第1 結論及び本記事の対象
1 BIOS更新は必要な場合に限って行う
BIOS更新は,Windows Updateや通常のアプリ更新と同じ感覚で常に行う作業ではない。
パソコン又はマザーボードのメーカーが対象機種について更新を推奨し,セキュリティ問題,既知の不具合,安定性又は新しい部品との互換性を改善する場合には,更新する必要性がある。
他方,パソコンが正常に動作し,メーカーから重要又は推奨の案内がなく,解決したい問題も更新履歴に書かれていない場合は,更新を急がず見送れることがある。
更新の要否は,新しい版が存在するという一事だけで決めず,①対象機種との完全一致,②現在のBIOS又はUEFIの版,③更新履歴に記載された修正内容,④現在の症状との対応,⑤電源,暗号化及び復旧手段を確認して判断する。
本記事では,現在のパソコンで一般にBIOSと呼ばれるUEFIファームウェアも含め,便宜上「BIOS」と表記する。
2 本記事が扱わないこと
BIOSの更新方法は,メーカー,機種及び更新版ごとに異なる。
本記事は,特定機種の更新ファイル又はキー操作を指示するものではなく,更新前の判断と安全確認を整理するものである。
個別機種については,製造元の公式サポートページで型番又はサービスタグを特定し,その機種用の説明書と更新履歴を確認する必要がある。
掲示板,動画又は別機種の手順だけを根拠に更新してはならない。
第2 BIOS・UEFIとWindows Updateの違い
1 BIOS・UEFIはOSより前に動くファームウェアである
BIOS又はUEFIは,パソコンの電源投入後にメモリ,ストレージ,キーボードその他の機器を初期化し,Windows等のOSを起動させるためのファームウェアである。
更新に失敗して起動処理が壊れると,Windowsの修復画面まで到達できない場合がある。
画面に「UEFI BIOS Utility」等と表示される機種も多いが,一般の案内ではUEFIを含めてBIOS更新と呼ぶことがある。
BIOS設定には起動順序,Secure Boot,仮想化,ストレージ方式,ファン制御等が含まれ,更新後に既定値へ戻ることがある。
2 Windows Updateに表示される場合もある
機種によっては,メーカーの更新アプリ又はWindows Updateからファームウェア更新が配信される。
Windows Updateに表示されたからといって,通常の月例更新と同じ危険度になるわけではなく,電源,BitLocker,更新履歴及び再起動後の確認は必要である。
反対に,Windows UpdateにBIOS更新が表示されない機種もある。
「Windows 11なら同じ手順で更新できる」とは限らないため,OSの名称より先にメーカーと正確な機種を確認する。
第3 BIOSを更新すべき場合
1 メーカーが重要又は推奨の更新として案内している場合
メーカーが対象機種について,重大なセキュリティ修正,起動不能への対策,安定性の修正又は重要な互換性改善として更新を案内している場合は,業務への影響を計画した上で更新を検討する。
更新履歴には,重要度,対象機種,対象となる旧版及び適用上の前提が記載されることがある。
「最新」という表示だけでなく,その版が自分の機種と現在版に適用できるかを確認する。
法人向けPCでは,メーカーの管理ツール,保守契約又は組織の端末管理方針が更新経路を指定している場合がある。
2 現在の不具合を修正することが更新履歴で確認できる場合
起動,スリープ復帰,特定のCPU・メモリ・SSD・周辺機器との互換性又はシステムの安定性について,メーカーの更新履歴が現在の症状に対応する修正を明示している場合は,更新が合理的な選択肢となる。
症状が似ているというだけでなく,機種,構成,エラー及び対象版が一致するかを確認する。
フリーズ又は突然の再起動には,メモリ不足,ドライバー,熱,電源,SSD,アプリ又は外部サービス等の原因もある。
Event 41が記録されたという一事だけで,BIOS更新が必要とは判断できない。
3 対応CPU・メモリその他の部品を追加する場合
新しいCPU,メモリ,ストレージその他の部品を使用するため,特定版以後のBIOSが必要とメーカーの互換表に示されている場合は,部品交換の前後関係も含めて更新計画を立てる。
更新前のCPUでは新しいBIOSを適用できても,新しいCPUへ交換する前に更新を済ませなければ起動できない場合がある。
互換表にない部品の利用又は設定変更を,BIOS更新だけで解決できるとは限らない。
パソコン本体のメーカー保証,販売店の作業範囲及び部品交換後の復旧方法も確認する。
第4 BIOS更新を見送れる場合及び中止すべき場合
1 正常動作し,更新目的が明確でない場合
