第1 この記事の対象と結論
1 対象と基準日
電子書籍の閲覧ソフトには,表示した画面の取り込みや保存を防ぐ機能を備えたものがある。
この記事は,そのような防止機能を外して画面を画像やPDFとして保存できるようにするソフトを提供する行為と,利用者が画面を取り込む行為が,不正競争防止法と著作権法の上でどう扱われるかを扱う。
法令は令和8年10月25日にe-Gov法令検索で確認した条文(不正競争防止法は令和8年5月21日施行の版,著作権法は令和8年6月24日施行の版で,いずれもその後同日までに施行された改正はない。)によった。
裁判例は,同日に裁判所ウェブサイトで全文を確認したものによった。
画面を自動で取り込んでPDFにし,生成AIで要約するソフトについての複製の主体や私的使用の問題は第6の関連記事で扱っており,この記事ではキャプチャー防止との関係に絞る。
2 結論
最高裁令和3年3月1日決定は,電子書籍の閲覧ソフトに組み込まれた記録・保存の防止機能を無効化し,閲覧ソフト以外でも読めるようにするプログラムを提供した行為が,不正競争防止法上の不正競争に当たり,刑事罰の規定に該当すると判断し,罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判断を結論において正当とした。
プログラムに暗号を解く機能がないから技術的制限手段の効果を妨げていない,という弁護人の主張は退けられた。
他方,この決定が判断したのはプログラムを提供した側の責任であり,利用者が自分の端末で画面を取り込む行為そのものを判断したものではない。
利用者の行為は,著作権法30条1項2号(技術的保護手段の回避による複製)と,電子書籍サービスの利用規約によって別に検討することになる。
第2 最高裁令和3年3月1日決定
1 どのような事案か
決定が示した,原判決が是認した第1審判決の認定等によれば,事案は次のとおりである。
電子書籍の配信事業者は,ライセンスの発行を受けた特定の機器にインストールされた専用の閲覧ソフト(ビューア)でなければ復号できないよう,電子書籍の影像を暗号化して配信していた。
Windows対応版のビューアには,復号後の影像の記録・保存を防止する機能を持つプログラム「G」が組み込まれており,Gのない状態ではビューアは起動せず,ライセンスの発行を受けることも影像の視聴もできないようにされていた。
ソフトウェアの開発・販売会社の代表取締役と販売責任者は,同社のプログラマーと共謀の上,Gの機能を無効化し,復号後の影像を記録・保存することによりビューア以外での視聴を可能とするプログラム「F3」を,平成25年9月10日頃と同年11月23日頃に,顧客2名へダウンロードさせて提供した。
2 弁護人の主張と最高裁の判断
弁護人は,この技術的制限手段は暗号化の方式によるものであり,F3は復号の機能を有しないから,技術的制限手段の効果を妨げるプログラムではないと主張した。
最高裁は,上告趣意は刑事訴訟法405条の上告理由に当たらないとした上で,職権で判断し,Gの機能,Gとビューアの関係及びF3の機能を認めた上で,「Gの上記機能により得られる効果は本件技術的制限手段の効果に当たり,これを無効化するF3は,技術的制限手段の効果を妨げることにより影像の視聴を可能とする機能を有するプログラムに当たると認められる。」と判断した。
そして,F3を提供した被告人両名の行為は平成27年法律第54号による改正前の不正競争防止法2条1項10号の不正競争に当たり,同法21条2項4号に該当するとし,同号の罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判断は結論において正当であるとして,上告を棄却した。
3 原審(大阪高裁)の判断
(1) 技術的制限手段の「効果」の捉え方
原審の大阪高裁平成29年12月8日判決は,電子書籍の暗号化について,「この技術的制限手段の効果は,本件ビューアがインストールされた機器以外の機器では暗号化されたコンテンツの表示ができないということであるというべきである。」とした。
その上で,Gは表示される影像のキャプチャを不能にする制御を行うプログラムであり,これと反対の制御を行って影像のキャプチャを再び可能にするF3は,その効果を妨げるプログラムであると判断した。
暗号を解く機能があるかどうかではなく,配信事業者が技術的制限手段によって実現している状態,すなわちビューアがインストールされた機器以外の機器では表示できないという状態を妨げるかどうかに着目した判断である。
