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令和2年司法試験知的財産法第2問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した31項目と5段階の重み付け(AI作成)

第1 この記事の対象と結論

令和2年司法試験論文式試験の知的財産法第2問を対象とする。
出題の趣旨と採点実感の対象箇所を照合し,31項目を5段階で重み付けした。
以下の答案は独自作成の一例であり,法務省の公式答案や唯一の正解を示すものではない。

設問1は原著作者の権利が二次的著作物の独自創作部分の利用にも及ぶか,設問2は鑑定証書への絵画の引用,設問3は掲示板運営者への送信差止めを扱う。
答案は順に販売予防を肯定,引用の反論を否定,運営者への送信停止請求を肯定する。
引用の成否や主体性については,別の結論でも規範と事実評価を一貫させることが必要である。

法律の基準時は選択科目試験日の令和2年8月12日,資料の確認日は令和8年10月18日である。
目次から設問別の評価表,枠内答案及び枠外解説へ進むことができる。

第2 評価項目の示し方と重み付けの基準

1 5段階の意味

重み判断基準
5採点実感が評価の分かれ目とした事項,又は答案の骨格そのもの。
4出題の趣旨が検討を求め,採点実感も高評価又は多数答案の不足として取り上げた事項。
3一方の資料が明示する中核の理由付け。
2一方が軽く触れる補強事項,又は典型的な誤りとして指摘された事項。
1一方が控えめに触れるだけの事項。

重みは復習のための独自分析であり,公式の項目別配点,得点又は合格可能性へ換算するものではない。
必須・高評価・負例・許容分岐は別の区分である。
許容分岐は採用した構成に限って点検し,別構成を全答案へ累積要求しない。

2 原資料との対応と項目の数え方

評価表の頁は保存したPDFの実頁である。
原文の短い引用と検討内容を併記し,資料に直接の独立記載がない欄は,その旨を示す。
原資料の要求と本記事の抽出・評価は区別する。

区別困難だけに依拠する負例は番号8の裏返しとして番号8へ,抽象的キャラクターだけで処理する負例は番号4へまとめた。
同じ欠陥の裏返しを独立の加点項目にしないため,公開表は31項目,内部の照合単位は33である。
展示に伴う制限と譲渡申出に伴う制限は判断対象が異なるため,番号20・21に分けた。

第3 本問の概要

1 問題文と事実関係

甲の小説Pを,許諾を得た乙が漫画Qに翻案した。
主人公の具体的な髪・目・顔立ち・制服・体格等の特徴はQの絵に表現されているが,Pには具体的,詳細な記載がない。

設問1では,丙が乙だけの許諾を得て特徴を捉えた肖像画R1を作り,複製物を製造・販売しようとする。
設問2では,乙が作成して売却したR2の現在の所有者である美術商丁が,店内展示と真贋鑑定を行う。
丁は原作品とともに流通させる1通の証書Sへ,原作品の面積の20%に当たる16×10センチメートルのカラーコピーを貼る。
S表面は20×10センチメートルで,定型証明文,乙名等があり,コピーの占める面積は80%となる。
両面はラミネート加工されるが,コピーは取り外せる。
同業者が同様の証書を作る慣行はほとんどない。

設問3では,第三者がQを無断投稿した掲示板につき,運営者戊には最終停止権限と即時停止の能力がある。
戊は乙の内容証明を閲読しながら3週間是正していない。
一方,掲示板には適法で有益な用途があり,従前の警告・公正調査,大量の要請,わずかな広告利益という事情も置かれている。

2 設問が求めること

設問1は甲から丙への将来の販売予防請求について,異なる意見にも留意して論じる。
設問2は乙からのSの譲渡差止請求に対し,丁の反論とその成否を示す。
設問3は乙から戊へのQの送信差止めを,価値中立的な掲示板という性質に留意して論じる。
各設問は独立し,著作者人格権は検討しない。
損害賠償や掲示板全体の閉鎖へ終点を置き換えない。

