令和6年司法試験の租税法第1問について,完成答案と,公式資料から独自に抽出した56の評価項目を示す。重みは1~5の5段階であり,法務省の公式採点基準・配点ではない。
第1 この記事の対象と結論
対象は令和6年司法試験論文式試験・選択科目の租税法第1問(問題PDF8~9頁,配点40点)である。本問では,令和5年分の譲渡所得は350万円,解除と現実の原状回復後はその課税要件事実が遡及的に消滅し,通常の更正の請求を行う。違約金300万円は令和6年分の一時所得,Bの貸倒損失2000万円は令和5年分事業所得の必要経費とする答案を示す。
評価項目は56項目,重みの合計は219,重み5は19項目である。重み5のうち番号54は高評価事項であり,全答案に必須とする趣旨ではない。許容分岐は選んだ構成に限って評価する。
第2 評価項目の示し方と重み付けの基準
1 評価項目の示し方
一つの項目に一つの判定対象を置き,必須・高評価・負例・許容分岐を区別した。負例は明確な誤りや不要な記載を避けるための項目である。表の番号は記事全体で連続し,資料の頁はPDFの物理頁を表す。「記載なし」は第1問に関する範囲を読んだ結果,「間接」は関連する記載から導いた推論である。短い語句を除き,項目本文は独自に具体化したものである。
2 5段階の重み付けの基準
重み5=採点実感が評価の分かれ目とした事項又は答案の骨格そのもの。重み4=出題の趣旨が検討を求め,採点実感も評価又は具体的な誤りの指摘を通じて取り上げた事項。重み3=どちらか一方が明示する中核の理由付け。重み2=一方が軽く触れる補強又は典型的な誤り。重み1=一方が控えめに触れるだけの事項。
重み4を「両資料が高く評価したもの」に限定する基準は採っていない。根拠欄の取り上げ方に従って判断し,段階別の件数は割り当てていない。項目数や重みの合計は,公式得点や合格可能性を意味しない。
第3 本問の概要
Aは平成29年に3000万円で取得した居宅用地を,令和4年12月,時価4000万円のところBへ3500万円で売る契約をし,解約手付と違約手付を兼ねる300万円を受領した。令和5年3月1日に現金2700万円の支払を受け,手付を代金に充当して土地・登記書類を引き渡したが,残代金500万円は未払となった。令和6年4月10日に債務不履行解除し,土地を取り戻して,受領済み3000万円から違約金300万円を控除した2700万円を4月20日に返した。返還時の土地時価は4100万円である。
Bの卸売業に係るCへの売掛債権2000万円は,令和4年分の事業収入に計上済みである。Cは令和5年3月に破産手続開始決定を受け,同年12月15日の終結により全額回収不能が確定した。設問は①令和5年の譲渡所得の計算(譲渡費用100万円),②解除後の計算と更正請求,③違約金の所得分類・年分,④貸倒損失の処理を問う。租税特別措置法は考慮せず,法令は令和6年1月1日施行版による。
第4 評価項目と重み
1 設問1:手付金と譲渡所得の計算
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 33条3項の総収入金額・取得費・譲渡費用・特別控除の計算構造から検討する。 必須 | 5 | 26頁・設問1:「譲渡所得金額算定の条文」 | 5頁・設問1:「解答の出発点」 |
| 2 | 36条1項の「収入すべき金額」を権利確定主義によって解釈する。 必須 | 5 | 26頁・設問1:「判例が権利確定主義を採用」 | 5頁・設問1:「権利確定主義」 |
| 3 | 収入金額とその帰属年を一体で特定する。 必須 | 4 | 26頁・設問1:「令和5年分のAの譲渡所得」 | 6頁・設問1:「その年度帰属と不可分の概念」 |
| 4 | 譲渡における権利確定を売主の全債務履行・同時履行の抗弁消滅に具体化する。 必須 | 5 | 26頁・設問1:「土地の譲渡の場合に何をもって権利確定」 | 6頁・設問1:「同時履行の抗弁権の消滅」 |
| 5 | 解約手付・違約手付を兼ねる300万円の私法上の性質を踏まえる。 必須 | 5 | 26頁・設問1:「解約手付と違約手付を兼ねる」 | 6頁・設問1:「手付金の民法上の性質」 |