(2) 画面を取り込んでPDFに保存する仕組み
大阪高裁は,証拠に基づき,「F3は,本件ビューアが端末の画面に表示する画像をキャプチャしてpng形式ファイルやpdf形式ファイルなどのファイルに保存することにより,本件ビューアを用いないでその画像を視聴することができるようにするものであると認められる。」と認定した。
また,新たなファイルへの保存は「記録」に当たり得るものであり,F3では記録することが視聴することの前提になっているとして,記録を可能とする機能は視聴を可能とする機能と「密接不可分のもの」であるとも述べた。
問題となったのは暗号の解除ではなく,防止機能を外した上での画面の取り込みとファイルへの保存であった。
4 決定の射程
最高裁は「以上の事実関係によれば」として結論を導いており,裁判所ウェブサイトの判示事項も「当たるとされた事例」としている。
Gがビューアの起動やライセンスの発行と一体になっていたという事実関係を前提にした判断である。
また,最高裁は原判断を「結論において正当」としたのであり,第2の3(1)の原審の効果の捉え方をそのまま採ったのではなく,Gの機能により得られる効果が技術的制限手段の効果に当たるという理由で判断している。
適用されたのは平成27年改正前の条文(定義は2条7項,不正競争は2条1項10号,罰則は21条2項4号)であり,現行法とは条項の番号も定義の文言も異なる。
また,判断の対象はプログラムを電気通信回線を通じて提供した行為であり,利用者がF3を使った行為の違法性は判断されていない。
防止機能を備えない表示をそのまま取り込むだけのソフトについて判断したものでもない。
第3 現行の不正競争防止法の規律
1 技術的制限手段の定義
現行の不正競争防止法2条8項は,技術的制限手段を,「電磁的方法により影像若しくは音の視聴、プログラムの実行若しくは情報の処理又は影像、音、プログラムその他の情報の記録を制限する手段」であって,視聴等機器が特定の反応をする信号を記録媒体に記録し若しくは送信する方式,又は視聴等機器が特定の変換を必要とするよう情報を変換して記録媒体に記録し若しくは送信する方式によるものと定めている。
視聴だけでなく「記録」を制限する手段も含まれるので,複製を防ぐための仕組みも対象になり得る。
2 装置・プログラムの提供の禁止
同法2条1項17号は,営業上用いられている技術的制限手段により制限されている影像の視聴等を,その効果を妨げることにより可能とする機能を有する装置やプログラムを譲渡し,又は電気通信回線を通じて提供する行為等を不正競争としている。
同項18号は,他人が特定の者以外の者に視聴等をさせないために営業上用いている技術的制限手段について,同様の装置やプログラムをその特定の者以外の者に提供する行為等を不正競争としている。
いずれの号も,効果を妨げることにより視聴等を可能とする役務を提供する行為を含んでいる。
装置やプログラムがその機能以外の機能を併せて有する場合は,効果を妨げることにより視聴等を可能とする用途に供するために行うものに限られる(同項17号・18号の括弧書き)。
画面の取り込み,ページ送り,文字認識等の機能を持つ汎用のソフトでは,この限定が問題になる。
最高裁の事案のF3は,ビューアの防止機能を無効化する機能を備え,第1審判決の認定によれば,その用途に供するために提供されたものであった。
3 刑事罰と適用除外
不正の利益を得る目的で,又は営業上技術的制限手段を用いている者に損害を加える目的で,同項17号又は18号の不正競争を行った者は,5年以下の拘禁刑若しくは500万円以下の罰金に処され,又はこれを併科される(同法21条3項4号)。
技術的制限手段の試験又は研究のために用いられる装置等の提供や,試験又は研究のために行われる役務の提供については,差止請求・損害賠償等の規定(同法3条から15条まで)と罰則(同法21条・22条)が適用されない(同法19条1項10号)。
第4 著作権法の規律
1 技術的保護手段と技術的利用制限手段
著作権法2条1項20号は,著作権等を侵害する行為の防止又は抑止をする手段で,信号を記録・送信する方式又は特定の変換を必要とするよう変換する方式によるものを「技術的保護手段」としている。
同項21号は,著作物等の視聴を制限する手段で同様の方式によるものを「技術的利用制限手段」としている。