問題文:https://www.moj.go.jp/content/001326059.pdf(PDF実頁19~20)。

第4 評価項目と重み

1 設問1

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
1【必須】小説Pが著作物であり,甲がPの著作者として権利行使することを示す。332頁「著作者甲により創作された著作物Pが翻案されてQが作成されたことを踏まえて」25頁「甲がPの著作者でありPについて著作権を有すること,②QがPの二次的著作物」
2【必須】Pの翻案であるQを二次的著作物とし,2条1項11号を示す。432頁「二次的著作物(法第2条第1項第11号)といえることを指摘する必要がある。」25頁「二次的著作物(著作権法第2条第1項第11号)であることから,甲がQの利用」
3【必須】28条により原著作者に同一の種類の権利が併存することを示す。532頁「同一の種類の権利」と規定されていること,二次的著作物においては原著作物に」25頁「同一の種類の権利を有すること(同法第28条),③本件特徴はQの創作的表現」
4【必須】R1がQの具体的な創作的絵画表現を実質的に再製したと評価する。抽象的キャラクターの不保護だけで処理しない。3当該独立項目の直接記載なし。25頁「本件特徴はQの創作的表現部分であり,それをよく捉えたR1は当該部分と実質」/29頁「キャラクターには著作物性がないとして,甲の請求を否定するものがあった。条」
5【必須】販売の対象権利を28条を介する26条の2第1項の譲渡権とし,112条1項へ接続する。532頁「譲渡権(法第26条の2第1項))について,二次的著作物の部分利用に関する」25頁「譲渡権(同法第26条の2第1項)を行使できることから,甲も,R1の複製物」
6【必須】Pに具体的記載がない本件特徴は乙のみが創作した部分であり,その部分への甲の権利の及び方を問題にする。432頁「具体的,詳細な記載がされておらずR1についてPの創作的表現が感得できると」25頁「専ら乙の創作性が発揮された部分に相当すること,⑥そのような部分に,Pの著」
7【高評価】対立する両見解の根拠を示し,反対説に応答して自説を選ぶ。532頁「反対説を提示してこれに反論することが求められる。この点に関し,原著作者の」29頁「反対説の根拠にも言及した上で,それに反論を試みるべきであろう。なお,一部」
8【許容分岐】感得不要説では28条の文言と原作への依存を根拠に,部分利用にも権利が及ぶ理由を示す。区別が容易な本問で区別困難だけを根拠としない。(適用:原作の創作的表現の感得を不要とする構成)332頁「原著作物に依存しない部分はないことなどを指摘することとなろう。これに対し」28頁「区別が容易な設例であるにもかかわらず,上記の理由のみを挙げて漫然と甲が差」
9【許容分岐】感得必要説を採る又は反対説として扱う場合,無限連鎖や創作者保護から根拠を示して本件に適用する。(適用:感得必要説を自説又は反対説として扱う場合)332頁「無限連鎖的に権利を有することとなりかねず不当であること,創作した者を保護」当該独立項目の直接記載なし。

