し,骨癒合,ACL及び半月板等の状態と結び付けて評価する必要がある。
可動域制限が認定対象となるときは第8級7号,第10級11号又は第12級7号,動揺関節が認定対象となるときもその程度に応じて同じ系列の等級,疼痛が認定対象となるときは第12級13号又は第14級9号が主な候補となる。もっとも,数値基準を満たすだけでは足りず,本件骨折等による器質的又は機能的原因が医学的に説明できることが前提となる。
2 認定判断は四つの問いに分ける
検討の順序は,①画像,手術所見及び診察所見から何が残っているか,②その残存所見が可動域制限,不安定感又は疼痛を医学的に説明するか,③事故から症状固定までの経過と整合するか,④認定基準のどの段階に該当するか,である。画像上の骨癒合だけを見ても,ストレス撮影の左右差だけを見ても,適切な等級判断にはならない。
第2 脛骨顆間隆起骨折の病態と残り得る障害
1 ACL脛骨付着部の裂離骨折である
脛骨顆間隆起は,脛骨上端の内側顆と外側顆の間に位置し,ACLの脛骨付着部を含む。膝に回旋,過伸展又は直達外力が加わり,ACLに生じた張力によって付着部の骨片が裂離するのが脛骨顆間隆起骨折である。骨片の転位を表すMeyers-McKeever分類等は治療方針の検討に有用であるが,後遺障害等級表の分類ではない。
2 成人の交通外傷では合併損傷を分けて確認する
小児では比較的よくみられる外傷であるのに対し,骨格が成熟した成人では高エネルギー外傷に伴うことが多い。成人例では,骨片にACL線維が連続していても,半月板損傷,内側側副靱帯損傷,後十字靱帯損傷,骨挫傷又は軟骨損傷を合併し得る。したがって,単純X線で小さな骨片が見えるだけの事案でも,骨折単独と早計に判断すべきではない。
医学的知見に照らせば,治療後の単純な前方弛緩性よりも,膝拘縮又は転位・肥大した骨片による伸展時の顆間窩インピンジメントが問題となる例もある。また,Lachmanテストが陽性であっても本人が不安定感を自覚しない例があり,検査所見と日常生活上の支障が常に一致するわけではない。
3 症状固定時に残り得る三つの中心的障害
(1) 可動域制限
骨片の突出,変形癒合,関節線維症,瘢痕又は長期固定後の拘縮によって,屈曲又は伸展が制限されることがある。とりわけ完全伸展できない状態は,歩行,立位,階段昇降及びしゃがみ込みに影響し得るため,屈曲角度だけでなく伸展角度も記録する必要がある。
(2) 動揺性
骨癒合後もACLが伸長した位置で治癒した場合,ACL実質損傷が併存する場合又は骨片が偽関節となった場合には,脛骨の前方移動が増え,膝崩れ又は不安定感を残すことがある。もっとも,他覚的な弛緩性があることと,硬性装具を必要とする動揺関節であることは同じではない。
(3) 疼痛
関節面又は骨片の不整,偽関節,インピンジメント,軟骨・半月板損傷又は外傷後変性が,荷重時痛又は伸展時痛の原因となり得る。疼痛を評価するときは,痛みがあるという申告だけでなく,圧痛部位,誘発動作,関節水腫,画像所見及び治療経過との対応を検討する。
第3 後遺障害等級の分岐
1 主な認定経路の全体像
自動車損害賠償保障法施行令別表第2の等級文言と,関節機能を具体化する厚生労働省の障害等級認定基準を対応させた主な分岐は次のとおりである。個別事案では障害の原因,測定の適正及び提出資料全体が審査されるため,表は診断名から等級を割り当てるものではない。
| 残存障害 | 主な等級候補 | 認定基準上の目安 |
|---|---|---|
| 膝関節の用廃 | 第8級7号 | 完全強直又はこれに近い状態,若しくは常時固定装具を絶対に必要とする動揺関節 |
| 著しい機能障害 | 第10級11号 | 原則として患側可動域が健側の2分の1以下,又は動揺関節によって労働に支障があるが常時装具までは不要 |
| 機能障害 | 第12級7号 | 原則として患側可動域が健側の4分の3以下,又は重激な労働時等に固定装具を必要とする動揺関節 |
| 頑固な神経症状 | 第12級13号 | 疼痛等が医学的に証明できるもの |
| 神経症状 | 第14級9号 | 疼痛等が医学的に説明できるもの |
2 可動域制限による第8級7号,第10級11号又は第12級7号
(1) 健側との比率で判断する
膝関節の主要運動は屈曲と伸展であり,同一面の運動であるため,両者の可動域角度を合計して評価する。原則として健側と患側を比較し,患側が健側の2分の1以下であれば第10級11号,4分の3以下であれば第12級7号の対象となる。健側にも障害がある場合は,日本リハビリテーション医学会の参考可動域角度と比較する。