Intelは,正常に動作するパソコンのBIOS更新は通常の作業ではなく,メーカーが助言する場合又は更新で解決することが確認された問題がある場合に行うと説明している。
一方,Dellは定期保守又は重要なセキュリティ・安定性更新の際の更新を案内しており,メーカーによって推奨の置き方が異なる。
したがって,一般論として「常に最新版へ更新する」又は「絶対に更新しない」と決めるのではなく,対象機種のメーカー案内を優先する。
性能が上がりそうという期待だけで,正常な業務用PCを更新する必要はない。
2 対象機種又は更新ファイルを確認できない場合
似た製品名,シリーズ名又はマザーボード名だけでは足りず,型番,サービスタグ,基板のリビジョンその他メーカーが指定する識別情報を確認する。
別機種用の更新ファイル又は非公式な改変ファイルは使用しない。
現在版から途中の版を経由する必要がある場合や,特定版からの直接更新を禁止する場合もある。
更新履歴と手順を確認できないときは作業を中止し,メーカー又は正規の保守窓口へ照会する。
3 電源,回復キー又はバックアップを確保できない場合
停電の可能性が高いとき,ノートPCのバッテリーが不足しているとき,ACアダプターを接続できないとき,又は電源が不安定なときは更新を開始しない。
BitLocker又はデバイス暗号化の回復キーを確認できず,メーカーの手順に従った保護の中断もできない場合も,更新を保留する。
更新失敗又は暗号化ドライブへのアクセス不能に備えたバックアップと復旧手段がない場合は,先にその不足を解消する。
提出期限,送信作業又はオンライン会議の直前等,起動不能が直ちに業務へ影響する時間帯も避ける。
第5 BIOS更新の危険性
1 更新中断による起動不能
更新中の停電,強制終了,フリーズ又は不適合なファイルの使用により,BIOSが破損し,パソコンが起動しなくなることがある。
機種によってはUSBメモリ等を使ったBIOS Recovery機能があるが,すべての機種で同じ方法により復旧できるとは限らない。
更新画面が長く止まっているように見えても,メーカーが示す完了表示又は異常判定の条件を確認せず,電源を切らない。
更新開始前に,別の端末で復旧手順とメーカーの連絡先を表示できるようにする。
2 BIOS設定が既定値へ戻る危険
更新後に,起動順序,Secure Boot,仮想化,ストレージ方式,ファン設定その他の設定が既定値へ戻ることがある。
変更前の設定画面を写真又は記録に残し,更新後に必要な設定だけを確認する。
意味を理解しない設定を以前の画面どおりに一括で戻すことも危険である。
メーカーが更新に伴って既定値又は項目を変更した場合があるため,新版の説明書と照合する。
3 BitLocker回復キーを求められる危険
BitLocker及びデバイス暗号化は,TPMや起動環境の状態を利用してドライブを保護している。
BIOS更新によって起動環境の測定値が変わると,次回起動時に48桁の回復キーを求められる場合がある。
Microsoftは,メーカーのファームウェア更新等では,手順に従ってBitLockerの保護を一時中断し,更新後に再開するよう案内している。
ただし,更新ツールが自動的に中断する場合もあり,必要な操作は機種と更新経路によって異なるため,メーカーの手順を確認する。
回復キーを取得できない状態で暗号化ドライブへアクセスできなくなると,データを失い,又はOSの再インストールが必要になる危険がある。
回復キーがMicrosoftアカウント,職場又は学校の組織アカウント,印刷物等のどこに保存されているかを,更新前に別端末から確認する。
4 データ及び周辺機器への影響
BIOS更新それ自体は,通常,文書や写真等の個人ファイルを書き換える作業ではない。
しかし,更新失敗,暗号化ドライブのロック,設定変更又は復旧作業によって,ファイルへアクセスできなくなることがあるため,バックアップは必要である。
ドッキングステーション,外付けストレージ,プリンターその他の周辺機器は,メーカーの指示に従って取り外す。
必要な更新用USBメモリまで取り外すなど,別機種の一般手順を機械的に当てはめない。
5 旧版へ戻せない危険
一部の機種では,セキュリティ修正を含む版から古いBIOSへのダウングレードが禁止される。
ダウングレードできる機種でも,修正済みの脆弱性又は不具合を再び持ち込む可能性がある。
「古いBIOSへ更新する」作業は通常の更新ではなくダウングレードである。
メーカーの更新履歴が明示的に許容し,特定の互換性問題を解決する等の理由がある場合を除き,安易に行わない。
第6 更新前チェックリスト
1 機種,現在版及び更新目的を固定する