2 設問2

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
10【必須】丁の引用の反論を32条1項と47条の7による譲渡の適法化まで結ぶ。532頁「第32条第1項,第47条の7)の各要件に関する理解を問うものである。設問」26頁「複製権の制限により作成された複製物の譲渡に係る著作権制限規定(同法第47」
11【必須】45条1項の原作品展示と4条4項によりR2の公表を示す。433頁「法第45条第1項,第4条第4項により,「公表」されたものとみなされること」26頁「同法第4条第4項,同法第45条第1項),③R2のカラーコピーを作成してS」
12【許容分岐】主従関係・明瞭区別性を採る場合,現在の32条のどの要件に位置付けるかを示して当てはめる。(適用:附従性・明瞭区別性の二要件を採用する場合(直接文言説には不適用))433頁「附従性),かつ両者が明瞭に区別されているかどうか(明瞭区別性)により決す」26頁「どの要件の下で採用すべきか,上記④について,現実の慣行が存在しなければ公」
13【高評価】Sの定型文・屋号等に創作性が乏しいことを示し,引用側の著作物性を要するか理由付きで論じる。433頁「著作物性を具備しているとは言い難いことを押さえた上で,自説の立場から一貫」26頁「引用して利用する側の著作物性の要否(例えば,東京地判平成10年2月20日」
14【高評価】公正な慣行を規範的に解釈し,既存慣行がほぼないことだけで引用を否定しない。533頁「社会通念に照らして合理的と言い得る引用のみを許容する見解(条理説)が考え」29頁「慣行自体の形成が妨げられることになりかねない。少なくない裁判例や学説が当」
15【高評価】出所明示は48条の独立義務と引用の判断要素を区別し,乙の表示を公正慣行の考慮事実とする。333頁「適切な出所表示もされていることなどを指摘して,社会通念に照らして本件コピ」26頁「直接的な関連を有しないことや,出所明示の有無は,公正慣行の要件充足の判断」
16【必須】引用目的との関係で正当な範囲を判断する規範を置く。433頁「引用の目的上正当な範囲内」であるといえるかが問題となる。この点についても」26頁「正当な範囲内で行われていなければならないこと,⑥引用して利用する側の著作」
17【高評価】鑑定対象特定・真作評価という目的と,20%への縮小・証書内の大きな占有率を比較評価する。433頁「権衡がとれているものと評価できることなどを述べることが考えられよう。以上」26頁「カラーコピーのサイズや,当該コピーがSから取り外し可能な構造とされている」
18【高評価】取り外せることから直ちに別流通を確定せず,原作品との同行・加工態様を含め独立利用の危険を評価する。433頁「直ちに独立して流通するおそれが肯定されるものではないことなどを指摘して,」26頁「取り外し可能な構造とされていること等の事実に的確に当てはめることができて」
19【高評価】1通だけ作成し原作品と所在を共にすることを,引用の必要性・態様の判断に用いる。333頁「今後の流通に際し鑑定対象である絵画を特定するためであり,適正な鑑定業務の」26頁「各要件の解釈を,R2のカラーコピーのサイズや,当該コピーがSから取り外し」
20【負例】観覧者とは関係なく原作品と流通する鑑定証書に,展示に伴う47条の制限を安易に適用しない。2当該独立項目の直接記載なし。29頁「観覧者とは関係なく作成され,原作品とともに流通するもののために行われる複」
21【負例】47条の2を検討する場合,譲渡等の申出目的と委任先の措置を確認し,引用の検討を代替させない。2当該独立項目の直接記載なし。29頁「オークション等に対応した規定であり,本条によって許容される複製・公衆送信は,譲渡」
22【負例】原作品R2の消尽を新たなコピー入り鑑定証書Sの譲渡へそのまま転用しない。2当該独立項目の直接記載なし。29頁「肖像画R2と鑑定証書Sとの峻別ができておらず,消尽法理に言及する答案が見」