| 6 | 民法557条1項による売主の手付倍返しの可能性を検討する。 高評価 | 3 | 記載なし(倍返しの具体的記載。関連範囲実読) | 6頁・設問1:「民法第557条第1項」 |
| 7 | 手付金の令和4年の受領だけでは確定取得しないと理由付ける。 必須 | 4 | 26頁・設問1:「どの時点で権利確定」 | 6頁・設問1:「いまだ権利確定せず」 |
| 8 | 令和5年の履行・代金充当により手付金を同年の総収入に含める。 必須 | 5 | 26頁・設問1:「手付金300万円の扱い」 | 6頁・設問1:「手付が売買代金に充当」 |
| 9 | 現金2700万円・手付300万円・未収500万円を合わせて総収入3500万円とする。 必須 | 4 | 26頁・設問1:「総収入金額に算入される金額」 | 6頁・設問1:「3500万円とするのが正答」 |
| 10 | 未払500万円を未収であることだけで収入から除外しない。 負例 | 4 | 26頁・設問1:「総収入金額に算入される金額」 | 5頁・設問1:「代金債権500万円」 |
| 11 | 令和6年の解除を期限内申告時の令和5年課税へ先取りしない。 負例 | 4 | 25頁・設問1:「期限内申告」 | 6頁・設問1:「までの事実に基づいて処理」 |
| 12 | 資産時価4000万円をそのまま総収入金額にしない。 負例 | 2 | 記載なし(許可関連範囲実読) | 5頁・設問1:「時価4000万」 |
| 13 | 契約成立又は支払期限の到来だけで権利確定と決めない。 負例 | 2 | 記載なし(許可関連範囲実読) | 6頁・設問1:「契約が成立したことや代金支払期限が到来したことだけ」 |
| 14 | 取得費3000万円を控除する。 必須 | 4 | 26頁・設問1:「譲渡所得金額算定の条文」 | 6頁・設問1:「取得費」 |
| 15 | 譲渡費用100万円を控除する。 必須 | 4 | 26頁・設問1:「譲渡所得金額算定の条文」 | 6頁・設問1:「譲渡費用100万円」 |
| 16 | 33条4項の特別控除50万円を控除する。 必須 | 4 | 26頁・設問1:「第4項」 | 6頁・設問1:「譲渡所得の特別控除額」 |
| 17 | 保有期間5年超から33条3項2号の長期譲渡所得とする。 必須 | 4 | 26頁・設問1:「保有期間」 | 6頁・設問1:「所有期間5年超」 |
| 18 | 令和4年計上の別構成を採るなら,手付の性質・所得類型・控除・設問3との整合を論証する。 許容分岐(当該構成採用時のみ) | 3 | 記載なし(許可関連範囲実読) | 6頁・設問1:「相応の点数を与えた」 |
| 19 | 譲渡所得と指定されているのに定義・性質の検討を機械的に展開しない。 負例 | 2 | 25頁・設問1:「論じる必要はない」 | 5頁・設問1:「説得力を低下させかね」 |
| 20 | 権利確定主義を「権利発生主義」と取り違えない。 負例 | 2 | 記載なし(許可関連範囲実読) | 5頁・設問1:「発生主義」 |
2 設問2:解除・原状回復と更正の請求
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 21 | 債務不履行解除を合意解除と取り違えない。 負例 | 3 | 26頁・設問2:「合意解除ではないことに注意」 | 記載なし(許可関連範囲実読) |
| 22 | 解除によって売買契約の法的基礎が遡及的に失われることを示す。 必須 | 5 | 26頁・設問2:「売買契約が遡及的に消滅」 | 7頁・設問2:「法的根拠の遡及的消滅」 |
| 23 | 解除だけで足りず,現金返還と土地回復という現実の原状回復を必要とする。 必須 | 5 | 26頁・設問2:「双方が満足される」 | 7頁・設問2:「2つがそろってはじめて」 |
| 24 | 原状回復前は経済的成果が残り得るという管理支配上の問題を指摘する。 高評価 | 3 | 記載なし(許可関連範囲実読) | 7頁・設問2:「税額の遡及的変更には不十分」 |
| 25 | 私法の変動から資産譲渡・収入の課税要件事実の消滅へ架橋する。 必須 | 5 | 26頁・設問2:「課税要件事実が遡及的」 | 7頁・設問2:「課税要件事実が遡及的にな」 |
