第1 差戻と再審では担当部の決め方が違う
1 通常の新件の輪番だけでは分からない
高等裁判所の担当部を調べるときは,通常の控訴・抗告事件の配分に加え,差戻事件,再審事件,異議申立事件及び裁判官に差し支えがあるときの代理を分けて確認する必要がある。
令和8年度の事務分配の文書を見ると,札幌高裁では刑事差戻事件を民事部に配分し,仙台高裁では第1刑事部の裁判の差戻事件を第2刑事部に配分する一方,再審事件は原裁判をした部に配分している。
したがって,「刑事事件は刑事部」「原裁判をした部が再び担当する」「差戻と再審は同じ配分」と一律に考えることはできない。
本記事は,部への事件の配分を説明するものである。
特定の裁判官が個別事件に関与できるか,個々の合議体の構成が適法かという問題は,事件記録と適用法令に基づいて別に検討する必要がある。
2 対象資料と日付の範囲
本記事では,本ブログで「令和8年4月15日現在」の資料として公開している8高裁及び知財高裁の裁判官配置等の文書のうち,差戻・再審・異議・代理に関する記載を取り上げる。
PDFの頁数は,ファイルの先頭を1頁として数えた通し頁であり,文書に印刷された頁番号とは異なる場合がある。
公開ファイル名の日付,規程の施行日及び配置表の日付は同じではない。
例えば,大阪の文書には4月7日施行,札幌の文書には4月8日施行の附則があるが,これらの文書だけで4月15日までの全改定・別規程の収録や,実際の配分を確認したものではない。
文書全体の比較は,高等裁判所の事務分配の比較(令和8年度)を参照されたい。
第2 刑事事件を民事部が扱う例
1 札幌高裁の刑事差戻事件
札幌高裁の規程第2の1(10)は,刑事差戻事件を,受付順に第2民事部及び第3民事部へ順次分配する事件の一つとして掲げている。
同じ項目には,刑事部の裁判官・書記官に関する除斥・忌避・回避の申立事件と,刑事訴訟法428条2項の異議申立事件もある。
刑事部の分担を定める第3では,これらの事件を通常の刑事部の配分対象から除いている(札幌高裁の文書2頁~3頁)。
他方,民事差戻事件には別の定めがあり,第2民事部が原裁判をしたものは第3民事部,第3民事部が原裁判をしたものは第2民事部に配分する。
刑事差戻の二つの民事部への輪番と,民事差戻の二部間の交替は,異なる規定である。
2 広島高裁の異議と民事控訴事件の減配
広島高裁の文書は,刑事訴訟法428条2項の異議申立事件について,原裁判をした部又は裁判官において異議を相当とする場合のほかは,本庁では第2部,第3部の順序で他の部に分配すると定める。
この二つは,通常の民事・行政事件を担当する部である。
松江支部については,本庁第1部を配分先としている(広島高裁の文書6頁)。
控訴棄却の決定に対する異議で,配分を受けた部が異議を相当とする決定をした場合は,その部が本案事件も取り扱う。
その本案事件の分配を受けたときは,本案1件につき,記録冊数4冊未満の民事控訴事件1件の割合で配分を減らす。
民事部が刑事の本案まで扱う場合に,その後の民事事件の配分を調整するという具体的な仕組みである。
3 福岡高裁宮崎支部の異議
福岡高裁の宮崎支部では,通常の刑事事件を刑事部に分配する定めのただし書として,刑事訴訟法428条の異議申立事件を民事部に分配すると定めている(福岡高裁の文書7頁)。
本庁の配分先をそのまま支部に当てはめず,支部固有の項目まで読む必要がある。
第3 差戻事件の配分にある特則
1 仙台高裁は新件・差戻・再審を分ける
仙台高裁の新受刑事事件は,特に定めがある場合を除き,第1刑事部に分配する。
差戻事件のうち,第1刑事部の裁判を原裁判とするものは第2刑事部へ,秋田支部の裁判を原裁判とするものは第1刑事部へ分配する。
再審事件は原裁判をした部へ分配する(仙台高裁の文書7頁)。
配置表では第1・第2刑事部に同じ3人の氏名が掲載されているが,兼務との表示はない。
部の番号が変わることと,実際の合議体を構成する裁判官が変わることは区別しなければならない。
名簿と配分の規定だけで,特定の差戻事件の実際の担当裁判官を決めることはできない。
2 大阪高裁は集中部の差戻を別に定める
大阪高裁は,最高裁から差戻しを受けた事件について,民事・刑事の区別に従い,原裁判をした部以外の部へ順次配付する定めを置いている。
ただし,第9・第10・第12民事部に専属的に配付した抗告事件の差戻は,第9部から第10部,第10部から第12部,第12部から第9部へ配付する。
第11民事部に専属的に配付した抗告事件の差戻は,第9・第10・第12民事部へ順次配付する(大阪高裁の文書4頁~5頁)。
集中部への通常の配分先を確認した後,差戻のただし書も読む必要がある。
例えば,第11民事部が通常担当したからといって,その事件の差戻も第11民事部が担当するとはいえない。
各集中部の対象は,高等裁判所の集中部を参照されたい。
3 知財高裁の差戻は通常控訴の配分へ繰り入れる
知財高裁は,通常部の差戻事件を,通常の民事控訴事件の配分へ繰り入れて各部に分配すると定める。
通常の配分割合は,第1部が4,第2部から第4部が各5であり,特別部の差戻事件は特別部に分配する(知財高裁の文書2頁)。
この配分規定には,差戻を理由に原裁判部を一律に除くとの文言はない。
個々の裁判官の除斥等の問題まで,この配分割合だけで判断することはできない。