3 設問3

番号評価項目重み出題の趣旨採点実感
23【必須】乙が23条1項の公衆送信権に基づき112条1項の差止めを請求することを示す。433頁「公衆送信権侵害・法第23条第1項)に基づく差止め(法第112条第1項)を」26頁「公衆送信権(同法第23条第1項)の侵害を理由として,戊に対して差止請求を」
24【必須】物理的な送信を行う匿名第三者と掲示板運営者戊を区別する。3当該独立項目の直接記載なし。26頁「物理的な公衆送信の主体は匿名の第三者であること,③電子掲示板の運営者が当」
25【必須】戊が規範的な侵害主体となる条件を,自説の規範として示す。533頁「戊が著作権侵害の主体といえるかが問題となる。電子掲示板運営者の侵害主体性」26頁「規範的な侵害主体と評価され得る場合及び④本設問の事案がそのような場合に該」
26【高評価】適法用途のある媒体の提供・利益だけで侵害主体とせず,過度の常時監視負担を避ける規範を示す。534頁「価値中立的な媒体であるところを踏まえると,戊が自らの運営する電子掲示板に」30頁「常時監視しなければならなくなり,掲示板の規模が大きくなればなるほどそれが」
27【高評価】侵害を認識後,一定期間内に適切に対応せず不当に放置した段階での主体性を論じる。534頁「一定の期間内に適切な対応を採らなかったなどの戊の不作為が認められて初めて」30頁「不当に放置していると評価できるようになった時点ではじめて侵害主体性を肯定」
28【高評価】最終停止権限と即時停止能力を,具体的な侵害回避可能性として評価する。434頁「最終的な送信停止権限を有し,広告収入を得ていたこと,侵害通知を受領してか」26頁「最終的な送信停止の権限を有している事実や,大量の送信停止要請が寄せられて」
29【高評価】受領・閲読後の3週間の無措置を規範に当てはめる。534頁「3週間という期間の間特段の是正措置を採っていないことを指摘し,たとえ戊が」30頁「3週間特段の是正措置を採らなかった事実を拾い上げて,これに当てはめる努力」
30【高評価】注意書き・公正な従前対応・大量要請・小利益という戊に有利な事実にも応答する。434頁「大量の送信停止要請が寄せられてその対応に追われていることを考慮したとして」26頁「大量の送信停止要請が寄せられて戊がその対応に追われている事実等)が,当該」
31【必須】採用規範と事実評価に応じて,Q送信の差止めの可否を結論付ける。334頁「差止めを請求することができると帰結することになろう。」26頁「該当するか否か等を的確に論述することが「一応の水準」である。その上で,上」

4 重みの分布と重み5の全項目

重み1は0項目,重み2は3項目,重み3は8項目,重み4は11項目,重み5は9項目である。
総項目数N=31,重み合計W=119となる。
負例の重みもこの公開集計に含む。
これは全行の単純集計であり,特定の答案に全分岐を要求する総配点ではない。

番号3:28条により原著作者に同一の種類の権利が併存することを示す。(必須。適用:全答案)

番号5:販売の対象権利を28条を介する26条の2第1項の譲渡権とし,112条1項へ接続する。(必須。適用:全答案)

番号7:対立する両見解の根拠を示し,反対説に応答して自説を選ぶ。(高評価。適用:全答案)

番号10:丁の引用の反論を32条1項と47条の7による譲渡の適法化まで結ぶ。(必須。適用:全答案)

番号14:公正な慣行を規範的に解釈し,既存慣行がほぼないことだけで引用を否定しない。(高評価。適用:全答案)

番号25:戊が規範的な侵害主体となる条件を,自説の規範として示す。(必須。適用:全答案)

番号26:適法用途のある媒体の提供・利益だけで侵害主体とせず,過度の常時監視負担を避ける規範を示す。(高評価。適用:全答案)

番号27:侵害を認識後,一定期間内に適切に対応せず不当に放置した段階での主体性を論じる。(高評価。適用:全答案)

番号29:受領・閲読後の3週間の無措置を規範に当てはめる。(高評価。適用:全答案)

第5 模範解答

1 前提と表記

以下は当時法に基づく2500字以内の答案例である。
法令名を省略した条文は著作権法を指す。
設問1は感得不要説を採り,設問2は条文の文言に即して引用を判断し,設問3は特定侵害の認識後の不当な放置を重視する。
主従関係・明瞭区別性は引用の判断資料として用い,独立の二要件説だけを唯一の構成とはしない。

2 枠内答案

1 設問1

(1) 小説Pは甲の思想・感情を創作的に表現した著作物であり,甲はその著作権を有する。
QはPに依拠して漫画としての創作的表現を加えた二次的著作物である(著作権法2条1項1号・11号)。
甲は,28条により,Qの利用について乙が有するものと同一の種類の権利を有する。
本件特徴はQの具体的で創作的な絵画表現であり,これをよく捉えたR1は実質的に同一の表現である。
その複製物の販売は,Qの表現の譲渡による公衆への提供に当たる(26条の2第1項)。