| 26 | 300万円を代金返還と違約金交付に法的に分解する。 必須 | 4 | 26頁・設問2:「原状回復された上での違約金」 | 7頁・設問2:「改めて違約金として交付」 |
| 27 | 申告済みという23条1項柱書の入口要件を確認する。 必須 | 4 | 26頁・設問2:「同項柱書の他の要件」 | 7頁・設問2:「Aが令和5年の期限内に」 |
| 28 | 23条1項1号の計算が法規に従わなくなったという要件に当てはめる。 必須 | 5 | 26頁・設問2:「国税に関する法律の規定に従つていなかつた」 | 7頁・設問2:「国税に関する法律の規定に従っていなかった」 |
| 29 | 税額過大という23条1項1号の要件に当てはめる。 必須 | 5 | 26頁・設問2:「同項柱書の他の要件」 | 7頁・設問2:「税額」 |
| 30 | 税務署長へ23条1項の更正請求を求める。 必須 | 4 | 26頁・設問2:「国税通則法第23条第1項第1号」 | 7頁・設問2:「更正の請求」 |
| 31 | 通常の更正請求は法定申告期限から5年以内であると特定する。 必須 | 4 | 26頁・設問2:「同項柱書の他の要件」 | 7頁・設問2:「法定申告期限から5年以内」 |
| 32 | 23条2項柱書括弧書きから本件の2月特例を排除する。 高評価 | 3 | 記載なし(許可関連範囲実読) | 8頁・設問2:「同条第2項は適用できず」 |
| 33 | 契約存続中の回収不能特例である所得税法64条1項・152条を本件解除に適用しない。 負例 | 5 | 26頁・設問2:間接。「課税要件事実が遡及的」 | 7頁・設問2:「これは誤りである」 |
| 34 | 23条2項は課税関係安定のための通常請求期間の延長であり,期間内の請求を狭めないと説明する。 高評価 | 2 | 記載なし(許可関連範囲実読) | 8頁・設問2:「ここま」 |
3 設問3:違約金の所得分類・年分
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 35 | 違約金という名目だけで9条1項18号の非課税としない。 負例 | 2 | 記載なし(許可関連範囲実読) | 8頁・設問3:「名目ではなく」 |
| 36 | 非課税を検討する場合,受領者の損害とその填補・純資産の増加を具体的に検討する。 高評価 | 3 | 記載なし(許可関連範囲実読) | 8頁・設問3:「受領者における損害の発生とその填補」 |
| 37 | 代金の原状回復と別の違約金取得から譲渡所得該当性を否定する。 必須 | 5 | 26頁・設問3:「譲渡所得」 | 8頁・設問3:「返還される一方で」 |
| 38 | 34条の位置に従い他の所得類型を除外してから一時・雑所得を判定する。 必須 | 4 | 26頁・設問3:「一時所得(所得税法第34条)の条文の位置」 | 8頁・設問3:「他のいずれの所得類型にも当たらない」 |
| 39 | 単発の売買の解除による非継続的・偶発的収入であると当てはめる。 必須 | 4 | 26頁・設問3:「偶発性(非継続性)」 | 8頁・設問3:「単発の売買契約」 |
| 40 | 労務・役務又は資産譲渡の対価でないと当てはめる。 必須 | 4 | 26頁・設問3:「非対価性」 | 8頁・設問3:「労務や」 |
| 41 | 一時所得についても36条1項の権利確定を用いて帰属年を論証する。 必須 | 5 | 26頁・設問3:「権利確定がどの年に」 | 9頁・設問3:「年度帰属は権利確定主義が基準」 |
| 42 | 令和6年の解除・原状回復後の違約金の取得を理由に令和6年分とする。 必須 | 4 | 26頁・設問3:「令和6年4月」 | 9頁・設問3:「令和6年」 |
| 43 | 令和5年9月帰属を採るなら,残代金による履行完了を望んでいた意思との整合を論証する。 許容分岐(当該構成採用時のみ) | 3 | 記載なし(許可関連範囲実読) | 9頁・設問3:「当事者の意思解釈として合理的か」 |
