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裁判外の和解契約書・合意書の作り方-和解条項と債務名義化(AI作成)

第1 裁判外の和解は「合意」と「実行」を分けて設計する

本記事は,訴訟を提起する前又は訴訟外で紛争を終わらせるために,和解契約書,合意書又は示談書を作成する場面を扱う。
書面の名称だけで効力が決まるわけではない。大切なのは,解決する紛争,成立させる法律関係,履行させる義務及び紛争を終わらせる範囲を,後から第三者が読んでも同じ意味に理解できるように定めることである。

民法上の和解は,当事者が互いに譲歩して争いをやめることを約する契約である(民法695条・696条)。裁判外の和解契約も合意として当事者を拘束し,紛争が再燃した場合の重要な証拠となるが,和解契約書を作成しただけで直ちに強制執行できるとは限らない。

そのため,①どの紛争をどの条件で終わらせるか,②誰が何をいつまでに履行するか,③履行しなかった場合に何が起きるか,④必要に応じてどの方法で債務名義を得るかを,一つの設計として検討する。
既に民事訴訟が係属しており,裁判所へ提出する条項案を作る場合は,民事訴訟の和解案・和解条項案の作り方を参照されたい。

第2 条項を書く前に合意の土台を固定する

1 当事者と署名権限を確認する

個人は氏名及び住所,法人は商号,本店及び代表者を正確に表示する。通称,店舗名又は担当部署だけでは,誰が権利義務を負うのか不明確になり得る。
法人では,代表権,社内決裁及び署名者への委任を確認する。当事者でない親会社,役員,保証人,保険会社又は共同不法行為者に義務を負わせたい場合は,その者自身が合意当事者となる必要がないかを検討する。

2 対象となる紛争を一文で特定する

契約紛争なら契約日,契約名,対象商品又は業務及び問題となった期間を,事故なら発生日時,場所,当事者及び対象事故を,知的財産なら権利,対象製品,表示,データ又は行為を特定する。
「本件」「一切の問題」といった語は,前文又は定義条項で範囲が特定されて初めて有効に働く。複数の契約,事故又は当事者関係がある場合は,和解対象に含めるものと残すものを分ける。

3 事実確認と法的責任の承認を区別する

出来事の確認,債務の存在の承認,違法性又は責任の承認,謝罪は同じではない。何を認め,何を争ったまま解決するかを合意の目的に合わせて選ぶ。
税務,会計,保険,行政届出,第三者への説明又は刑事手続に影響する表現は,民事紛争だけを見て決めない。和解金,解決金,損害賠償金等の名称だけで税務上の取扱いが決まるものでもないため,示談金・解決金・和解金に税金はかかるかも参照されたい。

第3 和解条項は論理的な順序で並べる

1 確認条項又は形成条項を先に置く

既に存在する債務を明らかにするなら,誰が誰に対してどの債務を負うかを確認する。和解によって契約を終了させ,権利を移転し,債務を免除し,又は新しい利用条件を設定するなら,その法律関係の変動を先に定める。
この順序により,後に続く支払,引渡し,削除,撤去又は不作為の義務が,どの権利関係に基づくものかを読み取れるようになる。

2 給付条項は五つの要素を特定する

給付条項では,①義務者,②権利者,③金額,物,情報又は行為,④期限,⑤場所・口座・方法・費用負担を特定する。
複数の給付を交換する場合は,どちらが先に履行するか,同時履行か,ある履行の完了を条件とするかを定める。履行完了を誰が何で確認するかも,写真,受領書,廃棄証明書,システムの記録等を想定して決める。

3 不履行時の効果を独立して定める

分割払いでは,各回の金額,期日,回数及び合計額を照合し,期限の利益を失う遅滞の回数又は金額,当然に失うか通知を要するか,喪失後の残額,遅延損害金の元本・利率・始期を分けて定める。
一定額を期限までに支払えば残部を免除する場合は,減額後の支払義務と,条件を満たさなかった場合に存続する債務を混同しない。違約金又は損害賠償額の予定を置く場合は,想定する違反,実損との関係,過大性及び適用範囲を検討する。

4 請求放棄,清算及び費用は別の役割を持つ

請求放棄は特定の請求を処理し,清算条項は合意に書かれたもの以外の債権債務を残すか否かを処理する。全面清算,対象契約だけの清算,特定期間だけの清算では結果が異なる。
合意締結時に直ちに清算するのか,全額支払,明渡し,削除その他の履行完了後に残債務を免除するのかも明示する。弁護士費用,振込手数料,登記費用,公証費用,税金その他の費用負担は,清算条項に任せず必要な範囲で個別に決める。