第8級7号の「関節の用を廃したもの」には完全強直のほか,これに近い状態が含まれる。認定基準上,これに近い状態は原則として健側可動域の約10%以下であり,5度単位で切り上げて判定するため,健側膝の屈曲が130度である例では患側15度以下が例示されている。
(2) 原則は他動可動域で測定する
厚生労働省の認定基準は,他動可動域を原則とする。末梢神経麻痺又は耐え難い疼痛等のため他動値を用いることが適切でない医学的理由があるときは,自動可動域を参考にする。診断書には左右,自動・他動,屈曲・伸展,測定日,測定者及び測定肢位を区別して記載し,疼痛,終末感又は代償動作があれば併記するのが望ましい。
日本リハビリテーション医学会の令和4年改訂版では,膝の参考可動域は屈曲0度~130度,伸展0度であり,基本軸を大腿骨,移動軸を腓骨頭と外果を結ぶ線とする。屈曲は股関節屈曲位で測定する。同じ患者でも肢位,測定方法又は疼痛の状態によって数値が変わり得るため,症状固定直前の一回の数値だけでなく,経時的な測定値の整合性も確認すべきである。
(3) 角度の原因を画像及び診察所見で説明する
数値が基準以下であっても,その制限が本件骨折等によるものかを別に判断する。骨片の突出,変形癒合,関節裂隙の変化,関節線維症又は疼痛性制限等と測定値が対応しなければ,器質的原因の乏しい制限として争われ得る。反対に,わずかに基準を上回る数値を等級に合わせて切り下げることも許されない。
3 動揺関節による第8級7号,第10級11号又は第12級7号
(1) 公的基準の中心は装具必要性と労働支障である
厚生労働省の認定基準は,関節の動揺性を固定装具の医学的必要性と労働への支障によって区分する。常時固定装具を絶対に必要とするものは関節の用廃,常時装具は不要であるが労働に支障があるものは著しい機能障害,重激な労働時等に固定装具を必要とするものは機能障害として扱う。
ここでいう固定装具は,単なる安心のための市販サポーターと同義ではない。処方された装具の硬性・軟性,医師が必要と判断した理由,使用場面,装着頻度,膝崩れの頻度及び仕事上の制限を対応させる必要がある。
(2) ミリメートルの左右差だけで等級は決まらない
ストレスX線又は関節動揺性計測器による前方移動量は,動揺性を客観化する資料となる。しかし,左右差5mm~8mmなら第12級,8mm~10mmなら第10級,10mmを超えれば第8級という一律の区分は,現行の厚生労働省認定基準には記載されていない。したがって,測定値を公的な等級閾値であるかのように扱うべきではない。
(3) 検査所見,装具及び具体的支障を一つの証拠系列にする
Lachmanテスト,前方引出しテスト,pivot shiftテスト,ストレス撮影又は関節動揺性計測器の所見に加え,ACLの連続性・信号変化,骨片の位置,筋力及び歩容を確認する。その上で,方向転換,階段下降,凹凸路歩行,重量物運搬等のどの動作で膝崩れが生じるかを診療録と陳述資料に一貫して残すことが重要である。
4 疼痛による第12級13号又は第14級9号
(1) 医学的に証明できるか,説明できるかを分ける
骨癒合後も疼痛が残る場合,他覚的に神経系統の障害が証明されるときは第12級13号,これより軽度であるものの受傷態様及び経過から症状を医学的に説明できるときは第14級9号が検討対象となる。単に疼痛が長期間続いたという時間的経過だけで第12級13号になるわけではなく,画像所見,手術所見,診察所見及び症状経過を総合する必要がある。
(2) 疼痛の位置と誘発動作を具体化する
疼痛の主張では,膝全体が痛いという記載よりも,前方・内側・関節裂隙等の部位,伸展終末・荷重・階段下降等の誘発動作,水腫又は圧痛の有無を具体化する方が医学所見との対応を検討しやすい。鎮痛薬,注射,装具又は再手術の検討経過も,症状の一貫性を判断する資料となる。
5 同じ症状を重ねて評価しない
一つの骨折から可動域制限と動揺性のように別個の障害が残る場合には,併合の検討対象となり得る。しかし,同じ疼痛が可動域制限又は動揺関節の評価に既に含まれている場合,当然に神経症状の等級を重ねられるわけではない。どの症状がどの障害系列に対応するかを先に整理する必要がある。
なお,骨片の偽関節,脛骨の変形癒合又は下肢短縮等が残る事案では,長管骨の偽関節又は変形障害等の別系列も確認する。ただし,脛骨顆間隆起骨折であることだけから,これらの障害が推定されるものではない。
