第1 本記事で読む資料
1 契約書と仕様書
本記事は,参議院と受注者が令和8年5月29日付で締結した「参議院ホームページのデザインリニューアル業務」の契約書と,その別紙である仕様書を読むものである。
資料は参議院ホームページのデザインリニューアル業務契約書(令和8年5月29日付)として掲載している。
PDFは23頁で,1頁~7頁が契約書,8頁~14頁が参議院庶務部広報課の仕様書(令和8年4月付),15頁~23頁がトップページ案等のデザイン原案の画像である。
写しでは,押印,契約担当者と受注者代表者の氏名の一部,テストサイトのURL等が墨塗りされている。
墨塗りされた部分は推測で補っていない。
2 公表資料との照合と基準日
契約書等の記載に加え,参議院が調達関連情報として公表している入札公告と契約情報,令和8年8月28日のお知らせ及びウェブアクセシビリティ方針を確認した。
以下では,契約書等に書かれていること,参議院の公表資料で確認できること,それらからの推論を区別して書く。
法令の条文は,令和8年10月18日にe-Gov法令検索で確認した。
本記事の内容は同日時点のものである。
第2 入札から契約締結まで
1 一般競争入札の公告
参議院は,令和8年4月17日付で,支出負担行為担当官である参議院庶務部会計課長の名義により,この業務を一般競争入札に付する旨を公告した。
履行期間は契約締結日から令和8年12月28日までとされ,電子調達システムを利用する方式であった。
競争参加資格には,全省庁統一資格の「役務の提供等」でA~Dの等級に格付けされていることのほか,仕様書の事業者要件を満たすことの証明が含まれていた。
仕様書の事業者要件は,国や地方公共団体等のホームページを制作した実績があることであり,実績を示す仕様書・契約書等の提出を求めている。
日程は,競争参加資格確認資料等の提出期限が5月19日正午,入札書の提出期限が5月28日正午,開札が5月29日午後2時であった。
契約書の日付は,開札と同じ5月29日である。
公告は,入札書には見積もった契約金額の110分の100に相当する金額を記載し,その金額に10%を加算した金額を落札価格とすると定めていた。
課税事業者か免税事業者かを問わない扱いであり,入札額と契約金額(税込み)の関係を読むときに必要な前提である。
2 公表された契約情報
参議院が「公共調達の適正化について」に基づいて公表している競争入札に係る情報(庶務部会計課所管分)には,この業務が載っている。
契約を締結した日は令和8年5月29日,契約の相手方はアイマークパートナーズ,契約方式は一般競争入札,契約金額は294,481円である。
予定価格と落札率の欄は「-」であり,公表資料からは予定価格を確認できない。
契約書2条も,契約金額を294,481円とし,その内訳を請負代金267,710円と消費税及び地方消費税26,771円と定めている。
請負代金に100分の10を乗じた金額が消費税等の額であり,契約書と公表資料の金額は一致する。
第3 業務の範囲
1 仕様書が示す目的
仕様書の「はじめに」は,参議院のホームページが平成21年4月のリニューアル以降の形式で情報を提供していること,スマートフォン等の普及により様々なデバイスに対応した視認性の高いデザインが求められていることを述べている。
そのうえで,参議院の発信力強化と利便性の向上のため,トップページを含むデザインのリニューアルを外部事業者に委託するとしている。
2 デザイン原案は参議院が用意する
この業務では,トップページと主要な下層ページのデザイン原案(レイアウト案,色指定,情報構造案,挙動)を参議院が受注者に提供する。
受注者は,原案の構成と意図を踏まえ,改善提案を含む複数のデザイン案を作成する。
採用するデザインは,参議院の原案と受注者のデザイン案を基に,参議院が決定する。
PDFの15頁以降には,トップページ案,レスポンシブデザイン,グローバルナビゲーション,ページテンプレート案及び今国会情報ページ案の画像が付いている。
受注者が白紙からサイト全体を設計する契約ではなく,参議院の原案を出発点とする契約である。
3 数量表の作業項目
仕様書の数量表は,次の13項目を挙げている。
| 作業項目 | 内容 | 数量・備考 |
|---|---|---|
| デザイン原案の受領・確認 | 原案の意図・構成の確認,打合せ | 1式 |
| トップページデザイン案 | PC・レスポンシブ対応 | 1式,修正2回まで |
| 下層テンプレートデザイン案 | PC・レスポンシブ対応,共通デザインページ①及び② | 1式,修正2回まで |
| 採用案の見本作成 | トップと主要下層 | 1式,形式は受託者に一任 |
| HTML・CSS・JS等のコーディング | 職員も編集できるもの,トップページ1頁と共通デザインページ2頁 | 1式,レスポンシブ対応必須,各ページに標準・拡大・最大の挙動を実装 |
