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弁護士・税理士が事例をウェブ公開するときの確認事項―守秘義務,匿名化,同意,広告表示及び生成AI(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

この記事は,弁護士又は税理士が,法律相談,受任事件,税務相談又は税務業務に関する事例を,事務所のウェブサイト,ブログ,SNS,動画その他の外部媒体で紹介するときの確認事項を扱う。
顧客の資料を事務所内部で処理することと,その内容を第三者が閲覧できる媒体に掲載することは,目的,閲覧者及び危険が異なる別の行為である。

氏名を削除し,又は依頼者の同意を得ただけで,常に公開できるわけではない。
相談者又は依頼者以外の情報,複数の事実を組み合わせた再識別,公表による不利益,広告表示の正確性及び生成AIへの入力条件を,それぞれ確認する必要がある。

公開前には,少なくとも次の順序で確認する。

1. 原資料と利用目的を特定する。
2. 守秘義務,個人情報,契約上の秘密及び第三者の権利を分けて検討する。
3. 実在事例,複数事例を統合した事例及び仮想事例を区別する。
4. 同意の対象,媒体,期間及び撤回・削除の扱いを明確にする。
5. 氏名を外した後も,再識別と不利益のおそれを確認する。
6. 広告規程,所属会の規則及び表示の裏付けを確認する。
7. 生成AIを使う場合は,入力範囲と処理条件を先に決める。
8. 公開する文章を原資料と照合し,承認者と確認日を記録する。
9. 公開後の訂正,非表示及び削除の窓口を決める。

第2 最初に区別する情報

1 原資料,内部処理及び公開表示

原資料には,依頼者から受領した文書,聞取り記録,メール,帳簿,申告書,証憑,裁判所提出書面,相手方の主張及び第三者の個人情報等が含まれる。
これらを事件又は税務業務の遂行のために内部で検討することと,事例紹介のために公開することを同じ利用として扱わない。

公開用の文章を作る際は,原資料から必要事項を抽出した作業用メモと,公開候補の文章を分ける。
公開候補には,元のファイル名,住所,日付,金額,業種,家族関係,珍しい取引又は紛争経過等,単独では氏名でなくても本人を推測させる情報が残ることがある。

2 確認済み事実,評価及び仮想事例

事例には,原資料で確認できる事実,専門家による評価,依頼者の感想及び説明のために置いた仮定が混在しやすい。
公開文では,これらを混同せず,どの部分が実際の取扱事例で,どの部分が一般化又は仮想化した説明であるかを読者に分かるようにする。

複数事例を組み合わせた場合は,特定の一件をそのまま紹介したものではないことを明示する。
架空の依頼者の声,実在しない成功実績又は確認していない数値を,実際の経験のように表示してはならない。

第3 弁護士の守秘義務と広告規程

1 守秘義務は個人情報だけを対象としない

弁護士法23条は,弁護士又は弁護士であった者について,職務上知り得た秘密を保持する権利及び義務を定めている。
弁護士職務基本規程23条も,正当な理由なく,依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし,又は利用してはならないと定めている。

秘密は,自然人の個人情報に限られない。
法人の取引条件,資金事情,係争方針,非公表の相談内容その他,依頼者が公開していない業務上の情報も対象となり得る。

2 依頼者の同意と匿名化による例外を混同しない

弁護士等の業務広告に関する規程4条は,顧問先又は依頼者の表示,受任中の事件及び過去に取り扱い又は関与した事件について,表示できない事項と例外を定めている。
顧問先又は依頼者の表示には,その顧問先又は依頼者の書面又は電磁的方法による同意が必要である。

受任中の事件については,依頼者の書面又は電磁的方法による同意がある場合のほか,依頼者が特定されず,かつ,依頼者の利益を損なうおそれがない場合が例外となる。
過去の事件については,同様の同意がある場合のほか,広く一般に知られている事件又は依頼者が特定されない場合で,かつ,依頼者の利益を損なうおそれがない場合が例外となる。

したがって,匿名化を根拠とする場合は,氏名がないことだけでなく,依頼者が特定されないことと,依頼者の利益を損なうおそれがないことの両方を確認する。
同意を根拠とする場合も,同意した依頼者以外の秘密又は権利まで処分できるわけではない。

3 勝訴率,成果及び保証の表示

広告規程4条は,訴訟の勝訴率の表示を禁止しており,同意等による例外を設けていない。
事例の選び方によって好結果だけが並ぶと,個々の記載が事実でも,一般的に同じ結果が得られるとの誤解を招くことがある。

広告規程3条が禁止する,事実に合致しない広告,誤導又は誤認のおそれのある広告,誇大又は過度な期待を抱かせる広告等に当たらないかを確認する。
解決金額,期間又は結果を示す場合は,前提条件,集計範囲及び例外を確認し,将来の結果を請け合い,又は保証する表現を用いない。