第4 画像検査と診察所見の役割
1 単純X線は骨癒合と骨片位置の出発点である
単純X線では,骨片の転位,骨癒合,関節面の不整,固定材料及び外傷後変性を確認する。受傷直後の画像は事故による骨折の存在と初期転位を示し,症状固定時の画像は残存形態を示すため,両時点を対比する価値がある。もっとも,小骨片又は軟部組織損傷は単純X線だけでは評価しにくい。
2 CTは骨性形態を立体的に評価する
CTは,骨片の大きさ,粉砕,転位,回旋,関節面との位置関係,癒合又は偽関節を詳しく示す。伸展制限又は伸展時痛について,骨片が顆間窩に衝突し得る位置にあるかを検討するときにも有用である。ただし,CTで骨癒合が確認できても,ACLの機能又は本人の不安定感が正常であるとは限らない。
3 MRIはACLと合併軟部組織損傷を評価する
MRIでは,骨片に付着するACL線維の連続性・走行・信号変化,半月板,側副靱帯,後十字靱帯,軟骨,骨挫傷及び関節線維症を評価する。画像所見の意味は撮像時期と撮像条件によって異なるため,読影報告書だけでなく,必要に応じて画像データ自体と撮像日を確認する。
4 ストレス撮影等は動揺性を客観化する
ストレスX線は一定の方向と負荷で撮影し,健側と患側の移動量を比較する。撮影肢位,負荷方法,左右を同じ条件にしたかを確認しなければ,数値だけを比較しても意味が弱い。動揺関節の立証手段としてのストレスレントゲン撮影で説明したとおり,画像は診察所見及び装具必要性と組み合わせて評価すべきである。
5 画像所見,診断,因果関係及び等級は別の判断である
画像上の異常所見は診断の根拠となるが,その所見が現在の症状を生じさせているかは別問題である。さらに,事故との因果関係が認められても,後遺障害等級の閾値を満たすかは別に判断する。反対に,MRIに著明な異常がないという理由だけで,適切に測定された可動域制限又は一貫した疼痛を直ちに否定することもできない。
第5 公的な判定例から分かる評価方法
1 人事院平成24年6月20日指令13-16
業務中のバイク転倒によって左脛骨顆間隆起骨折及び左脛骨高原骨折を負った事案について,人事院は,X線上の骨癒合が良好で,転位・骨片がなく,ACL損傷等がごく軽度であり,通常の労務に支障を生じる疼痛がないとして,神経症状を第14級にとどめた。また,可動域制限がなく,動揺関節の他覚所見がなく,硬性補装具も不要であるとして,機能障害及び動揺関節を等級対象としなかった。
この指令は自賠責の認定例ではない。しかし,本件骨折について,傷病名から結論を出さず,①骨癒合及び骨片,②ACL損傷,③可動域,④動揺性,⑤硬性装具,⑥疼痛による労務支障を分解して判断した公的原典として参考になる。
2 裁判例を用いるときの注意
脛骨顆間隆起骨折を傷病名として明示する裁判例の紹介は複数存在するが,裁判所ウェブサイトに判決全文が掲載されていないものもある。裁判年月日,事件番号又は掲載誌の一致だけで判旨を確定せず,判決全文又は掲載誌本文を確認してから用いるべきである。裁判所ウェブサイトで検索できないことは,その裁判例が存在しないことを意味しない。
第6 症状固定前後の証拠収集
1 最初に低負担の資料で仮説を絞る
まず,事故状況,救急時画像,診断名,手術記録,退院時記録,リハビリテーション記録及び症状固定時診断書を時系列に並べる。その上で,可動域制限,動揺性又は疼痛のどれが中心か,既存画像で器質的原因をどこまで説明できるかを確認する。この段階で障害系列を絞れば,不要な検査と重複資料を減らせる。
2 可動域制限が中心のとき
左右の屈曲・伸展について,自動値と他動値を区別した連続測定記録を収集する。測定値が大きく変動するときは,肢位,疼痛,筋緊張又は代償動作の影響を診療録で確認する。骨片突出,関節線維症又は変形癒合等の原因が疑われる場合に限り,CT又はMRIの追加が結論を変えるかを検討する。
3 動揺性が中心のとき
診察所見と本人の具体的な膝崩れを対応させ,必要に応じて両側同条件のストレスX線又は関節動揺性計測を行う。装具については,処方箋,医師の必要性判断,義肢装具士の記録,硬性・軟性の別,使用日誌及び仕事上の制限を集める。検査値だけを提出し,装具必要性又は労働支障を説明しない資料構成は避けるべきである。
4 疼痛が中心のとき
受傷直後から症状固定までの疼痛部位,誘発動作,頻度及び治療反応を時系列化する。画像上の不整,偽関節,軟骨・半月板損傷又はインピンジメントの有無を確認し,症状と一致する診察所見を抽出する。症状固定後に初めて現れた痛み又は長期間記録が途切れた痛みは,事故との因果関係及び一貫性が争点となりやすい。