第4 再審は「原裁判をした部」だけでは読み切れない
1 原裁判部への配分と福岡高裁の除外条件
知財高裁,仙台高裁及び高松高裁の文書には,再審事件を原裁判をした部へ配分する定めがある。
東京高裁にも原裁判部への配分を原則とする定めがあるが,第7・第9刑事部については後記の附則による別の配分がある。
福岡高裁本庁の文書では,再審事件を,第1の2(4)エの事件として,各種類ごとに民事・刑事の区別に従い,「当該部」以外へ順次平等に分配する。
ここでいう「当該部」は,ア・イの差戻及び所定異議については原裁判をした部を指すのに対し,ウからオについては,除斥・忌避申立てをされた裁判官等,又は基本事件の裁判に関与した裁判官の所属する部を指す。
再審を単に「原裁判部以外」と言い換えると,裁判官の所属との関係を落とすおそれがある(福岡高裁の文書5頁~6頁)。
同規定では,民事再審事件と行政再審事件を別の種類として分配する。
また,除外された部が同種新件の配分順位に当たっていた場合は,実際にその事件を受けた部が直近に受けるべき同種新件を除外された部に配分するという調整もある。
2 東京高裁の第7・第9刑事部に関する附則
東京高裁の第7・第9刑事部は,配置表上,全員が第10刑事部の裁判官の兼務である。
本文は第1刑事部から第12刑事部までの分担を定める一方,附則は,第7・第9刑事部への控訴・抗告・抗告受理申立て・差戻の分配を当分の間停止する。
したがって,「配置表に部がある」と「通常の新件を受ける」は同じではない。
両部がした裁判に関する刑事再審請求,刑事補償請求及び費用補償請求は,両部について事件を分配する部がないものとみなし,両部を除く刑事部へ受理順に配分する。
同一の裁判に関する複数の再審請求を1件とみなしてまとめる定めと,前の事件が終局した場合のただし書もある(東京高裁の文書11頁~12頁)。
本文だけを読んで原裁判部への配分で結論を出すと,この附則を見落とす。
第5 事件の分配替えと裁判官の代理は別である
1 部を変えるのか,裁判官を補うのか
事件を別の部に移す分配替えと,係属部を維持して差し支えのある裁判官を他の裁判官が代理することは,異なる仕組みである。
札幌高裁の規程は,除斥原因のため合議体を構成できないときの次の受付順の部への配分と,裁判事務の代理順序の双方を定めている(札幌高裁の文書4頁~5頁)。
同規程では,陪席裁判官の不足の場合,第2・第3民事部の陪席は相互に代理し,刑事部の陪席は第2又は第3民事部の陪席が代理する。
全員に差し支えがある場合は,第2民事部について第3民事部,刑事部の順,第3民事部について第2民事部,刑事部の順で代理する。
刑事部の全員に差し支えがある場合は,第2又は第3民事部の裁判官が順次代理する。
陪席1人の不足と,部の全員の差し支えを,同じ順序で扱わないことが大切である。
2 長官の代理順序では担当合議体を決められない
下級裁判所事務処理規則6条は,部への裁判事務の分配と,各部の裁判官への分配を分けて定めている。
同規則22条の長官等の司法行政事務の代理も,裁判事務における裁判長・陪席の代理とは別の事項である。
そのため,長官の代理順位が高い裁判官が,個別事件の裁判長や不足した陪席を当然に代理するということにはならない。
第6 担当部を確認する順序
事件の配分先を確認するときは,次の事項を順に調べると,通常の輪番と特則を混同しにくい。
① 本庁・支部・知財高裁のどこで取り扱う事件か。
② 通常新件,差戻,再審,除斥・忌避,異議又は付随事件のどれに当たるか。
③ 原裁判をした部,基本事件の係属部,関与裁判官の所属部のいずれを基準にする規定か。
④ 集中部・特別部の例外,記録量の区分,附則による停止・読替えがあるか。
⑤ 関連事件や除斥原因による分配替え,部間協議,代理の条件があるか。
⑥ 受付順と配分の調整を確認した後,実際の担当裁判官を事件記録で確かめられるか。
一般の輪番については,先行する他事件や調整の情報がなければ,次に配分される部まで特定できない。
他方,差戻・再審等の規定によって配分先が絞られる場合はある。
部名の違いだけから裁判官全員が入れ替わると推測せず,配置,部内分配,差し支えの代理及び当該事件の記録を分けて読む必要がある。
第7 関連記事
① 高等裁判所の事務分配の比較(令和8年度)
② 高等裁判所の集中部
③ 高等裁判所支部――設置根拠,担当区域,取り扱う事務及び沿革
第8 出典
① 東京高裁の令和8年度裁判官配置等:第4章5,附則,配置表(10頁~14頁)。
② 知財高裁の令和8年度裁判官配置等:第3章2,第4章1~3(2頁~3頁)。
③ 大阪高裁の令和8年度裁判官配置等:第2条12項,附則(4頁~5頁,10頁)。
④ 広島高裁の令和8年度裁判官配置等:第2の4(4)・(6)(6頁)。
⑤ 福岡高裁の令和8年度裁判官配置等:第1の2(4),第1の3(2)(5頁~7頁)。
⑥ 仙台高裁の令和8年度裁判官配置等:第3の2(3),配置表(7頁,9頁)。
⑦ 札幌高裁の令和8年度裁判官配置等:第2の1・5,第3,第5,第7,附則(1頁~6頁)。
⑧ 高松高裁の令和8年度裁判官配置等:第2の5(4頁)。
⑨ 下級裁判所事務処理規則:最高裁判所ウェブサイト掲載版,6条・22条(2頁,4頁)。