広告を掲載した場合は,広告規程11条に従い,広告の内容及び方法,広告業者との契約,入出金並びに必要な同意を証する記録を保存する。

第4 税理士の守秘義務と広告表示

1 税理士法上の守秘義務

税理士法38条は,税理士又は税理士であった者について,正当な理由なく,税理士業務に関して知り得た秘密を漏らし,又は窃用することを禁じている。
同法54条は,税理士の使用人その他の従業者にも同様の義務を定め,同法41条の2は,税理士に使用人等の監督義務を定めている。

同法37条が定める信用又は品位を害する行為の禁止も,事例の表示方法を検討する際の基本となる。
顧客企業の名称を出さなくても,業種,地域,売上規模,特殊な取引又は税務調査の時期から顧客を推測できる場合がある。

2 所属税理士会の規則を確認する

税理士の広告については,税理士法だけでなく,所属する税理士会の会則,規則及び指針の現行本文を確認する必要がある。
日本税理士会連合会の公式資料である「税理士制度の未来を拓く―制度発展のための100の提案」は,広告が原則自由である一方,虚偽・誇大な広告,誤認のおそれのある広告,品位・信用を損なう広告,禁止事項及び表示できない事項を各税理士会の規則が定めると説明している。

この資料は日税連の公式な解説資料であるが,個々の税理士に直接適用される所属税理士会の現行規則そのものではない。
実際の公開前には,所属会の最新規則と公開予定の表示を照合する。

第5 同意だけで公開できるとは限らない

1 同意の対象を具体化する

同意を得る場合は,掲載する情報,編集方法,媒体,公開期間,広告への利用,検索エンジン及びAIサービスによる取得の可能性,訂正・削除の申出方法を説明する。
「広報に利用することへ同意する」といった包括的な文言だけで,後に追加する金額,画像,音声又は第三者情報まで同意済みであると扱わない。

事例公開への同意を,事件又は税務業務の受任条件にしない。
同意しないことによる不利益がないことを説明し,受任時の委任契約又は利用規約に埋め込むだけでなく,公開候補の文章を確認できる機会を設けることが望ましい。

2 依頼者以外の情報を確認する

一つの事例には,相手方,共同相続人,従業員,取引先,医療機関その他の第三者の情報が含まれることがある。
依頼者の同意は,これらの第三者の個人情報,秘密,名誉,プライバシー,肖像又は著作物の利用を当然に正当化するものではない。

公開範囲を絞り,事件の仕組みを説明するために不要な属性,日付,場所,金額及び画像を削る。
どうしても必要な事項は,一般化,幅表示又は仮想化ができないかを検討する。

3 再識別の危険を確認する

再識別は,一つの文章だけでなく,事務所サイトの別の記事,裁判記録,SNS,報道,登記その他の公開情報との組合せで生じる。
珍しい事案ほど,氏名を消しても当事者や関係者には分かりやすい。

公開前には,事件を知らない確認者にも文章を読ませ,誰を想起できるか,依頼者又は第三者にどのような不利益が生じ得るかを確認する。
公開による便益が小さく,再識別又は不利益の危険が残る場合は,公開を見送る。

第6 生成AIを事例作成に使う場合

1 入力前に処理条件を確認する

生成AIへ原資料を入力する前に,利用目的,利用するサービス及びプラン,学習利用の有無,保存期間,提供者の役職員による閲覧,再委託,国外での取扱い,削除方法及び事故時の連絡先を確認する。
個人情報保護委員会の注意喚起は,個人情報を入力する場合の利用目的と,個人データが回答出力以外の目的で取り扱われる場合への注意を示している。

学習に使われない設定であっても,送信,回答生成のための保持,ログ,保守時の閲覧又は外部連携がすべてなくなるとは限らない。
個人情報保護法上の評価だけで,弁護士法又は税理士法上の守秘義務の判断を代替しない。

2 公開用コピーを作る

原資料を直接入力する必要があるかを先に検討し,必要な事実だけを抽出した公開用コピーを作る。
氏名,住所,連絡先,口座番号,個人番号その他の不要な識別情報を外すだけでなく,ファイル名,画像の題名,PDFの文字層,コメント及び別シートも確認する。

入力時の仮名化と,公開時の匿名化を同じ確認にしない。
生成AIへの入力時に本人が特定できないよう処理したとしても,完成した記事を公開情報と照合すれば再識別できる場合がある。

3 出力を原資料と照合する

生成AIの出力は,事実,日付,金額,引用,法令,事件番号及び因果関係を原資料と一次資料に照らして確認する。
AIが読みやすい物語へ整えた結果,複数人の発言,時系列又は専門家の評価が混ざっていないかを確認する。