| 画像素材作成 | アイコン・ピクトグラム等 | 15点,PNG・JPG・SVG |
| ナビゲーション改修 | グローバルナビゲーション等 | 1式 |
| アクセシビリティ対応 | JIS X 8341-3:2016のAA準拠 | 1式,チェックリスト提出 |
| 動作確認 | Chrome・Edge・Safari・Firefox | 1式,PC・スマートフォンの両方 |
| 表示速度最適化 | 現行のホームページと同等 | 1式,主要ページ対象 |
| 作業報告書作成 | 全工程の記録 | 1式,PDF形式 |
| 納品後の軽微修正 | 文言・画像差替え等 | 2回,納品後1か月以内 |
| 技術的助言 | HTML・CSSのコーディング等の助言 | 1式,契約期間内 |
コーディングの対象は,トップページ1頁と共通デザインページ2頁のテンプレートである。
数量表から読む限り,サイトの全ページを受注者が作り直す内容ではない。
4 置換え作業とアップロードは職員が行う
仕様書は,作成するHTML等を広報課の職員がテキストエディタで編集できるものとし,CMSは使用しないとしている。
納品されたHTMLテンプレート等を基に,実際のHTMLの置換え作業は担当職員が行い,正常に表示されない場合等に受注者が技術的助言をする仕組みである。
公開の手順も,受注者が自らの環境でテストページを提示し,参議院が運用するWebサーバのテストサイト等で表示と動作を確認した後に,公開サーバへアップロードする流れになっている。
アップロード作業は担当職員が行うと明記されている。
したがって,この契約の金額を,ホームページのリニューアル全体に要した費用とみることはできない。
職員による置換え作業の量や,ほかの契約による作業の有無は,この資料からは分からない。
第4 アクセシビリティと対応ブラウザ
1 仕様書の基準
数量表はアクセシビリティ対応をJIS X 8341-3:2016のAA準拠とし,チェックリストの提出を求めている。
仕様書の本文(第2の6)も,業務範囲の1~3(対象サイト,デザインの決定,作成するHTML等)について,参議院ホームページのウェブアクセシビリティ方針と,最新のJIS X 8341-3に準拠したHTMLの記述を求めている。
対応ブラウザは,Microsoft Edge,Mozilla Firefox,Google Chrome及びSafariであり,それ以外のブラウザでもテキスト等を表示できるよう配慮することとされている。
各ページに文字の大きさを標準・拡大・最大に切り替える挙動を実装することも,作業項目に入っている。
2 参議院のウェブアクセシビリティ方針
参議院ホームページのウェブアクセシビリティ方針は,JIS X 8341-3:2016の適合レベルAAに準拠することを目標としている。
ただし,システムを利用して自動生成・出力されるページ,PDFや動画を掲載しているページ及びサイト内検索結果のページは,当面の対象外とされている。
同方針は,目標達成時期をシステム改修に合わせて新たに設定する予定であるとし,年度ごとの試験結果を掲載している。
契約上の基準がAA準拠であることと,サイト全体の全ページがAAに適合していることは別の事柄である。
後者は,参議院が公表する試験結果で確認する必要がある。
第5 契約書の主な条項
1 検査と支払
契約書12条は,受注者が業務完了の報告書を提出した日から起算して10日以内に検査を完了し,その結果を通知すると定めている。
14条は,受注者からの適法な支払請求書を受理した日から起算して30日以内に代金を支払うと定め,15条は,参議院の責めに帰すべき理由で支払が遅れた場合に,政府契約の支払遅延防止等に関する法律8条に基づく遅延利息を支払うと定めている。
同法5条1項は,工事以外の給付について,給付を終了した旨の通知を受けた日から10日以内の日を検査の時期としなければならないと定め,6条1項は,検査後の適法な支払請求を受けた日から30日以内の日を支払の時期としなければならないと定めている。
契約書の期間は,この上限と同じ日数である。
期限の数え方,検査の遅れが支払期間に与える影響及び遅延利息の率は,国の検収・代金支払が遅れたとき―政府契約の期限,遅延利息と請求の証拠で説明している。
2 契約保証金の免除
契約書4条は,契約保証金を免除している。
入札公告も,入札保証金と契約保証金をいずれも免除としていた。
会計法29条の9第1項は,契約担当官等が契約の相手方に契約金額の100分の10以上の契約保証金を納めさせなければならないと定めつつ,ただし書で政令で定める場合等には全部又は一部を納めさせないことができるとしている。
予算決算及び会計令100条の3第3号は,一般競争に付する場合等において,その必要がないと認められるときを免除できる場合として掲げている。
本件の免除はこの枠組みによるものと考えられるが,免除の判断の過程は資料に記載がない。
3 契約不適合と是正