(2) もっとも,甲の権利が乙のみの創作した部分にも及ぶか。
原作の創作的表現を感得できる利用に限るとの見解がある。
創作した者を保護する法の趣旨から,原作と関係しない表現まで原著作者に支配させるべきでなく,三次的・四次的著作物への無限の権利連鎖も避けるべきだからである。
この見解では,Pに本件特徴の具体的,詳細な記載はなく,R1からPの創作的表現を感得できないから,甲の請求は認められない。
しかし,28条は「同一の種類の権利」と定め,二次的著作物の利用について原著作者にも権利を与えている。
新たな表現も原作に依拠した二次的創作の一部であり,その創作基盤への寄与を無視して,利用部分ごとに原著作者の権利を切断することは適切でない。
本問では創作部分の区別が容易でも,この文言と制度趣旨に基づき,感得を要しないと解する。
主人公の絵への権利の併存を認めた判例もこの方向を支持する。
よって,乙だけの許諾では足りず,甲は112条1項によりR1の複製物の販売の予防を請求できる。

2 設問2

(1) 丁は,適法引用として本件コピーを作成でき(32条1項),その複製物の譲渡も47条の7により許されると反論することが考えられる。
原作品の所有や原作品の譲渡権の消尽だけでは,新たに作るコピーの複製・譲渡は正当化されない。

(2) R2は美術の著作物であり,丁の所有する原作品の店内展示は45条1項により許される。
したがって,4条4項により公表されたものとみなされ,32条1項の公表要件を満たす。
本件コピーは縮小されても本件特徴を有形的に再製するものであり,複製に当たる。

(3) 引用は,公正な慣行に合致し,引用の目的上正当な範囲内でなければならない。
32条は引用先を著作物に限定しておらず,正当な情報利用を許す趣旨から,引用先自体の著作物性は不要と解する。
Sの定型的な証明文や屋号等の表示には個性の発揮が乏しく,著作物性は認め難いが,それだけでは反論を排斥できない。
引用の目的,方法・態様,対象著作物の性質及び権利者への影響を踏まえて,引用としての利用か,公正な慣行に合致するか,目的上正当な範囲かを区別して判断する。
主従関係や明瞭区別性は,これらを判断する資料として考慮する。

(4) 鑑定対象を特定して真作であるとの評価を伝えることは引用の目的たり得る。
本件コピーは証明文の対象を示しており,Sの表題・記載とコピーとの区別も明らかである。
既存慣行がなければ常に不適法とすると,新しい適正な引用方法の形成が妨げられるから,同業者に同様の慣行がほぼないだけでは公正性を否定できない。
Sには乙の著作者名もあり,出所の表示は公正性を支える。
48条の出所明示義務は独立の義務であって,その違反と引用の成否を直結させるべきではないが,表示の有無は引用態様の判断に考慮できる。

(5) 1通のみを原作品とともに流通させることや,面積を20%に縮小したことは,対象特定という目的との権衡を肯定する事情である。
また,取り外せることだけで,直ちに別流通するとはいえない。
しかし,コピーは証書表面の80%を占め,原作品の具体的な絵画表現を鑑賞できる大きさである上,取り外して独立利用できる構造があり,ラミネート加工による一体性も弱い。
原作品と流通させる予定はあるが,永続する鑑定証書にこの大きさで分離可能なコピーを付す必要性は乏しく,権利者の複製利用の利益を害する危険がある。
よって,対象特定に必要な範囲を超えるものとして目的上正当な範囲内とは認めず,丁の反論は採用できない。