入力した範囲,採用・修正・不採用の箇所,確認者及び確認日を記録する。
事例作成を自動化しても,公開の可否と最終文面の判断をAIに委ねない。

第7 公開前の確認手順

1 事例カードを作る

事例ごとに,次の事項を一枚の確認票へまとめる。

確認項目記録する内容
公開目的読者のどの疑問又は判断を助けるか
原資料文書名,作成者,日付,頁又は該当箇所
事例の種類実在一件,複数事例の統合又は仮想事例
法的根拠守秘義務,同意,個人情報,広告規程,所属会規則等
当事者依頼者,相手方,家族,従業員,取引先その他の第三者
匿名化削除,一般化,幅表示,仮想化した項目
再識別他の記事,裁判記録,SNS,報道等との組合せ
表示の裏付け結果,金額,期間,件数,感想及び比較の確認資料
AI利用サービス,プラン,入力範囲,設定,保存・削除条件
承認依頼者等の同意,確認者,確認日,公開予定媒体
公開後の管理再確認日,訂正・削除窓口,非表示の判断者

2 公開用文章を別に承認する

同意書だけでなく,実際に公開する文章,画像,見出し,抜粋及びSNS用表示を確認対象にする。
本文では匿名でも,ページ題名,URL,画像の代替文字,構造化データ又はSNSカードに識別情報が残ることがある。

公開用文章の版を固定し,承認後に新しい事実又は画像を加えた場合は,再確認する。
外部の制作会社が編集する場合も,最終版を弁護士又は税理士が読み戻す。

第8 公開後の管理と効果測定

1 訂正,非表示及び削除

事実誤認,事情変更,再識別の危険,依頼者の不利益又は同意の範囲を超える掲載が判明した場合の連絡先と初動を決める。
結論を直ちに出せない場合でも,公開継続による危険が大きければ,暫定的な非表示を検討する。

削除した場合も,検索結果のキャッシュ,SNSの転載,外部配信及びバックアップから直ちに消えるとは限らない。
公開先,配信先及び削除確認の結果を記録する。

2 件数より判断の質を測る

事例の大量掲載数,PV又はAI回答での引用数だけを成果としない。
読者が必要な注意点を理解できたか,適切な相談先を選べたか,問い合わせ,法律相談又は税務相談へどのようにつながったかを分けて確認する。

特定分野のランディングページを増やす場合も,言い換えごとに同じ内容を量産せず,対象読者の判断に固有の情報がある場合に限る。
事例の具体性を高めることと,守秘義務又は広告規程に反して詳細を増やすことを混同しない。

第9 短いチェックリスト

– これは実在事例,複数事例の統合又は仮想事例のどれか。
– 公開目的に不要な事実を削ったか。
– 依頼者以外の第三者情報を確認したか。
– 氏名以外の情報から再識別されないか。
– 同意の対象,媒体,期間及び公開文面を記録したか。
– 弁護士広告規程又は所属税理士会の現行規則を確認したか。
– 結果,金額,期間,件数及び感想に裏付けがあるか。
– 勝訴率,保証又は過度な期待を生じさせる表示になっていないか。
– 生成AIへの入力範囲と処理条件を確認したか。
– 公開文を原資料と一次資料に照合したか。
– 公開後の訂正,非表示及び削除の担当者を決めたか。

第10 一次資料と裁判例の位置付け

弁護士の守秘義務は弁護士法及び弁護士職務基本規程,弁護士の事例広告は弁護士等の業務広告に関する規程,税理士の守秘義務等は税理士法が一次資料となる。
個人情報保護法上の取扱いについては,個人情報の保護に関する法律及び個人情報保護委員会の公表資料を確認する。

日税連の解説資料は,税理士制度と広告規制の概要を理解する公式資料であるが,所属税理士会の現行規則の確認に代わるものではない。
業者の成功事例,セミナー資料又は自動生成ツールの説明は,その業者が述べた施策と成果を知る資料であり,守秘義務,広告規制への適合又は同じ成果が得られることの裏付けではない。

本記事は,法令,現行の日弁連規程及び行政資料を中心に,公開前の確認手順を整理したものである。
事例公開の可否を直接判断した裁判例の網羅的な調査又は判例秘書による横断検索は行っていないため,具体的な紛争,損害賠償責任又は懲戒例を追加する場合は,別途,裁判例・懲戒例の原文を確認する必要がある。

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第12 出典・参考資料

1. e-Gov法令検索「弁護士法」23条
2. 日本弁護士連合会「弁護士職務基本規程」23条
3. 日本弁護士連合会「弁護士等の業務広告に関する規程」3条,4条及び11条
4. 日本弁護士連合会「会規・規程等」
5. e-Gov法令検索「税理士法」37条,38条,41条の2及び54条
6. 日本税理士会連合会「税理士制度の未来を拓く―制度発展のための100の提案」
7. e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」
8. 個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」及び「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等(PDF)」