| 44 | 令和4年12月帰属を採るなら,令和5年の代金充当・設問1の処理との整合を論証する。 許容分岐(当該構成採用時のみ) | 3 | 記載なし(許可関連範囲実読) | 9頁・設問3:「手付金300万円が代金の一部として」 |
| 45 | 解除後も代金の一部だったことだけから違約金を譲渡所得としない。 負例 | 2 | 26頁・設問3:「原状回復された上での違約金」 | 8頁・設問3:「法的に成り立」 |
4 設問4:事業上の貸倒損失
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 46 | 貸倒損失を所得税法51条2項の問題として処理する。 必須 | 5 | 26頁・設問4:「所得税法第51条第2項」 | 9頁・設問4:「所得税法第51条第2項」 |
| 47 | Bの債権が事業遂行上生じた売掛金であると当てはめる。 必須 | 5 | 26頁・設問4:「本件Bの債権」 | 9頁・設問4:「事業の遂行上生じた売掛金」 |
| 48 | 貸倒れの基準として金銭債権全額の回収不能を定立する。 必須 | 5 | 26頁・設問4:「「債権の貸倒れ」の意義」 | 9頁・設問4:「金銭債権の」 |
| 49 | 全額回収不能が客観的に明らかであるという基準を定立する。 必須 | 5 | 26頁・設問4:「「債権の貸倒れ」の意義」 | 9頁・設問4:「全額の回収不能が客観的に明らか」 |
| 50 | 令和5年12月15日の破産終結・全額回収不能確定を基準に当てはめる。 必須 | 4 | 26頁・設問4:「本問への当てはめ」 | 9頁・設問4:「令和5年12月15日」 |
| 51 | 2000万円を令和5年分事業所得の必要経費に算入する。 必須 | 5 | 26頁・設問4:「事業所得者の貸倒損失」 | 9頁・設問4:「確定した年度の事業所得の必要経費」 |
| 52 | 貸倒引当金(52条)と確定した貸倒損失を混同しない。 負例 | 2 | 記載なし(許可関連範囲実読) | 9頁・設問4:「異なる制度」 |
| 53 | 過去年分の所得計算の遡及修正と当年必要経費処理を区別する。 必須 | 4 | 26頁・設問4:「譲渡所得との違い」 | 9頁・設問4:「過去年度の所得計算をやり直す」 |
| 54 | 反復継続する事業所得では貸倒年の費用として調整する制度趣旨を説明する。 高評価 | 5 | 26頁・設問4:「反復継続的な所得」 | 9頁・設問4:「反復継続する事業所得の性質」 |
5 答案全体
| 番号 | 評価項目 | 重み | 出題の趣旨 | 採点実感 |
|---|---|---|---|---|
| 55 | 民法上の法律関係を分析して課税要件事実へ接続する。 必須 | 4 | 25頁・答案全体:「課税対象の私法的要素」 | 5頁・答案全体:「民法の基本的」 |
| 56 | 根拠条文を挙げてその要件を事実に適用する。 必須 | 4 | 25頁・答案全体:「条文の要件を正確に読解」 | 5頁・答案全体:「条文の正確な読解」 |
6 重みの分布
重み1:0項目,重み2:8項目,重み3:8項目,重み4:21項目,重み5:19項目。総数N=56,重み合計W=219(0+2×8+3×8+4×21+5×19)。
重み5の事項は次のとおりである。以下の番号は公開表の番号である。高評価事項は優秀な答案の理由付け,負例は誤り回避の監査として位置付け,重み5というだけで全てを累積的な必須記載にしない。
- 番号1:33条3項の総収入金額・取得費・譲渡費用・特別控除の計算構造から検討する。(必須。本件の主ルート)
- 番号2:36条1項の「収入すべき金額」を権利確定主義によって解釈する。(必須。本件の主ルート)
- 番号4:譲渡における権利確定を売主の全債務履行・同時履行の抗弁消滅に具体化する。(必須。本件の主ルート)
- 番号5:解約手付・違約手付を兼ねる300万円の私法上の性質を踏まえる。(必須。本件の主ルート)
- 番号8:令和5年の履行・代金充当により手付金を同年の総収入に含める。(必須。本件の主ルート)
- 番号22:解除によって売買契約の法的基礎が遡及的に失われることを示す。(必須。本件の主ルート)
