第1 国との契約で支払が遅れたときに確認すること
1 納品日,検査日,請求日を分ける
国に物品を納め,又は業務を終えたのに代金が入金されない場合は,完了通知,検査,支払請求及び支払の各段階を分けて確認する必要がある。
納品した日から一律に30日を数えることも,検査が終わるまで支払期限を無期限に先送りできると考えることも,正確ではない。
契約書・仕様書と,国が通知や請求を受けたことを示す資料をそろえ,どの段階が遅れているかを特定する。
本記事は,政府契約の支払遅延防止等に関する法律の令和8年10月14日確認時点の条文を基礎に,国から工事,役務又は物品の調達を受注した事業者の確認事項を説明する。
以下の台帳や照会方法は,法令の条件を確認するための実務上の提案であり,法律が特定の書式を義務付けるという意味ではない。
2 相手方と契約の性質を確かめる
同法2条の政府契約は,国を当事者の一方とし,国以外の者が工事を完成し,役務を給付し,又は物件を納入することに対して,国が対価を支払う契約である。
契約書の発注者,契約担当官等の表示,契約対象及び支払条項を確認する。
同法14条は,12条及び13条2項を除く規定を地方公共団体の契約に準用している。
地方公共団体の契約では準用条項と個別の契約条件を,独立行政法人等との契約ではその法人に適用される法令と契約条件を確認する必要がある。
国の予算執行には,支出負担行為,検査,支出決定などの手続がある。
これらの内部手続の進捗と,受注者との契約上の支払期限は区別して確認する。
担当者から「会計処理中」と説明された場合も,どの手続が未了なのか,支払期限をどの資料から判断しているのかを具体的に尋ねることが有用である。
第2 検査と支払の期限は別々に定められる
1 通常の検査期限・支払期限
同法4条は,検査の時期,対価の支払時期,遅延利息等及び紛争解決方法を書面等で明らかにすることを求めている。
同法5条1項と6条1項が定める通常の上限は,次のとおりである。
契約でこれより短い期間を定めている場合は,その約定も確認する。
| 給付の種類 | 検査時期の通常の上限 | 支払時期の通常の上限 |
|---|---|---|
| 工事 | 給付終了の通知を国が受けた日から14日以内 | 検査等の終了後,適法な支払請求を国が受けた日から40日以内 |
| その他の給付 | 給付終了の通知を国が受けた日から10日以内 | 検査等の終了後,適法な支払請求を国が受けた日から30日以内 |
受注者側の発送日と,国が通知又は請求を受けた日は同じとは限らない。
完了通知のメール,受付記録,電子調達システムの送受信記録等を保存し,受理日時を確認する。
具体的な満了日を計算する際は,契約の起算方法,初日及び休日の扱いも確認する。
2 是正・請求書の不備・特殊な契約
検査で契約違反又は不当な給付が判明した場合,同法5条2項により,国は是正又は改善を求めることができる。
その場合の検査時期は,是正又は改善した給付を終了した旨の通知を国が受けた日から,約定した期間以内となる。
指摘事項,対応内容及び再通知を保存し,単なる検査の遅れと是正後の再検査を分ける。
請求内容に不当な部分がある場合,同法6条2項は,国が理由を明示して拒否を通知する扱いを定める。
軽微な過失による不当であれば,拒否通知から補正した請求の受領までの期間を約定期間に算入しない。
故意又は重大な過失による不当であれば,適法な請求があったものとはしないため,すべての返戻を同じ期限の数え直しとして処理しない。
同法7条は,契約の性質上,通常の期間によることが著しく困難な特殊の内容を有する場合に,当事者の合意による特別の期間を認める。
その上限は,通常の最長期間の1.5倍である。
担当部署が繁忙であるという説明だけで,この特例が適用されると決めてはならない。
第3 検査が遅れた分だけ支払期間が短くなる
1 検査の遅延を支払期限に反映する
同法9条は,国が約定の時期までに完了の確認又は検査をしなかった場合,その遅延日数を支払の約定期間から差し引くと定めている。
したがって,検査を終えた後に常に30日又は40日の全期間が確保されるわけではない。
検査期限,実際の検査完了日及び支払の約定期間を同じ台帳で管理する必要がある。
例えば,支払の約定期間が30日で,国の検査遅延期間が12日であれば,差引後の期間は18日となる。
これは日数関係を示す仮定例であり,是正,再請求その他の事情がある事案の満了日まで確定する例ではない。
2 遅延日数が支払の約定期間を超える場合
検査の遅延期間が支払の約定期間を超える場合,同法9条は,約定期間が満了したものとみなし,超える日数について支払遅延に関し約定した利率による金額の支払を求める。
例えば,約定期間30日に対し検査遅延が35日なら,超過する5日分の扱いを確認する。
その後の実際の支払遅延と合わせて計算する際は,同じ日数を二重に計上しないようにする。
個別の政府契約でも,検査遅延を支払期間から差し引く条項が置かれていることがある。
77期二回試験の業務委託契約書の審査結果報告書では,その契約第9条と第6・7条の関係を紹介している。