契約書13条は,検査後1年間,請負業務に関して発見された重大な契約不適合について,受注者が是正措置を講ずる義務を負うと定めている。
契約不適合が受注者の故意又は重大な過失による場合は,参議院が発見した時から1年間とされ,是正の費用は原則として受注者の負担である。
これに対し,仕様書第5の2は,検収完了後に明らかな不備等の契約不適合が認められる場合に,担当職員と協議の上,受注者が無償で是正すると定め,その期間を検収完了後1か年としている。
契約書は「重大な」契約不適合,仕様書は「明らかな不備等」と書いており,表現がそろっていない。
是正を求める場面では,契約書と仕様書の両方の文言を確認する必要がある。
4 違約金・談合・解除
契約書16条は解除の事由を列挙し,17条は,受注者側の事由により解除した場合に,解除部分の契約金額の100分の10に相当する違約金を定めている。
21条は,独占禁止法違反による課徴金納付命令の確定や,刑法96条の6(公契約関係競売等妨害)等の罪による刑の確定等があった場合に,契約金額の100分の10に相当する違約金を定め,履行の完了後も同様としている。
16条1項4号は,解除事由として,受注者が破産手続開始の決定を受け,又は「無能力者」になったときを挙げている。
現行の民法は「制限行為能力者」の語を用いており(民法20条等),入札公告も競争参加資格の箇所で未成年者,被保佐人及び被補助人の語を用いている。
契約書の雛形に,現行の民法では用いられていない旧来の用語が残っているとみられる。
5 秘密保持・再委託・紛争解決
8条は,参議院が秘密であることを示した情報について守秘義務を定め,その有効期間を業務の完了等の日の翌日から5年間としている。
7条は,業務の全部の一括再委託を禁止し,主たる部分を除く一部の再委託には,相手方や範囲等を記載した書面による事前の承諾を要するとしている。
22条は,参議院が個人情報を開示する場合の管理措置を定めている。
20条は,協議が整わないときや紛争が生じたときは,参議院の指定する公的機関に解決のあっせんを依頼すると定めており,裁判所の管轄を合意する条項は置かれていない。
第6 著作権の帰属
1 仕様書が著作権法27条・28条の権利を明示している
契約書19条は,成果物に係る知的所有権と著作権の帰属を仕様書に委ねている。
仕様書第6の1は,納品された成果物に関する権利について,著作権法21条から28条までに定める全ての権利を含むものとして,引渡し時に参議院へ移転すると定め,受注者は著作者人格権を行使しないとしている。
著作権法61条2項は,「著作権を譲渡する契約において、第二十七条又は第二十八条に規定する権利が譲渡の目的として特掲されていないときは、これらの権利は、譲渡した者に留保されたものと推定する。」と定めている。
27条は翻訳権・翻案権等,28条は二次的著作物の利用に関する原著作者の権利である。
仕様書が21条から28条までと範囲を明示しているのは,この推定を受けないための書き方である。
2 職員が編集するテンプレートと著作者人格権
この契約では,納品後のHTMLテンプレートを職員が編集して全ページへ展開することが予定されている。
著作権の譲渡だけでは著作者人格権は移らないため,著作者人格権の不行使の定めは,こうした継続的な改変を予定した条項と読むことができる。
著作権の全部譲渡と改変の関係は,著作権全部譲渡後の改変と著作者人格権―著作権法20条・59条・61条で説明している。
仕様書第6の2は,成果物に第三者が権利を有する既存著作物が含まれる場合に,受注者が使用料の負担と使用許諾の手続を行い,事前に参議院の了承を得ると定めている。
アイコンや画像素材を受注者が用意する場面では,素材ごとの利用許諾の範囲を確認する必要がある。
第7 契約書の収入印紙
写しの1頁左上には収入印紙が貼られている。
金額の部分は一部が墨塗りで,先頭の20の部分までしか読み取れない。
印紙税法5条2号は,国や地方公共団体等が作成した文書には印紙税を課さないと定めている。
他方,同法4条5項は,国等と国等以外の者とが共同して作成した文書について,国等が保存するものは国等以外の者が作成したものとみなし,国等以外の者が保存するものは国等が作成したものとみなすと定めている。
したがって,2通作成した契約書のうち,参議院が保存する方は受注者が作成したものとみなされて課税文書となり,受注者が保存する方は非課税となる。
契約書は業務を請負業務と定めており,印紙税法別表第一の第2号(請負に関する契約書)に当たると考えられる。
同号の税率は,契約金額が100万円以下のものは1通200円であり,本件の契約金額はこの区分に入る。
写しの印紙の読み取れる部分も,この税額と矛盾しない。
契約書の印紙税の一般的な判断は,契約書の収入印紙は必要か―業務委託・請負・変更契約・電子契約の判断で説明している。
第8 リニューアル後の公開
1 令和8年8月28日の公開