- 番号23:解除だけで足りず,現金返還と土地回復という現実の原状回復を必要とする。(必須。本件の主ルート)
- 番号25:私法の変動から資産譲渡・収入の課税要件事実の消滅へ架橋する。(必須。本件の主ルート)
- 番号28:23条1項1号の計算が法規に従わなくなったという要件に当てはめる。(必須。本件の主ルート)
- 番号29:税額過大という23条1項1号の要件に当てはめる。(必須。本件の主ルート)
- 番号33:契約存続中の回収不能特例である所得税法64条1項・152条を本件解除に適用しない。(負例。本件解除の処理における誤り回避)
- 番号37:代金の原状回復と別の違約金取得から譲渡所得該当性を否定する。(必須。本件の主ルート)
- 番号41:一時所得についても36条1項の権利確定を用いて帰属年を論証する。(必須。本件の主ルート)
- 番号46:貸倒損失を所得税法51条2項の問題として処理する。(必須。本件の主ルート)
- 番号47:Bの債権が事業遂行上生じた売掛金であると当てはめる。(必須。本件の主ルート)
- 番号48:貸倒れの基準として金銭債権全額の回収不能を定立する。(必須。本件の主ルート)
- 番号49:全額回収不能が客観的に明らかであるという基準を定立する。(必須。本件の主ルート)
- 番号51:2000万円を令和5年分事業所得の必要経費に算入する。(必須。本件の主ルート)
- 番号54:反復継続する事業所得では貸倒年の費用として調整する制度趣旨を説明する。(高評価。理由付けを深める場合の高評価事項)
第5 模範解答
1 答案の前提と表記
法令基準日は問題文指定の令和6年1月1日,試験実施日は同年7月10日である。答案は標準的な権利確定構成を採り,手付金を令和5年の譲渡対価へ,違約金を令和6年の一時所得へ分類する。答案本文は改行・空白を除いて2,269字(含めて2,310字)で,選択科目1問当たり2,500字の目安内である。所得税法33条の譲渡所得金額350万円と,22条2項2号による総所得算入額175万円は区別し,設問の求める前者を中心に書く。
2 答案
1 設問1
(1) 所得税法33条3項・4項により,譲渡所得は,その年の総収入金額から取得費及び譲渡費用を引き,特別控除額を控除して算出する。本件では,手付金及び未払代金を含む総収入金額の認識が問題となる。
(2) 同法36条1項の「収入すべき金額」は,現実の受領額ではなく,収入の原因となる権利が確定した金額をいう。これは,受領まで課税を待つと納税者の恣意により課税の公平が害されることを防ぐ権利確定主義である。
売買では,売主が契約上の給付を全て履行し,買主の同時履行の抗弁が消滅して代金を確定的に請求できることが基準となる。単なる契約成立や支払期日の到来だけで判断すべきではない。
(3) 本件手付金は解約手付と違約手付を兼ねる。令和4年12月の交付時には,Aも,Bの履行着手前であれば倍額を現実に提供して解除できる(民法557条1項)。手付の授受は売主の履行着手自体ではなく,履行完了・代金充当又は解除のいずれになるか未確定であり,300万円を譲渡対価として確定取得したとはいえない。
令和5年3月1日,Aは土地を引き渡し,登記手続に必要な書類を交付して売主の給付を完了し,手付金を代金に充当した。したがって,現金2700万円,充当した手付金300万円及び確定した未払代金債権500万円を合わせ,3500万円全額を令和5年分の総収入金額に算入する。権利確定主義による以上,未収500万円を除外しない。時価4000万円に置き換える理由もない。
設問1は期限内申告を問うから,法定申告期限の令和6年3月15日までの事実を基礎とし,後の解除を先取りしない。
(4) 取得費3000万円(同法38条1項)及び譲渡費用100万円を控除した譲渡益は400万円である。平成29年10月1日から令和5年3月1日まで5年を超えるから,33条3項2号の長期譲渡所得となる。他の資産の譲渡はないので,同条4項の特別控除50万円を控除し,譲渡所得の金額は350万円となる。
2 設問2
(1) 債務不履行解除により売買契約は遡及的に消滅し,代金債権の根拠も失われる。ただし,法的根拠の消滅だけでは,受領済み代金をAが管理支配する経済的成果が残り得る。
