第1 結論
1 AIが補助できること
AIは,候補商標の表記揺れ,読み方及び検索語を広げ,商品・役務の区分又は類似群コードの候補を整理し,J-PlatPatの検索結果を比較表にまとめる作業を補助できる。
また,調査対象,検索式,検索日,ヒットした案件及び除外理由を同じ様式で記録する作業にも向いている。
2 人が判断すべきこと
AIだけで「登録できる」,「他人の権利を侵害しない」又は「使用して安全である」と結論付けることはできない。
商標の識別力,先行商標との類否,指定商品・指定役務の範囲,取引の実情及び不使用取消し等を含む対応方針は,原資料を確認した人が判断すべき事項である。
第2 商標調査は名称だけの検索ではない
1 商標と商品・役務を組み合わせて調べる
商標権の範囲は,登録された標章だけでなく,指定商品又は指定役務と組み合わせて定まる。
したがって,候補名称だけを検索してヒットの有無を見る方法では不十分であり,実際に提供する商品・役務,販売方法,利用者及び将来の事業展開を具体化した上で調べる必要がある。
2 登録可能性と使用リスクを分ける
特許庁に登録される可能性を調べることと,候補商標の使用が他人の権利を侵害する危険を調べることは,同じではない。
登録可能性の検討では商標法3条及び4条等が中心となる一方,使用リスクの検討では,登録商標の権利範囲,周知・著名表示,不正競争防止法,商号,著作権,ドメイン名その他の事情も問題となり得る。
第3 J-PlatPatで行う基本的な調査
1 商品・役務を具体化する
最初に,現在提供する商品・役務と,将来追加する可能性のある商品・役務を分けて書き出す。
国際分類の区分は出願書類を整理する枠組みであるが,同じ区分であることだけで商品・役務が類似すると決まるものではなく,異なる区分でも類似と扱われる場合がある。
2 表記・読み方を広げて検索する
文字商標では,完全一致だけでなく,漢字,ひらがな,カタカナ,ローマ字,長音の有無,濁音・半濁音,略称,語順及び分かち書きの違いを考慮する。
図形を含む商標又は結合商標は,文字部分だけを取り出した検索で終わらせず,構成全体と要部の双方を確認する。
3 称呼検索と類似群コードを使う
特許庁は,J-PlatPatの「称呼(類似検索)」によって,読み方が類似する可能性のある商標を検索できると案内している。
商品・役務については,特許庁の類似商品・役務審査基準が,類似すると推定する商品・役務をグループ化し,類似群コードを付している。
称呼検索と類似群コードは候補を絞る有力な道具であるが,検索結果に表示されたこと又は同じコードが付されたことだけで,最終的な商標の類否が決まるわけではない。
4 各案件の経過情報まで確認する
検索結果の一覧だけでなく,各商標の出願人・権利者,出願日,登録日,指定商品・指定役務,存続期間,拒絶・登録・消滅等の経過情報を開いて確認する。
J-PlatPatの情報には反映までの時間差があり得るため,重要案件では登録原簿,包袋その他の最新資料の確認が必要となる。
第4 AIに任せやすい作業
1 検索語と称呼候補の展開
AIには,候補名称から想定される読み方,表記揺れ,略称及び結合語の分解案を出させることができる。
ただし,AIの候補をそのまま検索範囲とせず,人が実際の取引者・需要者の読み方を加除する必要がある。
2 商品・役務と類似群コードの候補整理
事業内容の説明から,該当し得る商品・役務,区分及び類似群コードの候補を表にする作業は,AIによる補助に適する。
もっとも,最終的な表示は,出願時点で有効な商品・役務名,類似商品・役務審査基準及びJ-PlatPatの原資料と照合する必要がある。
3 検索結果と調査記録の整理
AIには,検索結果を,商標,称呼,権利者,指定商品・指定役務,類似群コード,法的状態及び確認日ごとに整理させることができる。
AIがJ-PlatPatに直接接続していない場合は,検索を実行したかのような案件番号又は検索件数を生成させてはならず,人が取得した検索結果だけを入力にする必要がある。
第5 AI商標調査の限界
1 検索漏れと架空情報
AIは,検索語の展開漏れ,商品・役務の取り違え,古い分類の混在及び存在しない登録番号の生成を起こし得る。