3 設問3

(1) 乙は,23条1項の公衆送信権侵害を理由に,112条1項の差止めを求める。
物理的な送信主体は匿名の第三者であるから,戊を規範的な侵害主体と評価できるかが問題となる。
適法用途もある価値中立的な掲示板について,管理権限と広告利益だけで主体性を認めると,全投稿の常時監視という過度の負担を課し,適法な運営まで困難にする。
しかし,具体的な侵害を認識し,これを停止できる立場にあるのに,調査等に必要な合理的期間を経ても適切に対応せず不当に放置した場合には,その不作為により送信を維持する者として侵害主体となると解する。

(2) 戊には最終的な送信停止権限があり,必要なら即時停止できる。
内容証明を閲読してQの無断投稿と深刻な経済的被害を知ったのに,3週間特段の是正措置を採らなかった。
3日は乙の指定にすぎず当然の法定期限ではないが,特定された侵害について調査・照会等もせず3週間放置したことは,合理的な対応期間を超える。
確かに,掲示板は公的評価のある有益な場であり,戊は注意書きや公正な調査を行ってきた上,大量の要請への対応に追われ,利益もわずかである。
しかし,従前の運営姿勢と多忙は,本件通知後の完全な放置を正当化せず,小利益でも事業の利益は戊に帰属する。
不当な放置により送信を維持していると評価でき,戊は侵害主体に当たる。
したがって,乙はQの送信の停止を請求できる。
以上

3 答案と評価項目の対応・解説

(1) 設問1

番号1(重み3・必須):小説Pが著作物であり,甲がPの著作者として権利行使することを示す。
答案の「小説Pは甲の思想・感情」が対応する。

番号2(重み4・必須):Pの翻案であるQを二次的著作物とし,2条1項11号を示す。
答案の「QはPに依拠して」が対応する。

番号3(重み5・必須):28条により原著作者に同一の種類の権利が併存することを示す。
答案の「同一の種類の権利を有する」が対応する。

番号4(重み3・必須):R1がQの具体的な創作的絵画表現を実質的に再製したと評価する。
抽象的キャラクターの不保護だけで処理しない。
答案の「本件特徴はQの具体的で創作的」が対応する。

番号5(重み5・必須):販売の対象権利を28条を介する26条の2第1項の譲渡権とし,112条1項へ接続する。
答案の「R1の複製物の販売の予防を請求できる」が対応する。

番号6(重み4・必須):Pに具体的記載がない本件特徴は乙のみが創作した部分であり,その部分への甲の権利の及び方を問題にする。
答案の「Pに本件特徴の具体的,詳細な記載はなく」が対応する。

番号7(重み5・高評価):対立する両見解の根拠を示し,反対説に応答して自説を選ぶ。
答案の「しかし,28条は「同一の種類の権利」」が対応する。

番号8(重み3・許容分岐):感得不要説では28条の文言と原作への依存を根拠に,部分利用にも権利が及ぶ理由を示す。
区別が容易な本問で区別困難だけを根拠としない。
答案の「その創作基盤への寄与を無視して」が対応する。
適用条件は原作の創作的表現の感得を不要とする構成である。
区別困難だけで処理せず,原作依存と原著作者の参与の理由を示す。

番号9(重み3・許容分岐):感得必要説を採る又は反対説として扱う場合,無限連鎖や創作者保護から根拠を示して本件に適用する。
答案の「無限の権利連鎖も避けるべき」が対応する。
適用条件は感得必要説を自説又は反対説として扱う場合である。
反対説は紹介だけで済ませず,その根拠と採用した場合の結論を明示する。

(2) 設問2

番号10(重み5・必須):丁の引用の反論を32条1項と47条の7による譲渡の適法化まで結ぶ。
答案の「その複製物の譲渡も47条の7により許される」が対応する。

番号11(重み4・必須):45条1項の原作品展示と4条4項によりR2の公表を示す。
答案の「4条4項により公表されたものとみなされ」が対応する。

番号12(重み4・許容分岐):二要件説を採る場合に,附従性と明瞭区別性が現在の32条のどの要件に位置付くかを説明する項目である。
本答案は直接文言説を採り,両指標を判断資料とした。
別構成の非採用を欠落と評価しない。