本件では,Aは現実に土地を取り戻し,原状回復として受領済み代金を返還している。300万円の控除も,法的には代金3000万円を返還した上で,別途違約金300万円を取得したものと評価する。この解除と現実の原状回復の双方によって,令和5年の「資産の譲渡」とそれによる「収入すべき金額」を基礎付けた課税要件事実が遡及的に消滅し,本件譲渡所得はなかったものとなる。返還時の土地時価4100万円による新たな売買ではない。
(2) Aは納税申告書を提出済みであり,この課税要件事実の消滅により,申告書の課税標準・税額の計算が国税に関する法律の規定に従わなくなり,納付すべき税額が過大となる。よって国税通則法23条1項1号に基づき,法定申告期限から5年以内に,税務署長へ令和5年分の減額更正を請求できる。
同条2項柱書括弧書きは,後発的事由に係る期間の満了が1項の通常期間の満了後に到来する場合に限定する。本件解除は通常の5年の期間内であるから,同条2項3号・同法施行令6条1項2号による2月の特例は適用されない。
また,契約自体が存続するのに代金が回収不能となる場面ではないから,所得税法64条1項・152条による特例でもない。
3 設問3
(1) 違約金は,損害賠償金という名目だけで所得税法9条1項18号の非課税にはならない。同法施行令30条の損害の発生とその填補を検討すべきところ,土地は返還され,時価も4100万円であり,本件300万円は資産に加えられた損害を埋めるだけの金額とはいえない。
(2) 前述のとおり譲渡対価は原状回復により返還され,300万円は別の違約金として取得されたから,譲渡所得ではない。他の所得類型にも当たらない。単発の売買の債務不履行解除による一時の収入であり,営利目的の継続的行為によらず,労務その他の役務又は資産譲渡の対価でもないから,同法34条1項の一時所得となる。
(3) 一時所得の帰属年も権利確定主義による。令和4年の手付受領は,令和5年に代金へ充当された。令和5年9月の支払期限徒過時にも,Aは残代金請求による売買の完了を求めていた。令和6年4月10日の解除及びその後の原状回復・精算によって,代金とは別に違約金を取得することが確定したから,令和6年分の一時所得である(同法36条1項)。
4 設問4
(1) 所得税法51条2項は,事業遂行上生じた売掛金等の貸倒れによる損失を,損失発生年の事業所得等の必要経費に算入する。Bの債権は卸売業による商品納入の売掛金であり,この事業関連性を満たす。
(2) 貸倒れには,金銭債権の全額が回収不能であることが客観的に明らかなことを要する。債務者の資産・支払能力,回収費用等を社会通念に従い総合判断する(法人税についての最判平成16年12月24日参照)。本件は,令和5年12月15日のCの破産終結により全額回収不能が確定しており,この基準を満たす。よって2000万円を令和5年分の事業所得の必要経費に算入する。将来の損失の見積りを扱う52条の貸倒引当金ではない。
(3) 反復継続する事業所得では,過去の収入を遡って取り消すより,継続する事業の貸倒年の経費として調整する。他方,単発の譲渡はその課税要件事実の消滅を元の年へ反映する。したがって,Bの令和4年分の事業収入2000万円の計上は維持される。
以上
3 出題の趣旨・採点実感を踏まえた解説
(1) 答案と評価項目の対応
設問1の答案(1)~(4)が番号1~20,設問2が番号21~34,設問3が番号35~45,設問4が番号46~54に対応する。番号55・56は答案全体の私法と課税要件の接続・条文適用を評価する。負例は回避し,条件付きの番号18・43・44は本答案の構成では採用していない。
(2) 手付金の民法上の性質を所得認識へ接続する
番号4~8は,権利確定という名称から一段深める部分である。売主の給付完了・同時履行の抗弁消滅と,解約手付の倍返しの可能性を具体化する。採点実感は,説得的な理由がある場合に限り令和4年に手付を計上し令和5年の総収入を3200万円とする筋も許容している(番号18)。その場合は,令和4年の所得分類・取得費控除・後の代金充当・設問3との整合まで説明する必要がある。管理支配基準を挙げるだけで足りるわけではない。