電子書籍の暗号化や閲覧ソフトの保存防止機能がどちらに当たるかは,その仕組みが複製を防ぐものか,視聴を制限するものか,両方を兼ねるものかによって個別に検討する必要がある。
2 利用者の複製と30条1項2号
私的使用のための複製(著作権法30条1項)であっても,技術的保護手段の回避により可能となった複製を,その事実を知りながら行う場合には,同項の適用を受けない(同項2号)。
同号の「回避」は,信号の除去若しくは改変その他の当該信号の効果を妨げる行為を行うこと,又は特定の変換を必要とするよう変換された影像等の復元を行うことにより,技術的保護手段によって防止される行為を可能とすること等をいう。
ただし,信号の効果を妨げる行為のうち,「記録又は送信の方式の変換に伴う技術的な制約によるもの」は除かれている。
閲覧ソフトの保存防止機能を外して画面を取り込む場合には,同号に当たるかが正面から問題になる。
他方,防止機能のない表示を表示されたとおりに取り込むだけの場合に同号に当たるかは,採用されている措置と取り込みの方法によって結論が分かれ得る問題であり,一律には答えられない。
なお,仕事のための複製は,同項の「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」を目的とするものとはいえず,そもそも私的使用に当たらないと考えられる(第5の3)。
3 みなし侵害と刑事罰
技術的利用制限手段の回避を行う行為は,技術的利用制限手段に係る研究又は技術の開発の目的上正当な範囲内で行われる場合その他著作権者等の利益を不当に害しない場合を除き,著作権等を侵害する行為とみなされる(著作権法113条6項)。
技術的保護手段又は技術的利用制限手段の回避を行うことをその機能とする指令符号を公衆に譲渡し,公衆送信する行為等も,侵害行為とみなされる(同条7項)。
回避を行うことをその機能とする装置又はプログラムの複製物を公衆に譲渡し,プログラムを公衆送信する行為等をした者や,業として公衆からの求めに応じて回避を行った者は,3年以下の拘禁刑若しくは300万円以下の罰金に処され,又はこれを併科される(同法120条の2第1号・2号)。
装置又はプログラムが回避以外の機能を併せて有する場合は,侵害行為を回避により可能とする用途等に供するために行うものに限られる(同条1号の括弧書き)。
他方,私的使用の目的をもって自ら複製を行った者や,113条2項・3項又は6項から8項までの規定により侵害とみなされる行為を行った者は,著作権侵害罪を定める119条1項の対象から除かれている。
ただし,これは119条1項の罪の対象から外れるという意味にとどまる。
この記事の論点に関係するものでは,回避を行うことをその機能とする指令符号の公衆への譲渡等(113条7項)は120条の2第4号の処罰の対象になるし,民事上の差止めや損害賠償の問題も別に残る。
第5 画面キャプチャー型のソフトを使う前に確認すること
1 防止機能を外す処理があるか
最高裁の決定に照らすと,まず確認すべきなのは,閲覧ソフトの保存・取り込みの防止機能を無効化し,又は迂回する処理をソフトが行うかどうかである。
そのような処理があれば,提供者について不正競争防止法2条1項17号・18号や著作権法120条の2の問題が生じ得るし,利用者の複製についても著作権法30条1項2号の問題が生じ得る。
製品の説明だけで判断せず,対象とする閲覧ソフトとその版で,実際にどのように動作するかを確認する必要がある。
2 提供者の説明を確かめる
例えば,令和8年2月に発売された,画面上の電子書籍や資料を自動でページ送りしながら取り込み,文字情報付きのPDFを作るソフト(ソースネクスト株式会社の「0秒読書」)の製品ページは,動作環境の注意事項として「画面のキャプチャを防止する機能が備わったコンテンツは、キャプチャできません。」と記載している。
同じページのよくある質問は,作成したPDFを第三者に配布・販売することは禁止されているとし,キャプチャ自体を禁止しているサービスもあるとして,各サービスの利用規約の確認を求めている。
これらは提供者の説明であり,この記事はその動作を検証していないし,特定の製品の適法性を判断するものでもない。
3 利用規約と業務利用
電子書籍サービスの利用規約は,著作権法とは別の,契約上の制限である。