「該当なし」という回答は,どのデータベースで,いつ,どの検索式を用いて確認したのかが記録されていなければ,調査結果として扱えない。
2 区分と類似群コードの誤解
国際分類の区分は,同一又は類似の商品・役務を最終判断する番号ではない。
類似群コードも,特許庁の審査実務で商品・役務の類似を推定するための手掛かりであり,個別の取引実情を含む法的判断そのものではない。
3 未登録の表示と他の権利
J-PlatPatで登録商標が見つからなくても,未登録の周知表示,著名表示,商号,商品形態,著作物又はドメイン名との関係で問題が生じることがある。
検索対象は,調査目的に応じてインターネット検索,会社・商品情報,業界資料及び海外データベース等へ広げる必要がある。
4 情報の時点と秘密管理
商標の出願・登録・消滅等の状態は変化するため,検索日を記録し,出願又は使用開始の直前に再確認する必要がある。
未公表の商品名,サービス内容及び発売計画を外部AIに入力すると,秘密情報の管理上の問題が生じ得るため,利用規約,保存設定,学習利用の有無及び組織の情報管理規程を確認すべきである。
第6 人による法的評価
1 識別力
商標法3条は,自己の商品又は役務と他人の商品又は役務を識別できない標章等について,登録を認めない場合を定めている。
普通名称,慣用商標,品質・用途・産地等の表示及びありふれた氏又は名称等に当たるかは,指定商品・指定役務との関係で判断する必要がある。
2 先行商標との類否
商標法4条1項11号は,先願に係る他人の登録商標と同一又は類似であり,指定商品・指定役務も同一又は類似である商標について登録を認めない。
特許庁は,商標の類否を外観,称呼及び観念等によって全体的に考察すると説明している。
AIは比較項目を並べられるが,取引の実情を踏まえた最終評価は人が行う必要がある。
3 出願・使用・応答の判断
出願する商標と指定商品・指定役務の選択,先行商標との併存可能性,使用開始の可否,拒絶理由通知への応答及び第三者との交渉は,事業上の重要性と法的リスクを併せて判断する。
ヒット件数の多寡だけで出願又は使用の可否を決めてはならない。
第7 実務での安全な使い方
1 調査表を先に作る
調査前に,①候補商標,②想定する称呼,③商品・役務,④区分,⑤類似群コード候補,⑥利用地域,⑦使用開始予定日及び⑧調査目的を一枚の調査表にする。
2 検索ログと根拠を残す
検索日,データベース,検索画面,検索式,抽出件数,確認した案件,除外理由及び参照した基準の版を保存する。
AIを用いた場合は,モデル名・版,入力資料,指示文,出力,修正内容及び確認者も記録する。
3 人の確認を必須にする
人は,J-PlatPatの原画面,指定商品・指定役務,法的状態及び最新の審査基準を確認し,AIの表と照合する。
重要な名称,既に広告・在庫・ドメインへ投資している名称,又は先行商標との距離が近い名称については,弁理士又は弁護士による個別検討を経て判断するのが安全である。
第8 調査結果の読み方
先行商標が見つからないことは,登録又は使用の安全を保証しない。
他方,似た商標が見つかったことも,直ちに登録不能又は侵害を意味しない。
調査結果は,候補を比較し,追加調査又は専門家判断が必要な箇所を示す材料として使うべきである。
出願前調査,使用開始前のクリアランス調査及び登録後の監視は,目的と確認時点が異なるため,別の手続として管理する必要がある。
第9 判例・データベースの確認状況
本記事は,商標法,特許庁の審査基準・分類資料及びINPITのJ-PlatPat資料を一次資料として作成した。
本記事のための判例秘書検索は実施しておらず,検索件数は0件,ヒット件数及び全文確認件数は不明である。
本記事は特定の裁判例の判旨には依拠していない。
第10 出典・参考資料
④ 特許庁「類似商品・役務審査基準〔国際分類第13-2026版対応〕」
⑤ 特許庁「商品及び役務の区分解説〔国際分類第13-2026版対応〕」
⑦ INPIT「パンフレット・マニュアル・講習会テキスト等の提供」(J-PlatPat操作マニュアル掲載ページ)
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