(3) 解除と現実の原状回復を分ける
番号22~29では,解除で私法的根拠が失われても,受領した金銭の経済的成果が残る限り直ちに課税が消えるとはいえないことを押さえる。現実の原状回復を経て課税要件事実が消滅し,申告計算が法規に従わなくなり税額が過大となる,という順で通常の更正請求へ接続する。番号33の64条・152条は,存続する代金債権の回収不能と本件解除を区別するための負例である。
(4) 違約金の分類と年分を別々に論証する
番号37~42は,代金返還と独立した違約金取得を踏まえ,譲渡所得を除外して非継続・非対価の要件を当てはめる。令和5年9月又は令和4年12月の帰属を説得的に論じた一部の答案も評価されたと採点実感は述べている(番号43・44)。本答案は,Aが履行完了をなお求めていたこと,手付が代金に充当されたことから,令和6年の確定取得を採る。
(5) 貸倒損失の基準と年度調整の理由
番号48~50は,全額回収不能・客観的明白性という基準を先に置き,破産終結と全額回収不能の確定を当てはめる部分である。興銀判決は法人税の判決なので,Bへ法人税法を直接適用するのではなく,所得税法51条2項の貸倒れ概念の解釈に共通する基準として参照する。番号54の反復継続性の制度趣旨は高評価事項である。
(6) 答案の弱点と扱わなかった事項
本答案は手付の令和4年計上・違約金の別年帰属を採用していないため,その枝の完全な計算は枠外で位置付けている。違約金の所得金額の計算,株式譲渡の課税,相続税・贈与税,申告後の不服申立ての詳細は設問外である。法定申告期限を基準にした事実選択と,所得分類・年分・計算の各段階を優先する。
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3 令和6年度司法試験公法系第1問の模範解答と評価項目―出題の趣旨・採点実感から抽出した40項目と5段階の重み付け(AI作成)
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2 本問と関連する記事
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関連実務記事は後年の紹介であり,本答案の基準時の法状態を改める根拠には用いていない。
第7 出典及び確認状態
1 公式資料
① 法務省・令和6年司法試験問題:選択科目PDF8~9頁の租税法第1問。
② 令和6年司法試験論文式試験出題の趣旨:41頁中25~26頁の租税法第1問。
③ 令和6年司法試験の採点実感(選択科目):48頁中5~10頁の租税法第1問と関連総論。
④ 令和6年司法試験の実施日程等。
2 法令
所得税法(令和6年1月1日時点の施行版)
所得税法施行令(令和6年1月1日時点の施行版)
国税通則法施行令(令和6年1月1日時点の施行版)
民法(令和6年1月1日時点の施行版)
国税通則法(令和6年1月1日時点の施行版)
所得税法33・34・36・38・51・64・152条,所得税法施行令30・274条,国税通則法23条,同施行令6条,民法545・557条等の原文を確認した。行政解釈として所得税基本通達36-12・36-13も参照した。
3 裁判例
① 最判昭和53年2月24日第二小法廷(昭和50年(行ツ)123):原文7頁を確認。権利確定と,係争中でも経済的成果を取得した場合の所得実現。
② 最判平成16年12月24日第二小法廷(平成14年(行ヒ)147,興銀事件):事案と理由4の貸倒れ基準・当てはめを確認。
4 確認状態
公式資料の第1問に関する記載と法令原文は確認済みである。表の重み,評価単位の切り方,法源から本件への当てはめは記事独自の分析である。東京高判昭和61年7月3日は採点実感が紹介する裁判例であるが,その原文は未確認である。更正請求の期間は当時の条文原文から説明する。
採点実感9頁には違約金の権利確定時期を「令和6年3月」とする記載があるが,問題文の解除通知日は4月10日,精算日は4月20日である。本答案は問題文の事実に従い,令和6年分という年分を採用する。後発判例を試験当時の法源として遡って用いていない。