第1 執行猶予の期間が満了したときの確認事項
1 満了日だけでは判断できない場合がある
執行猶予の期間が過ぎた場合,刑の全部の執行猶予では原則として刑の言渡しが効力を失い,刑の一部の執行猶予では原則として実刑部分を刑期とする刑に減軽される。
しかし,令和7年6月1日以後に執行猶予の言渡しを受けた事件には,再犯について公訴が提起されている場合の「効力継続期間」の制度があるため,満了日を過ぎたという事実だけでは結論を出せない。
本記事は,令和8年10月14日現在の刑法,刑事訴訟法及び令和4年法律第68号に基づき,取消し,期間満了及び取消請求への対応を説明する。
最初に確認するのは,①全部猶予か一部猶予か,②猶予の言渡日・判決確定日・猶予期間の起算日,③再犯の行為日と起訴の有無,④再犯に対する裁判の内容・確定日,⑤取消請求の根拠条項と請求日である。
2 全部猶予と一部猶予の基本的な違い
| 確認事項 | 全部執行猶予 | 一部執行猶予 |
|---|---|---|
| 通常の期間満了の効果 | 刑の言渡しが効力を失う | 実刑部分を刑期とする刑に減軽され,実刑部分の終了日等に刑の執行を受け終わったものとされる |
| 効力継続の対象となる再犯の期間 | 全部猶予の期間内 | 一部猶予の言渡し後から猶予期間満了まで。実刑部分の執行中も含む |
| 効力継続期間の資格法令等への適用 | 刑法27条3項の規定に従い,刑の言渡しが効力を失っているものとみなす | 刑法27条の7第3項の規定に従い,減軽され,実刑部分の終了日等に執行を受け終わったものとみなす |
一部執行猶予の猶予期間は,原則として実刑部分の執行を終わった日又はその執行を受けることがなくなった日から進行する(刑法27条の2第2項)。
ただし,その時点で他に執行すべき拘禁刑がある場合は,その刑の執行を終わった日又は執行を受けることがなくなった日から起算する特則がある(同条3項)。
これに対し,取消しや効力継続の原因となる再犯については,猶予期間の起算前に当たる言渡し後の期間も問題となるので,二つの期間を同じものとして扱ってはならない。
第2 刑の全部の執行猶予の取消し
1 必要的取消しと裁量的取消し
刑法26条は,全部執行猶予の必要的取消しを定めている。
例えば,猶予期間内に更に罪を犯し,拘禁刑以上の刑に処せられ,その刑の全部について執行猶予の言渡しがない場合には,元の全部執行猶予を取り消さなければならない。
他方,刑法26条の2は,猶予期間内の再犯で罰金に処せられた場合等について,取り消すことができると定めている。
罰金となった再犯を,拘禁刑以上の実刑となった再犯と同じ必要的取消しとして説明するのは正確でない。
両条は,猶予の言渡し前の他の罪に関する処罰や,既に処罰されていた事実の発覚についても定めている。
取消事由の判断には,前後の判決主文,行為日,言渡日及び確定日を照合し,必要的取消しの例外も含め,請求の根拠となる号ごとに要件を確認する必要がある。
2 保護観察中の遵守事項違反
全部執行猶予については,保護観察に付された者が遵守すべき事項を遵守せず,その情状が重いときに,裁量的取消しの対象となる(刑法26条の2第2号)。
単に違反があったという事実と,「その情状が重い」という評価を分けて検討すべきである。
この事由による取消請求は,保護観察所の長の申出に基づいて検察官が行う(刑事訴訟法349条2項)。
対応を検討する際には,指摘された遵守事項の内容,違反の具体的事実,本人への指導状況及びその後の生活状況を整理することになる。
第3 刑の一部の執行猶予の取消し
1 出所後の猶予期間だけが対象ではない
刑法27条の4第1号は,一部執行猶予の言渡し後に更に罪を犯し,拘禁刑以上の刑に処せられた場合の必要的取消しを定める。
全部執行猶予の刑法26条第1号とは異なり,「その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき」という限定は置かれていない。
また,再犯の時期は,出所後の猶予期間だけに限定されない。