例えば,Amazon.co.jpの「AMAZON KINDLEストア利用規約」(令和8年10月21日最終更新)は,「Kindleコンテンツは、コンテンツプロバイダーからお客様にライセンスが提供されるものであり、販売されるものではありません。」と定めている。
同規約は,「本サービスの一環として使用されるデジタル権利管理システムまたはその他のコンテンツの保護もしくは機能を迂回、修正、無効化、回避してはならないものとします。」とも定めている。
規約に違反するかどうかと,著作権法や不正競争防止法に違反するかどうかは,当事者,要件及び効果が異なるので,分けて確認する。
弁護士や税理士が受任事件や顧客の業務のために書籍の内容を複製する場合は,利用者が一人であっても,著作権法30条1項の私的使用には当たらないと考えられる。
その場合は,著作権法30条1項以外の権利制限規定に当たるか,権利者の許諾があるかを確認する必要がある。
第6 関連記事
画面の取り込み,PDF化及びAI要約の工程ごとの複製の主体と,提供者の民事・刑事責任は,次の記事で扱っている。
電子書籍のPDF化・AI要約ソフトと著作権―自炊代行判決の射程と利用者・提供者の責任(AI作成)
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/10/20/ebook-pdf-ai-summary-copyright-actors/
紙の書籍を業者にスキャンさせる類型の判決は,次の記事で扱っている。
スキャン代行は著作権侵害になるか-自炊代行訴訟の確定判決と,許諾なしにできる範囲(AI作成)
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/09/07/sukyan-daiko-chosakuken-jisui-daiko/
専門職が有料の文献を生成AIで分析するときの規約と工程の確認は,次の記事も参照されたい。
弁護士・税理士が有料の法律・税務資料を生成AIで分析するとき―閲覧権限,外部送信,引用及び成果物の再利用(AI作成)
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/10/07/legal-tax-paid-materials-generative-ai/
第7 出典
法令は,e-Gov法令検索で令和8年10月25日に条文を確認した(版は第1の1のとおり)。
不正競争防止法2条1項17号・18号,2条8項,19条1項柱書・10号,21条3項4号
https://laws.e-gov.go.jp/law/405AC0000000047
著作権法2条1項20号・21号,30条1項,113条2項・3項・6項~8項,119条1項,120条の2
https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048
①最高裁令和3年3月1日第一小法廷決定(平成30年(あ)第10号,刑集75巻3号273頁),PDF全3頁。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-90062.pdf
②大阪高裁平成29年12月8日判決(平成28年(う)第598号,高刑集70巻3号7頁),特にPDF実頁14~15及び24~25。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-87780.pdf
③ソースネクスト株式会社「0秒読書」製品ページ(令和8年10月25日閲覧)
https://www.sourcenext.com/product/0000014988/
④ソースネクスト株式会社のプレスリリース「AI読書で本はもっと読める「0秒読書」 2月12日(木)新発売」(令和8年2月12日)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000757.000035169.html
⑤Amazon.co.jp「AMAZON KINDLEストア利用規約」(令和8年10月21日最終更新,令和8年10月25日閲覧)
https://www.amazon.co.jp/gp/help/customer/display.html?nodeId=201014950
判例は裁判所公開原文で確認し,判例秘書による追加の検索・照合はしていない。
個別の製品の動作の検証や,関連する裁判例の網羅的な調査はしていない。