更新前に,次の事項を一つの作業記録へまとめる。
1. メーカー,製品名,正確な型番,製造番号又はサービスタグ
2. 現在のBIOS又はUEFIの版と日付
3. 適用予定の版,公開日及び重要度
4. 更新履歴に記載された修正内容と,更新する具体的な目的
5. 公式の更新手順,必要な中間版及びダウングレード可否
Windowsの「システム情報」に表示されるBIOSの版と日付を確認できる機種がある。
メーカーの識別ツールを利用する場合も,表示された対象機種が本体の銘板又は管理表と一致するかを確認する。
2 暗号化と回復手段を確認する
BitLocker又はデバイス暗号化が有効かを確認し,回復キーを別端末から実際に参照できる状態にする。
回復キーの識別子が表示された場合は,どの端末のキーかを照合し,別端末のキーと取り違えない。
メーカーが保護の中断を指示するときは,無効化又は復号と混同せず,指定された方法で一時中断する。
更新後にWindowsが正常起動し,新しいBIOS版を確認してから保護を再開し,その結果も記録する。
3 データ,電源及び作業時間を確保する
業務データは,更新対象PCだけに依存しない復旧可能な保存先へバックアップし,必要なファイルを開けることまで確認する。
同期アイコンが表示されているだけで,バックアップが完了したとは判断しない。
ノートPCはメーカーが指定する充電量を満たし,ACアダプターを接続する。
デスクトップPCでは,不安定な延長コード,作業中の電気工事又は停電のおそれを避ける。
開いているアプリを終了し,更新に必要のない周辺機器を取り外す。
更新,複数回の再起動,設定確認及び業務アプリの動作確認まで行える時間を確保する。
4 復旧手順と連絡先を別端末へ用意する
更新対象PCが起動しない場合を想定し,メーカーのBIOS Recovery手順,サポート窓口,保証情報及び機器識別番号を別のPC又はスマートフォンから確認できるようにする。
復旧用USBメモリを事前に作成するよう指定されている機種では,更新前に用意する。
保守業者へ依頼する場合は,対象機種,現行版,適用版,根拠となる公式資料,BitLockerの扱い,バックアップ,所要時間,失敗時の復旧方法及び費用を作業前に確認する。
回復キー又はパスワードを作業報告書へ平文で記載せず,必要な認証操作は原則として事務所側で行う。
第7 更新中及び更新後の注意点
1 メーカーの手順を省略しない
メーカーが提供する更新アプリ,Windows Update,BIOS画面又はUSBメモリ等の更新方法から,対象機種について指定又は推奨された方法を選ぶ。
ファイル名が似ていることだけで更新ファイルを選ばず,機種及び版を再確認する。
更新中は電源を切らず,再起動ボタンを押さず,他の作業を始めない。
ファンの回転,画面の暗転又は複数回の再起動が更新手順に含まれる場合があるため,完了条件を事前に読む。
2 更新後は版,設定及び業務動作を確認する
Windowsが起動しただけで完了とせず,新しいBIOS版,日付,BitLockerの状態及び必要なBIOS設定を確認する。
ネットワーク,外部ディスプレイ,USB機器,スキャナー,ICカードリーダー,Office,業務アプリ及びバックアップ先等,通常業務に必要な機能を少量のテスト資料で確認する。
更新日時,作業者,更新前後の版,利用した更新経路,BitLockerの中断・再開,設定変更,動作確認及び未解決事項を端末管理表へ記録する。
問題が生じた場合に同じ操作を反復せず,更新履歴と作業記録をメーカー又は保守業者へ提示する。
第8 よくある質問
1 BIOSは更新した方がよいか
メーカーが対象機種について重要なセキュリティ修正又は既知の問題の修正として案内し,適用条件を満たす場合は更新を検討する。
正常に動作し,更新目的がなく,メーカーも推奨していない場合は,最新版があるという理由だけで急いで更新する必要はない。
2 BIOS更新は怖いか
更新中断又は不適合なファイルにより起動不能になる危険があるため,通常のアプリ更新より慎重な準備が必要である。
ただし,正確な機種確認,公式手順,安定した電源,BitLocker回復キー,バックアップ及び復旧手段をそろえることで,避けられる危険を減らせる。
3 BIOS更新に失敗する確率は何%か
機種,更新経路,電源,現在版,暗号化及び復旧機能が異なるため,全機種に通用する信頼できる失敗率を確認できない。
根拠のない一律の百分率より,自分の機種の更新履歴,既知の不具合,復旧機能及びメーカーの注意事項を確認する方が重要である。
4 BIOS更新でデータは消えるか
更新自体は通常,個人ファイルを削除しない。