例えば,一部執行猶予の言渡し後,実刑部分を執行している間に犯した罪についても,取消しの要件を確認する必要がある。
2 罰金と保護観察の遵守事項違反
刑法27条の5は,言渡し後の再犯で罰金に処せられた場合及び保護観察の遵守事項を遵守しなかった場合の裁量的取消しを定めている。
全部執行猶予の遵守事項違反と異なり,同条第2号には「その情状が重い」という文言がないが,取消しが必要的となるわけではない。
薬物使用等の罪を犯した者に対する一部執行猶予には,平成25年法律第50号による特則がある。
通常の刑法上の一部執行猶予と特別法による一部執行猶予を区別し,判決で適用された制度を確認すべきである。
第4 猶予期間満了後の効力継続
1 全部執行猶予の場合
刑法27条2項は,全部猶予の期間内に更に犯した罰金以上の刑に当たる罪について公訴が提起されている場合に,猶予期間経過後も,所定の取消しがされることがなくなるまで刑の言渡しの効力が継続する旨を定めている。
この間は,元の刑について全部執行猶予の言渡しがされているものとみなされる。
再犯について拘禁刑以上の刑に処せられ,その刑の全部に執行猶予の言渡しがないときは,原則として必要的取消しとなり,罰金に処せられたときは裁量的取消しとなる(同条4項・5項)。
必要的取消しには,再犯が猶予期間満了後の罪と併合罪として処断され,犯情その他の情状から取消しが相当でないと認められる場合のただし書がある。
2 一部執行猶予の場合
刑法27条の72項の再犯の対象期間は,「刑の一部の執行猶予の言渡し後その猶予の期間を経過するまで」である。
出所後の猶予期間内の再犯に限られず,言渡し後の実刑執行期間中の再犯も含まれる。
この対象期間に更に犯した罰金以上の刑に当たる罪について公訴が提起されているときは,効力継続期間中,通常の期間満了による減軽はされない。
その間は,猶予された部分について一部執行猶予の言渡しがされているものとみなされる。
同条4項・5項は,拘禁刑以上に処せられた場合の必要的取消し及び罰金に処せられた場合の裁量的取消しを定めている。
同条4項にも併合罪に関するただし書があるため,再犯の裁判がどの行為をまとめて処断したものかを確認する必要がある。
3 資格制限と刑の執行の扱いは同じではない
刑法27条3項は,効力継続期間であっても,同項が列挙する刑法の規定及び人の資格に関する法令の適用については,刑の言渡しが効力を失っているものとみなす。
刑法27条の7第3項も,同項が列挙する規定の適用については,刑が減軽され,実刑部分の終了日等に執行を受け終わったものとみなす。
したがって,「刑の効力が継続しているから資格制限も全て継続する」と結論付けることはできない。
刑の執行の問題,刑法34条の2による刑の消滅の問題及び個別の資格法令の問題を分け,どの条文を適用するための判定かを明らかにする必要がある。
第5 取消請求の期限と裁判所の手続
1 2か月の期限が適用される取消請求
刑事訴訟法349条3項は,刑法27条4項・5項又は27条の7第4項・第5項に基づく取消請求について,再犯に対する罰金以上の刑の裁判が確定した日から2か月を経過した後は請求できないと定めている。
これは効力継続制度に対応した特定の取消請求の期限であり,全ての取消事由に一律の2か月期限を設定する規定ではない。
起算点は,元の執行猶予の期間満了日でも,再犯の判決言渡日でもなく,請求理由に係る再犯の裁判確定日である。
確定日を示す資料と請求日を確認し,期間の計算は刑事訴訟法55条に従って行う必要がある。
2 意見を聴く手続と口頭弁論
検察官は,刑の言渡しを受けた者の現在地又は最後の住所地を管轄する地方裁判所,家庭裁判所又は簡易裁判所へ取消しを請求する(刑事訴訟法349条1項)。
裁判所は,猶予の言渡しを受けた者又はその代理人の意見を聴いて決定をする(刑事訴訟法349条の21項)。
保護観察の遵守事項違反を理由とする刑法26条の2第2号又は27条の5第2号の取消請求については,本人の請求があるとき,口頭弁論を経なければならない。