5 高負担の検査には停止条件を置く
追加CT,追加MRI,ストレス撮影又は専門医意見書は,既存資料で未解決の問いと,追加結果によって変わり得る判断を先に定めてから実施する。例えば,既に適切なストレス撮影があり,硬性装具の医学的必要性が否定されている事案では,別施設で同じ検査を反復しても等級判断を変えないことがある。反対に,単純X線しかなく伸展ブロックの原因が不明な事案では,CT又はMRIが認定経路の選択に影響し得る。
第7 まとめ
交通事故による脛骨顆間隆起骨折の後遺障害等級は,骨折名又は治療法ではなく,症状固定時に残った可動域制限,動揺性及び疼痛を分けて判断する。可動域は適正な他動測定と器質的原因,動揺関節は客観的検査に加えて固定装具の医学的必要性と労働支障,疼痛は症状と画像・診察所見・経過の対応が中心となる。
したがって,実務上は,画像所見,医学的診断,事故との因果関係,機能障害及び法的等級を一段ずつ区別し,不足する証拠だけを追加することが重要である。ストレス撮影のミリメートル値又はMRIの一所見を,等級そのものと取り違えてはならない。
第8 出典・参考資料
1 法令,行政資料及び学会基準
①e-Gov法令検索・自動車損害賠償保障法施行令(昭和30年政令第286号)別表第2
②厚生労働省「せき柱及びその他の体幹骨,上肢並びに下肢の障害に関する障害等級認定基準について」(平成16年6月4日基発第0604003号)
③厚生労働省「障害等級認定基準」(局部の神経系統の障害及び疼痛の基準)
④厚生労働省「障害等級認定基準」(関節の機能障害及び動揺関節の基準)
⑤厚生労働省「関節の機能障害の評価方法及び関節可動域の測定要領」
⑥日本リハビリテーション医学会「関節可動域表示ならびに測定法改訂に関する告知(2022年4月改訂)」及び同PDF
⑦人事院平成24年度年次報告書・平成24年6月20日指令13-16
2 医学書
①新津守『膝MRI 第3版』医学書院,平成30年,63頁~65頁
②井樋栄二ほか編『標準整形外科学 第13版』医学書院,平成29年,827頁~828頁
3 外国医学文献
①Patterson SP, Christiansen GB, Daffner RH, “Avulsion fracture of the tibial eminence in an adult with a unique mechanism of injury,” Radiology Case Reports 13(4), 2018, 843–847, PMCID: PMC6040231
②Kieser DC, Gwynne-Jones D, Dreyer S, “Displaced Tibial Intercondylar Eminence Fractures,” Journal of Orthopaedic Surgery 19(3), 2011, 292–296, DOI: 10.1177/230949901101900306, PMID: 22184157
③She Y, Guo D, Chen G, Xu Y, Li Y, “Therapeutic efficacy of arthroscopy-assisted transosseous fixation with the Versalok suture anchor for tibial eminence fractures in adults,” Medicine 100(23), 2021, e26284, PMCID: PMC8202665
④Khela HSほか, “Treatment and Clinical Outcomes of Tibial Spine Fractures in Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis,” Orthopedics 48(3), 2025, 174–187, PMID: 40272029
⑤Landré Vほか, “Tibial Anterior Cruciate Ligament Avulsion Fractures in Pediatric and Adult Populations: A Systematic Literature Review,” Journal of Clinical Medicine 14(17), 2025, PMID: 40944075