第4 金銭以外の条項は客観的に履行を判定できるようにする

1 引渡し,明渡し,撤去及び登記

物の引渡しでは目的物の型式,数量,所在及び状態を,不動産の明渡しでは物件,明渡期限,鍵,残置物,原状回復,公共料金及び完了確認を定める。撤去又は廃棄では対象,方法,期限及び証明資料を決める。
登記に関する合意では,不動産,登記の種類,登記原因及び日付,受付番号,必要書類,費用並びに書類交付の順序を確認し,実際の申請に使える内容かを別途点検する。

2 秘密保持,非公表及び誹謗中傷禁止

秘密保持条項では秘密情報,公知情報,既に保有していた情報,法令・裁判所・行政機関による開示,弁護士・税理士・監査人等への開示,開示先への守秘,期間及び違反時の処理を定める。
紛争の存在まで秘密にするのか,合意内容だけを秘密にするのかを区別する。「誹謗中傷をしない」「信用を害する発言をしない」という条項は,対象者,媒体,期間,許される相談・申告・法的手続及び違反の判定が曖昧にならないようにする。

3 削除,非使用,接触禁止及び謝罪

ウェブ上の表示を削除する場合はURL,アカウント,投稿又は表示を特定し,手元,クラウド,委託先又は第三者が管理する複製まで対象にするかを決める。削除後の再投稿や別名義による利用をどう扱うか,完了報告を何で行うかも検討する。
接触禁止や騒音防止等の条項は,禁止する行為,場所,距離,時間,連絡手段,業務上・緊急時の例外及び期間を客観化する。謝罪条項は,誰が,誰に,どの文面を,どの方法で,いつまでに伝えるかを定め,公表範囲が法的責任や第三者の権利と整合するかを確認する。

第5 履行確保の方法を義務の種類から選ぶ

1 私署の和解契約書は債務名義ではない

当事者が署名又は記名押印した和解契約書は,合意の成立と内容を示す重要な証拠である。しかし,通常はその書面だけで差押えその他の強制執行を申し立てることはできない。
不履行時に訴訟を提起して判決を得るのか,あらかじめ執行証書,訴え提起前の和解又は民事調停の利用を検討するのかを,履行可能性,義務の種類,必要な時期及び費用から選ぶ。

2 執行認諾文言付き公正証書にできる範囲

民事執行法22条の執行証書となるのは,公証人が作成した公正証書のうち,一定額の金銭又は一定数量の代替物若しくは有価証券の給付を目的とする請求について,債務者が直ちに強制執行に服する旨を陳述したもの等である。
したがって,単に合意書へ「強制執行に服する」と記載しただけでは足りず,また,物の引渡し,建物の明渡し,削除,謝罪又は接触禁止等のすべてを同じ方法で直接執行できるわけではない。公正証書化する部分と,別の履行確保を考える部分を分ける。

3 訴え提起前の和解と民事調停

訴え提起前の和解は,民事上の争いについて,訴訟提起前に相手方の普通裁判籍所在地を管轄する簡易裁判所へ申し立てる手続である(民事訴訟法275条)。合意が相当と認められ,和解調書に記録されると,確定判決と同一の効力を有する。
東京簡易裁判所の案内では,令和8年10月9日確認時点で,申立てから和解期日まで平均1か月半から2か月程度,申立手数料は書面申立て2700円,電子申立て2400円とされている。時期,管轄及び必要書類は実際に申し立てる裁判所で確認する。

民事調停で合意が成立し,その合意について電子調書が作成・記録された場合,その記録は裁判上の和解と同一の効力を有する(民事調停法16条)。当事者だけで文言を完成させることが難しい場合や,履行可能性を含めて調整する必要がある場合には,選択肢となる。

第6 紛争類型に応じて定型条項を組み替える

1 継続的取引及び知的財産

継続的取引では,終了日,終了までの受発注,未払・前払金,在庫,貸与物,アカウント,データ,知的財産,顧客対応及び移行協力を確認する。取引終了時の整理は,継続的取引を終了するときの確認事項も参照されたい。
知的財産紛争では,製造・販売・使用の停止,対象製品・ファイルの廃棄又は削除,取引先との関係,許諾,不争約束,秘密保持及び発表方法を,権利と対象行為に合わせて組み合わせる。東京地方裁判所知的財産権部の和解条項例は構造を考える参考になるが,知的財産事件の例を他の紛争へそのまま転用しない。