口頭弁論を経る場合,本人は弁護人を選任することができるため,書面の意見提出だけで対応するのか,口頭弁論を請求するのかを早期に検討すべきである。
3 取消決定への即時抗告
取消請求に対する決定には即時抗告をすることができる(刑事訴訟法349条の2第5項)。
即時抗告の提起期間は3日であるため,決定の告知を受けた際には,告知の日時と期間計算を直ちに確認する必要がある(刑事訴訟法422条)。
第6 令和7年6月1日前後の経過措置
1 効力継続制度は猶予の言渡日を確認する
令和4年法律第68号448条1項は,刑法27条2項~6項及び27条の7第2項~第6項を,全部又は一部執行猶予の言渡しが令和7年6月1日以後にされた場合に適用すると定めている。
したがって,現在が施行後であることや,再犯が施行後の行為であることだけから,施行前に言い渡された猶予へ効力継続制度を適用してはならない。
ここで確認するのは「言渡日」であり,判決確定日や出所日とは区別する。
施行日前後に複数の判決がある場合には,各刑の猶予の言渡日を個別に整理する必要がある。
2 懲役・禁錮が残る事件
同法441条・442条は,施行前の行為の処罰及び懲役・禁錮等の確定裁判の効力・執行について,別段の定めを除き従前の例によるとする。
一方,同法447条は,執行猶予及び取消しに関する規定の適用・読替えを定めているため,旧刑名が記載された判決を一律に旧制度だけで処理することも適切でない。
効力継続期間の取消しに伴う他の懲役・禁錮の猶予の取扱いには,同法448条2項の読替えもある。
刑名を拘禁刑へ機械的に置き換えず,元の刑と再犯の刑,それぞれの言渡日・行為日を確認し,適用される経過措置を特定する必要がある。
第7 取消請求への対応で整理する資料
1 時系列と取消事由の確認
対応の基礎となるのは,①元の判決書と確定日を示す資料,②全部又は一部猶予の期間と保護観察の有無,③再犯の行為日・起訴日・裁判の主文・確定日,④取消請求書とその根拠条項,⑤保護観察に関する指摘と本人の説明である。
一部猶予では,実刑部分の終了日又は執行を受けることがなくなった日も加えて,一枚の時系列にまとめると判断しやすい。
必要的取消しでは,要件への当てはめ及び法定の例外を中心に検討する。
裁量的取消しでは,取消事由の有無に加え,違反の具体的内容,その後の対応,生活・監督状況等を裏付ける資料を整理し,取消しの相当性について意見を述べることになる。
2 他の執行猶予中の刑も確認する
取消しの影響は,請求の対象となった一つの判決に限られない場合がある。
刑法26条の3,27条の6,27条6項及び27条の7第6項には,他の執行猶予中の刑の取扱いが定められているため,他の判決の有無も確認すべきである。
また,効力継続期間の刑を通常の猶予期間中の刑と同じものとして扱えるかは,条文の括弧書や経過措置による読替えを含めて確認する必要がある。
対象となる判決を省略したまま,「今回の刑だけが執行される」と説明することは避けるべきである。
第8 関連記事
刑事事件の裁判の執行―拘禁刑・財産刑・労役場留置・執行異議(AIリライト)
前科調書とは-現行の5様式,刑事裁判での証拠能力及び取扱い(AIリライト)
第9 出典
①e-Gov法令検索「刑法」:25条~27条の7,34条の2。
②e-Gov法令検索「刑事訴訟法」:55条,349条,349条の2,422条。
③e-Gov法令検索「刑法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整理等に関する法律」:441条,442条,447条,448条。
④e-Gov法令検索「薬物使用等の罪を犯した者に対する刑の一部の執行猶予に関する法律」。
⑤法務総合研究所研修教材『十訂 執行事務解説』(平成29年3月8日),本文122頁~146頁(PDF74頁~86頁)。
同教材は当時の執行事務を説明する資料であり,本記事の令和7年施行の効力継続制度及び経過措置は,前記の現行法令による。