番号13(重み4・高評価):Sの定型文・屋号等に創作性が乏しいことを示し,引用側の著作物性を要するか理由付きで論じる。
答案の「Sの定型的な証明文や屋号等」が対応する。

番号14(重み5・高評価):公正な慣行を規範的に解釈し,既存慣行がほぼないことだけで引用を否定しない。
答案の「新しい適正な引用方法の形成が妨げられる」が対応する。
公正慣行を事実上の既存慣行だけに固定しない。
新しい適切な利用方法を排除しない規範的な評価が必要である。

番号15(重み3・高評価):出所明示は48条の独立義務と引用の判断要素を区別し,乙の表示を公正慣行の考慮事実とする。
答案の「48条の出所明示義務は独立の義務」が対応する。
48条は引用成立とは別の義務であるが,出所表示の態様を引用の公正性の事情として考慮することは別問題である。

番号16(重み4・必須):引用目的との関係で正当な範囲を判断する規範を置く。
答案の「鑑定対象を特定して真作であるとの評価を伝える」が対応する。

番号17(重み4・高評価):鑑定対象特定・真作評価という目的と,20%への縮小・証書内の大きな占有率を比較評価する。
答案の「面積を20%に縮小したこと」が対応する。

番号18(重み4・高評価):取り外せることから直ちに別流通を確定せず,原作品との同行・加工態様を含め独立利用の危険を評価する。
答案の「取り外せることだけで,直ちに別流通するとはいえない」が対応する。

番号19(重み3・高評価):1通だけ作成し原作品と所在を共にすることを,引用の必要性・態様の判断に用いる。
答案の「1通のみを原作品とともに流通させる」が対応する。

番号20(重み2・負例):本答案では展示に伴う制限規定を独立の主張として展開しない。
Sは観覧者への解説・紹介を目的とする小冊子等とは異なり,47条を主ルートとすることはできない。

番号21(重み2・負例):本答案では47条の2の反論を展開しない。
Sは将来の所有者に原作品とともに渡す鑑定証書であり,譲渡申出目的とは異なる。
仮に検討する場合も,当時の政令・省令が置く措置の全選択肢を確認する必要がある。

番号22(重み2・負例):原作品R2の消尽を新たなコピー入り鑑定証書Sの譲渡へそのまま転用しない。
答案の「原作品の譲渡権の消尽だけでは」が対応する。

(3) 設問3

番号23(重み4・必須):乙が23条1項の公衆送信権に基づき112条1項の差止めを請求することを示す。
答案の「23条1項の公衆送信権侵害」が対応する。

番号24(重み3・必須):物理的な送信を行う匿名第三者と掲示板運営者戊を区別する。
答案の「物理的な送信主体は匿名の第三者」が対応する。

番号25(重み5・必須):戊が規範的な侵害主体となる条件を,自説の規範として示す。
答案の「戊を規範的な侵害主体と評価できるか」が対応する。

番号26(重み5・高評価):適法用途のある媒体の提供・利益だけで侵害主体とせず,過度の常時監視負担を避ける規範を示す。
答案の「全投稿の常時監視という過度の負担」が対応する。

番号27(重み5・高評価):侵害を認識後,一定期間内に適切に対応せず不当に放置した段階での主体性を論じる。
答案の「調査等に必要な合理的期間を経ても」が対応する。

番号28(重み4・高評価):最終停止権限と即時停止能力を,具体的な侵害回避可能性として評価する。
答案の「最終的な送信停止権限」が対応する。

番号29(重み5・高評価):受領・閲読後の3週間の無措置を規範に当てはめる。
答案の「調査・照会等もせず3週間放置」が対応する。

番号30(重み4・高評価):注意書き・公正な従前対応・大量要請・小利益という戊に有利な事実にも応答する。
答案の「公的評価のある有益な場」が対応する。

番号31(重み3・必須):採用規範と事実評価に応じて,Q送信の差止めの可否を結論付ける。
答案の「乙はQの送信の停止を請求できる」が対応する。

引用については,1通・原作品同行・縮小を重視して肯定する答案も考えられる。
本答案は取り外せることだけで別流通を確定せず,面積・構造・永続的な必要性・権利者利益への危険を合わせて否定した。
鑑定証書事件の結論を本問へ機械的に移すことも,判例と違う事実が一つあるだけで反対結論にすることも適切でない。