参議院は,令和8年8月28日のお知らせで,同日にホームページのデザインリニューアルを公開したと発表した。
お知らせは,平成21年以来のデザインの刷新であるとし,トップページ等の文字リンクをボタンデザインに変更したこと,レスポンシブ対応を拡充したことを説明している。
ホームページのURLに変更はないとされている。
同じお知らせは,国会議事堂内を360度の映像で見る「バーチャル参観」と,映像コンテンツ「ドローンで見る参議院」の新設も発表している。
これらは本件の仕様書の作業項目には挙がっておらず,どのような契約で制作されたかは本件の資料からは分からない。
契約期間は令和8年12月28日までであり,公開後も,納品後1か月以内の軽微修正や契約期間内の技術的助言が契約の内容に含まれている。
2 英語表記の変更
PDFのデザイン原案には,参議院の英語表記として「House of Councillors」が書かれている。
参議院は,同じ時期のお知らせ(お知らせ一覧では令和8年8月28日,ページの表題では同月27日の日付)で,令和8年7月23日の議院運営委員会理事会の決定に基づき,対外的な活動における英語表記を「Senate」に順次変更すると発表した。
本院ウェブサイトを含む広報資料等は,予算の状況に応じて実施可能なものから段階的に変更するとしている。
原案の英語表記は,この変更の決定前の表記である。
第9 裁判所ウェブサイトの契約との違い
裁判所ウェブサイトのリニューアルでは,システムの構築・移行や運用保守を含む契約が結ばれており,その内容は裁判所ウェブサイトのリニューアル・運用保守契約―受注者と業務内容の変遷で整理している。
本件は,参議院の原案を基にしたデザイン案とテンプレートの作成に業務を絞り,CMSを使わず,全ページへの展開とアップロードを職員が行う契約である。
業務の範囲が大きく異なるため,契約金額だけを並べて費用の多寡や費用対効果を比べることはできない。
第10 出典
① 参議院ホームページのデザインリニューアル業務契約書(令和8年5月29日付)及び仕様書(令和8年4月,庶務部広報課):契約書1頁~7頁,仕様書8頁~14頁,デザイン原案15頁~23頁(PDFの頁数)。
② 参議院「入札公告」(調達件名:参議院ホームページのデザインリニューアル業務,令和8年4月17日):https://www.sangiin.go.jp/jpn/annai/choutatu/24buppin-ekimu/pdf/kaikei-r08ippan-26.pdf
③ 参議院「公共調達の適正化について(平成18年8月25日付財計第2017号)に基づく競争入札に係る情報の公表(別紙様式3)」(庶務部会計課所管分):https://www.sangiin.go.jp/jpn/annai/choutatu/pdf/kaikei-20260901kyousou.pdf
④ 参議院「参議院ホームページ、17年ぶりデザイン刷新!―「バーチャル参観」や「ドローン映像」で議事堂を体感できる新コンテンツも―」(令和8年8月28日):https://www.sangiin.go.jp/jpn/annai/jimukyoku/r8/r080828-2.html
⑤ 参議院「参議院の対外的な活動における英語表記を「Senate」に―House of Councillors から順次変更―」(お知らせ一覧では令和8年8月28日,ページの表題では同月27日):https://www.sangiin.go.jp/jpn/annai/jimukyoku/r8/r080828.html
⑥ 参議院「参議院ホームページウェブアクセシビリティ方針」:https://www.sangiin.go.jp/jpn/footer/accessibility.html
⑦ e-Gov法令検索「著作権法」27条・28条・61条:https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048
⑧ e-Gov法令検索「政府契約の支払遅延防止等に関する法律」5条・6条・8条:https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC1000000256
⑨ e-Gov法令検索「会計法」29条の9,「予算決算及び会計令」100条の3:https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000035,https://laws.e-gov.go.jp/law/322IO0000000165
⑩ e-Gov法令検索「印紙税法」4条5項・5条2号・別表第一第2号:https://laws.e-gov.go.jp/law/342AC0000000023
⑪ e-Gov法令検索「民法」20条:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089