第4 契約に期限の記載がない場合と遅延利息
1 書面等に条件を明らかにしていない場合
同法10条は,同法4条1号から3号までの事項を書面等で明らかにしていない場合について,みなしの定めを置いている。
検査時期は給付終了の通知を国が受けた日から10日以内,支払時期は相手方が支払請求をした日から15日以内と定めたものとみなす。
契約書作成を適法に省略した場合についての4条ただし書の場合と,それ以外の記載欠落の場合の双方を規定している。
「契約書がないから支払期限もない」「工事だから必ず40日」と決めず,請書,発注書,約款,仕様書及び電磁的記録を一緒に確認する必要がある。
10条の要件に当たるかは,これらに必要事項が明らかにされているかによって判断する。
2 適用率と計算対象を分ける
同法8条1項は,原則として,約定の支払時期の翌日から支払日までの未払金額について,財務大臣が決定する率による金額を下回らない遅延利息を定める。
令和8年4月1日適用の財務省告示による率は,年3.0%である。
過去の遅延期間には,現在の率を一律にさかのぼって用いず,契約条項と対象期間の告示・適用日を確認する。
元本,未払残高,対象日数及び適用率を区分した計算表を作る。
一部支払がある場合は支払額と時点を反映し,検査遅延による9条の金額と,支払遅延による8条の金額を区別する。
天災地変等やむを得ない事由についての8条1項ただし書と,100円未満及び端数についての同条2項も確認する。
国の支払遅延についての率と,受注者の履行遅延に対する契約上の率は別である。
契約書の「遅延損害金」という同じ語だけで双方の率を同一と判断せず,誰の,どの義務の遅延についての条項かを読む。
第5 受注者が残す証拠と照会の進め方
1 契約から支払までを一つの台帳にする
次の資料を日付順に整理すると,検査又は支払の遅れを具体的に説明しやすい。
原資料を上書きせず,訂正版と送受信記録を別に保存する。
| 段階 | 保存する資料 | 確認する事項 |
|---|---|---|
| 契約 | 契約書,約款,仕様書,請書,変更合意 | 発注者,給付内容,検査・支払期限,利率 |
| 完了通知 | 通知本文,受付・送受信記録 | 通知内容,国の受領日,再通知の有無 |
| 検査 | 検査結果,指摘事項,是正報告 | 約定期限,実際の完了日,契約不適合の有無 |
| 請求 | 提出版,受付記録,拒否理由,補正版 | 適法な請求の受領日,補正の経過 |
| 支払 | 支払に関する通知,送金資料,入金明細 | 支払済みの説明の根拠,金額,未払残高 |
国側の支出決定等に関する通知と,受注者の口座への入金確認も,異なる資料である。
「支払済み」と説明されているのに入金が確認できない場合は,送金先,金額,通知及び送金資料を突き合わせる。
検査調書が見当たらない場合も,調書の作成省略と検査自体の省略を混同せず,履行確認がどのように行われたかを確認する。
2 担当部署への照会と専門家への相談
まず,契約担当部署へ契約番号,業務名,完了通知と請求の受理日を示し,未了の手続,検査結果,請求を拒否する理由の有無及び支払予定を照会する。
回答はメール等で記録し,期限計算の前提に食い違いがあれば,資料を添えて再確認する。
契約不適合,請求の適法性,遅延日数又は利息額が争われる場合や,資金繰りへの影響が大きい場合は,弁護士に契約書と時系列資料をまとめて相談する。
税理士とは,請求元本,遅延利息,一部入金及び未回収残高を分けた資料を共有するとよい。
国側の予算年度や支出処理の日付だけで,受注企業の税務上の収益計上年度を決めることはできない。
企業の会計・申告処理は,実際の取引と適用する税法・通達を別に確認する。
第6 根拠資料と関連記事
本記事の期限と遅延利息の説明は,次の法令・告示による。
実際の請求では,対象行為時の規定と個別契約の条項を確認する必要がある。
政府契約の支払遅延防止等に関する法律2条・4~10条・14条:
https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC1000000256
会計法29条の11,予算決算及び会計令101条の9,契約事務取扱規則24条:
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000035
https://laws.e-gov.go.jp/law/322IO0000000165
https://laws.e-gov.go.jp/law/337M50000040052
財務省「政府契約の支払遅延に対する遅延利息の率」(令和8年4月1日適用):
https://www.mof.go.jp/about_mof/act/kokuji_tsuutatsu/kokuji/KO-19491212-0991-14.htm
会計機関と執務資料の位置付けは,裁判所の会計執務資料の三部作の解説で説明している。
個別契約の検査・支払条項は,77期二回試験の業務委託契約書の審査結果報告書も参照されたい。