第6 関連記事

1 同年度

令和2年の他科目を探す場合は,主要7科目の一覧を参照できる。
同一覧は選択科目を含まず,本問の知的財産法の一覧ではない。
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/10/08/r2-shihoushiken-ronbunshiki-shuyou7kamoku-mohan-kaitou/

2 他年度の同科目

令和6年司法試験知的財産法第2問の模範解答・評価項目:
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/10/10/r6-shihoushiken-chizai2-mohan-kaitou-hyouka-koumoku/

3 関連論点

建物・展示美術の写真を広告や商品に使えるか―著作権法46条と写り込みの判断:
https://yamanaka-bengoshi.jp/2026/10/10/kenchiku-shashin-bijutsu-utsurikomi/
本問の引用・鑑定証書の問題と,46条や写り込みの問題は,それぞれの適用条件を区別して読む。

第7 出典及び確認状態

1 公式資料

法務省「令和2年司法試験論文式試験問題集〔選択科目〕」の知的財産法第2問,PDF実頁19~20を実読した。
https://www.moj.go.jp/content/001326059.pdf

法務省「令和2年司法試験論文式試験問題出題趣旨」PDF実頁32頁の第2問見出し以降,33頁,34頁の次科目見出し直前までを実読した。
https://www.moj.go.jp/content/001339369.pdf

法務省「令和2年司法試験の採点実感(論文式試験)」は,知的財産法の第2問に関する出題方針・採点方針・採点実感(PDF実頁24~26頁及び28~31頁の関連部分)を実読した。
第1問の個別本文や他科目の分析を本問の根拠としていない。
https://www.moj.go.jp/content/001344499.pdf

2 当時の法令と判例

著作権法は令和2年8月12日現在の施行状態を対象に,該当条項を確認した。
https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/345AC0000000048_20200612_502AC0000000048

最高裁平成13年10月25日判決(平成12年(受)第798号,キャンディ・キャンディ事件):保存PDF全1頁。原著作者と二次的著作物の著作者の権利併存を確認した。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-34318.pdf

知財高裁平成22年10月13日判決(平成22年(ネ)第10052号,鑑定証書事件):保存PDF13~16頁。鑑定目的の引用と方法・態様等の判断,引用先の著作物性を必須としない判断を確認した。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-80755.pdf

東京高裁平成17年3月3日判決(平成16年(ネ)第2067号,掲示板事件):保存PDF3~5頁。具体的通知後の権限・認識・対応の評価を確認した。
不法行為の故意過失の議論を,差止請求の一般的要件へそのまま置き換えていない。
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-9719.pdf

採点実感29頁が挙げる委任先の条番号は,当時の法令原文で独立に照合した。
当時は施行令7条の3から施行規則4条の2へ委任される。
省令には紙面積・画素数だけでなく,最小限度と公正慣行による別の選択肢があるため,面積基準だけで規定全体の成否を決めない。
https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/345CO0000000335_20200428_430CO0000000360
https://laws.e-gov.go.jp/api/2/law_data/345M50000080026_20200428_502M60000080017

3 資料の状態と評価の限界

問題の事実は設問上の確定資料,法務省の要求は原資料の記載,評価単位・重み・当てはめ・完成答案は独自の推論である。
両公式資料の本問関連箇所を実読して照合した記事であり,独自の予想だけを公式資料準拠として表示したものではない。
法務省が言及する全判例の原文や異説の代表学説の原典を網羅したものではない。
試験後の法改正や新しい判例を当時の答案へ遡及して用いず,現行法の実務へ利用する場合は別途の時点確認を要する。