しかし,起動不能,BitLocker回復キーの不足,ドライブ設定の変更又は復旧作業によりデータへアクセスできなくなることがあるため,事前のバックアップは必要である。
5 BIOS更新にはどれくらい時間がかかるか
Intelは一般的な例として更新に約5分かかる場合があると説明しているが,機種,更新方法及び再起動回数によって異なる。
表示が止まったように見えても自己判断で電源を切らず,メーカーが示す所要時間と異常時の手順を確認する。
6 Windows 11でBIOSを更新するにはどうすればよいか
Windows 11共通の一つの手順はなく,メーカーの更新アプリ,Windows Update,BIOS画面又はUSBメモリ等,機種ごとの公式手順を使う。
Windows 11の設定からUEFI画面へ入れる機種でも,更新ファイルの選択と更新条件はメーカー資料に従う。
7 パソコン販売店又は保守業者へ任せればよいか
専門業者へ依頼することは選択肢となるが,業者へ任せるだけでデータ,暗号化又は業務停止の危険がなくなるわけではない。
作業前に対象版,公式根拠,BitLockerの扱い,バックアップ,復旧方法,費用及び作業報告の内容を確認する。
第9 更新が失敗し,又は起動しない場合
1 更新中に止まったように見える場合
メーカーが示す通常の所要時間を超えたように見えても,直ちに電源を切らない。
別端末で対象機種の公式手順を確認し,完了表示,ランプ又はビープ音の意味,待機時間及びサポート窓口を確認する。
画面にエラー番号又は回復手順が表示された場合は写真を残す。
同じ更新操作又は強制終了を繰り返す前に,電源状態とメーカーの復旧案内を確認する。
2 Windowsが起動しない場合
BitLocker回復画面が表示された場合は,画面の回復キーIDと保管済みのキーを照合する。
回復キーを確認できないまま初期化又はOS再インストールへ進まない。
BIOS画面まで出ない場合又はPOSTで停止する場合は,対象機種のBIOS Recovery機能の有無を別端末で確認し,保証又はメーカーサポートを利用する。
分解,CMOS操作又は非公式ファイルによる再書込みは,保証とデータへの影響を確認せずに行わない。
第10 法律事務所等の業務用PCで追加する管理
1 期限業務の直前に更新しない
裁判所への提出,税務申告,送金,電子署名,オンライン会議その他の期限業務の直前には,緊急のセキュリティ理由がない限り,BIOS更新を開始しない。
更新日時を計画し,別端末,連絡方法及び必要な業務データへの代替アクセスを用意する。
2 回復キーと秘密情報を分けて管理する
端末管理表には,BitLocker又はデバイス暗号化の有無,回復キーの保管場所及び管理責任者を記録する。
回復キーそのものを,端末一覧又は業者へ渡す作業報告書へ平文で記載しない。
保守業者の遠隔操作中に回復キー又は管理者パスワードが必要になった場合は,原則として事務所側が入力する。
作業後は,遠隔接続,継続的なアクセス権,BitLocker保護及び通常業務の動作を確認する。
3 更新の証跡を端末ごとに残す
端末ごとに,更新の必要性,公式資料,更新前後の版,作業者,日時,バックアップ,BitLocker,更新結果及び動作確認を記録する。
後にフリーズ又は周辺機器の不具合が発生した場合,BIOS更新との時間的な前後関係と設定変更を確認できるようにする。
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第12 出典・参考資料
1 メーカー及びMicrosoftの公式資料
1. Intel「How to Update BIOS」
2. Dell Technologies「Dell BIOS and UEFI Update Download and Installation Guide」
3. ASUS「ASUS Firmware Update/EZ FlashでBIOSを更新する方法」
4. Microsoft Learn「Microsoft以外のソフトウェア更新のBitLocker保護を中断する」
5. Microsoft Learn「BitLockerのFAQ」
2 資料の位置付け
Intelの資料は,正常動作中のPCではBIOS更新を通常の作業とせず,メーカーの助言又は既知の問題の修正がある場合を中心に更新する考え方を示している。
Dell及びASUSの資料は,各社製品について更新理由,事前準備,BitLocker,電源,バックアップ及び復旧を説明している。
更新の推奨頻度,BitLockerの自動中断及び復旧機能は,メーカーと機種により異なる。
本記事では各社の手順をすべてのPCへ一般化せず,実際の対象機種の公式資料を確認するための判断枠組みとして利用した。