2 交通事故,医療その他の損害賠償

事故又は行為を特定し,既払金,治療費,休業損害,後遺障害,将来損害,保険者,使用者,共同不法行為者及び求償関係を整理する。症状固定前,将来の悪化が問題となる場合又は損害の全体像が確定していない場合は,清算の時期と留保する請求を慎重に決める。
共同不法行為者の一人との合意が他の者への請求に及ぼす影響については,共同不法行為の連帯責任と連帯債務も参照されたい。

3 労働,家族,近隣及び安全に関わる紛争

労働紛争では,退職又は地位,解決金,賃金・社会保険,証明書,貸与物,競業避止,秘密保持及び第三者への説明を整理し,労働者の自由な意思による合意かを確認する。
離婚・相続では,財産と債務の特定,履行時期,税務,登記,後から判明した財産及び対象外事項を検討する。近隣騒音,接触,つきまといその他の安全に関わる紛争では,私的合意だけで安全確保や刑事・行政上の対応を置き換えず,禁止行為を測定・立証できる内容にする。

第7 後に裁判官が読むことを想定して点検する

裁判外の和解が履行されれば,裁判官が条項を読む機会はない。しかし,不履行,無効・取消し,解釈又は清算範囲が争われれば,合意時の説明を知らない裁判官が,契約書と周辺資料から意味を判断する。

そこで,①誰が合意したか,②どの紛争を終わらせたか,③何を認め又は認めなかったか,④誰が何をいつまでに行うか,⑤履行完了をどう確認するか,⑥違反時に何が起きるか,⑦どの請求を残したかを,一読して追えるようにする。
「誠実に協議する」「迷惑をかけない」「必要な対応をする」といった評価語だけで義務を定めず,日付,金額,対象物,場所,方法,期間,例外及び確認資料へ分解する。別紙,目録,計算表及び謝罪文案を用いる場合は,本文との版と参照関係を一致させる。

第8 署名前の最終チェックリスト

1 合意の成立と対象

① 当事者の氏名・商号,住所・本店,代表権及び署名権限を確認したか。
② 契約,事故,物件,行為,権利及び期間を特定したか。
③ 和解対象に含めない契約,請求又は第三者関係を確認したか。
④ 事実確認,責任承認,謝罪及び紛争解決のための支払を区別したか。

2 履行と違反

① 義務者,権利者,給付内容,期限,方法及び費用負担が明確か。
② 分割金の合計,各回,最終回及び期限の利益喪失後の残額を照合したか。
③ 非金銭義務の対象,期間,例外及び完了確認方法が明確か。
④ 相互の給付について,先履行,同時履行又は条件の関係が明確か。
⑤ 違反時の遅延損害金,違約金,解除,免除不発生その他の効果を定めたか。

3 紛争の終了と実行

① 請求放棄と清算条項の役割を分けたか。
② 全面清算か限定清算か,将来損害又は第三者への請求を留保するかを決めたか。
③ 清算又は免除の効力を,合意時と履行完了時のどちらに発生させるかを決めたか。
④ 税務,会計,保険,登記,行政又は刑事手続への影響を確認したか。
⑤ 私署の和解契約書で足りるか,公正証書,訴え提起前の和解又は民事調停を利用するかを決めたか。
⑥ 本文,別紙,目録,計算表及び署名用最終版が一致しているか。

第9 主な出典と本記事の位置付け

本記事は,滝澤孝臣・大坪和敏編著『紛争解決のための合意・和解条項作成の弁護士実務―裁判官の視点を加えて』(青林書院,平成29年)の総論3頁~19頁及び各紛争類型の解説を通読し,確認条項・給付条項・形成条項,期限の利益喪失,清算,履行確保並びに裁判官の視点を横断的に再構成したものである。条項例は転載せず,実務上の点検事項として要約した。

同書刊行後の制度と実務資料については,令和8年10月9日に,e-Gov法令検索の民法,民事執行法,民事訴訟法及び民事調停法,東京簡易裁判所の訴え提起前和解の案内,司法研修所民事弁護教官室「民事弁護実務の基礎~はじめての和解条項~」並びに東京地方裁判所知的財産権部の和解条項例を確認した。
個別の和解条項は,紛争の事実,証拠,交渉経過,当事者の目的,履行可能性及び利用する手続によって異なる。本記事は定型文の貼付けではなく,必要な条項と確認事項を選ぶための点検枠組みである。